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【25】★3
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真っ暗闇のダンジョン。肉眼では先が見えず、濁った魔素と湿った空気が肌にまとわりつき、遠くから水滴が落ちる音が微かに響いていた。
スハァルが唱えた光明の魔法が淡い光球となり、暗黒を押し退けるように空中に浮かび上がる。
その光景に、
――先のゴブリン襲来の時、これがあればどれほど楽だっただろう
とトーマは胸の内でそう呟く。
ダンジョンを探索中に、当然のようにトーマたちは様々な魔獣と遭遇した。
群れ飛ぶ血吸いコウモリが襲いかかってきたが、マウスはすでに気配を察していた。弓弦が鳴るたび、矢がコウモリの急所を正確に貫き、墜落する。飛び損ねた個体をロウランが双剣で一閃、セリヤが横合いから切り伏せる。
地に落ちてもなお蠢くものは、トーマが足で踏み砕き、骨が砕けるような感触とともに沈黙させた。
岩陰からは洞窟グモが姿を現し、粘つく糸を吐きつける。セリヤが反射的に剣を掲げ、糸を絡め取る。
その間にスハァルが冷静に詠唱を終え、火球を放った。火球が弾け飛んだ。熱風と共に糸は燃え上がり、炎に包まれたクモは壁に叩きつけられ、断末魔を上げて炭と化す。
次いで、地を這う巨大なサソリが鋭い毒針を突き出してくる。ガイが前へ飛び出し、重厚な盾でそれを受け止めた。金属と甲殻が軋む音が響く。
その背後からロウランが疾風のごとく駆け込み、双剣が閃いた。連撃は甲殻を次々と切り裂き、サソリの巨体が崩れ落ちる。
背後から忍び寄る気配――無音のスライム。沈黙の暗殺者とも呼ばれるスライムのとろりとした体がセリヤの背を覆おうとした瞬間、スハァルが即座に火球を放つ。燃え上がる液体の中に光る魔石(コア)。そこをロウランが的確に斬り裂き、スライムは力なく崩れ落ちた。
さらに、丸まり転がる巨体――大ダンゴ虫型の魔獣が突進してくる。
音に気付いたマウスが声をあげ、迫りくる一撃を、ガイが盾で正面から受け止めた。
衝撃に火花が散り、彼の腕が軋む。
そこへセリヤが横から斬撃を叩き込み、甲殻に亀裂を走らせた。続けざまに、ロウランの双剣が裂け目へと突き刺し、大ダンゴ虫は動かなくなった。
最後に、ぬめるカエル型の魔獣が側面から跳びかかる。
スハァルの反応が一瞬遅れ、体勢を崩す。だが、その背を庇うようにトーマが踏み込み、短剣を突き出した。刃は抵抗なく魔獣の喉を貫き、跳躍の勢いそのままに串刺しとなった魔獣が地に転がり、身体を痙攣してはやがて動かなくなった。
各々の荒い呼吸と共に訪れる静寂。
〈銀翼〉の面々はそれぞれが役割を果たし、見事な連携で次々と敵を排除していった。道は確かに切り拓かれている。
その光景に、トーマは胸の奥で感嘆を覚えずにはいられなかった。冒険者ギルドからダンジョン探索の任務を託されるだけの実力を備えている――そう実感させられるほどの戦いぶりだった。
だが同時に、ほんのわずかな活躍を見せる自分に対しても、銀翼の面々は意外な視線を送っていた。
特にロウラン。
彼の記憶にあるのは、大剣を振り回して隙だらけだったかつてのトーマの姿。だが今、短剣を手に戦う姿はセリヤから聞いていた話より想像より遥かに鋭く、研ぎ澄まされていた。
ロウランは思わず目を見張り、口元にかすかな笑みを刻んでいた。
***
魔獣を退けながら、〈銀翼〉の面々はダンジョン内部の調査を進めていた。
出現する魔獣の種類や頻度、採取できる鉱石や結晶、薬草の有無――その一つひとつを確認しながら慎重に進み、やがて一行は、比較的広く開けた空間にたどり着いた。
天井は高く、ぽつりぽつりと鉱石が赤や青の淡い光を放ち、幻想的な明かりが闇を照らしている。洞窟にしては珍しく空気が澄んでおり、ここなら休憩に適していた。
「……ふぅ。ここらで一息入れるか」
ロウランの号令に皆が頷き、それぞれ腰を下ろした。鎧の金属が石床に触れて小さな音を立て、張り詰めていた空気がようやく緩む。
マウスは背中の矢筒を点検しながら口笛を吹くように言った。
「しかし驚いたぜ。トーマ、あんた、片腕とは思えない動きだったな。あのカエルの魔獣をスハァルを庇いながら刺し抜いたのは見事だったぜ」
ロウランは水袋に口をしてから、ちらりとトーマを見ながら口を開く。
「俺の記憶にあるお前は、力任せに大剣を振り回す奴だったが、短剣と片腕という制約で、かえって無駄な動きが少なかったのかな。短剣捌きは……率直に言って、悪くない」
言葉こそ素っ気ないからこその素直な評価が滲んでいた。
「そうですよね。師匠、だから言ったじゃないですか!」
それにセリヤが乗っかってくる。
賛辞が飛び交う中、トーマは何も言えなかった。
――心臓が強く打っている。
昔のように大剣を振り回すことはもうできなくなったが、まだ――自分には戦える場所が残されているのかもしれない。
そう考えると、胸の奥で忘れかけていた熱が、微かに蘇ってくるのを感じた。
簡単な食事を取り一息をついた所で、ロウランは状況を整理し、静かに結論を口にした。
「……星三(★3)つ級、だな」
食事の美味しさではない。
この世界では、ダンジョンの危険度は星の数で示される。
★1なら鋼級冒険者が最低一人いれば攻略可能。★2は銅級、★3は銀級、★4ともなれば金級冒険者の力が必要とされる。
なお、最下層の鉄等級は、いくら数を集めても「屑扱い」。戦力として数えられることはない。
ちなみに同等級四~五人でようやく一つ上の等級一人分の戦力とされる。
つまり――鋼級四人は銅級一人、銅級四人は銀級一人に等しいという計算だ。
だからこそパーティの編成は極めて重要となる。
パーティー編成の基本は五人組。
前衛二人――攻撃を受け止める〈ディフェンダー〉と、敵を討ち伏せる〈アタッカー〉。
後衛二人――支援や遠距離攻撃を担う者。
補助一人――時に荷を担ぎ、時に戦列に加わる潤滑油。
いわゆる「王道」と呼ばれる布陣である。銀翼もこの布陣だ。
人数が多すぎれば取り分が減り、少なすぎれば生存率が下がる。だからこそ、〈銀翼〉のような中堅パーティは、最も効率とバランスが良い五人組なところが多い。
(ちなみに十人以上の大所帯は〈ファミリー〉や〈カンパニー〉と呼ばれ、また別種の組織形態とみなされる。)
さて、星三(★3)つ級ということは、今回のダンジョンは中級。
油断すれば容易く呑み込まれるが、経験ある者たちなら挑める、そんな絶妙な危険域に位置していた。
腕試しを望む冒険者や、実力を安定させた中堅パーティにとっては、まさにうってつけの舞台だろう。
「妥当だな。まあ、俺たちが調べた調査報告を元に、最終的な危険度はギルドが正式に決定するだろうけどな」
マウスが肩をすくめて言う。どうやら彼もロウランと同意見だった。
そんなやり取りを、トーマは新鮮な気持ちで眺めていた。
自分がかつて所属していた寄せ集めの一団では、こんなダンジョン調査をしたこともないは、建設的なやり取りも生まれなかった。
酒場での打ち合わせと称した口論、戦利品の分配での揉め事……思い出すだけで苦笑が浮かぶ。
それに比べ、〈銀翼〉の面々は違う。
互いの意見を素直に聞き、必要とあれば即座に判断を下す。その姿勢には、熟練者としての落ち着きと、仲間を信じる確信があった。
――これが、本物の冒険者パーティか。
胸の奥が熱を帯びる。片腕を失って以降、戦場から遠ざかっていた自分には縁遠い光景のはずだった。だが今、再びその輪の中に立っている。
その事実が、わずかな誇らしさと、抗いがたい憧憬を呼び覚ましていた。
スハァルが唱えた光明の魔法が淡い光球となり、暗黒を押し退けるように空中に浮かび上がる。
その光景に、
――先のゴブリン襲来の時、これがあればどれほど楽だっただろう
とトーマは胸の内でそう呟く。
ダンジョンを探索中に、当然のようにトーマたちは様々な魔獣と遭遇した。
群れ飛ぶ血吸いコウモリが襲いかかってきたが、マウスはすでに気配を察していた。弓弦が鳴るたび、矢がコウモリの急所を正確に貫き、墜落する。飛び損ねた個体をロウランが双剣で一閃、セリヤが横合いから切り伏せる。
地に落ちてもなお蠢くものは、トーマが足で踏み砕き、骨が砕けるような感触とともに沈黙させた。
岩陰からは洞窟グモが姿を現し、粘つく糸を吐きつける。セリヤが反射的に剣を掲げ、糸を絡め取る。
その間にスハァルが冷静に詠唱を終え、火球を放った。火球が弾け飛んだ。熱風と共に糸は燃え上がり、炎に包まれたクモは壁に叩きつけられ、断末魔を上げて炭と化す。
次いで、地を這う巨大なサソリが鋭い毒針を突き出してくる。ガイが前へ飛び出し、重厚な盾でそれを受け止めた。金属と甲殻が軋む音が響く。
その背後からロウランが疾風のごとく駆け込み、双剣が閃いた。連撃は甲殻を次々と切り裂き、サソリの巨体が崩れ落ちる。
背後から忍び寄る気配――無音のスライム。沈黙の暗殺者とも呼ばれるスライムのとろりとした体がセリヤの背を覆おうとした瞬間、スハァルが即座に火球を放つ。燃え上がる液体の中に光る魔石(コア)。そこをロウランが的確に斬り裂き、スライムは力なく崩れ落ちた。
さらに、丸まり転がる巨体――大ダンゴ虫型の魔獣が突進してくる。
音に気付いたマウスが声をあげ、迫りくる一撃を、ガイが盾で正面から受け止めた。
衝撃に火花が散り、彼の腕が軋む。
そこへセリヤが横から斬撃を叩き込み、甲殻に亀裂を走らせた。続けざまに、ロウランの双剣が裂け目へと突き刺し、大ダンゴ虫は動かなくなった。
最後に、ぬめるカエル型の魔獣が側面から跳びかかる。
スハァルの反応が一瞬遅れ、体勢を崩す。だが、その背を庇うようにトーマが踏み込み、短剣を突き出した。刃は抵抗なく魔獣の喉を貫き、跳躍の勢いそのままに串刺しとなった魔獣が地に転がり、身体を痙攣してはやがて動かなくなった。
各々の荒い呼吸と共に訪れる静寂。
〈銀翼〉の面々はそれぞれが役割を果たし、見事な連携で次々と敵を排除していった。道は確かに切り拓かれている。
その光景に、トーマは胸の奥で感嘆を覚えずにはいられなかった。冒険者ギルドからダンジョン探索の任務を託されるだけの実力を備えている――そう実感させられるほどの戦いぶりだった。
だが同時に、ほんのわずかな活躍を見せる自分に対しても、銀翼の面々は意外な視線を送っていた。
特にロウラン。
彼の記憶にあるのは、大剣を振り回して隙だらけだったかつてのトーマの姿。だが今、短剣を手に戦う姿はセリヤから聞いていた話より想像より遥かに鋭く、研ぎ澄まされていた。
ロウランは思わず目を見張り、口元にかすかな笑みを刻んでいた。
***
魔獣を退けながら、〈銀翼〉の面々はダンジョン内部の調査を進めていた。
出現する魔獣の種類や頻度、採取できる鉱石や結晶、薬草の有無――その一つひとつを確認しながら慎重に進み、やがて一行は、比較的広く開けた空間にたどり着いた。
天井は高く、ぽつりぽつりと鉱石が赤や青の淡い光を放ち、幻想的な明かりが闇を照らしている。洞窟にしては珍しく空気が澄んでおり、ここなら休憩に適していた。
「……ふぅ。ここらで一息入れるか」
ロウランの号令に皆が頷き、それぞれ腰を下ろした。鎧の金属が石床に触れて小さな音を立て、張り詰めていた空気がようやく緩む。
マウスは背中の矢筒を点検しながら口笛を吹くように言った。
「しかし驚いたぜ。トーマ、あんた、片腕とは思えない動きだったな。あのカエルの魔獣をスハァルを庇いながら刺し抜いたのは見事だったぜ」
ロウランは水袋に口をしてから、ちらりとトーマを見ながら口を開く。
「俺の記憶にあるお前は、力任せに大剣を振り回す奴だったが、短剣と片腕という制約で、かえって無駄な動きが少なかったのかな。短剣捌きは……率直に言って、悪くない」
言葉こそ素っ気ないからこその素直な評価が滲んでいた。
「そうですよね。師匠、だから言ったじゃないですか!」
それにセリヤが乗っかってくる。
賛辞が飛び交う中、トーマは何も言えなかった。
――心臓が強く打っている。
昔のように大剣を振り回すことはもうできなくなったが、まだ――自分には戦える場所が残されているのかもしれない。
そう考えると、胸の奥で忘れかけていた熱が、微かに蘇ってくるのを感じた。
簡単な食事を取り一息をついた所で、ロウランは状況を整理し、静かに結論を口にした。
「……星三(★3)つ級、だな」
食事の美味しさではない。
この世界では、ダンジョンの危険度は星の数で示される。
★1なら鋼級冒険者が最低一人いれば攻略可能。★2は銅級、★3は銀級、★4ともなれば金級冒険者の力が必要とされる。
なお、最下層の鉄等級は、いくら数を集めても「屑扱い」。戦力として数えられることはない。
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つまり――鋼級四人は銅級一人、銅級四人は銀級一人に等しいという計算だ。
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後衛二人――支援や遠距離攻撃を担う者。
補助一人――時に荷を担ぎ、時に戦列に加わる潤滑油。
いわゆる「王道」と呼ばれる布陣である。銀翼もこの布陣だ。
人数が多すぎれば取り分が減り、少なすぎれば生存率が下がる。だからこそ、〈銀翼〉のような中堅パーティは、最も効率とバランスが良い五人組なところが多い。
(ちなみに十人以上の大所帯は〈ファミリー〉や〈カンパニー〉と呼ばれ、また別種の組織形態とみなされる。)
さて、星三(★3)つ級ということは、今回のダンジョンは中級。
油断すれば容易く呑み込まれるが、経験ある者たちなら挑める、そんな絶妙な危険域に位置していた。
腕試しを望む冒険者や、実力を安定させた中堅パーティにとっては、まさにうってつけの舞台だろう。
「妥当だな。まあ、俺たちが調べた調査報告を元に、最終的な危険度はギルドが正式に決定するだろうけどな」
マウスが肩をすくめて言う。どうやら彼もロウランと同意見だった。
そんなやり取りを、トーマは新鮮な気持ちで眺めていた。
自分がかつて所属していた寄せ集めの一団では、こんなダンジョン調査をしたこともないは、建設的なやり取りも生まれなかった。
酒場での打ち合わせと称した口論、戦利品の分配での揉め事……思い出すだけで苦笑が浮かぶ。
それに比べ、〈銀翼〉の面々は違う。
互いの意見を素直に聞き、必要とあれば即座に判断を下す。その姿勢には、熟練者としての落ち着きと、仲間を信じる確信があった。
――これが、本物の冒険者パーティか。
胸の奥が熱を帯びる。片腕を失って以降、戦場から遠ざかっていた自分には縁遠い光景のはずだった。だが今、再びその輪の中に立っている。
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※舞台のイメージは中世ヨーロッパを少し過去に遡った感じにしています。魔法がある為に、産業、医療などは発展が遅れている感じだと思っていただければ。
中世ヨーロッパの史実に出来るだけ近い状態にしたいと考えていますが、婚姻、出産、平均寿命などは現代と余りにも違い過ぎて適用は困難と判断しました。ご理解くださいますようお願いします。
俺はアラサーのシステムエンジニアだったはずだが、取引先のシステムがウイルスに感染、復旧作業した後に睡魔に襲われ、自前のシュラフで仮眠したところまで覚えているが、どうも過労死して、辺境騎士の3男のアルフレッド6歳児に転生? 前世では早くに両親を亡くし、最愛の妹を残して過労死した社畜ブラックどっぷりの幸薄な人生だった男が、今度こそ家族と幸せに暮らしたいと願い、日々、努力する日常。
※最後になりますが、作者のスキル不足により、不快な思いをなされる方がおられましたら、申し訳なく思っております。何卒、お許しくださいますようお願い申し上げます。
この作品は、空想の産物であり、現実世界とは一切無関係です。
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