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[完結]143 約束の地
しおりを挟む「リージュにはまだ薄着ではないのか?」
やっと雪解けが始まった山の遅い春…下界は温かな日が多いのだが、山の村には未だに少し雪が残る。
「いいえ、大丈夫です。結界を張ってますし、山産まれならこれ位普通ですよ?」
日がしっかりと出てきた日中に産まれて間もない第二子を連れて外に出る。着いたばかりの昨日は大変なお祭り騒ぎになってしまって、ゆっくりと村を歩くこともままならなかったから…
チューリップが咲き誇る庭を上の子が楽しそうに散策している中、産まれたばかりの子供についてあれこれ議論。
「リージュは山産まれではないぞ?」
「ここで産まれた子達もこれ位ですもの?それでも皆んな元気ですよ?」
まだまだ小さくか弱そうな赤ん坊に気が気ではない様だ。伸びた黒髪を一つに纏めて後ろへ垂らし、自分は薄いマント一枚でその手に産まれた我が子を優しく抱きしめている妻に、自分の厚手のマントを掛けようとしてくれている。
「陛下、返ってそのマントではこの山道は歩き難いですよ?」
護衛の騎士が見兼ねて声をかけてくる。この山の中で一番慣れているのはこの妻なのだから、余計な手出しは無用と言うもの。
「クスクス…お父様は心配性ですね?」
思わず綻んでしまった顔で優しく赤子を覗き込む。
「おじいちゃまとおばあちゃまはー?」
待ちきれなくなってきた上の兄セルトが駆け寄ってきた。その両手には切ってもらったであろうチューリップの束をたくさん抱えて。
「今から会いに行きましょうね?」
「うん。魔法のじぃじとばぁばは?」
「うん~~ん。此処にいると言っていたのだかな?」
長い時間すれ違っていた事と、あの日から魔力、体力の回復がみるみる遅くなって来ている事から、余生をゆっくり過ごしたいと2人で世界中を回っているのだ。時々ふらっと城に帰ってきては子供達の成長を心から喜んでくれている。だから子供達も2人が大好きで此処にいると言っていたじぃじとばぁばに会いたかったのだ。
「今度、お手紙を書こうか?」
「書く、書く~~~!」
これでまた、勉強をする理由が一つできた。男の子だからか?身体を動かす方に興味を持って剣や体術の方に気が向いてしまう様なので教育係は苦労している。
両手に抱えたチューリップを落とさない様に運んで行くまだ小さなセルト。おじいちゃまとおばあちゃまのお墓にお届けするんだ、と意気揚々と胸を張って…
「大きく、なりましたね?」
「そうだな……随分と、待たせてしまったなサウラ。此処に来れる様になったのも更に時間が掛かったからな。」
あの後国に帰れば全て元どおりというものでもなかった。各国への調査と情報交換、条約の見直し。国中への国の方針通達にそれが浸透するまでの期間も要したし、ゴアラとの国交開始に伴う条約取り決めのあれやこれや…その間にサウスバーゲンとゴアラに置いては王家の婚姻という国を挙げての催しと、どれをとっても後回しには出来ないものが後からあとから押し寄せてきて、サウラの生まれ故郷に帰る、この小さな目標も実現できたのがやっと1年前のこと。
「もしや、サザーニャ妃の所に行っていらっしゃるのでは?」
今気が付いたが、サザーニャにも子供が産まれると知らせが入ってきていた。正室であるのにも関わらず長年子を授かることがなく周囲をヤキモキさせていたご夫婦だが、やっと念願の第一子を授かったとカザンシャルでもお祭り騒ぎで有ったと聞く。
「そうかも知れん。あの方は子供好きだからな。」
ゴアラに囚われた理由が、子供達を盾に取られ身動き出来なくなったところを不意打ちされたと聞いたことがあった。
「では尚の事、都合が良いですね?これからゴアラに向かうのですし、留まっていて下さる様に使いを出しましょう?」
「仰せのままに…我妻よ…」
少し屈んで妻の左耳の石にキスをする…人前でのこの様な触れ合いにまだまだ慣れていないサウラはすぐに赤面し、抗議してくる。
「ルーシウス様!?リージュを抱いているのですよ?それに…人前では…人前ではいつも止めてくださいと、あれ程言っているではないですか?」
「一体誰が見ているというのだ?」
臣下たる者皆その辺りは心得ている。こう言う場では誰しも絶対に目すら合わせて来ない。それも身をもって知っているだろうに、何時迄も慣れぬ姿は初々しい。
更に左耳へ手を添え、自分の瞳と同色の色の石が入ったピアスを触る。
「見られていなくても、恥ずかしいものは恥ずかしいのです…」
それが可愛いと言うのに、未だに良く分かっていないのだな…
クスクスと笑いを堪えながら、そぅっと妻の背を支える。
幾ら慣れ親しんだ道と言えど赤子を抱いての道は注意が必要だろう。
ほら、先を行くセルトが盛大に転んだぞ?お?泣かぬのか?昨日まで小鳥の様に泣いていたのに。父上と母上に強い姿を見せたいのだな?
子供達は日々強く、大きくなる。例え人外の力が失われようと……明日も、明後日も…
完
***********
やっと完結まで書き切ることができました。
一番最初に書き始めた作品で、読み難い拙いものであったと思いますが、ここまで読んでくださった方々、お気に入りをしてくださった方々またコメントに励ましを頂きまして書く事を楽しみつつここまで書く事ができました。
皆様に楽しんで頂けたらとても嬉しいです。
ありがとうございましたm(_ _)m
応援ありがとうございます!
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110ページ
ナイスな誤変換がありました。
其方は悪魔
ご指摘ありがとうございました。
他でも間違えていそうで恥ずかしいです(^-^;
文章が美しくて引き込まれました。
お気に入り登録して、これからゆっくり拝読させていただきますね。
感想ありがとうございました。素晴らしい評価の言葉にドキドキしてしまいました。
喜んで頂けたら嬉しいです(╹◡╹)♡
ゆっくりとお楽しみくださいませ。
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます(*^ω^*)
楽しんでくださったら嬉しいです(╹◡╹)♡