[完]子供が欲しい精霊は、今日も番を誘います

小葉石

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31、王太子宮炎上 2

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「何という失態でありますかな?」

 暴れる所を力ずくで抑えられているエルレントの前に宰相アルゴンが颯爽と歩み寄る。

「アルゴン……」

「良い夜とは言い難い惨状ですな、王太子殿下?」
 
 ギリギリ………エルレントは奥歯を噛み締める。でなければ、今にも宰相に向かって罵詈雑言を浴びせかけ、隣にいる騎士の剣を奪いアルゴンに向かって切り掛かっていきそうであったからだ。

 城の外壁だけが燃えている。理由は簡単、誰かが壁一面に上から油を撒いたから……

 その指示を出したであろう誰かが目の前にいるのに、黙ってなどいられそうにもなかったのだ。だがここで証拠もないのに宰相アルゴンを打てば、王太子エルレントの立場は取り返しのつかないものとなるだろう………

「さて、どうやって収拾を付けるおつもりかな?ふむ……投石機もある事ですし、思い切って打ちこわしますか?」

「ひ……っ!」

 非常な宰相の言葉に侍女からは悲鳴が上がる。

「アルゴン、貴様!まだ中に人がいるのだぞ!!」

「不幸な事故に御座いましょう。」

「おね、お願いでございます!!まだ、まだ中に……」

 侍女が泣きながら宰相に縋り付く。

「不吉な邪教徒を城へ入れるからですぞ?この厄災は殿下が引き入れたものですぞ?これ以上、広がらないといいですな?」

「おのれ……アルゴン………」

「堪えてくださいませ…殿下!」

 必死に抑えに来ている騎士も悔しさを隠しきれないでいた。王太子側の者達は拳を硬く握りしめ悔しさに耐える。




「へぇ?これ以上火が広がらなければ、サージェが悪くないって分かるのかな?」

 城の上方から声がした。

「リシュリー!!」

 城のテラスに立つ小柄な人影は…熱風に銀の髪を煽られ、衣類をはためかせつつ立っているリシュリー本人だった。紫の濃い瞳は僅かに光を湛えている様にも見える。

「サージェ…どうしたい?」

 炎が上階へ迸り登っていくのに、リシュリーは全く恐れていない。それよりもサージェスに采配を投げてきた。

「何でもいい!炎に撒かれるぞ!他の者はどうしたのだ!?」

「大丈夫、城の中に煙は入っていないから。みんな元気!で、どうしたい?」

「お前が、無事で何よりだが、この炎をどうにかしないわけには…」

 助かるものも助からなくなる。

「わかった!じゃ、先ずはこれを消すわ!」

 ニッコリと輝く様な笑顔を見せて、リシュリーは両手を広げた。

 フワリとリシュリーの身体の周囲の風が動く………

 ピ………音にしたら短く軽いそんな音を放った様な、小さな光の玉がリシュリーの側からスッと離れて一気に城の周囲を周回し出す。

「ありがと…また、会おう…」

 リシュリーは小さく小さな光に向かってそう、呟いた。次の瞬間、轟々と渦巻いていた炎が一瞬で全て消え果てた……

「ねぇ、風の精霊、僕を下まで運んで?」

 まだ熱気燻る城壁のテラスに足を掛け、リシュリーは、トン、と空中に踊り出す。

「!?」

 信じられない様な気持ちで城を見ていた者達の目が更に開かれ、リシュリーを見ていた者は声も出ない。

「リシュ…!!」

 サージェスは名前を呼ぶ間も惜しんでかけ出していた。

「ふふ、大丈夫!僕にまだ小さい子が付いているから。」

 サージェスには見えないかもしれないが、一人残った小さな風の精霊は、リシュリーの肩の上で、エッヘンと胸を逸らしまくって大威張りである。精霊の守りがある限り、リシュリーが人間として死ぬことはない。地面に着地する前にフワリと風がリシュリーを受け止めた。

「無事か!?」

「うわ、心配してくれてたの?」

「当たり前だろう!怪我は?」

「へえ、意外とサージェは心配症なんだね?僕もだけど、中にいる人皆んな怪我一つないと思うよ?」

「我が王!ご無事ですか!?」

 やっと城の中から熱くなった扉が開けられたのだろう。神官マートが普段見られない慌て様で急いで走ってくる。あの奇跡の所業を見せられて駆け寄ったマートはその場に跪き首を垂れた。

「無事に決まってるでしょ?あの位…」

 火の精霊は精霊界、人間界の全ての火に干渉出来るのだ。ならば一瞬で大火事にもまたその逆で一瞬で火を滅する事も自由に操れるのだから。けれど、力の使用が広範囲に渡り、ここ人間界にはいる事ができなくなってしまった。

「流石は精霊王の御血を受け継ぐ次期精霊王となられるお方…感服致しました。」

「ふふ、そう?これで少しは人間も精霊に心を向けてくれるかな?」

「勿論にございます!ましてやこの城の中にいる者達は貴方様が居られなかったら皆焼け死んで居たのです!そのお力の広さに平伏すべきで御座います。」

 そう言うと神官マートはその場に平伏し動かなくなった。
 
 炎の城の中に閉じ込められていた使用人達も実は今までの事を窓からみていた。出て来た者達はお互いに助かったのを喜び合いつつ、リシュリーの足元に平伏したのだった。

「ありがとうございます、精霊の御方。」

 城の炎が消え、自分達が助かったのは確かにリシュリーのお陰なのだから、精霊は御伽噺の空想ではなく、今も存在する事はもう疑いようもなかったのである。
































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