近くて親しき仲こそ、、、

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)

文字の大きさ
24 / 25
第七章 幼馴染 ―松原 奈緒―

【2】

しおりを挟む
日が山の端に隠れ、街灯が寒々しく灯り始めた「逢魔が時」。

世界が曖昧な灰色に染まる中、俺たちは神社の隣にある、静まり返った公園へと足を運んだ。
錆びついたベンチに腰を下ろし、重い沈黙を破ったのは奈緒だった。


「私ね……来月、結婚するんだ。親が持ってきた話でね。相手は一回り年上の、すごく落ち着いた人よ」


胸の奥を、冷たい剃刀で撫でられたような感覚が走った。


「奈緒が結婚……。それは、その……おめでとう、でいいんだよな?」

「んー、どうかな。おめでとう、なのかな……。世間一般的には、きっとそうなんだろうね」


奈緒は自嘲気味に微笑み、自分の膝を見つめた。


「……結婚は、嫌なのか?」

「……嫌、じゃないかな。優しい人だし、真面目な方だし。もう私も我儘を言える年じゃないし、断る理由もなかったし。これから『普通の幸せ』を享受するのかなって。……拓海くん」


奈緒は不意に立ち上がり、公園の隅に生い茂る、闇の深い茂みを見つめた。


「あの頃みたいに『かくれんぼ』をしよう?」

「えっ? いきなり、なんで……」

「いいから。はい、目をつぶって。十秒数えたら、私を探しに来て。……いい? 絶対に見つけてね。スタート!」

「おい、奈緒! ……1、2、3……」


強引に始まったゲームに戸惑いながらも、拓海は数を刻んだ。


「……10!」


目を開けると、そこにはもう奈緒の姿はなかった。
風に揺れるブランコの鎖の音だけが、やけに大きく響く。


「あいつ、どこへ……」


探し始めてすぐ、確信に近い予感があった。

公園の隅、深く入り組んだ木々の茂み。その奥には、枝葉が重なり合ってドーム状の空間ができている場所がある。

幼い頃の俺と奈緒の、二人だけの「秘密基地」。


「……やっぱり、ここにいたか」


茂みをかき分けると、狭い闇の中で膝を抱えていた奈緒が、濡れた瞳で俺を見上げた。

「ふふ……見つかっちゃった。拓海くん、やっぱり覚えててくれたんだね」

「忘れるわけないだろ。……それで、なんで急にかくれんぼなんて」

「たぶん……拓海くんに見つけてほしかったんだと思う。私が、誰かの奥さんになっちゃう前に。私ね、拓海くんのことが、ずっと好きだったみたい。結婚が決まってから、初めて気づいたの……。遅いよね、本当に」


奈緒の声が、嗚咽に震え始める。





「もっと早く、高校を卒業する時に……ううん。小学校の時、ここで泥だらけになって遊んでた時に気づいていれば良かった。そうしたら……」

奈緒は堪えきれなくなったように俺の首に腕を回し、縋り付いてきた。唇に触れたのは、微かに震える熱と、涙の塩分。

「奈緒……っ」

「今だけ。この一瞬だけでいいから……私を拓海くんのものにして。……お願い」

湿った土と、青臭い草の匂い。
奈緒の肌は、透き通るような潔癖さに満ちていた。


「……ずっと、こうしてほしかった……」


掠れた声で愛を告げながら、奈緒は自ら重い殻を脱ぎ捨てるように服を脱ぎ、俺を受け入れた。
それは、たった一度のささやかな、そしてあまりに切ない反逆の形だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...