悪役令嬢? いえ私は、騎士になります。

桜咲 京華

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異世界転生ー私は騎士になりますー

27 侍女合流

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 現在は歓談の為の時間の筈で、このタイミングで音楽が止まるのは不自然だ。
 この世界にはCDなんてないので、この世界での音楽は全て手動の生演奏だ。
 つまり、パーティーの進行に異常があれば止まる。

 恐らく会場の誰かがレイチェル様の不在に気付いたのだろう。

「会場に戻ろう。クロウツィア…様。こうなったら戻ってウィンスター王子にこのことを知らせて捜索していただくしかない」
「どういうつもり?」

 元は私とレイチェルを誘拐して殺す作戦に参加した人間が、私がちょっと叩きのめしたからっていきなり協力的になるなんて不自然が過ぎる。
 どんな世間知らずだって絶対信じないと思う。
 真意を問う為にじっと顔を見ていると、ゼビル改めゼクトルは眼を逸らしたそうなそぶりを見せつつ振り切るようにじっと私を見返した。

「俺は元々レイチェル様を害するつもりは無かった。おま…貴女を殺す為にこの計画を利用しつつ、レイチェル様は逃がす。これが俺の計画だった」
「つまり、レイチェル様は助けたいから協力してくれるっていう話でいいのかな?」
 
 急いでいるので最低限の会話で済むように先回りすると、頷いた。

「それを私が信じるとでも? 正直、信じて背中向けた瞬間後ろからグサリなんていう展開を警戒してるんだけど。だって私のことは殺すつもりだったんでしょう?」
「いや、もうそれは良い。良くはないけど、レイチェル様の救出が最優先だ」

 何故そこまでしてレイチェル様を? というのが顔に出ていたのだろう、催促するまでもなくゼクトルがポツポツと理由を話し始めた。

「レイチェル様のことはなんとしても助けたい。彼女はジェイクの…ジェイクトール様の妹だから。俺はジェイクトール様のはとこでもあり、母が乳母をしていたので乳姉妹でもある」
「ジェイクトール様と…」

 ジェイクトールとは王太子の名前だ。
 確かに彼も25歳だったし、公爵は王族が臣下に降った際の身分だ。王族の乳母ともなればそれなりの身分が求められるし、公爵夫人で同い年の子がいるとなればうってつけといえる。信憑性がある話だろう。
 普通は公爵夫人も自分でお乳をあげないものだと思うけど、王太子の乳兄弟という地位を彼に与える為と考えると、如何にも野心家っぽいプリモワール公爵夫人の動機として十分だ。

「何より、俺の婚約者になるかもしれなかった人だからな」
「こ、婚約者!?」
「まだ生まれてなかったから、もし王家に女の子が生まれたらっていうぼんやりした話を聞いただけだったけど、そうおかしい話でもないだろ?」

 確かに。と納得してしまった。王族が生まれる前から婚約者を定められているのは割とよくある話だ。それが公爵家なら尚更。
 プリモワール公爵の蛮行が無ければ、10歳も年上のこのチャライケメンにあの超絶可愛いレイチェル様が……と考えると私の心の中で消化しきれない何かが渦巻くのを感じる。
 私の殺意に近いものを感じとったのか、ゼクトルの顔が青ざめたが知るものか。

「おい、なんかすげぇ殺気を感じるんだが……。こんな話をしてる場合じゃない。納得してくれたら早く会場へ戻ろう」
「待って、最後にもう一つ。私はこの事件が解決したら、嘘偽り無く事実をウィルに報告する。それでも協力するつもり?」
「……」

 それは、全てが終われば彼は捕まるということだ。
 レイチェル様の誘拐計画への協力は、情報提供により恩赦が出る可能性はあるが、私への殺人未遂は事実だ。そして何より彼は処刑されたプリモワール公爵の息子だ。どうなるか分からない。

 ゼクトルは地面についたままの両手をじっと眺めた後、顔を上げてこくりと頷いた。




 結局私はゼクトルを先頭に走らせる形で会場に戻る事にした。

 迷宮回廊はこの屋敷を縦横無尽に走っているが、外へ出る為の通路はゼクトルしか通れないようになっているらしく、彼らは必ず屋敷内のどこかへ出てくることになるらしい。でも、気が短いやつらだったので、追っ手に気付かれて追い詰められればレイチェル様に危害を加えられる可能性が高い。
 しかも、迷宮回廊の中は逃亡に適している為、足音がとても響く。だから中を通って追いかけようとすればすぐに気付かれてしまう。
 だから、ウィルに協力してもらい、全ての出口を見張って出て来た所を捕まえよう。という提案に私は乗った。

「ぐはぁ!?」

 ゼクトルの持つ灯りを頼りに厨房を抜けて、施錠されていた扉を解錠して開け放つと、何か大きなものが直撃して、変な悲鳴と共にゼクトルが倒れた。
 取り落とされた灯りがうまい具合にその原因を照らし出す。

「ミンネ! シュリア!」

 正体は、先行させていた侍女達のうちの二人だった。
 ミンネの姿にギョッとする。
 お仕着せに血が付いているのだ。しかも割とがっつり。

「……ミンネ、怪我を?」
「だーいじょうぶです。返り血ですからぁ」
「あ、やっぱりそう?」

 でも彼女たちは丸腰の筈。カーラが持っていたナイフも、髪飾りに偽装されたものだった。つまり武器らしい武器は誰も持っていない筈なのだ。
 ちらりとゼクトルを下敷きにして倒れている男を見ると、盛大に鼻血を吹いていた。これが答えだろう。ミンネの華奢に見える手の甲から血が滴り落ちそうになってる。どう考えても一撃での出来事じゃないな、あれ。

「お嬢様! 腕にお怪我を」
「痛っ」

 ミンネに気を取られている間にシュリアが私の左腕を両手で掴んでいた。忘れていたけれど先程の戦闘でゼクトルから一撃食らっていたんだった。折れはしなかったけど打撲位にはなっていたようで、急に触れられたら痛い。
 慌てたシュリアによってマノンで作られたポーションのようなものを振りかけられると、すぐに痛みは引いた。さすがの回復力だ。

「ヴィラント家の侍女達か」

 血塗れの男の下から這い出たゼクトルが立ち上がって私に並ぶと、一瞬ミンネとシュリアが警戒の姿勢を見せたが、私が特に警戒していないことを見て取ったからか、一礼をして一歩引いた。
 うちの侍女は平民なので、貴族の可能性のある初対面の人間には礼を取っておくのが無難だという教えがある為だ。


 

 
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