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第80章:「因果応報」
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美和・・・さんは、俺と話して少し落ち着いたのか、
すくっとベンチから立ち上がった。
「病棟に戻るの?」
「ううん。今日は帰った方がいいって言われたから・・・久しぶりにゆっくりしようかな。杏・・・くん、話聞いてくれてありがとう。また、ね」
そう言って、なぜだか彼女は逃げるようにそこを離れようとした。
だから。
俺は無意識に彼女の腕を掴んでしまった。
掴んだ俺の手の強さに、彼女は驚いて振り返り、俺を見つめた。
「・・・どうしたの?」
「今日は俺も帰るからさ、ウチでカレー食べようよ」
========
なぜ、杏は私を引き留めたのだろう?
同情したから?
そこに私への拒否権はなかった。
あまりにも、杏の眼差しが真剣で。
杏に掴まれた左腕がまだ熱い。
もう、彼の手はそこにはないのに。
2人で巡回バスに乗り込み、パルドゥルース大学まで戻る。
そこから歩いた方が、杏とスティーブが住むアパートメントに近いから。
左側に座る杏。
彼のジャケットに触れるか触れないかの微妙な距離感が・・・痛い。
胸が締め付けられて―――泣きそう・・・
「ねぇ」
その時、杏が右肘で私の脇を突いた。
「・・・なに?」
「さっき・・・スマホで誰かと連絡してたよね」
「え?」
「美和さんて・・・彼氏、とかいるの?」
え?
その思いもよらない、想像もしなかった質問に、
時が・・・・止まってしまった。
そして。
次の瞬間には。
涙が溢れて・・・
止まらなくなってしまった。
そんなことを、
こんなふうに聞いてくるってことは・・・
杏は・・・
本当に私のことを覚えてないんだ。
そう、真実を―――突きつけられて。
―――自分がしたことの、結果なのに。
「え、えぇ?! いや、ごめんっ!そんな泣かせるつもりじゃなくってっ!ドライバー!俺たちここで降ります!」
杏は私を無理やりバスから引きずり下ろし、その近くのベンチに静かに私を座らせた。
涙が止められない、私を。
嗚咽の止まらない、私を。
杏と離れてから、あれだけ泣きはらし、
眠れない夜を過ごし、
ようやく覚悟を決めて、このパルドゥルースに来て、
杏がここにいると知っても、それでも前に進むと、決意したのに。
こんな杏の一言で、簡単に崩れてしまう自分がここにいる。
私には傷つく権利などない。
充分すぎる程わかっている。
こうやって、杏の無事な姿を近くで見られるだけで贅沢な事なのだとわかっている。
でも明らかに、頭と心がバラバラで。
ごめんね、杏。
杏のこと、こんなに好きになってしまって―――ごめんなさい。
こんなに弱い私で、ごめんなさい。
そんな、泣きじゃくる私の目の前で杏はひざまずき、
黙って寄り添ってくれていた。
でも、しばらくして。
杏は・・・
私の両手を優しく包んだ。
「本当にごめん。こんなことになるなんて思わなくて・・・俺、無神経に変なこと聞いちゃったんだよね」
私は静かに首を横に振った。
「違うの・・・杏・・・くんは何も悪いことしてないよ」
「じゃあ・・・なんでそんなに泣いてるの?」
「・・・」
「スティーブにも誰にも言わないって誓うからさ、話してよ?」
=======
はぁ。
彼女は、それに対して何も答えない。
黙ったまま、そして、涙を止められない。
彼女が泣いてる理由・・・
いくつか思うところはあるけど、
確信めいたものは何一つない。
とにかく。
「・・・悪かったよ。もうそのことには二度と触れないから・・・頼むから泣かないで」
すると、
美和・・・さんは言った。
「さっきは・・・誰にも連絡してなかったよ」
「え?」
「写真をたくさん見てただけ・・・昔の、大切な想い出なの」
「・・・そっか」
「うん」
それを聞いて、とりあえずホッとしてる自分がいる。
それが具体的に何の写真なのかは聞けなかったけれど、
とにかく。
俺が想像してたこととは違った。
目の前にいる美和・・・さんは、なんとか泣き止んでくれたけど、
頬もまつ毛も、涙でまだ濡れていて、
目は真っ赤で。
だから俺は彼女の隣に座りなおして、
俺のジャケットの袖でむりやり彼女の顔を拭いた。
トレーナー生地だから、擦れたりしないだろうって思って。
「キョ・・・杏くんっ。よ、汚れちゃうよ!」
「いいよ、別に。他に拭くもの持ってないし。ほら、ちゃんと拭いて」
くく。
こんなに泣かせておいて申し訳ないけど、
なんか、すげぇ楽しいし、嬉しい。
―――こうして、彼女の近くにいることが。
ずっと、ずっと、こうしていたい。
このまま抱きしめて、全部食べてしまいたい。
くく。
俺、なに考えてんだよ。
「なんで笑ってるの?!そんなにひどい顔?!」
「ん、ちょっと・・・かなりヒドイかも」
「もー、誰のせいだと思ってるの?!」
「俺のせい。くく」
それに。
俺がからかうと、彼女のいつもの冷静さが崩れ、
結構素直な反応を俺にぶつけてきて、表情が変わる。
たとえそれが、怒ってる表情だったとしても、
それでも、俺は嬉しい。
これが・・・
前にスティーブが言ってたような、気持ちなのかな。
結局俺はそのまま―――
美和・・・さんをアパートメントに連れてきた。
汚れたジャケットで、彼女の腕を強く掴んだまま。
彼女が、俺から逃げられないように。
そんな俺たちを見て、スティーブは驚いた表情をした。
「ミワ・・・その顔どうしたんだ?」
「俺が泣かせた。くく」
「はぁ?」
「お詫びにカレー作るからさ。カレンさんも呼んでよ?」
すくっとベンチから立ち上がった。
「病棟に戻るの?」
「ううん。今日は帰った方がいいって言われたから・・・久しぶりにゆっくりしようかな。杏・・・くん、話聞いてくれてありがとう。また、ね」
そう言って、なぜだか彼女は逃げるようにそこを離れようとした。
だから。
俺は無意識に彼女の腕を掴んでしまった。
掴んだ俺の手の強さに、彼女は驚いて振り返り、俺を見つめた。
「・・・どうしたの?」
「今日は俺も帰るからさ、ウチでカレー食べようよ」
========
なぜ、杏は私を引き留めたのだろう?
同情したから?
そこに私への拒否権はなかった。
あまりにも、杏の眼差しが真剣で。
杏に掴まれた左腕がまだ熱い。
もう、彼の手はそこにはないのに。
2人で巡回バスに乗り込み、パルドゥルース大学まで戻る。
そこから歩いた方が、杏とスティーブが住むアパートメントに近いから。
左側に座る杏。
彼のジャケットに触れるか触れないかの微妙な距離感が・・・痛い。
胸が締め付けられて―――泣きそう・・・
「ねぇ」
その時、杏が右肘で私の脇を突いた。
「・・・なに?」
「さっき・・・スマホで誰かと連絡してたよね」
「え?」
「美和さんて・・・彼氏、とかいるの?」
え?
その思いもよらない、想像もしなかった質問に、
時が・・・・止まってしまった。
そして。
次の瞬間には。
涙が溢れて・・・
止まらなくなってしまった。
そんなことを、
こんなふうに聞いてくるってことは・・・
杏は・・・
本当に私のことを覚えてないんだ。
そう、真実を―――突きつけられて。
―――自分がしたことの、結果なのに。
「え、えぇ?! いや、ごめんっ!そんな泣かせるつもりじゃなくってっ!ドライバー!俺たちここで降ります!」
杏は私を無理やりバスから引きずり下ろし、その近くのベンチに静かに私を座らせた。
涙が止められない、私を。
嗚咽の止まらない、私を。
杏と離れてから、あれだけ泣きはらし、
眠れない夜を過ごし、
ようやく覚悟を決めて、このパルドゥルースに来て、
杏がここにいると知っても、それでも前に進むと、決意したのに。
こんな杏の一言で、簡単に崩れてしまう自分がここにいる。
私には傷つく権利などない。
充分すぎる程わかっている。
こうやって、杏の無事な姿を近くで見られるだけで贅沢な事なのだとわかっている。
でも明らかに、頭と心がバラバラで。
ごめんね、杏。
杏のこと、こんなに好きになってしまって―――ごめんなさい。
こんなに弱い私で、ごめんなさい。
そんな、泣きじゃくる私の目の前で杏はひざまずき、
黙って寄り添ってくれていた。
でも、しばらくして。
杏は・・・
私の両手を優しく包んだ。
「本当にごめん。こんなことになるなんて思わなくて・・・俺、無神経に変なこと聞いちゃったんだよね」
私は静かに首を横に振った。
「違うの・・・杏・・・くんは何も悪いことしてないよ」
「じゃあ・・・なんでそんなに泣いてるの?」
「・・・」
「スティーブにも誰にも言わないって誓うからさ、話してよ?」
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はぁ。
彼女は、それに対して何も答えない。
黙ったまま、そして、涙を止められない。
彼女が泣いてる理由・・・
いくつか思うところはあるけど、
確信めいたものは何一つない。
とにかく。
「・・・悪かったよ。もうそのことには二度と触れないから・・・頼むから泣かないで」
すると、
美和・・・さんは言った。
「さっきは・・・誰にも連絡してなかったよ」
「え?」
「写真をたくさん見てただけ・・・昔の、大切な想い出なの」
「・・・そっか」
「うん」
それを聞いて、とりあえずホッとしてる自分がいる。
それが具体的に何の写真なのかは聞けなかったけれど、
とにかく。
俺が想像してたこととは違った。
目の前にいる美和・・・さんは、なんとか泣き止んでくれたけど、
頬もまつ毛も、涙でまだ濡れていて、
目は真っ赤で。
だから俺は彼女の隣に座りなおして、
俺のジャケットの袖でむりやり彼女の顔を拭いた。
トレーナー生地だから、擦れたりしないだろうって思って。
「キョ・・・杏くんっ。よ、汚れちゃうよ!」
「いいよ、別に。他に拭くもの持ってないし。ほら、ちゃんと拭いて」
くく。
こんなに泣かせておいて申し訳ないけど、
なんか、すげぇ楽しいし、嬉しい。
―――こうして、彼女の近くにいることが。
ずっと、ずっと、こうしていたい。
このまま抱きしめて、全部食べてしまいたい。
くく。
俺、なに考えてんだよ。
「なんで笑ってるの?!そんなにひどい顔?!」
「ん、ちょっと・・・かなりヒドイかも」
「もー、誰のせいだと思ってるの?!」
「俺のせい。くく」
それに。
俺がからかうと、彼女のいつもの冷静さが崩れ、
結構素直な反応を俺にぶつけてきて、表情が変わる。
たとえそれが、怒ってる表情だったとしても、
それでも、俺は嬉しい。
これが・・・
前にスティーブが言ってたような、気持ちなのかな。
結局俺はそのまま―――
美和・・・さんをアパートメントに連れてきた。
汚れたジャケットで、彼女の腕を強く掴んだまま。
彼女が、俺から逃げられないように。
そんな俺たちを見て、スティーブは驚いた表情をした。
「ミワ・・・その顔どうしたんだ?」
「俺が泣かせた。くく」
「はぁ?」
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