【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)

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【47】悪霊カオス

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 シャーバスは、じり、と後退してトーマとの距離を取った。

 その眼に浮かぶのは、戦いの只中だというのに楽しげな狂気。

「いいね……実にいい。久しくお前ほどの人間に出会ったことがないぞ。カッカカッ……ならば――敬意を示そうじゃないか」

 ぞわり、と背筋を撫でる悪寒。

 シャーバスの背後に、闇そのものが形を持ったかのような影が揺らめき、蠢いた。
 歪んだ笑みを浮かべる精神体らしき存在が、彼の体を抱き締めるように覆っていく。

 ……なんだ、あれは――?

 トーマが疑念を抱いた刹那、シャーバスは嗤った。

「――精魂吸エナジードレイン

 闇の波動が、爆ぜるように広がった。

 暗黒の奔流が全方位へ迸り、目に見えぬ鎖のように仲間たちの身を絡め取る。
 次の瞬間、彼らの体から――力そのものが吸い上げられていった。

「うっ……!」
「えっ……!」
「きゃっあ!」

 スハァルとエナは膝を折り、地面に片手をつく。
 ミントは両腕を抱き締め、喉から苦しげな声を漏らした。

 空気そのものが淀み、吸い込むたびに心臓が締め付けられるような錯覚に陥る。

「……なんだっ……!」

 トーマは歯を食いしばった。
 足が鉛のように重く、膝が崩れ落ちそうになる。だが――それでも立った。剣を握る手だけは決して離さなかった。

「ほう……」

 シャーバスが目を細め、ぞっとするほど愉快そうに口角を吊り上げた。

「カッカカッ……オレの精魂吸エナジードレインを食らってなお立つか。だが――いつまで持つかな?」

 シャーバスの闇の剣が閃く。
 トーマは反射的に受けるも精魂吸エナジードレインによって体力は削られ、体の芯から熱が失われていく。
 まるで血と共に命そのものが滴り落ちていくかのようだ。

「ぐっ……はぁ……!」

 限界は近かった。
 視界が霞み、耳鳴りがする。剣を振るう腕が重く、ついに力尽きるように膝をついてしまう。

 シャーバスは、ゆっくりと歩み寄ってきた。
 影を背に纏い、獲物を嬲る捕食者のように。

「……お前は……いったい……なんだ……?」

 意識が朦朧としながら、トーマは問う。
 それに対しシャーバスの口元がいやらしく歪んだ。

「カッカカッ……幽冥の土産に教えてやろう。オレ様の名はカオス。かつて忌まわしき呪石に封じられていた存在だ。お前たちの言葉で言えば……精霊、あるいは悪霊、といったところか」

「……悪霊、だと……?」

「ああ。運が悪かった……いや、運が良かったか。こいつ――シャーバスがオレの封印を解いたおかげで、こうして身体を奪い、存分に遊べるようになったのさ」

 禍々しい笑みとともに、闇の圧がさらに濃くなる。
 絶望の重みが、胸に鉛のようにのしかかった。

「さて――名残惜しいが、楽しいお喋りはここまでだ。次は幽冥界で会えたら会おうか」

 シャーバス=カオスが剣を振り上げ――
 死を告げる漆黒の刃が、トーマの首めがけて振り下ろされた――。

 その瞬間。

 ――ガキィン!

 蒼い光の壁が、トーマの目前に突如として展開された。
 凛と澄んだ音を響かせ、闇の剣を弾き返す。

「――間に合ったようね」

 清らかで透き通る声が、空間を支配する。

 視線を上げれば、青く輝く宝石のような光を纏った幼い少女……トーマの姪、ノアぐらいの年頃の少女が、複数の蒼光の宝珠と共に宙に浮かんでいた。

 蒼の輝きが拡散し、仲間たちの荒い呼吸すら落ち着かせていく。

「……リュミエール・サファイア様……!」

 精魂吸によって体力を奪われ、地に伏していたエナが、震える声でその名を呼んだ。

 待ち望まれた蒼き光が、ついにこの場へ降臨したのだ。
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