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【46】闇に堕ちた金等級
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重苦しい沈黙を破ったのは、建物に入ってからずっと黙していたスハァルだった。
すでに呪文と呪紋を編み上げており、積み重ねていた魔力が爆ぜ、彼女の口から詠唱が吐き出された。
「特大火球!」
轟音とともに紅蓮の奔流が解き放たれる。空気が爆ぜ、炎の熱波が周囲を灼き尽くす。咆哮のような爆炎がルガルを呑み込んだ。
しかし、次の瞬間。
――斬ッ!
信じがたいことに、灼熱の火球が一刀の下に真っ二つに割られた。
残滓の炎が宙を舞い、焼け焦げた布が舞い落ちる。
そこに露わになった素顔を見て、ミントが蒼ざめた表情で息を呑む。
「えっ……。まさか、その顔……シャーバス!? 高額賞金首の!」
炎の光に照らされた男―ルガル―いや、シャーバスと呼ばれた男は、愉悦の笑みを浮かべた。
褐色の肌、欠けた耳。魔人族の忌まわしい特徴がすべて揃っている。
「ほう……ご存じでしたか。あまり目立たぬよう生きてきたつもりでしたが」
ミントは喉を鳴らし、言葉を絞り出す。
「仕事柄、冒険者の記録は調べたり……記憶力には自信があるんです」
ミントは話しを続ける。それはトーマたちにシャーバスの危険性を知って貰う為に。
「シャーバス……かつて金等級の冒険者でした。仲間と共に発見した名刀を独り占めするため、仲間全員を惨殺。偶然にもその場を目撃した人が居たため、指名手配され、賞金首となった人物です」
「金等級!?」
トーマが思わず声をあげる。
金等級の冒険者など滅多にお目にかかれない。想像を超えた格の違いに、背筋が冷たくなる。
「なるほど。それでは、ここで確実にアナタたちを仕留めておかないといけませんね」
シャーバスは剣を構え、静かに笑い――
彼の姿が消えたかと思うほどの速度で、間合いを詰める。
マダックが反射的に前へ出た。
だが、シャーバスの斬撃は槍の柄を無残に断ち切り、その勢いで鎧を裂き、鮮血が飛び散った。
「ぐあっ!?」
マダックの断末魔が響く。
「くっ!」
すぐさま側にいたトーマへ、シャーバスが稲妻のごとき踏み込みで斬りかかる。
スハァルから再び借り受けた短剣で受け止め、名刀とぶつかり合う。
――ギィンッ!
耳をつんざく衝撃音。空気を切り裂くような澄んだ響きが広間を満たし、火花が散った。名刀の一撃を受け止めるだけで、腕が悲鳴をあげる。
(重い……っ、速い!)
剣圧に押し潰されそうになる。
これまで相手にしてきた者々とは比べ物にならない。一撃ごとに「死」が目前に迫っているようだった。
スハァル、エナ、ミントの三人は距離を取り、魔法の詠唱を始めようとするも、接近戦で戦う二人。
魔法を撃てば、トーマが巻き込まれるだろう。
こういう時、魔導士は無力だ。介入すれば味方を殺しかねない。
その間にもシャーバスの斬撃が襲いかかる。
「片腕なのに、よく私の剣技を受け止めるとは大したものです。では、少し本気を出しますよ」
剣の速度が増し、刃の軌跡が残光を引く。その一閃がトーマの胴を狙い――避けきれない。
「がっ……!」
横腹を斬り裂かれ、鮮血が噴き出す。
焼けるような痛みが脳を貫き、視界が白く弾ける。意識が途切れかけ、膝が折れそうになる――。
「トーマ!」
しかし、スハァルの声が絶望の縁から引き戻す。
――倒れてなるものか。まだ終わってはいない。
トーマの胸の奥で、何かが弾けた。
脈動が全身を駆け抜け、血潮と共に熱が迸る。
「はああああああっ!」
次の瞬間、意識が異常なまでに鋭く研ぎ澄まされた。
世界がスローモーションになる。
炎の残滓の揺らめき、剣先の微細な震え、シャーバスの筋肉の収縮さえも見える。
―覚醒―
刃が迫る。
ミスリルナイフの柄を握る力が増し、シャーバスの剣を正面から受け止めた。
「なに……っ!?」
シャーバスの目が鋭く細められる。
さきほどまで必死に食らいつくだけだったはずの片腕の男が、今は斬撃を読み切り、返す刃を浴びせてきている。
一撃ごとに血を滴らせながらも、トーマの短剣は速さを増していく。
引き裂いた腹の傷も癒え始めているのだが、それをシャーバスは気付かない。
自分でも信じられないほどの速度と精度。
肉体は悲鳴をあげているのに、意志と本能が勝手に体を操るかのように止まらない。
「凄い……。トーマ、あんな力を隠し持っていたのね……」
遠巻きに見ていたスハァルたちが感嘆の声を漏らす。
あれは――冒険者を辞めた者の動きではない。金等級冒険者に匹敵する実力。
怒涛の打ち合いが続く。
シャーバスの死神の鎌のごとき剣と、トーマの覚醒した短剣が激突し、火花が奔流のように散り、広間を赤々と照らした。
すでに呪文と呪紋を編み上げており、積み重ねていた魔力が爆ぜ、彼女の口から詠唱が吐き出された。
「特大火球!」
轟音とともに紅蓮の奔流が解き放たれる。空気が爆ぜ、炎の熱波が周囲を灼き尽くす。咆哮のような爆炎がルガルを呑み込んだ。
しかし、次の瞬間。
――斬ッ!
信じがたいことに、灼熱の火球が一刀の下に真っ二つに割られた。
残滓の炎が宙を舞い、焼け焦げた布が舞い落ちる。
そこに露わになった素顔を見て、ミントが蒼ざめた表情で息を呑む。
「えっ……。まさか、その顔……シャーバス!? 高額賞金首の!」
炎の光に照らされた男―ルガル―いや、シャーバスと呼ばれた男は、愉悦の笑みを浮かべた。
褐色の肌、欠けた耳。魔人族の忌まわしい特徴がすべて揃っている。
「ほう……ご存じでしたか。あまり目立たぬよう生きてきたつもりでしたが」
ミントは喉を鳴らし、言葉を絞り出す。
「仕事柄、冒険者の記録は調べたり……記憶力には自信があるんです」
ミントは話しを続ける。それはトーマたちにシャーバスの危険性を知って貰う為に。
「シャーバス……かつて金等級の冒険者でした。仲間と共に発見した名刀を独り占めするため、仲間全員を惨殺。偶然にもその場を目撃した人が居たため、指名手配され、賞金首となった人物です」
「金等級!?」
トーマが思わず声をあげる。
金等級の冒険者など滅多にお目にかかれない。想像を超えた格の違いに、背筋が冷たくなる。
「なるほど。それでは、ここで確実にアナタたちを仕留めておかないといけませんね」
シャーバスは剣を構え、静かに笑い――
彼の姿が消えたかと思うほどの速度で、間合いを詰める。
マダックが反射的に前へ出た。
だが、シャーバスの斬撃は槍の柄を無残に断ち切り、その勢いで鎧を裂き、鮮血が飛び散った。
「ぐあっ!?」
マダックの断末魔が響く。
「くっ!」
すぐさま側にいたトーマへ、シャーバスが稲妻のごとき踏み込みで斬りかかる。
スハァルから再び借り受けた短剣で受け止め、名刀とぶつかり合う。
――ギィンッ!
耳をつんざく衝撃音。空気を切り裂くような澄んだ響きが広間を満たし、火花が散った。名刀の一撃を受け止めるだけで、腕が悲鳴をあげる。
(重い……っ、速い!)
剣圧に押し潰されそうになる。
これまで相手にしてきた者々とは比べ物にならない。一撃ごとに「死」が目前に迫っているようだった。
スハァル、エナ、ミントの三人は距離を取り、魔法の詠唱を始めようとするも、接近戦で戦う二人。
魔法を撃てば、トーマが巻き込まれるだろう。
こういう時、魔導士は無力だ。介入すれば味方を殺しかねない。
その間にもシャーバスの斬撃が襲いかかる。
「片腕なのに、よく私の剣技を受け止めるとは大したものです。では、少し本気を出しますよ」
剣の速度が増し、刃の軌跡が残光を引く。その一閃がトーマの胴を狙い――避けきれない。
「がっ……!」
横腹を斬り裂かれ、鮮血が噴き出す。
焼けるような痛みが脳を貫き、視界が白く弾ける。意識が途切れかけ、膝が折れそうになる――。
「トーマ!」
しかし、スハァルの声が絶望の縁から引き戻す。
――倒れてなるものか。まだ終わってはいない。
トーマの胸の奥で、何かが弾けた。
脈動が全身を駆け抜け、血潮と共に熱が迸る。
「はああああああっ!」
次の瞬間、意識が異常なまでに鋭く研ぎ澄まされた。
世界がスローモーションになる。
炎の残滓の揺らめき、剣先の微細な震え、シャーバスの筋肉の収縮さえも見える。
―覚醒―
刃が迫る。
ミスリルナイフの柄を握る力が増し、シャーバスの剣を正面から受け止めた。
「なに……っ!?」
シャーバスの目が鋭く細められる。
さきほどまで必死に食らいつくだけだったはずの片腕の男が、今は斬撃を読み切り、返す刃を浴びせてきている。
一撃ごとに血を滴らせながらも、トーマの短剣は速さを増していく。
引き裂いた腹の傷も癒え始めているのだが、それをシャーバスは気付かない。
自分でも信じられないほどの速度と精度。
肉体は悲鳴をあげているのに、意志と本能が勝手に体を操るかのように止まらない。
「凄い……。トーマ、あんな力を隠し持っていたのね……」
遠巻きに見ていたスハァルたちが感嘆の声を漏らす。
あれは――冒険者を辞めた者の動きではない。金等級冒険者に匹敵する実力。
怒涛の打ち合いが続く。
シャーバスの死神の鎌のごとき剣と、トーマの覚醒した短剣が激突し、火花が奔流のように散り、広間を赤々と照らした。
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