[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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135 泉の元へ

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 トランジェスの出したもやは濃度を増し、徐々に洞窟内の地形を覆ってしまう。

「トランジェス?何のつもり?僕にはこんな目眩し効かないって知ってるでしょ?」
 広がって地を覆う靄を見つめつつ、アルフィスの眉が盛大に寄る。

「ええ、十分に知っておりますよ?けれど、どうでしょうか?あ、お嬢さん方、泉はそこの洞穴をさらに上に向かって上がって行った所ですよ。」

「「!!??」」

「どう言うつもり?トランジェス?」
 余裕の笑みを湛えていたアルフィスの顔からは笑みが消え、不快を表している事をも躊躇せずに素直に顔に出している。

「姫様!!参りましょう!!」
 トランジェスの意を汲み取った女騎士達は、サザーニャの手を取り言われた洞穴に向かって走り出す。女騎士とは相対していたアルフィスの兵士達は、女騎士の動向も掴めていない様子で、足元を探る様な動作で移動している。

「ふん!本当に目眩しを使うとはね。」
 アルフィスの周囲の温度がすっと下がった。

 ギィィィィィン!!!!
 
 ギリギリギリギリ…

「今まで生かしてやって来たのに、兄上を裏切る気?」

「一度たりとも、ゴアラに忠誠を誓ったことなどありませんよ?」

 神業に近いアルフィスの剣撃を笑みを絶やさぬ涼しい顔で受け流して行くトランジェス。

「ふ~~~ん。剣技は楽しめて良かったけど、兄上を裏切ったらどうなるかは知らないからね?」

「さぁ、どうなるんでしょうね?」

 まだ少年の身体に近いアルフィスであるのに、疲れも知らぬ様に長身のトランジェスに剣を繰り出す。

「お前を生かしておいたのは失敗だったんだ?」

 重い一撃を繰り出しながらも、アルフィスから出される言葉からは寂しい響きさえも聞き取れる。

「それは歴代の王達に聞いてみないと分からないでしょうね?」

 キャリィィィィィィィン!!

 鋭い切っ先が擦り合わされる音が響く。

「フッもう、どうでも良いか…でも、ここでお前は止めるよ?」

 ニィッ…静かに、けれど勝利を確実に確信した者の余裕の笑み。トランジェスさえ、そのアルフィスの姿に一瞬逡巡し動きを止める。

「お前は、良いおもちゃだと思ったんだけどなぁ…残念…」

 一気にスピードを上げ、間合いを詰めてくるアルフィスの瞳には、何の感情も浮かんではいなかった…





「はぁはぁ、はぁはぁ。」

「姫様、頑張って下さいませ!もうすぐ登り切ります!」

 何と痛ましい姿か!神託の巫女姫として育てられ、巫女宮からほとんど出ること叶わず過ごして来たあのサザーニャ様が、屈強な護衛も無く、一人敵国で汗と泥まみれになって……

 いつも、くしけずり整えて来た輝くばかりの銀の髪は乱れに乱れて、埃と泥にその輝きはくすんでしまった…白い肌も、何度も走り、転んでは所々擦りむけて血が滲んでいる。
 
 走る事も、こんな怪我を負う事も知らずに過ごせる方だったのに……

 申し訳ありません!姫様!申し訳ありません!!私共が、余りにも不甲斐ないばかりに…貴方にこの様な惨めな姿を人目に晒す事になろうとは!!


 これより先は!!私共は!!!貴方様に、誰からも指一本でも触れさせも、傷つけさせも致しません!!!
 
 我らの、この命に変えましても!!


 サザーニャは女騎士に手を引かれ、助け起こされながら何とかきつい洞窟の勾配を登り切った。

 目前に広がるのは更なる空間、水の音と清涼な空気の流れ……奥まった小高い岩場に大きく囲まれて清水が揺蕩っているのを感じる。


「ここ、だわ……」
 やっと、目的の"泉"に………


「ここまでにして頂きましょう?神託の巫女姫?」
 
 ガシャッ、とここに似つかわしく無い金属音と共に複数の騎士に取り囲まれている事に気がついた。

「なぜ?ここに………?!」

「貴方様が、"泉"を探していた事は世界中有名な事実ですからな?陛下も、もしもの時の為に精鋭をここに控えさせていたという事です。」

「シュトライン様、が?」

「さあ!立て!不法入国者め!!陛下がお目溢しされていたからこそ、ここまで来れたのだろうが!大人しく身柄を改められよ!!」
 
 数人の騎士が進み出る。

「それより先!!姫様に寄る事はまかりならん!!」

 サザーニャを誘導していた女騎士が最初に剣を抜く!それに続いて全ての女騎士達は剣を抜き、サザーニャを後ろ手に庇った。


「此奴ら!!逆らうか!!」

「ええい!生意気な女どもめ!!一人残らず捕らえよ!!」

「我ら!カザンシャルが神託の巫女姫の護衛騎士!!この命ある限り、巫女姫様には指一本触れさせはせぬ!各々心して守り通せ!」

「はっ!!」

 掛け声と共に、激しい剣撃の音が泉から溢れ流れる水の音をかき消して行く…

「早く!姫様を泉の元へ!!」

「させるか!!捕らえよ!!」

 兵士の手を掻い潜り、泉の近くまで行こうとするサザーニャ達を、意地でも捕らえようとする兵士達との競り合いが激化し双方入り乱れての乱戦状態へと突入して行く。

 神託の泉まで、後、少し…腰の起爆物を投げたくても体勢が整わない程の乱戦だ。

 そこに泉がある…神託を成就する…悲願の泉が!!!
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