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111 ゴアラへ
しおりを挟む「陛下…陛下。」
執務中何度かこの難しい表情で固まっているルーシウス。頭の中はサウラの事では有るまい。
目を開けてはいるがジッと考えに没頭していてシガレットの声も入ってこないのだ。
「アレーネ嬢の事は良い様になりそうで宜しゅうございました。陛下、そろそろゴアラへ暗部を戻さねばなりませんでしょう。」
アレーネはオーレン家へ。シガレットの父は諸手を挙げて受け入れてくれた。
そしてカザンシャルとの約束事が遅延しているのだ。シガレットの言う事は正しい。
しかし、ルーシウスはソウからの報告のフードの男が何者なのか頭から離れない。
シエラは言ったのだ、その男の子孫は俺だ、と。
シエラと共に行動し、サウスバーゲンを切り開いて来た者ならば該当者は一人だ。
ならばなぜ帰って来ない?番であるシエラがここにいるのに、帰らずに平気などとは思えない。番がいるのだ、例え自分が殺されようとも番の側にいる事を止められようはずはないのに…
こうなると本当に考えている人物であるかも疑わしくなる。
「シグ、暗部をゴアラへ。少し気になる事がある故、人員を増やすぞ。」
前回より東側に入っていた1組に加え、商人に扮したストランス組はゴアラ中央南から北へ移動する為直ぐに出発。キエリヤ山岳西から北へ更に1組、連絡調整担当補助にそれぞれ数組流動して動く様にする。これでもゴアラ国内は広大だ。まだまだ時間も必要だろう。
シエラはあの日以来研究室でもある仕事部屋に篭りがちだ。あの日多くは語らなかったが、もしその人だったら、生きていればシエラだって会いたいだろうに…
任務で離れて行くサウラが自分の事をその様に思ってくれる事を願って、そう思っていて欲しい。
つい、自分にも重ねてしまった…
「まっった泉探索か?観光地巡りもいいが味気ねぇな。」
観光地巡り、ただそれだけならばどんなに良いか。
バートの言う味気とは?魔物とか?凄腕の敵剣士とか?パザンで会った魔法が効かない少年の話題で一時騒然とした暗部の中で、バートは楽しそうにニヤニヤ笑っていたのを良く覚えている…
今回のバート、ガイ、ソウ組はゴアラ国内で流動的に動き、他の組のサポートと泉探しだ。前衛に切り込む事だけはルーシウスがどうしても許してくれなかったらしい。
先のパザンでの事件の際、サウスバーゲン、パザン間の移動にルーシウスはサウラを離さず自分の馬に乗せて走破して来た。国王という手前、非公式に少数の護衛のみで動くのもどうかと思うし、シガレットにも散々小言を言われたのだが、今回ばかりは頑としてルーシウスは自分の考えを変えなかった。
唯でさえ好きな時に会えないのだ。チャンスが有れば
共に居たいと思うのは当然だぞ?
と至極真面目な顔でサウラは押し切られてしまったのだが、ルーシウス本人は幸せそうにしている。
そうかな?側にいる事が当然だって思ってもいいのか…
それにパザンでは皇太子夫妻の仲睦まじやかな姿を見たからか、静かに唯そこにいるだけで満足する様な相手に巡り合う事の何と羨ましい事だろう、と思えて来たサウラは自分自身の心の変化を不思議と感じるのだった。
サウスバーゲン国内の泉サンプルはもうほぼカザンシャルに提出済みだ。ゴアラのサンプルも数十を超えた様でゴアラ国内で動いていた1組の奮闘には暗部の皆感謝している。
以前浴場の爺様に聞いていた有難い様な成就の泉も極あり触れた小さな泉であったとか何とか…
ゴアラは北国であるにも関わらず、意外と肥沃な地だ。冬はそれなりに寒くなる様だが冬季も作物の収穫量は多い。国的にはとても豊かだ。
キエリヤ山岳を越えゴアラの地を踏んだのはこれで2回目。タギラントの街もそうだが、物が豊富で活気が溢れている。人当たりが良い人が多いし、旅行者には商売柄か愛想が良い。
「あぁ、裏路地には入るなよ?旅行者は平気かも知れんが保守派支持者達が勧誘活動しているからあんまり見ていって欲しく無いんだよ。」
タギラントより北側に向かったヒラヤという町である商店の店主から声をかけられた。
「勧誘活動?」
バートが尋ねる、以前ストランスが話していた保守派の話ならある程度は分かるが。
「そうなんだよ。若くて強そうなのがいると保守派の活動家に誘われるんだ。この頃あちこちで声をかけ回っているそうだからね。遭遇しても良い気持ちにはならんよきっと。」
なんの活動家までは聞かずもがな。お礼を言い本日収集予定の泉へ向かう。ゴアラ潜伏中、街に寄るのは観光の為ではない。必要な情報収集と食料の買い出しなどだ。人目を避ける事を常とするので普段は近隣の森などでの野営も多い。
必要な物が揃えば野営は決して辛くはない。森には食料が豊富だし、狩りの経験ならソウも豊富だ。
ゴアラの地形は周囲3方を山に囲まれた様になっており、山の恵みが溢れている。国土だけを見れば素晴らしい国だと思うのに、未だになぜ魔力持ちに執着するのか
心底疑問だった…
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