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ひなの目
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【ひなまつりの晩、絶対に人形と目を合わせてはいけない】
「どうぞどうぞ、持っていってくれ」
父が夫に勧めた。実家の納戸に眠るひな人形一式のことである。私が子供のころに飾られていたものだ。
「いいって、自分たちで買うから。それにこんなに大きいひな壇、ウチのマンションに飾れないよ」
私は即座に反対した。去年生まれたばかりの娘のために、ひな人形を買うべきか、夫と相談しているところだった。たまたま実家に寄った時、夫から聞かされた父が提案したのだった。結局、父と夫で盛り上がり、一式を送ってもらうことに決まってしまった。せいぜい、お内裏さまとおひなさましか飾れないけれど。
「あなた、ひとつ約束して」
帰宅するなり、私は夫に告げた。
「ひなまつりの夜、決して人形の目を見ないでね」
「え?」
生前の母から聞かされた言葉。代々、我が家に伝わるひな人形には、ある言い伝えがあった。
ひなまつりの晩、絶対に人形と目を合わせてはいけない。
幼少の私はその言葉におびえ、当日の夜が来ると、早々に布団の中に潜り込んでしまうのだった。
「そんなの迷信だろ?」
夫はまともに取り合わなかった。
「いいから、約束して」
娘にも見せないよう、私はきつく言い渡した。
なのに、夫は見てしまった。娘と一緒に。
その晩、ダイニングに飾られているひな壇には布をかけて隠しておいた。しかし、晩ごはんを作っている最中に振り返ると、夫が娘をあやしながらお内裏さまとおひなさまとままごとをしていた。
「何してるの!」
私は猛烈な勢いで娘を奪った。ギャン泣きするのも構わず、寝室で強制的に寝かせた。夫はふてくされ、ひとりでちらしずしを食べていた。
就寝する際も、お互い口を利かずにベッドに入った。
ふと、何かがうごめく音がして目を覚ました。闇の中に何かが立っている。私はスタンドのライトをつけた。何もいない。娘も今ではすやすやと眠りについている。
しかし、戸が開いている。
「あなた」
隣で背を向けて寝ている夫に、声をかけて揺すった。起きない。私は肩を強く引っ張った。寝返りを打った夫は、目と口を大きく開いたまま硬直していた。冷たい。
「あなた!」
室内で物音がした。壁際の暗がりに何かいる。目を凝らすと、人間大の着物を着たものが、ゆっくりと近づいてきた。お内裏様だった。
私は悲鳴を上げながら娘を抱きかかえ、寝室を飛び出した。
「……!」
ダイニングの闇に、別の何かが立ちふさがっていた。目が合う。等身大のおひなさまの瞳が光った。
連絡の取れない父が娘たちのマンションを訪れた。やはり誰もいない。警察に連絡すべきか。
ちらりと目をやると、対のひな人形があった。夫婦びな。おひなさまはなぜか、赤ん坊を抱きかかえていた。
(了)
「どうぞどうぞ、持っていってくれ」
父が夫に勧めた。実家の納戸に眠るひな人形一式のことである。私が子供のころに飾られていたものだ。
「いいって、自分たちで買うから。それにこんなに大きいひな壇、ウチのマンションに飾れないよ」
私は即座に反対した。去年生まれたばかりの娘のために、ひな人形を買うべきか、夫と相談しているところだった。たまたま実家に寄った時、夫から聞かされた父が提案したのだった。結局、父と夫で盛り上がり、一式を送ってもらうことに決まってしまった。せいぜい、お内裏さまとおひなさましか飾れないけれど。
「あなた、ひとつ約束して」
帰宅するなり、私は夫に告げた。
「ひなまつりの夜、決して人形の目を見ないでね」
「え?」
生前の母から聞かされた言葉。代々、我が家に伝わるひな人形には、ある言い伝えがあった。
ひなまつりの晩、絶対に人形と目を合わせてはいけない。
幼少の私はその言葉におびえ、当日の夜が来ると、早々に布団の中に潜り込んでしまうのだった。
「そんなの迷信だろ?」
夫はまともに取り合わなかった。
「いいから、約束して」
娘にも見せないよう、私はきつく言い渡した。
なのに、夫は見てしまった。娘と一緒に。
その晩、ダイニングに飾られているひな壇には布をかけて隠しておいた。しかし、晩ごはんを作っている最中に振り返ると、夫が娘をあやしながらお内裏さまとおひなさまとままごとをしていた。
「何してるの!」
私は猛烈な勢いで娘を奪った。ギャン泣きするのも構わず、寝室で強制的に寝かせた。夫はふてくされ、ひとりでちらしずしを食べていた。
就寝する際も、お互い口を利かずにベッドに入った。
ふと、何かがうごめく音がして目を覚ました。闇の中に何かが立っている。私はスタンドのライトをつけた。何もいない。娘も今ではすやすやと眠りについている。
しかし、戸が開いている。
「あなた」
隣で背を向けて寝ている夫に、声をかけて揺すった。起きない。私は肩を強く引っ張った。寝返りを打った夫は、目と口を大きく開いたまま硬直していた。冷たい。
「あなた!」
室内で物音がした。壁際の暗がりに何かいる。目を凝らすと、人間大の着物を着たものが、ゆっくりと近づいてきた。お内裏様だった。
私は悲鳴を上げながら娘を抱きかかえ、寝室を飛び出した。
「……!」
ダイニングの闇に、別の何かが立ちふさがっていた。目が合う。等身大のおひなさまの瞳が光った。
連絡の取れない父が娘たちのマンションを訪れた。やはり誰もいない。警察に連絡すべきか。
ちらりと目をやると、対のひな人形があった。夫婦びな。おひなさまはなぜか、赤ん坊を抱きかかえていた。
(了)
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