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第七章 幼馴染 ―松原 奈緒―
【3】
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荒れた地面で肌を擦り合わせる痛み、重なり合う不規則な吐息。
かつては秘密基地だったその狭い空間は、今や二人だけの濃密な監獄へと変貌していた。
「……っ、拓海、くん……あぁっ!」
奈緒の身体は、驚くほどしなやかで、それでいて脆かった。
彼女の指先が拓海の背中に食い込み、爪が皮膚を裂くような痛みが走る。
だが、その痛みこそが、彼女が今ここで確かに「女」として生き、自分を求めているという証拠だった。あまりにも拙く、必死な動き。
「ごめん……私、うまくできなくて……でも、今だけは、私を見て……」
涙で濡れた瞳が、至近距離で拓海を射抜く。
彼女の清らかな肌に、泥と枯れ葉がこびりついていく。
その光景は冒涜的でありながら、何よりも美しく見えた。
不器用で、けれど胸を締め付けるほどに純粋な情事は、拓海の心に、あの屋敷の誰にもつけられなかった「消えない爪痕」を深く、深く刻み込んだ。
事が終わった後、奈緒は震える手で服を整え、拓海の肩に顔を埋めて小さく囁いた。
「これで……やっと、踏ん切りがついた。私、ちゃんと結婚するね。……ありがとう、拓海くん」
その言葉は、感謝という名の決別の呪文となって、拓海の耳の奥にこびりついた。
奈緒と何事もなかったかのように別れ、拓海は重い足取りで実家の門を潜った。
玄関の重厚な扉を開けると、そこには既に、逃げ場のない「いつもの日常」が手ぐすねを引いて待ち構えていた。
「おかえり、拓海。ずいぶん遅かったじゃない」
リビングのソファに深く腰掛け、頬を桃色に染めた彩乃が妖艶に微笑んだ。
テーブルの上には琥珀色のウィスキーが揺れ、部屋には既に彼女の吐息とアルコールの混ざった甘い匂いが充満していた。
「どこで何をしていたのかしら……。あら、服に草がついているわよ?」
彩乃の鋭い視線が、拓海の襟元を射抜く。
「っ……いや、ちょっと童心に帰って、公園で遊んでいたんだよ」
「へえ、そうなの。まだまだ子供ね、拓海は。お姉さんがまた、遊び方を教えてあげなきゃいけないかしら」
すると居間の奥から結衣が静かに姿を現した。
「拓海くん、おかえりなさい。夕飯の支度はできているけれど、どうする?」
「あ……いただきたいです」
「それなら温め直しておくから、その間に汗を流してきなさい」
風呂場へ向かおうと廊下に出ると、脱衣所から出てきたばかりの慶子と鉢合わせした。
「あら、拓海。おかえりなさい。今からお風呂?」
湯気に包まれた慶子の肌からは、石鹸の香りと、隠しきれない情欲の残り香が漂っている。
「ええ。ちょっと、汚れを落としてこようと思って」
「そうね……。そんなに汚れているなら、私がもう一度入って、背中を流してあげようかしら?」
「えっ、いや、それは……」
「ふふ、冗談よ。いい湯加減だから、ゆっくり浸かってきなさい」
慶子は意味深な笑みを残し、衣擦れの音をさせて立ち去っていった。
杉本家で「妻」という立場にあるのは、結衣と慶子。
蛇に睨まれた蛙のように、彼女たちの視線に晒されながら、拓海はふと、奈緒は一体どんな奥さんになるのだろうかと思い馳せた。
あの秘密基地で、泣きながら自分を求めた彼女。
彼女の行く末に待つのは、杉本家のような歪んだ愛の形なのか、それとも。
拓海は複雑な澱を胸に抱えたまま、汚れを落とすために風呂場の扉を開けた。
かつては秘密基地だったその狭い空間は、今や二人だけの濃密な監獄へと変貌していた。
「……っ、拓海、くん……あぁっ!」
奈緒の身体は、驚くほどしなやかで、それでいて脆かった。
彼女の指先が拓海の背中に食い込み、爪が皮膚を裂くような痛みが走る。
だが、その痛みこそが、彼女が今ここで確かに「女」として生き、自分を求めているという証拠だった。あまりにも拙く、必死な動き。
「ごめん……私、うまくできなくて……でも、今だけは、私を見て……」
涙で濡れた瞳が、至近距離で拓海を射抜く。
彼女の清らかな肌に、泥と枯れ葉がこびりついていく。
その光景は冒涜的でありながら、何よりも美しく見えた。
不器用で、けれど胸を締め付けるほどに純粋な情事は、拓海の心に、あの屋敷の誰にもつけられなかった「消えない爪痕」を深く、深く刻み込んだ。
事が終わった後、奈緒は震える手で服を整え、拓海の肩に顔を埋めて小さく囁いた。
「これで……やっと、踏ん切りがついた。私、ちゃんと結婚するね。……ありがとう、拓海くん」
その言葉は、感謝という名の決別の呪文となって、拓海の耳の奥にこびりついた。
奈緒と何事もなかったかのように別れ、拓海は重い足取りで実家の門を潜った。
玄関の重厚な扉を開けると、そこには既に、逃げ場のない「いつもの日常」が手ぐすねを引いて待ち構えていた。
「おかえり、拓海。ずいぶん遅かったじゃない」
リビングのソファに深く腰掛け、頬を桃色に染めた彩乃が妖艶に微笑んだ。
テーブルの上には琥珀色のウィスキーが揺れ、部屋には既に彼女の吐息とアルコールの混ざった甘い匂いが充満していた。
「どこで何をしていたのかしら……。あら、服に草がついているわよ?」
彩乃の鋭い視線が、拓海の襟元を射抜く。
「っ……いや、ちょっと童心に帰って、公園で遊んでいたんだよ」
「へえ、そうなの。まだまだ子供ね、拓海は。お姉さんがまた、遊び方を教えてあげなきゃいけないかしら」
すると居間の奥から結衣が静かに姿を現した。
「拓海くん、おかえりなさい。夕飯の支度はできているけれど、どうする?」
「あ……いただきたいです」
「それなら温め直しておくから、その間に汗を流してきなさい」
風呂場へ向かおうと廊下に出ると、脱衣所から出てきたばかりの慶子と鉢合わせした。
「あら、拓海。おかえりなさい。今からお風呂?」
湯気に包まれた慶子の肌からは、石鹸の香りと、隠しきれない情欲の残り香が漂っている。
「ええ。ちょっと、汚れを落としてこようと思って」
「そうね……。そんなに汚れているなら、私がもう一度入って、背中を流してあげようかしら?」
「えっ、いや、それは……」
「ふふ、冗談よ。いい湯加減だから、ゆっくり浸かってきなさい」
慶子は意味深な笑みを残し、衣擦れの音をさせて立ち去っていった。
杉本家で「妻」という立場にあるのは、結衣と慶子。
蛇に睨まれた蛙のように、彼女たちの視線に晒されながら、拓海はふと、奈緒は一体どんな奥さんになるのだろうかと思い馳せた。
あの秘密基地で、泣きながら自分を求めた彼女。
彼女の行く末に待つのは、杉本家のような歪んだ愛の形なのか、それとも。
拓海は複雑な澱を胸に抱えたまま、汚れを落とすために風呂場の扉を開けた。
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