【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)

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【37】決闘終幕、未来への呼び声

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 怒涛の連撃。斜めからの切り上げ、水平の斬撃、突き込み。
 鋼の雨が一瞬で降り注ぎ、金属の火花が連続して閃光を撒いた。

 トーマは必死に食らいつく。受け、いなし、時に後退してかわす。片腕で防ぐたびに骨へ衝撃が伝わり、肩の奥がきしむ。それでも足は止まらない。止めれば次の刹那に命を刈り取られると、全身が理解していた。

 今トーマは致命傷を受けて瀕死状態の時に発動する覚醒状態ではない。

 だが、覚醒時の経験が確かに身体に刻まれていた。反応速度、視界の広さ、呼吸の調整……あの時の極限が、血肉となって彼を導く。

(俺は強くなっている?)

 刃と刃がぶつかるたび、短剣に宿した魔力が白光を帯び、金属音は鋭く乾いた悲鳴を上げた。
 先ほど護衛たちの剣を容易く断ったが、今度は違う。相手の細剣は良質な金属で鍛えられており、斬り払っても折れもせず、なおも唸りをあげて迫る。

「鋼止まり! これならどうだ!」

 血走った隻眼を剥き、怒涛の剣技に移ろうとした、その瞬間――。

「――やめよ!」

 重々しい声が二人の決闘を裂いた。

 振り向いた全員の視線の先。街道を駆けて現れた騎馬の一団。その先頭にいたのは、威風をまとった男――領主、レオバルト・ガルソンであった。

 鋭い眼光と深い皺を刻んだ顔に、誰もが背筋を伸ばす。
 ベルトラムが慌てて馬から転がるように降り立ち、肥満した体を揺すりながら必死に頭を下げる。その滑稽さが、かえって場の緊張を際立たせた。

「父上、なぜ、こちらに――!?」

 狼狽える愚息を、レオバルトは睨みで黙らせた。

「話は配下から聞いておる。お前が勝手にその娘を追ったとな」

 冷たい声に空気が張り詰めた。
 その沈黙を破るように、トーマが一歩進み出て声を放つ。

「レオバルト・ガルソン様とお見受けいたします。私、ロイルの息子、トーマと申します。無礼を承知で、どうかお耳を貸しください」

「トーマ……ああ、お主が洞窟ダンジョンを見つけた者か。うむ」

「此度の件、借金返済のための奉公が果たせぬことに端を発しております。その奉公が出来ない返済分について、私が保証人となります。どうか、それでフィリスが奉公をしなくとも済むよう、お取り計らい願えませんか」

 バカ息子よりも話しが分かる相手だとしてトーマは保証人になることを提案した。

 フィリスが思わず声をあげかけるが、スハァルが小さく首を振り「今は黙って見守りなさい」と視線で告げる。

「カルトスからも聞き及んでいる。奉公できぬ分の借金については承知しておる。保証人が増えるのであれば、こちらとしても願ってもないことだ」

 領主はさらにフィリスへ視線を向ける。その眼差しは試すようでもあり、期待を含んでいた。

「そちがフィリスか。魔術の才があると聞いた。ならば魔導学院に行くが良い。将来、村のために学院に習ったことを振る舞うと誓うならば、借金はいくらかは免除してやろう」

 その言葉に場の空気が一変した。
 スハァルやセリヤは笑顔となりフィリスを見つめる。
 ベルトラムだけが顔を真っ赤にし、口をパクパクさせて言葉を失っていた。

「さて、ベルトラム」

「は、はい!」

「後で話がある。先に館に戻っておれ」

「か、かしこまりました……」

 護衛と共にしょんぼりと立ち去る背を、誰も追わなかった。

「しかし、選ばれしものしかその門をくぐれない魔導学院に行くことは、領主に直接伝えて欲しい件ではあったな」

 レオバルトは低く言い残し、馬首を返した。レオバルトの護衛たちがそれに従い、一行はやがて領主の館がある道へと去っていった。

 立ち去り際に隻眼の用心棒がトーマの元へ近づいて、問いかけた。

「……名を、聞いておこう」

「トーマだ」

「……トーマか。俺の名はレックスだ。お前も覚えとけ」

 そう言って、不敵な笑みを浮かべ、彼もまた領主の後を追った。

 残された四人。
 静寂が戻る。

 トーマは短剣を鞘に納め、肺の奥まで詰まった空気を一気に吐き出した。覚醒せずに、銀等級の元冒険者と渡り合えた。その事実が胸の奥でじわりと熱を灯す。

 その背へ、フィリスが駆け寄り、何も言わずに抱きしめてきた。彼女の震えが直に伝わり、トーマは驚きに目を瞬かせる。

 その様子を、セリヤとスハァルがじとりとした視線で見つめていることに、気づかないまま。
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