[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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134 激突

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 駆け上がっていくその先に、先程の洞窟よりはやや小さい場所に出た。
 チロチロチロと、微かに水の垂れ滴る音がそこ此処に聞こえる中、微動だにせずにとぐろ巻いて伏し休んでいる大蛇が、そこに居た…

「あれか……?」

「左様に御座います!」
 大蛇を刺激しないように、皆小声だ。
「居たわね。悠長に昼寝など、随分舐められているわよ?」

「何、今直ぐに寝ている事すら出来ない様にしてやろう。」
 ルーシウスは腰の剣に手をかける。
 
 サウラ……


「それは、ご遠慮願いたい…」

 コツ、コツ、コツ…

 大蛇の影から、優雅に歩み出てくる者がいた。

「これでも、私の大切なペットでね?ここまで大きくするのに、それは時間が掛かったものなのだ。」

 金髪碧眼の美しい男だ。着ている衣装は簡素な物だったが、堂々とした佇まいから一兵卒では無いことが窺える。

「初めましてか?サウスバーゲン国王?」
 冷ややかな冷笑を張り付かせたまま、丁寧な礼を取った。

「………ゴアラの王か?」

 建国から今日に至るまで、敵対している国同士、王族の交流どころか、お互い直に顔を合わせたこともない。相対するのが王城ではなく獣臭い汚れた洞窟とは、これまた両国の関係を如実に表している様だ。

「まさか、とは思ったが?厚顔無恥にもノコノコと少数で、ここまで良く来たものだ。」
 現ゴアラ王シュトライン。軽蔑と呆れとも取れる表情と視線を隠さないままルーシウスから目を離さない。

「そこの躾のなっていない木偶の坊が、我が宝を飲み込んだのでな?失礼かとも思ったが、持ち主自らが引き取りに来たというわけだ。」
 ルーシウスはいつもの軽口を叩くような声調でさらっと言いつつ、腰の剣を抜き払う…

 暗部メンバーは既に臨戦態勢。シエラも僅かながらに結界を周囲に展開している。

「やはり、相対するものではないな…其方らの魔力には臓物を撒き散らされた様な嫌悪しか感じぬ…」
 対するシュトラインも剣を抜く。

「そうか。奇遇だな…俺もその蛇には役立たず以外の何物をも感じぬさ……そいつの腹の中の者、返してもらうぞ?」
 言うが早いか、ルーシウスの方からシュトラインへ斬りかかる。と、同時に暗部、シエラも周囲に展開し、岩肌に控えていただろうゴアラの兵とぶつかり、剣を交えて行く。

 ガッギィィィン!!!
  
 王と王の剣が正面から激しく打つかる!
 火花さえ飛び散るほどのルーシウスの重い一撃を、シュトラインは事もなげに受け止める。

「サウスバーゲンの、お前の魔力には反吐が出るが、この剣技は楽しめそうだ…」
 
 思い切り打ち込んだ筈なんだがな…ルーシウスは心の中で独りごちて苦笑さえ漏れる。

「剣豪との噂は、噂では終わらなかったか…」

 ギャィィン!!

 二人同時に剣を薙ぎ払った。


 ルーシウスの後ろでは、風が起こり、雷撃が飛ぶ。暗部団員全員が魔力持ち。戦闘で使わねばいつ使うのかと皆得意な魔力攻撃に出ている。

 が、対するゴアラの兵も心得た者で風を読み、雷撃の軌道を避ける尋常では無い身体能力を発揮してくれている。

「くっ!!」

「マンタル!!」

 土魔法を得意とするマンタルが押されている!?
ここは洞窟の中だ。土に属するものなど、床から天井まで尽きぬ程あるのに?

「なぜか、分からんが土魔法が発動しない!」
 
「水もだ!!」
 
 ここに来て、理由が分からず水の魔力も発動しない?嫌、魔力がないわけでは無いし、水もある!岩肌から垂れ滴っているのは水では無いのか?それを利用しようとしても水が答えないのだ。

 マンタル以外、こんな事を体験した者はここには居ない。魔力が使えなくとも直ぐに体制を整えて応戦に転ずるが、少なからずも内なる動揺は皆隠せない。

「サウスバーゲン王よ。何やら部下が慌てふためいている様だが?」
 余裕の笑みを崩さぬままに、2撃、3撃と剣を繰り出して来るシュトライン。

「そうか。魔力が使えずとも、戦えるのが暗部。舐めてもらっては困る!」
 ルーシウスもシュトラインの剣を受けつつ、土と水の
魔力を駆使してみる。が、ルーシウスの魔力によっても反応は得られない。

 成る程、反応がないのは確かだ。暗部数名が、何かの魔力封じにあったわけではなさそうだ。

「まだ、余裕だな?サウスバーゲン…」

「俺も、剣撃だけが取り柄と思うか?」
 ルーシウスはシュトラインの剣先から目を離さずに、風の矢を無数にシュトラインに撃ち込んだ。

「ほう?」

 感嘆の溜息とも思える程の息遣いが聞こえたと思えば、シュトラインに触れた風の矢は霧散した。

「!?」

 流石にルーシウスも驚きに目を開く。

「ふぅん……」

 後方から薄く結界を張り巡らしていたシエラが、鼻を鳴らす。

「報告書にあった通り、か。」


「成る程、俺の魔力は子供騙しというわけだ?」

「出せる芸は、それしか無いのか?」

「さあて?どうだかね?」
 ルーシウスの周りに粉雪の様な魔力が舞い上がる。風も無いのに下から上へ、渦を巻きつつゆっくりと舞い上がる様は幻想的ですらあった。





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