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亨珈

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Fifth Contact 笑顔の行方

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 そして翌日。第四土曜日で大抵の学校は休日ということもあって、星野原学園は私服姿の学生や父兄らで賑わっていた。その中で規定服を着ているのは、当日舞台や出店などの役割のない生徒か、執行部や放送部など忙しくても着替える必要のない役割の生徒かどちらかだ。

 そして、正門付近でチラチラ腕時計を見ながら人待ちをしているのは、ブレザー姿の浩司だった。

 学園祭は大きく分けると、体育祭と文化祭に大別され、その内ステージ、仮装行列、応援のいずれかに全生徒が参加しなければならない。その他に、競技に出たり、部活関係の出し物に出たりするのだ。つまり、忙しい人はとことん忙しいが、浩司やウォルターのように帰宅部の者は、自分の出番以外の時間は、はっきり言ってただの暇人である。
 ウォルターは前期で体育祭の競技に出ただけで、後は二日目にシェフをしていたが、後期はずっとレストランの方に係りきりになってしまうので、必然的に後期では何もする事がない浩司が、女子の案内役として駆り出されたのだ。
 満は舞台と応援と両方に参加しているが、基本的にはどれか一つで良いので、浩司は応援にしか登録していないのである。

 十時に来ると聞いているのだが、もうすぐ二十分が来ようかというのに、三人は現れない。渋面を作っている浩司の前に人込みの中から女子たちがやって来たときには、二十五分を過ぎていた。

「浩司くぅーん!! お待たせぇっ」

 キュロットの上にフリルの付いたシャツと丈の短いジーンズのジャンパーを着た翔子が、転がるようにやって来た。

「おせぇ!!」

 抱きつこうとするのを回避して、浩司が開口一番に怒鳴る。

「ゴメンねぇ~っ。怒んないで、ね? お昼おごるからっ」

 ブレザーの裾を掴んで、翔子はうるうると見上げた。

「そぉそ、悪ぃのは翔子だかんな。着てく服くらい前の日に揃えとけよ」

 その後ろで呆れたように円華が言い、新菜は「悪ぃね」と片手で手刀を切るようにして謝った。
 円華は黒いタイトなワンピースの上に白いボレロ。新菜はベージュのロングスカートの上にショート丈のジャケットを羽織っている。三人とも、メイクもかなり気合が入っているようだ。

 正直時間にルーズなのは大嫌いな浩司である。これが一対一の約束ならば、とっくに放って校舎に入ってしまっているところだが、他二人の名代でもあるので「しょうがねぇなぁ」と怒りを収めた。

「じゃあ、今度ランチ奢って貰おうかねぇ」

 にやりと笑うと翔子を見た。今日のランチはウォルターの奢りになっている。

「何でも言ってっ」

 ぱあっと顔を輝かせて翔子が返答し、浩司はまた腕時計を見て確認すると、

「おっと、そろそろ体育館入らんと榎本の勇姿が見れねぇぞ」

 とさっさと歩き出してしまった。

「あん、待ってよぉ~」と翔子が慌てて続き、その後ろを円華と新菜が肩を並べて付いて行った。
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