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それからの数日は新たな帝国側の襲撃もなく、兵士を見かけることもない穏やかな日々が続く。
食料を集めたり、必要な物を最初の小屋まで取りに行ったり、有都はオリバーについて周辺の探索に同行したりと、有都の知っていた日常からはかけ離れたシャラの森の日常が、徐々に有都にも定着し始める。
「アリー、魚がいる!」
小屋の側には小川がある。心地よいせせらぎを届けてくれる川で、時折オリバーが魚を発見してくるのだ。
が、獲れない…有都には魚を獲る才能は無いのかと思われるほど、何度やっても獲れない……元いた世界なら釣竿やら網やらがあるのだろうけど、ここにはそんなものはなかった。オリバーは手掴み、サクは棒を細く尖らせた物で一突きにする。この両方とも試したのだが、有都にはどうしても獲れないのだった…
「何で、アリー獲れない?」
赤犬の亜人であるオリバーは狩猟本能でもあるのか、まだ幼いのに身体能力は抜群。サクは慣れと経験に物を言わせている。有都はどちらも持っていない。身体能力は一般男子から逸脱しないし、釣りの経験はほとんどないからだ。
「くぅ……」
純粋な子供の目で見つめられ首を傾げながらオリバーに聞かれてしまっては、嘘でも付いて格好付けたいものだが、嘘を言ったところですぐにバレるだろう。だからもう、何も言えないのだ……
「ははは!苦戦しているな、アリー?」
巡回を終えて帰ってきたばかりのラウードが堪らない、とばかりに吹き出している。
「………………!」
高校での成績はいい方だった有都だ。やった事も無い魚獲りで馬鹿にされるのはやはり悔しく、少しばかり優等生としてのプライドを刺激してくれた。
「…消失……」
ポツリと有都が呟いた後には、一切の川の水が、無くなっていた………
「ほら!獲れたよ!?俺にだって、魚くらい!」
ふん!と鼻息も荒く、川底の砂や砂利の上でピチピチの跳ね回っていた魚を両手で鷲掴みにして、有都が得意そうにオリバーやラウードに見せてくる。この川魚は焚き火で焼くと香ばしくて美味しいのだ。
「!?」
「……!!」
そんな有都を見てからか一瞬にしてラウードやオリバーが驚愕の表情になる。どうしてそんなに驚いているのか、興奮していた有都は気が付かなかったかもしれない。意気揚々と両手に持った川魚を二人の所に持って来て籠に入れているのだから。
「ア、アリー…」
「…どうです?」
俺にだってやればできる!
有都は少なからずラウードを驚かせることができて大変満足だった。
「アリー!他の魚が死んじゃうよ!」
オリバーの悲鳴の様な声を聞くまでは……
「え?」
「川の水が無いよ!」
オリバーが有都の腰を引っ張って川の方を指差す。そこでようやく、有都は今川がどの様な状態になっているかを冷静に見ることができたのだ。
「…あ…本当だ…」
よく見ると、川底だった砂利や砂地のそこかしこで大小の魚がピチピチと跳ねている……数分間このままだったらこの川の全ての魚が死滅してしまう状態だ。
「うわぁ…!!え~と!……消失!」
有都は急いで水を無くしたのとは逆で川の水が枯渇している状態を消失させる。
瞬時に川は何事もなかったかの様に心地の良いせせらぎを湛えて下流へと流れていくのだった…
「アリー……」
半ば呆然としたラウードの顔…鳩が豆鉄砲を食らったかの様なオリバーの顔…二人の顔はゆっくりと有都に向いてくる。
「川の水って…消せるんだ………」
ここで一番驚いているのは有都かもしれない。常識では絶対に有り得ない…ダムを作ったわけでも無い…川の水を一瞬で全て無くして、戻して見せたのだから。
「アリー……君の力を知っているのは、俺達だけだな?」
ラウードの口調が飾らないものになっている。
「う、うん…ここに来て会った人間って、ラウードとサクとオリバーだけだし…」
後は追って来た兵士数人だ。
「それは良かった。アリー、約束だ。オリバーもアリーの力は人には言わない方がいい。」
確かに何でもかんでも消してしまえる様な馬鹿げた力はない方がいいと思う。
有都もそれには納得が行った。
「うん。分かった…!」
「オリバーも良いね?」
「………うん……」
まだ半ば呆然としたオリバーもコクリと可愛らしく肯く。
「さ、帰ろう…今日はアリーが魚を獲った記念日だろう?サクに美味しく焼いてもらうぞ!」
小屋に帰ったラウード達にサクが更に驚きの声を上げる。
「アリー……どうやって魚を獲ったの?絶対に獲るのは無理だと思っていたのに………」
真剣にサクにそんな事を言われてしまった有都は、何と答えていいのやら。
絶対に、無理だって思われてたんだ……
川の件を詳しく話さなくて良いのは助かるが、サクに絶対に無理だと思われていた事は有都にとっては非常に複雑だ。
食料を集めたり、必要な物を最初の小屋まで取りに行ったり、有都はオリバーについて周辺の探索に同行したりと、有都の知っていた日常からはかけ離れたシャラの森の日常が、徐々に有都にも定着し始める。
「アリー、魚がいる!」
小屋の側には小川がある。心地よいせせらぎを届けてくれる川で、時折オリバーが魚を発見してくるのだ。
が、獲れない…有都には魚を獲る才能は無いのかと思われるほど、何度やっても獲れない……元いた世界なら釣竿やら網やらがあるのだろうけど、ここにはそんなものはなかった。オリバーは手掴み、サクは棒を細く尖らせた物で一突きにする。この両方とも試したのだが、有都にはどうしても獲れないのだった…
「何で、アリー獲れない?」
赤犬の亜人であるオリバーは狩猟本能でもあるのか、まだ幼いのに身体能力は抜群。サクは慣れと経験に物を言わせている。有都はどちらも持っていない。身体能力は一般男子から逸脱しないし、釣りの経験はほとんどないからだ。
「くぅ……」
純粋な子供の目で見つめられ首を傾げながらオリバーに聞かれてしまっては、嘘でも付いて格好付けたいものだが、嘘を言ったところですぐにバレるだろう。だからもう、何も言えないのだ……
「ははは!苦戦しているな、アリー?」
巡回を終えて帰ってきたばかりのラウードが堪らない、とばかりに吹き出している。
「………………!」
高校での成績はいい方だった有都だ。やった事も無い魚獲りで馬鹿にされるのはやはり悔しく、少しばかり優等生としてのプライドを刺激してくれた。
「…消失……」
ポツリと有都が呟いた後には、一切の川の水が、無くなっていた………
「ほら!獲れたよ!?俺にだって、魚くらい!」
ふん!と鼻息も荒く、川底の砂や砂利の上でピチピチの跳ね回っていた魚を両手で鷲掴みにして、有都が得意そうにオリバーやラウードに見せてくる。この川魚は焚き火で焼くと香ばしくて美味しいのだ。
「!?」
「……!!」
そんな有都を見てからか一瞬にしてラウードやオリバーが驚愕の表情になる。どうしてそんなに驚いているのか、興奮していた有都は気が付かなかったかもしれない。意気揚々と両手に持った川魚を二人の所に持って来て籠に入れているのだから。
「ア、アリー…」
「…どうです?」
俺にだってやればできる!
有都は少なからずラウードを驚かせることができて大変満足だった。
「アリー!他の魚が死んじゃうよ!」
オリバーの悲鳴の様な声を聞くまでは……
「え?」
「川の水が無いよ!」
オリバーが有都の腰を引っ張って川の方を指差す。そこでようやく、有都は今川がどの様な状態になっているかを冷静に見ることができたのだ。
「…あ…本当だ…」
よく見ると、川底だった砂利や砂地のそこかしこで大小の魚がピチピチと跳ねている……数分間このままだったらこの川の全ての魚が死滅してしまう状態だ。
「うわぁ…!!え~と!……消失!」
有都は急いで水を無くしたのとは逆で川の水が枯渇している状態を消失させる。
瞬時に川は何事もなかったかの様に心地の良いせせらぎを湛えて下流へと流れていくのだった…
「アリー……」
半ば呆然としたラウードの顔…鳩が豆鉄砲を食らったかの様なオリバーの顔…二人の顔はゆっくりと有都に向いてくる。
「川の水って…消せるんだ………」
ここで一番驚いているのは有都かもしれない。常識では絶対に有り得ない…ダムを作ったわけでも無い…川の水を一瞬で全て無くして、戻して見せたのだから。
「アリー……君の力を知っているのは、俺達だけだな?」
ラウードの口調が飾らないものになっている。
「う、うん…ここに来て会った人間って、ラウードとサクとオリバーだけだし…」
後は追って来た兵士数人だ。
「それは良かった。アリー、約束だ。オリバーもアリーの力は人には言わない方がいい。」
確かに何でもかんでも消してしまえる様な馬鹿げた力はない方がいいと思う。
有都もそれには納得が行った。
「うん。分かった…!」
「オリバーも良いね?」
「………うん……」
まだ半ば呆然としたオリバーもコクリと可愛らしく肯く。
「さ、帰ろう…今日はアリーが魚を獲った記念日だろう?サクに美味しく焼いてもらうぞ!」
小屋に帰ったラウード達にサクが更に驚きの声を上げる。
「アリー……どうやって魚を獲ったの?絶対に獲るのは無理だと思っていたのに………」
真剣にサクにそんな事を言われてしまった有都は、何と答えていいのやら。
絶対に、無理だって思われてたんだ……
川の件を詳しく話さなくて良いのは助かるが、サクに絶対に無理だと思われていた事は有都にとっては非常に複雑だ。
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