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冬越え
三本の帯と三本の剣
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ベルサが真珠の帯「アルニラム」につながっている貝殻のカスタネットを叩くと、帯は回転し光を放つ。
「そして、より音を反響させる。三本目の帯ミンタカ」
ベルサが空で踊るように回ると巨大な帯が一帯を囲み、ドーム状の空間をつくる。
「巨人が使用できるほど巨大なこの帯は広範囲を封ずる。これでワンちゃんにもアルニラムの音がよく響きますね。二人とも私のペットにしてあげましょうか」
ベルサは上機嫌で踊りまわる。
(三本の帯、ミンタカ、アルニラム、アルニタク。なんて厄介なの。私もプロキオンも耳が良い……まずはあの真珠の帯アルニラムを何とかしないと。攻撃できない)
アルネブが眉間にシワを寄せる。
「アルネブ、安心して、俺のラッパがカスタネットの音に負けるわけがないからな!」
元々垂れている耳をペタンとくっつけていたプロキオンが目を輝かせる。
「お客様、本日の音楽は『狩人の目覚め』でございます」
プロキオンがおじぎをし、ラッパを吹き始めるとアルネブは自由に動けるようになった。ラッパとカスタネットの音は反響し、混ざり合い、かき消し合う。
ベルサは不機嫌を隠さずに、踊るように負けじとカスタネットを打つ。
「アルニラムにこのような攻略法があるとは勉強になります。まるでお祭りみたいだ。書類業務の合間にちょうどいい息抜きになります」
リゲルが楽しそうに手を叩く。
自由になったアルネブが足をタップし、またベージュに艶めくチョコの雨を降らせるが、顔をしかめるベルサと違い、リゲルは気にする様子はない。
――私は知ってる。ベルサの三本の帯も厄介だけど、本当はこいつの方が危険だ。三本の剣を操る天使、リゲル。操るうちの一本、大剣「サイフ」は巨人の足のように重く、一振りで三つの星を割ると言われている。本人は戦いよりも知識を吸収し、博識ぶるのが好きみたいだけど。こいつが本気で戦いにきたら私やプロキオンなんて一瞬で吹き飛んでしまうかもしれない。
「これがただのチョコだったら他の天使たちに持って帰れたのになぁ」
リゲルが右手に持ったレイピアで突き刺す動作をすると、チョコと同じ数の青い閃光が現れ、チョコが破裂する前にすべて破壊してしまった。
(これがさっきも使っていた。第二の剣「ハチサ」突き刺す閃光の剣。このドーム状の空間で技を出されたら絶対に当たる。この二人の天使、だからペアなのね)
しかし、今度は破壊されたチョコから紫やボルドーの液体があふれ出す。
「今回は私たちが生前人間に与えられたモノを入れてみたの」
「アルネブ、やめてよ~。あれ嫌いなんだよ。たまに舌がヒリヒリしたり、にがかったり、苦しかったりする」
プロキオンがラッパを片手で回しながら、もう片方の手でラッパ銃を撃ち、リゲルの閃光を壊し、ベルサの真珠や貝殻に向かって撃ちながら言う。
「ヒリヒリ? 私は毎回痛かったのに」
アルネブが短く丸い尻尾をピクピクさせる。
リゲルは顎に手を当て「なるほど」とつぶやく。すべてを回避したベルサと違い、チョコの中身をくらったリゲルは白目が真っ赤に染まり、眼球が飛び出し、整った顔は焼けただれ口から大量の血を吐きながら顎が溶けていく。
膝から崩れ落ちたリゲルは「う゛ぇ゛ー」とチョコの液体を吐き出した。
「リゲル! なにをしているのですか!」
ベルサが急いでリゲルに駆け寄り、アルネブとプロキオンはあっけにとられてリゲルを見ている。
(自分からくらいに行きやがった!)
(わざと食べた!?)
リゲルは震える手で左に持っていた短剣を自らの腹に突き刺す。
「は?」
驚いたのはアルネブとプロキオンだけではなかった。ベルサもリゲルの行動に驚きの声を上げる。するとリゲルの体が青白く光り、飛び出した眼球も溶けた顎も元通りに戻っていく。
「ゲ~~! これは酷い……」
「リゲル! 本当にバカなのですか! バカなのですね!」
リゲルは腹から短剣を抜くと何事もなかったかのように立ち上がった。ヘラヘラとしているリゲルにプロキオンとアルネブは少し距離を取って構える。
(あれが第三の剣「サイフス」浄化し守る剣! やっぱり人間が作ったモノなんて効かないか……リゲルが戦闘モードに入る前にあのメニューで最初から剣を使えないよう一気に固める!)
アルネブが足をタップすると、今度は沸々と茶色くドロドロとした液体が空間から湧き出る。それはドーム状の空間の上からも垂れてきて、辺りは高温になり湯気が立ち込める。仕上げに温度計の形をした剣を突き立てると、茶色の液体がパキパキと固まりはじめた。
「そして、より音を反響させる。三本目の帯ミンタカ」
ベルサが空で踊るように回ると巨大な帯が一帯を囲み、ドーム状の空間をつくる。
「巨人が使用できるほど巨大なこの帯は広範囲を封ずる。これでワンちゃんにもアルニラムの音がよく響きますね。二人とも私のペットにしてあげましょうか」
ベルサは上機嫌で踊りまわる。
(三本の帯、ミンタカ、アルニラム、アルニタク。なんて厄介なの。私もプロキオンも耳が良い……まずはあの真珠の帯アルニラムを何とかしないと。攻撃できない)
アルネブが眉間にシワを寄せる。
「アルネブ、安心して、俺のラッパがカスタネットの音に負けるわけがないからな!」
元々垂れている耳をペタンとくっつけていたプロキオンが目を輝かせる。
「お客様、本日の音楽は『狩人の目覚め』でございます」
プロキオンがおじぎをし、ラッパを吹き始めるとアルネブは自由に動けるようになった。ラッパとカスタネットの音は反響し、混ざり合い、かき消し合う。
ベルサは不機嫌を隠さずに、踊るように負けじとカスタネットを打つ。
「アルニラムにこのような攻略法があるとは勉強になります。まるでお祭りみたいだ。書類業務の合間にちょうどいい息抜きになります」
リゲルが楽しそうに手を叩く。
自由になったアルネブが足をタップし、またベージュに艶めくチョコの雨を降らせるが、顔をしかめるベルサと違い、リゲルは気にする様子はない。
――私は知ってる。ベルサの三本の帯も厄介だけど、本当はこいつの方が危険だ。三本の剣を操る天使、リゲル。操るうちの一本、大剣「サイフ」は巨人の足のように重く、一振りで三つの星を割ると言われている。本人は戦いよりも知識を吸収し、博識ぶるのが好きみたいだけど。こいつが本気で戦いにきたら私やプロキオンなんて一瞬で吹き飛んでしまうかもしれない。
「これがただのチョコだったら他の天使たちに持って帰れたのになぁ」
リゲルが右手に持ったレイピアで突き刺す動作をすると、チョコと同じ数の青い閃光が現れ、チョコが破裂する前にすべて破壊してしまった。
(これがさっきも使っていた。第二の剣「ハチサ」突き刺す閃光の剣。このドーム状の空間で技を出されたら絶対に当たる。この二人の天使、だからペアなのね)
しかし、今度は破壊されたチョコから紫やボルドーの液体があふれ出す。
「今回は私たちが生前人間に与えられたモノを入れてみたの」
「アルネブ、やめてよ~。あれ嫌いなんだよ。たまに舌がヒリヒリしたり、にがかったり、苦しかったりする」
プロキオンがラッパを片手で回しながら、もう片方の手でラッパ銃を撃ち、リゲルの閃光を壊し、ベルサの真珠や貝殻に向かって撃ちながら言う。
「ヒリヒリ? 私は毎回痛かったのに」
アルネブが短く丸い尻尾をピクピクさせる。
リゲルは顎に手を当て「なるほど」とつぶやく。すべてを回避したベルサと違い、チョコの中身をくらったリゲルは白目が真っ赤に染まり、眼球が飛び出し、整った顔は焼けただれ口から大量の血を吐きながら顎が溶けていく。
膝から崩れ落ちたリゲルは「う゛ぇ゛ー」とチョコの液体を吐き出した。
「リゲル! なにをしているのですか!」
ベルサが急いでリゲルに駆け寄り、アルネブとプロキオンはあっけにとられてリゲルを見ている。
(自分からくらいに行きやがった!)
(わざと食べた!?)
リゲルは震える手で左に持っていた短剣を自らの腹に突き刺す。
「は?」
驚いたのはアルネブとプロキオンだけではなかった。ベルサもリゲルの行動に驚きの声を上げる。するとリゲルの体が青白く光り、飛び出した眼球も溶けた顎も元通りに戻っていく。
「ゲ~~! これは酷い……」
「リゲル! 本当にバカなのですか! バカなのですね!」
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