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Fifth Contact 笑顔の行方
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しおりを挟む「軸谷くんは……だからね、男子の中では一番の友達っていうか」
(本城くん? そーいやぁあん時にも耳にしたっけ。そいつのプレゼント買うって口実で浩司くんに会った……ってゆーんじゃなさそう?
浩司くんは一番の男友達?)
翔子の頭の中もまだ整理が出来ていない。
「ということはぁー、つまり、浩司くんには恋愛感情は全くない、つー事?」
少し不安そうに訊くと、唯乃は両手をブンブンと顔の前で振った。書類とペンケースがあるので、本当に風を切る音がする。
「え!? そんなっ、とんでもないっ!! 私には本城くんがいるしっ!!」
(本城くんがいるし、って事はぁ、つまり)
「その本城って人と、付き合ってんの?」
静かに念を押すと、唯乃は手を振るのを止めて大きく何度も頷いた。
「はは……」
乾いた笑いを漏らしながら、翔子は前髪を掻き上げる。
(なんだ……。私ってば一人で勝手にライバル心燃やしちゃって、意識しまくって。
けど、浩司くんはこの人に男居るって知ってんのかな? この人の言ってる通りなら、浩司くんはその人の一番のツレでぇ……。だったら知ってっか。浩司くんの横恋慕ってやつぅ?)
浩司が唯乃に特別な思いを抱いている事は、翔子は確信している。あれこれ考えていると、ふと唯乃が腕時計に目を落として顔色を変えた。
「ご、ごめんねっ。採点表持って行かなくちゃいけないから」
軽く頭を下げると、早足で階段を下りて行ってしまった。
(そっか……浩司くんのタイプって、あーゆー子なんだ。そーいや、あの暴露大会で〈好きなタイプの異性〉で浩司くん『普段は大人しめの優しい子で芯はしっかりしている』って言ってたっけ。あの人の事か……)
唯乃が見えなくなっても、まだその場所を見つめていた。納得してくすっと笑ってしまう。
(けどそれって〈好きなタイプ〉じゃなくて〈好きな子の性格〉だよ……。
私とは正反対の性格が好きなら、私の事なんか好きになっちゃくんないかな……。うーん……けど、んなんで諦めるなんて出来ねーしっ。浩司くんの好きなんが、あーゆータイプなら、それを変えさせるっきゃないじゃん!!
あーゆーなんにゃなれねぇし、これが、この性格が私なんだもんっ)
改めて気合を入れ直して拳を作った時、頭にポンッと大きな手が置かれ、振り向いて顔を上げる。
「何やってんだよ、んなトコで……」
浩司が溜め息混じりに言った。
「え? あ、あのぉ……いやぁ……」
(まさか美川さんって人に浩司くんとの関係訊いてた、なんて言えっこねぇし)
「いっ、いやぁー、ま、迷子になっちゃってぇー」
どもりながら苦心の言い訳をしたが、
「お前はこんな直線の廊下で迷子になんのか?」
と思い切り疑いの眼差しを向けられてしまう。
ははは、と誤魔化し笑いをしながら、その後ろに立っている四人の方へと逃げる翔子。
「で、次は何処に行くんですかぁ?」
にぱーっと笑顔を浮かべると、
「ん。ビリヤードでも行くかって」
と円華が答え、続けて満が付け足す。
「オレらの行き付け、この近くにあっから」
「あっ、じゃ、早く行きましょおっ」
翔子は、新菜と満の腕を引っ張って急かした。
そんないつもと違う翔子を眺めながら、浩司は後ろで首を捻っていた。
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