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たいけみお

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第10章:「幸せ?」

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ミワワのマンガを描いていると哲ちゃんが言った時にはかなり驚いた。

けど当然、めちゃくちゃ興味がある。


だって俺のミワワだぞ?

哲ちゃんのマンガの中でミワワがどんな顔してるのかとか、

何しゃべってんのかとか、

友達はいるのかとか・・・

気にならないはずないって。


でもミワワが悪役だったら嫌だな。

あと超性格が悪いとかもムリ。

そんなんだったら、

飼い主としてダメ出ししてもいいのかな?


里香さんの件が無事一件落着し、圭さんのお店で食事をした後、俺たちは昌さんも一緒に、家に戻ってきた。

でも圭さんと一緒にどこかへ消えた美和は明らかにまだ戻ってきてない。

美和がさっき履いてた靴もないし、気配もないから。


「本当に読んでくれるんですか?」

哲ちゃんはリビングのソファーで寛ぐ俺たちに恐る恐る分厚い原稿を差し出す。

結構描きためてるんだな。


「ここの生活、かなり面白いじゃないですか。毎日それを、日記みたいに落書きしてただけだったんですけど、そのうちストーリーがまとまってきて・・・」

「へぇ」

そして俺たち3人は読み始めた―――


うわっ、これめちゃくちゃ、おもしろいじゃん!

それにミワワ、めちゃくちゃかわいいし・・・よかった!


「哲ちゃん、これめちゃくちゃ面白い!ミワワ、超ウケる!あはは!」

「たしかにミワワ、たまにこういう困ったようなブサイクな顔するわよね~」

「哲ちゃん、これイケるかもな」

「面白いんだけど、同時にゆるくて癒し系なのがまたいいわ・・・あら?これアタシ?」

「すみません、使わせてもらいました」

「あれ、これは美和?それに俺?」

「はい。それにもう少し読み進めると、圭さんも出てきます」

「マジかよ」

「一応、圭さんに許可、貰っておいた方がいいですかね?」

「あ、ちょうど2人が帰ってきたみたい。エロ親父には今許可貰った方がいいわよ。絶対に機嫌がいいから」


美和を送ってきた圭さんは、コンちゃんの言うとおりデレデレに機嫌が良くて、すぐにOKしてくれた。

「ヤクザっていうのは出しても構わないけど、俺だってバレるようなことを書いたらどうなるかわかってるよな?」


そう釘を刺され、一瞬で顔が硬直した哲ちゃんだったけど、

「大丈夫よ、バレそうになったら親父が自分で手を打つから」

ってコンちゃんに耳元で囁かれて安心したみたいだった。


「じゃ美和ちゃん、俺は人を待たせてるからこのまま帰るね。また近いうちに迎えに来るからさ。昌太郎、オマエも今夜はまだ仕事あるだろ。行くぞ」


圭さんはそう言ったけど。

「俺、別にちょっと用事あるからもう少しここにいるわ」

その昌太郎さんの言葉に、圭さんとコンちゃんの動きが一瞬止まった。


どうしたんだ?


だけどすぐ圭さんは昌太郎さんを睨んでこう言った。

「オマエ、殺されてぇのか?」



へ?



なんでそんな発言?



コンちゃんも

「昌、アンタ変な気起こさないでよ?アンタの血とか、見たくないからね」

とか言ってるし。

でも昌太郎さんは冷静に、圭さんとコンちゃんに苦笑しながらこう言った。


「ったく、なんでこうカンがいいかな、俺の家族は・・・心配しなくても大丈夫ですよ。まだ飲み足りないから、もうちょっとだけ飲んだら素直に帰りますよ。くく」

それを聞いて圭さんは「わかってるならいい」と呟き、美和のほっぺにキスをして去って行った。


なんなんだろう、この会話。

全く話が見えないんだけど。



「コンちゃん、どういうことだよ?」

隣にいるコンちゃんに小声で言うと

「まぁ・・・昌ってホント苦労症、って感じかしら?かわいそうだけどどうしたって勝ち目ないし仕方ないわよ・・・いろんな意味で」

「意味、わかんないんだけど」

「いいのよ、わかんなくて。フフ・・・ま、たいしたことじゃないから杏くんは気にしなくていいのよ?」



そして。



「て、哲ちゃんっ天才だよぉ!これ、面白いよ!!ミワワ、よかったねぇ!」

徐にミワワをぎゅっと抱きしめる美和。

哲ちゃんのマンガ、相当気に入ったみたいだ。


「じゃ、杏くん、ミワワをマンガにしても問題ないですか?」

「あ、はい!是非よろしくお願いします!」

「ありがとう・・・皆さんに褒めて頂いて、なんか自信が出てきました。早速、出版社に送ってみます」

哲ちゃんは真底ホッとした様子。

そして哲ちゃんが入れてくれたおいしいコーヒーを最後に飲んで、俺達は解散した。



圭さんが帰ったあとも、昌さんはいつもと何も変わらなかった。

ただ、ミワワとミワワの漫画について、美和と盛り上がってただけ。

お迎えを自分で呼んで、あっさり帰ってったし。

まぁ、コンちゃんに「もうここには来なくていいわよ~」って玄関で見送られて、苦笑いしてたけど。


―――ホント、あの会話はなんだったんだろう?



そして、2日後。



「た、大変です!!!」

哲ちゃんが大きな足音を立ててリビングに駆け込んできた。


「どうしたの?」「ミャ~?」

美和はソファーに座って、いつものようにミワワの頭を撫でている。


「出版社から連絡がありました!」

「え、もう?」

「はい、採用だそうです!!」

「きゃ~!!!!」

「すげぇ!!!」

「やったわ~!!!」



その後はおもしろいくらいトントン拍子で話が進んで。

哲ちゃんの4コマ漫画「ミワワ」は、全国紙の朝刊の4コマ漫画として、来年1月1日から、毎日掲載されることになった。


「毎日って、大変だよね?」

俺がちょっと心配すると

「大丈夫、余裕ですよ。ここにはネタがいっぱい落ちてますから」

哲ちゃんは笑った。



ところで、あれから里香さんがどうなったかというと。

「これからもここに住まわせてもらえませんか?」

あの河原で石黒竜二と別れた後、いちど明良さんと実家に戻り、数日後に再びここにやってきてそう言った。

リビングには全員が集合していた。


「祥吾くんとはどうなったんですか?」

哲ちゃんが口火を開いた。

こういう時、哲ちゃんてホント頼りになるんだよな。

みんなが聞きたいこと、あっさり聞いてくれるから。


「えっと・・・付き合うことになりました。みなさんにはいろいろご心配かけてしまって・・・」

「よかったわね。祥吾くんいいコだし、きっと大切にしてもらえるわよ」

コンちゃんは目をキラキラ輝かしてる。


「ってことは、松本くんもここに住むってこと?」

きっと美和的には、祥吾さんがここに住むことに問題はないんだと思う。

前からここに住めばって言ってたし。


「え~、それは困るわ!」

でも、コンちゃんが駄々を捏ね始めた。


「なんで?」

「毎日イチャイチャされたら目の毒でしょ?それにここには中学生もいるのよ?」

みんなが一斉に俺を見た。


「俺は別に・・・俺の目の前でエロいこととかしないでもらえれば」

「わっかんないわよ?祥吾くんよ?狂嵐の副総長よ?」


「俺、中1の時、狂嵐メンバーのところでずっと世話になってたから・・・結構慣れてますよ。それにこの家広いから、2人の部屋を離れたところにすればいいし」

「杏くんは慣れてるかもしれないけど、俺は慣れてないからどうだろう?」

哲ちゃんが真面目な顔で呟いた。


「やだぁ、アラサーが何言ってんのよ?今さら純情ぶらないでよ!」

「たぶん、一番免疫ないのは哲ちゃんじゃなくて、美和じゃないですか?」

俺がそう言うと、ピタっと会話が鎮まった。


「そうよねぇ、美和ちゃん、あなた大丈夫なの?」

「なにが?」

「隣の部屋からエロい声とか毎晩のように聞こえてきたらどう思う?」

「あの、私そんなことしないですけど」

「里香ちゃんは黙ってて!ね、美和ちゃん、どうする?」

美和の答えは意外なモノだった。


「防音の部屋もありますよ?」


ぷっ。



そうだった。

美和は何事にもビビらない。



「ちなみにここで出産もできますよ?」

「「「は?」」」

「あれは感動的だったなぁ・・・里香ちゃんの時も是非、立ち合わせてね?」

俺たちは声を失った。



「・・・あの、心配しなくても、祥吾はここには住まないので」

「どうして?」

「まだ高2だし。狂嵐のこともあるから」

「でもどうせ彼も実家暮らしじゃないんでしょう?」

「狂嵐を引退して大学に入るまでは別々に暮らそうって、彼がそう決めたんです。ケジメだからって・・・私もそう思いますし」

「へぇ、祥吾くん、オトコらしいなぁ」

「ホント、里香ちゃんのこと大切にしてるのねぇ。で、里香ちゃんはこれからどうするの?もう、外に出られるじゃない?」


「バイトします」

「あてはあるの?」

「これからですけど」

「じゃ、いいところがあるんだけど、やってみない?」

コンちゃんは俺にウィンクした。



翌日からさっそく、里香さんはナオさんのカフェ「fusion」で働き始めた。

「前から、誰かいいコがいないかしらって言ってたのよね」

初日だし、様子を見に行くという名目で4人でやってきたけど、里香さんは前にも飲食店で働いていたことがあるみたいで、手慣れたもんだった。

ナオさんともうまくいってるみたいだ。


「いいコ紹介してくれて、ホントありがとうね」

ナオさんが俺たちのテーブルにやってきた。


「あ、あなたもしかして美和さん?」

「はい?」

「うわぁ、こんなに可愛い人なんだぁ。ナオです。孝太郎がお世話になってます!」

「なんでアンタがそんなこと言うのよ?保護者みたいに」

「どうせいろいろ迷惑掛けてるんでしょ?畑はどうなの?ちゃんと作物は収穫出来てるの?」

「うるさいわね!ちゃんとトマトを収穫したわよ!」


この2人のセットもすごく面白い・・・。

ふと、哲ちゃんの方を見たら、哲ちゃんも俺の方を見てた。

きっと、マンガのネタにするんだろうな。


その証拠に、

哲ちゃんは家に帰り着くなり自分の部屋に掛け込んでいったし。



「みんな幸せそうでいいね~」

美和が縁側でレモン水を飲みながら言った。

「美和は?幸せ?」

俺も紫のストローに口を付けた。


「そうだなぁ・・・幸せだけど、10点中7点くらいかな。杏は?」

「俺は満点・・・もしかしたらそれ以上」

「そうなんだ」

「俺、いますげぇ幸せ」

「そっかぁ・・・よかった」

美和は嬉しそうに俺の髪をくしゃくしゃにした。



「俺が今幸せなのは、美和のお蔭だよ」

「ふふっ。ありがと。嬉しいな」


「な、美和」

「ん?」


「満点じゃないのは・・・俺が頼りないから?」

「え?」


「俺じゃ美和のお父さんとお母さんの代わりになれないのもわかってる。1人で「麻生家」やこの家の秘密を抱えることがどれだけ大変なことなのか、俺にはまだちゃんとわかってないのかもしれない。だけどさ」

「ん」

「俺、いつもどんな時でも、美和の傍にいるから。んで、美和が安心してなんでも頼れるような大人になるべく早くなるから。そのために勉強もトレーニングも仕事も頑張るから、だからさ・・・」


俺がそう言うと、美和は真剣な表情でこう言った。

「ごめんね、杏・・・」

「え?」

「私・・・杏に甘え過ぎたかもしれない。勝手に、ヘンなことに巻き込んじゃったのかもしれない」



「杏・・・お願いだから、早く大人になろうとしないで?杏のペースで大きくなって?」



「トレーニングも仕事も、止めたくなったらいつでも言って?そして・・・」



「ここを出て行きたくなった時には、遠慮しなくていいよ。その時までには私も・・・大人になるから。ちゃんと笑って・・・杏を見送れるように」


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