[完]僕の前から、君が消えた

小葉石

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 あの時、直ぐにダメだって言えなかった。良いよ、とも言えなかった…

 直ぐに、僕は、居なくなる………

 この現実は、僕にはあまりにも重くて、考えたく無くて今でも思考が逃げていく…

 居なくなる、そんな僕の側でいいのか?
もっとまさりのトラウマになるんじゃないのか?直ぐに、死ぬなんて事、僕だって納得なんてできているわけ無い…きっと先生の話は冗談だったんだ…

 グルグルとバラバラな思考が頭を巡っては定着せずに散っていく。否定しても、目を背けても徐々に言う事を聞かなくなってくる体は嘘はつけないらしい…

 死ぬのか…ここ、数日下がら無い熱に少し魘されながら、ふと、ストンとその現実が落ちてきた…

「…言わなきゃな……」

 誰に、何を…?側にいて?それとも、もう来るな?

 寂しいのか、別れが怖いのか、気がついたら自然に涙が出てきてる…

「…まさり…?」

 声をかけて、気がついた。そう言えば、あの日から何日経ったんだろう?ずっと思考がグルグルしててここ数日自分がどんなふうに過ごしていたのかも覚えていない。
その間、まさりは居た?ここに来ていた?

 見てない、様な気がする。いつも遠慮のない声で話掛けてくるんだから、どんな時にだってまさりがいれば気がつくだろうし…?

「起きたの…?」

 近くに母がいる…辛い時に近しい人が居るのはどんな時でも心強い…けど、まさりは?僕は母に答えもせずに、キョロキョロと室内を見回した。

「居ない……」

「…………」

 僕の声が聞こえていただろうに、母は何も言わなかった。

「何か食べたいものある?パパももうそろそろ来るって言ってたから買ってきてもらおう?天むすにする?」

「う……ん…」

「じゃあ、ママちょっとパパに連絡してくるからね?」

「………」

 まさりが居ない…どこに行った?きっと、あいつの事だから、また気分転換に屋上にでも行ってるんだ。

 もう、一人では立っていられなくなった僕のために、歩行器がベッドの横に置いてある。ゆっくり起きて、歩行器に掴まって屋上に向かう階段の方へと歩き出した。

「善君、お散歩?気をつけていってらっしゃい!」

 なんて、時々ナースステーションの看護師が気にかけてくれて、会釈でその前を通り過ぎる。階段に向かう廊下には患者や家族用と別にスタッフが使うエレベーターもあって、人の行き来も多かったりする。
 もうほとんど食べられなくなってきた僕はその少しの廊下の距離も数歩歩いては少し休んで、また数歩歩いていった…

「あの子、亡くなったんだってね?」

「あぁ、善君の所によく来ていた子でしょ?」

「彼女じゃないの?」

「そうかも…可哀想よね…」
 
「即死だって聞いたよ?」

「うん。トラックに跳ねられたんでしょ?親御さん、来てなかったって…」

「あぁ、養護施設の子だからね…」

 休んでいるうちに、聞きたくない声が話が聞こえてくる…その場から離れたいのに、やせ細った足は言う事を聞いてくれなくて……

「うちに運び込まれたからわかったけどさ。他の病院に行ってたら連絡の付けようもないよね。」

「うん、善君知ってるのかな?」

「さぁ?分からない…先生達は知っているみたいだけど、本人には言えないんじゃない?」

 聞き覚えのある、看護師達の声…いつも献身的に、優しく接してくれる信頼ある人達の言っている事だから、きっと嘘ではない…

「あ!善!!どうしたの?」

 丁度そこへ母が帰ってきた。もう、看護師達の声は聞こえなかった…

「こんな所まで…!何かあった?」

 心配そうに駆け寄ってくる母の側にもまさりは居なかった…

「まさり……どうした?」

 突然来なくなったまさりの事を今更ながらに母に聞くなんて、僕も大概に冷たい人間だ…









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