ちょいアブ噺

タカハシU太

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愚者の報酬

【聖夜、心はピュアなふたり】



 その日、街はクリスマス一色でした。早番を終え、介護事務所を出ると、よし子はアプリでスキマバイトを探しました。今日なら飲食店が人手不足だろうと思ったのです。
 ところが、路上を歩いていたら、背後から追い抜いていったバイクに、ショルダーバッグを奪われてしまいました。財布とスマホと一緒に。交番に届け出ましたが、戻ってくる望みは薄そうです。スマホもないので、スキマバイトもできません。
 よし子は柄の悪い繁華街を歩き、路地に足を踏み入れました。そこはピンク色のきらびやかなお店がいろいろと並び、その先にはホテル街がありました。
 生活のために、よし子は一線を越えようと、これまでに何度も頭をよぎったことがありました。でも、夫のために踏みとどまりました。しかし、今日は違います。もはや売るものといえば、自分自身しかありません。夫を愛するために、よし子は行動に出ました。
 『人妻』のプレートを掲げている店に入ると、男性従業員に声をかけました。
「ここで働かせていただけますか? どうしても今日中にお金が必要なんです」
 体入扱いのよし子は運よく中年男性のお客に指名され、ホテルへ向かいました。そして、数時間も経たないうちに臨時収入を得ることができました。
 帰宅途中に町のケーキ屋さんで半額となった見切り品を買って、自宅のアパートに着きました。夫の和男はよし子と連絡が取れないため、心配して待っていました。
 よし子はひったくりに遭ったことを説明し、でもスキマバイトをしたと偽って、特大のデコレーションケーキを差し出しました。
 テーブルの上には、まったく同じ特大デコレーションケーキがありました。和男も同じ店で買い、その時は三割引きだったそうです。
 お互い、同じ気持ちだったことを知り、よし子は嬉しくて泣き出してしまいました。そんな妻を和男は優しく抱きしめてきました。

 和男はその日、清掃の仕事を終えたものの、手持ちはやはりわずかしかありませんでした。ケーキさえ買えない自分が情けなくなり、日の落ちた公園のベンチに座ったまま途方に暮れていました。
 すると、隣にスーツ姿の男性が腰かけてきました。会社勤めでしょうか。高齢で肥えた体に薄すぎる頭髪。この寒いのに、顔の表面は脂ぎっていました。そして、金額を提示され、ホテルへと同行しました。四つん這いになって、後ろから極太の注射を打たれるだけ。医療行為だと思えば、我慢できました。
 こうして臨時収入を得て、ケーキを買うことができたのです。よし子も同じものを買ってきて泣き出してしまいましたが、和男はその気持ちだけで十分に愛が伝わり、妻を抱きしめました。
 このあと滅茶苦茶……。

 一年後のクリスマス。今年も夫婦の生活は苦しいままでしたが、ふた月前に赤ん坊に恵まれ、家族三人でケーキを囲む幸せな光景が見られました。
 今年も特大のデコレーションケーキが二つ並んでいます。二人とも、また臨時収入を得て、それぞれ買ってきたのでした。
「メリークリスマス!」

                 (了)
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