星庭のフィトクロム 流星の章

虎春 恵助

文字の大きさ
44 / 53
冬越え

三本の帯と三本の剣

しおりを挟む
 ベルサが真珠の帯「アルニラム」につながっている貝殻のカスタネットを叩くと、帯は回転し光を放つ。
「そして、より音を反響させる。三本目の帯ミンタカ」
 ベルサが空で踊るように回ると巨大な帯が一帯を囲み、ドーム状の空間をつくる。
「巨人が使用できるほど巨大なこの帯は広範囲を封ずる。これでワンちゃんにもアルニラムの音がよく響きますね。二人とも私のペットにしてあげましょうか」
 ベルサは上機嫌で踊りまわる。
(三本の帯、ミンタカ、アルニラム、アルニタク。なんて厄介なの。私もプロキオンも耳が良い……まずはあの真珠の帯アルニラムを何とかしないと。攻撃できない)
 アルネブが眉間にシワを寄せる。
「アルネブ、安心して、俺のラッパがカスタネットの音に負けるわけがないからな!」
 元々垂れている耳をペタンとくっつけていたプロキオンが目を輝かせる。
「お客様、本日の音楽は『狩人の目覚め』でございます」
 プロキオンがおじぎをし、ラッパを吹き始めるとアルネブは自由に動けるようになった。ラッパとカスタネットの音は反響し、混ざり合い、かき消し合う。
 ベルサは不機嫌を隠さずに、踊るように負けじとカスタネットを打つ。
「アルニラムにこのような攻略法があるとは勉強になります。まるでお祭りみたいだ。書類業務の合間にちょうどいい息抜きになります」
 リゲルが楽しそうに手を叩く。
 自由になったアルネブが足をタップし、またベージュに艶めくチョコの雨を降らせるが、顔をしかめるベルサと違い、リゲルは気にする様子はない。
 ――私は知ってる。ベルサの三本の帯も厄介だけど、本当はこいつの方が危険だ。三本の剣を操る天使、リゲル。操るうちの一本、大剣「サイフ」は巨人の足のように重く、一振りで三つの星を割ると言われている。本人は戦いよりも知識を吸収し、博識ぶるのが好きみたいだけど。こいつが本気で戦いにきたら私やプロキオンなんて一瞬で吹き飛んでしまうかもしれない。
「これがただのチョコだったら他の天使たちに持って帰れたのになぁ」
 リゲルが右手に持ったレイピアで突き刺す動作をすると、チョコと同じ数の青い閃光が現れ、チョコが破裂する前にすべて破壊してしまった。
(これがさっきも使っていた。第二の剣「ハチサ」突き刺す閃光の剣。このドーム状の空間で技を出されたら絶対に当たる。この二人の天使、だからペアなのね)
 しかし、今度は破壊されたチョコから紫やボルドーの液体があふれ出す。
「今回は私たちが生前人間に与えられたモノを入れてみたの」
「アルネブ、やめてよ~。あれ嫌いなんだよ。たまに舌がヒリヒリしたり、にがかったり、苦しかったりする」
 プロキオンがラッパを片手で回しながら、もう片方の手でラッパ銃を撃ち、リゲルの閃光を壊し、ベルサの真珠や貝殻に向かって撃ちながら言う。
「ヒリヒリ? 私は毎回痛かったのに」
 アルネブが短く丸い尻尾をピクピクさせる。
 リゲルは顎に手を当て「なるほど」とつぶやく。すべてを回避したベルサと違い、チョコの中身をくらったリゲルは白目が真っ赤に染まり、眼球が飛び出し、整った顔は焼けただれ口から大量の血を吐きながら顎が溶けていく。
 膝から崩れ落ちたリゲルは「う゛ぇ゛ー」とチョコの液体を吐き出した。
「リゲル! なにをしているのですか!」
 ベルサが急いでリゲルに駆け寄り、アルネブとプロキオンはあっけにとられてリゲルを見ている。
(自分からくらいに行きやがった!)
(わざと食べた!?)
 リゲルは震える手で左に持っていた短剣を自らの腹に突き刺す。
「は?」
 驚いたのはアルネブとプロキオンだけではなかった。ベルサもリゲルの行動に驚きの声を上げる。するとリゲルの体が青白く光り、飛び出した眼球も溶けた顎も元通りに戻っていく。
「ゲ~~! これは酷い……」
「リゲル! 本当にバカなのですか! バカなのですね!」
 リゲルは腹から短剣を抜くと何事もなかったかのように立ち上がった。ヘラヘラとしているリゲルにプロキオンとアルネブは少し距離を取って構える。
(あれが第三の剣「サイフス」浄化し守る剣! やっぱり人間が作ったモノなんて効かないか……リゲルが戦闘モードに入る前にあのメニューで最初から剣を使えないよう一気に固める!)
 アルネブが足をタップすると、今度は沸々と茶色くドロドロとした液体が空間から湧き出る。それはドーム状の空間の上からも垂れてきて、辺りは高温になり湯気が立ち込める。仕上げに温度計の形をした剣を突き立てると、茶色の液体がパキパキと固まりはじめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

前世を越えてみせましょう

あんど もあ
ファンタジー
私には前世で殺された記憶がある。異世界転生し、前世とはまるで違う貴族令嬢として生きて来たのだが、前世を彷彿とさせる状況を見た私は……。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...