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Fifth Contact 笑顔の行方
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体育館に入ると、観覧席は三分の二ほどしか埋まっていなかった。どうやら、前のプログラムがブラスバンドだったらしく、一般の生徒があまり入っていないのだ。
丁度幕間の緞帳が下りたところで、照明が元の明るさに戻っている。浩司は真ん中くらいに空席を発見すると、三人と一緒に席に着いた。
「次は、プログラム六番Cブロック。『鏡の向こうのファンタジー~アリスの大冒険』です。
『僕たちは、今日この日の為に来る日も来る日もダンスの練習に励んで来ました。一年から三年まで力を合わせて頑張りますので、原作とは掛け離れていますが、応援よろしくお願いします』」
ビーッというブザーの後、アナウンスが入る。
「で、満くんは、何の役やんの?」
翔子越しに新菜が尋ねた。
「さぁ。ただ観に来りゃあ判るって」
浩司もウォルター同様聞いていないらしく、肩を竦めて腕を組んだ。
照明が落ち、緞帳がゆっくりと上がって行く。
浩司の左隣の席に誰かが座った。少し息遣いが荒いところをみると、駆けて来たらしい。
「何とか間に合ったな」
との声に、浩司は左を向く。
ウォルターが、ふうーっと息をついて、コック帽を脱いだ。
「ちょっとだけ抜けて来た」
と右目でウインクし、気付いた円華が小さく手を振った。
舞台がパッと明るくなり、ドレッサーに向かう豊かな金髪の女の子が現れた。こちらに背を向けていて、大きなブラシを長い髪にあてている。その向こうに白い大きな布が張られていて、室内のセットの変わりに映像が投影されている。
「あーあ。毎日変わり映えしなくてつまんない。何か面白い事ないかしら」
ポイッとブラシを放り投げ、緩くウェーブのかかったロングヘアにヘアバンドのように赤いリボンを結んでいる。ブルーのドレスの上に真っ白なフリルのエプロン。まさしくアリスの出で立ち。
「それにしても鏡って不思議よね~。表面に映っているだけって知っていても、向こう側にもう一つの世界があるみたい」
スッと手を伸ばした時、パーッと光が向こう側から照らされ、白い幕に映る映像が森の中に変わる。ミュージカル調のアップテンポな曲が流れ始め、舞台袖から長いうさ耳を付けたタキシード姿の男子が現れた。
「あら!! あなたは三月うさぎさんねっ!!」
アリスが大仰に驚き、うさぎは丁寧にお辞儀する。
「さようさよう、三時のお茶会にようこそ、レディー。今日はマフィンとアップルティーですよ」
そして既にセットされていたテーブルに着いていたハンプティダンプティとチェシャ猫が立ち上がり、曲に合わせて踊りだした。やがて歌が始まると、客席の最前列から紙テープが飛び、「満―っ!! 頑張ってーっ」とコールが飛び交い始める。
「はん?」と新菜が眉を寄せた。
(もう満くん出てるんだ。ちょっと距離があって見えないや……。
って、それよかコール入るって事は、満くんって結構人気者なんだ?)
その左の方では、浩司とウォルターが口元を押さえ前屈みになって笑いを堪えている。
(ま、まさかと思ってたけど、やっぱりかっ……!!)
(やっぱ満といえばこれだよなっ。久々に見たけどっ)
小声で指摘して、必死に吹き出すのを堪えている様子だ。
「どったの? 浩司くん」
不思議そうに翔子も屈んで顔を覗き込む。
「何でもねーよ」
「気にしないで」
浩司は頬を引き攣らせながら答え、翔子には舞台を観るように促して、ウォルターと二人でしょっちゅう顔を逸らせてはこっそり笑い合っている。そのうちにどんどんストーリーは進み、ラスト登場人物全員でダンスを始める頃に、そっとウォルターが席を立った。
「んじゃ、後で食いに来てな」
と、こっそり浩司に耳打ちしてから、屈んで姿勢を低くしてすうっと出て行った。
丁度幕間の緞帳が下りたところで、照明が元の明るさに戻っている。浩司は真ん中くらいに空席を発見すると、三人と一緒に席に着いた。
「次は、プログラム六番Cブロック。『鏡の向こうのファンタジー~アリスの大冒険』です。
『僕たちは、今日この日の為に来る日も来る日もダンスの練習に励んで来ました。一年から三年まで力を合わせて頑張りますので、原作とは掛け離れていますが、応援よろしくお願いします』」
ビーッというブザーの後、アナウンスが入る。
「で、満くんは、何の役やんの?」
翔子越しに新菜が尋ねた。
「さぁ。ただ観に来りゃあ判るって」
浩司もウォルター同様聞いていないらしく、肩を竦めて腕を組んだ。
照明が落ち、緞帳がゆっくりと上がって行く。
浩司の左隣の席に誰かが座った。少し息遣いが荒いところをみると、駆けて来たらしい。
「何とか間に合ったな」
との声に、浩司は左を向く。
ウォルターが、ふうーっと息をついて、コック帽を脱いだ。
「ちょっとだけ抜けて来た」
と右目でウインクし、気付いた円華が小さく手を振った。
舞台がパッと明るくなり、ドレッサーに向かう豊かな金髪の女の子が現れた。こちらに背を向けていて、大きなブラシを長い髪にあてている。その向こうに白い大きな布が張られていて、室内のセットの変わりに映像が投影されている。
「あーあ。毎日変わり映えしなくてつまんない。何か面白い事ないかしら」
ポイッとブラシを放り投げ、緩くウェーブのかかったロングヘアにヘアバンドのように赤いリボンを結んでいる。ブルーのドレスの上に真っ白なフリルのエプロン。まさしくアリスの出で立ち。
「それにしても鏡って不思議よね~。表面に映っているだけって知っていても、向こう側にもう一つの世界があるみたい」
スッと手を伸ばした時、パーッと光が向こう側から照らされ、白い幕に映る映像が森の中に変わる。ミュージカル調のアップテンポな曲が流れ始め、舞台袖から長いうさ耳を付けたタキシード姿の男子が現れた。
「あら!! あなたは三月うさぎさんねっ!!」
アリスが大仰に驚き、うさぎは丁寧にお辞儀する。
「さようさよう、三時のお茶会にようこそ、レディー。今日はマフィンとアップルティーですよ」
そして既にセットされていたテーブルに着いていたハンプティダンプティとチェシャ猫が立ち上がり、曲に合わせて踊りだした。やがて歌が始まると、客席の最前列から紙テープが飛び、「満―っ!! 頑張ってーっ」とコールが飛び交い始める。
「はん?」と新菜が眉を寄せた。
(もう満くん出てるんだ。ちょっと距離があって見えないや……。
って、それよかコール入るって事は、満くんって結構人気者なんだ?)
その左の方では、浩司とウォルターが口元を押さえ前屈みになって笑いを堪えている。
(ま、まさかと思ってたけど、やっぱりかっ……!!)
(やっぱ満といえばこれだよなっ。久々に見たけどっ)
小声で指摘して、必死に吹き出すのを堪えている様子だ。
「どったの? 浩司くん」
不思議そうに翔子も屈んで顔を覗き込む。
「何でもねーよ」
「気にしないで」
浩司は頬を引き攣らせながら答え、翔子には舞台を観るように促して、ウォルターと二人でしょっちゅう顔を逸らせてはこっそり笑い合っている。そのうちにどんどんストーリーは進み、ラスト登場人物全員でダンスを始める頃に、そっとウォルターが席を立った。
「んじゃ、後で食いに来てな」
と、こっそり浩司に耳打ちしてから、屈んで姿勢を低くしてすうっと出て行った。
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