[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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106 疑惑       

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「誰が誰に似ているって?」
 一気に室内が静かになる。サウラが言った先程の言葉にシエラは思い当たることでもあるのか?

「倉庫の中に痺れ薬を撒いたと言って来たフードを被った男で、此方こちらに攻撃をして来た者の仲間の一人です。その人の声がびっくりする程ルーシウス様に似ていました。」

「攻撃をして来たの?」

「敵の中では少年に見える子だけが攻撃をしてきました。他のフードを被った男2人は防戦か、撤退を勧めていましたし。」 

「攻撃をして来た子は魔力が効かなかった者ね?」

「そうです。」

「ではフードの男は甘痺草の使用方法を知っていた事になる。」

「そうだと思います。」
 一瞬シエラの表情に動揺が走る。サウスバーゲンの建国以来の出来事はなんでも知っていて、あらゆる事に対する知識と力に溢れているシエラの動揺した表情を見て心底驚いた。
 人間離れした魔力を使うので、人間だと認識してなかったのかも知れないけど。

「甘痺草は煮出した汁を刃に塗るか、いぶして煙として辺りに撒くのよ。
 使い方次第では、身体に痺れが走るから痛みが様に感じさせる事は出来るけど、これは最後の最後の手段。今際いまわきわに苦しみを取る為に使う物。
 健康な者には強い依存作用が出るの。だから使えないのよ。」

 シエラの魔力は少し沈静化し、今は足元をゆっくりと少量の羽毛が旋回しているだけだ。

 ルーシウスがシエラの側に寄りソファーに促す。シエラは片手を額に当てて息を吐き切るまで大きな溜息を吐いた。
 
「一人だけ…一人だけ思い当たる人物がいるけど…。」

 あり得ない、これは絶対に有り得ない…
 あの時、生死の確認は確かに出来なかった。遺体だけでも弔おうと思ったが、見つけられなかった。何度も探したが、焼け落ちた館の中で全て燃えてしまったと諦めもしたのに。

「どういう事?」
 この質問はきっとここにいる誰もが抱えた疑問だろう。

「シエラ、誰だというのだ?」
 ルーシウスの顔もやや不安気だ。きっとシエラのこんな動揺した姿を見た事もないのだろう。

「昔…まだこの国が不安定な時、甘痺草を用いて何人もの人達を看取った事があるの。」
 ゴアラから完全に魔力持ちを非難させられるまで、被害に遭った者も多くいた。治療も間に合わない中で静かに苦しみだけを取る為に…

「その時、一緒に行動していた人が居たのよ。」

「だが、建国当時ならば今はもう…いや、その者の子孫?」
 ゆっくりと顔を上げてルーシウスを見つめるシエラ。表情は落ち着いたと言えど泣き笑いに近い。

「居るわ。私の目の前に。」
 深紅の瞳を受けてルーシウスのエメラルドグリーンの瞳が大きく開かれた。



 
 甘痺草を薬として使っているならば、パザン国皇太子は薬の依存が強くなっているはず。止めれば体は痛み、更に薬を欲するのだ。
 逸早いちはやく甘痺草の服用を止めるべきだが何と伝えたら良いものやら。

 少なくとも事細かに伝えられている甘痺草の抽出方法、取り扱いに誤りはなく、シエラの知っている物と一致している。用量に付いてはまだ極微量に摂取させていた様で今すぐどうこうなるものでもなさそうだ。
 これ程までに繊細に扱える者は、限られてくる。自分達がから引いて各地を巡りながら微調整を繰り返した。消える命に使う薬に大手を振って自慢などできないが、少しでも安らかにと考えあぐねた結果、最後の言葉を拾うための時間を持てる様になった。
 これを作ったことに後悔はない。


 地下の王族式典用大会堂に続く通路に歴代の王達の絵姿が並ぶ。真っ直ぐ一枚の絵を求めて進んで行けば、もう色もせて霞んだ懐かしい姿が見えてくる。

 事実を明らかにする為にはフードの男の捜索を命じるべきだ。今のサウスバーゲンにならその為の人員も技術もある。あの時とは違う…

 そっと絵に手を添えれば、冷たいザラザラとした塗料の感覚が返ってくるばかりだ。何度も、何度もこうして迷うたびにここに来ていた様に思う。絵を霞ませてしまうほど自分は同じ様に触って居たんだ。答えない絵に少しでも縋りたくて。

「どういう事なの?」

 もし、考えている通りなら何故、帰って来ないの?サウスバーゲンに牙を剥く者達と一緒とは、貴方の本心だろうか?決して共に過ごした日々は嘘偽りのあるものでは無かったはずだ。

「何か、理由があるの?」

 答えを見る恐怖が襲ってくるが、何が入っているかは開けて見なければ分からないものだ。






 あの日、炎の中で伝えた事に偽りはない。思いもかけず望まぬ道に岐れてしまったが、不思議な程にあの日の気持ちが動いた事は無いんだ。

 今の自分を見たら、殴りかかってくるだろうか?罵倒され、泣かれるかも知れない。

 あぁ、自分が傷つくより君の泣き顔の方が、この胸をえぐりそうだな。君の気が済むのならこの体をもう一度火の中に投げ入れてくれても構わない。

 君を永遠に失う位なら永遠に炎で焼かれ続けた方が良い。

 毎夜浮かぶ月を見ては同じ呪いに支配される。

 男の周りに渦巻く霧、濃霧の様に濃くうねり意思がある様に自在に動く。霧が這うのは累々と倒れ伏す魔物達の上。

 男が見ている月の下には、小さな集落の火が闇夜に浮かんでいた。



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