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「良いな?これを死んでも離すでないぞ?」
いつも優しいお爺様。男子が生まれず後継に悩んでいると話されても女子の子供や孫をぞんざいに扱ったことなど一度も無かった。
いつもいつも可愛がってもらった記憶しか無い大好きなお爺さまの頼みですもの是非とも恙無く取り次いで参りましょう。
お爺様から預かったこのお手紙を渡すだけで良いと言うのですもの、他の者にお任せになっても良かった所を私に任せられるとは、他人には託すことが出来ぬ重要な物と推察致します。
アッパンダー公爵の自慢の孫で目に入れても痛くない程可愛がっているアレーネ・アッパンダーは今年16歳になる。パザン国皇太子、皇女とは再従兄弟姉妹にあたり幼い時から交流があり仲も良い。
この度祖父カント・アッパンダーから預かったのはこの王太子である再従兄弟に関わる内容のものだそうだ。決して公にはされていないが、この頃伏せりがちで王太子妃もそれは心配していると聞き及ぶ。色々と健康を取り戻すために手を尽くされている様子と祖父が帰ってくる度に疲れた様な顔をしているのはこの問題に関する事かも知れないのだ。アレーネとて、兄の様にも慕っていた王太子の健康が回復する為ならば喜んで協力したいと思っている。
「分かっておりますお爺様。他の者には任せず私が直にご挨拶申し上げる時にお渡しいたします。」
人を疑う事など知らない様な素直な娘だ。このままこの国に居るよりは大国の方が余程良いだろう。きっとかの方は悪い様にはしまい。
数日後、愛しい孫の出発を見つめるアッパンダー公爵やアレーネの両親の瞳はなぜか寂しそうだ…
「体の良い人質ではありませんか…」
シガレットといい、はぁ、と溜息しか出せない執務室の面々には半ばやり切れなさが満ちている。
先刻パザン国アッパンダー公爵からの親書を開封し中を改めた所、公爵の孫娘に当たるアレーネ嬢を行儀見習いとしてサウスバーゲン城に上げる旨が書かれてあった。
良い様に配慮ください、とは実質何をしても構わないと言うことにもなる。
己が宝を差し出すことで、自らの身の潔白を晴らすのか、保身の為か…
「何時ぞやも第二皇女のお輿入れを打診されてましたね。パザン王はこの様な愚策を良しとはされない方と思っておりましたが?」
「であろうな。アッパンダー公爵とて愛国心溢れる気概ある方だったと覚えているが?」
何時ぞやの内政干渉に、たび重なる皇女を妃へとの打診、今回の誘拐騒動と近況のパザン国はどうしたと言うのか?
「一度訪ねて見なければならないか?」
もしパザン国王がこの通りの政策を推し進めるのならば今後のパザンの対応を否が応でも変えていかねばならないだろう。
「その前にアレーネ嬢が参られましょう。先ずはこの方の処遇を如何するか、お会いしてから決めましょうか。」
悪い様にはしなかろうと此方に責任を投げられたな、これは。
「大切であればこそ、か。」
ルーシウスにも大切な大切な者が居るのだ。公爵の気持ちは痛いほど分かる。
が、誰かに預けようとは思わんな、と独りごちるのである。
みず…
ここは何処だろう?頭がぼんやりしていてハッキリしない。
何を、していたっけ?
のどが、渇いた。
飲まなきゃ、良くならない。
「水…」
柔らかい物が唇に触れてそこから冷たい水が流れ込んで来た。
この味知っている…
幼い頃魔力を限界以上まで使い続けてしまったことがあって倒れてしまった。小さな子ヤギが病気でどうしても助けてあげたかったんだ。
父と母は夜通しこうして魔草茶を飲ませてくれたっけ…
「とう、さん…か…さん…」
もう居ないはずなのにな。
ここに居てくれる人はおんなじ様に温かい。
「フフッ親になりたい訳では無いんだがな。」
クスクス笑う声を知っている。握ってくれている温かい手も知っている。
悠長に休んで居られない所に居たはずなのに繋いだ手や額に置かれた掌の温かさが、休んで良いと頑張らなくて良いと魔法をかけてるみたいに緊張を持っていってしまった。
この手…
「ルーシウス様?」
ボヤッとした視界には優しい顔が覗いていて、安心と疲れで睡魔に引きずり込まれそうになる。
「お帰り、サウラ。お前のお陰で倉庫にいた者全員無事だ。良く頑張ってくれた。」
褒められれば、嬉しい。色々と報告はあるのに頭の中でまとめられない。
「ルーシウス様に良く似た声の方が居ました。」
「うん?」
「あの人が使ってたのは甘痺草…」
そうだ、あの甘い匂い知ってる。
食べた事がある。
「甘痺草?」
聞いた事がない物だ。
「ガイは?姿が見えなくて。」
最後までガイの安否が分からなかった。
「あぁ、暗部も皆無事だ。勿論キリシー達もだ。」
「良かった。」
サウラが安堵の笑顔と共にルーシウスの手を握り返す。まだ力は入りきらないけど。
ポンポン話が飛ぶサウラにゆっくりと、ルーシウスは優しくゆっくり答えて行った。
「もう少し眠れサウラ。魔草茶は先程飲んだから、次に起きた時には回復しているんだろう?」
コクン、と頷いてサウラは再び目を瞑った。
いつも優しいお爺様。男子が生まれず後継に悩んでいると話されても女子の子供や孫をぞんざいに扱ったことなど一度も無かった。
いつもいつも可愛がってもらった記憶しか無い大好きなお爺さまの頼みですもの是非とも恙無く取り次いで参りましょう。
お爺様から預かったこのお手紙を渡すだけで良いと言うのですもの、他の者にお任せになっても良かった所を私に任せられるとは、他人には託すことが出来ぬ重要な物と推察致します。
アッパンダー公爵の自慢の孫で目に入れても痛くない程可愛がっているアレーネ・アッパンダーは今年16歳になる。パザン国皇太子、皇女とは再従兄弟姉妹にあたり幼い時から交流があり仲も良い。
この度祖父カント・アッパンダーから預かったのはこの王太子である再従兄弟に関わる内容のものだそうだ。決して公にはされていないが、この頃伏せりがちで王太子妃もそれは心配していると聞き及ぶ。色々と健康を取り戻すために手を尽くされている様子と祖父が帰ってくる度に疲れた様な顔をしているのはこの問題に関する事かも知れないのだ。アレーネとて、兄の様にも慕っていた王太子の健康が回復する為ならば喜んで協力したいと思っている。
「分かっておりますお爺様。他の者には任せず私が直にご挨拶申し上げる時にお渡しいたします。」
人を疑う事など知らない様な素直な娘だ。このままこの国に居るよりは大国の方が余程良いだろう。きっとかの方は悪い様にはしまい。
数日後、愛しい孫の出発を見つめるアッパンダー公爵やアレーネの両親の瞳はなぜか寂しそうだ…
「体の良い人質ではありませんか…」
シガレットといい、はぁ、と溜息しか出せない執務室の面々には半ばやり切れなさが満ちている。
先刻パザン国アッパンダー公爵からの親書を開封し中を改めた所、公爵の孫娘に当たるアレーネ嬢を行儀見習いとしてサウスバーゲン城に上げる旨が書かれてあった。
良い様に配慮ください、とは実質何をしても構わないと言うことにもなる。
己が宝を差し出すことで、自らの身の潔白を晴らすのか、保身の為か…
「何時ぞやも第二皇女のお輿入れを打診されてましたね。パザン王はこの様な愚策を良しとはされない方と思っておりましたが?」
「であろうな。アッパンダー公爵とて愛国心溢れる気概ある方だったと覚えているが?」
何時ぞやの内政干渉に、たび重なる皇女を妃へとの打診、今回の誘拐騒動と近況のパザン国はどうしたと言うのか?
「一度訪ねて見なければならないか?」
もしパザン国王がこの通りの政策を推し進めるのならば今後のパザンの対応を否が応でも変えていかねばならないだろう。
「その前にアレーネ嬢が参られましょう。先ずはこの方の処遇を如何するか、お会いしてから決めましょうか。」
悪い様にはしなかろうと此方に責任を投げられたな、これは。
「大切であればこそ、か。」
ルーシウスにも大切な大切な者が居るのだ。公爵の気持ちは痛いほど分かる。
が、誰かに預けようとは思わんな、と独りごちるのである。
みず…
ここは何処だろう?頭がぼんやりしていてハッキリしない。
何を、していたっけ?
のどが、渇いた。
飲まなきゃ、良くならない。
「水…」
柔らかい物が唇に触れてそこから冷たい水が流れ込んで来た。
この味知っている…
幼い頃魔力を限界以上まで使い続けてしまったことがあって倒れてしまった。小さな子ヤギが病気でどうしても助けてあげたかったんだ。
父と母は夜通しこうして魔草茶を飲ませてくれたっけ…
「とう、さん…か…さん…」
もう居ないはずなのにな。
ここに居てくれる人はおんなじ様に温かい。
「フフッ親になりたい訳では無いんだがな。」
クスクス笑う声を知っている。握ってくれている温かい手も知っている。
悠長に休んで居られない所に居たはずなのに繋いだ手や額に置かれた掌の温かさが、休んで良いと頑張らなくて良いと魔法をかけてるみたいに緊張を持っていってしまった。
この手…
「ルーシウス様?」
ボヤッとした視界には優しい顔が覗いていて、安心と疲れで睡魔に引きずり込まれそうになる。
「お帰り、サウラ。お前のお陰で倉庫にいた者全員無事だ。良く頑張ってくれた。」
褒められれば、嬉しい。色々と報告はあるのに頭の中でまとめられない。
「ルーシウス様に良く似た声の方が居ました。」
「うん?」
「あの人が使ってたのは甘痺草…」
そうだ、あの甘い匂い知ってる。
食べた事がある。
「甘痺草?」
聞いた事がない物だ。
「ガイは?姿が見えなくて。」
最後までガイの安否が分からなかった。
「あぁ、暗部も皆無事だ。勿論キリシー達もだ。」
「良かった。」
サウラが安堵の笑顔と共にルーシウスの手を握り返す。まだ力は入りきらないけど。
ポンポン話が飛ぶサウラにゆっくりと、ルーシウスは優しくゆっくり答えて行った。
「もう少し眠れサウラ。魔草茶は先程飲んだから、次に起きた時には回復しているんだろう?」
コクン、と頷いてサウラは再び目を瞑った。
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