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異世界転生ー私は騎士になりますー

29 追って追われて -更新時間を九時に変更しますー

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「その者達を捕らえよ!」

 子爵の号令で私たちの周りに居た男たちは舌打ちをしながら撤退して逃げていった。
 念の為別の一派が居ないか周囲を確認しているうちに、いつのまにか近くに来ていた子爵がエスコートするかのように手を差し出してきていた。
 正直気が立っている今、令嬢として扱われることに苛立ちを感じるのだけれど、今はとりあえず捨てていた猫を拾って被り、カルスヴァール子爵の手に自分の手を乗せる。
 ちょっとお手っぽいなとか無関係なことを考えて気を散らしていると、子爵から私の全身を検めるような視線が注がれていることに気付いた。

「……よくお似合いではあるんですが、その装いはデビュタントとしては斬新ですね」
「あ、ちょっとお色直しを……」
「そうですか」
 
 お色直しってなんだ、結婚式じゃあるまいし。と内心でつっこむ。しかも納得しちゃうのかよ。

「あの、彼らはウィルの遣いで私を迎えに来たという方便を使っていましたが……本来その役目を負っていたのはカルスヴァール子爵。ということで合っておりますか?」
「ええ、その通りですが、もう一つの役目もあります」

 もう一つの役目とは何かと問い返そうとして、子爵の視線が私の後ろに向いていることに気付いた。
 後ろに立って居るのはミンネとゼクトル。視線を追って振り返ると苦虫を噛み潰したような顔をしているゼクトルが居た。
 え、もう正体バレてるの!? 早くない?
 とりあえず誤魔化しておこう。

「あの、彼は協力者で……」
「セイムリーア伯爵の護衛官ゼビル殿ですね? 伯爵にはとある容疑が掛かっておりますのでご同行お願い致します」

 あ、忘れてた。
 ゼクトル・プリモワールなんて素性関係無く容疑者の身内だったんだっけ。
 なんて気を逸らしていたら、後ろから強い衝撃があって倒れそうになった。
 気を抜いていたので顔から倒れそうになってたので焦っていたら、大きな胸板に受け止められた、子爵が前から受け止めるように抱き留めてくれたらしい。

「貴様何をする! ……どうした、具合が悪いのか?」

 私の代わりに怒ってくれた子爵の声が、怪訝そうな色を帯びたので振り返ると、ゼビルが蹲っていた。

「申し訳ない、クロウツィア嬢。先程貴女から頂いた一撃が思いのほか効いていたようです」
「え」

 私に一斉に視線が向く。
 返り血を浴びた侍女、そしてドレスより身軽な衣装を着た御令嬢、右手には鈍器として使える黒い棒。我が家は血の気が多いことで有名。そして、青い顔で蹲る容疑者。さぁ答えは? といったところか。

「どういうことです?」
「レイチェル様の行方を追っていると言われ、主には事後承諾ではありますが協力させていただくことになったのですが、主が事件にかかわっていると侍女殿から聞いたクロウツィア嬢が逆上して襲いかかって来られまして。誤解だと言ったのですが聞いてもらえず、とりあえずかかってこいとおっしゃっられまして。女性に手を上げるわけにもいかず……」

 弁解する暇も与えずすらすらと嘘のようで本当にも近いようなことをべらべらと話すゼビルにあっけに取られてしまう。
 これではただの乱暴者ではないか!
 あぁ、子爵の驚いた顔と、騎士団の連中の眼が痛い。

「あのねぇ!」
「―ー」
「!?」

 蹲るゼビルに文句を言ってやろうとしたら、耳元にそっと口元を寄せられた。そして告げられた言葉に反応する前にゼビルはさっさと立ち上がって子爵の元へ行ってしまう。

「同行しますよ。元々クロウツィア嬢に同行したのは捜索へのご協力の為でしたから。誤解があるのでしたらまず解くべきですしね」
「あ、あぁ、こちらへ。君達はクロウツィア嬢と侍女殿を会場へお連れして下さい」

 騎士団員達の是の声を背に、ゼクトルを伴ったカルスヴァール子爵は去って行ってしまった。
 彼等の背中を呆然と追っていると、ミンネが気遣うように声をかけてきた。

「お嬢様ぁ?」
「いえ、何でもないの。会場へは後どれくらいで戻れるのかしら?」

 余所行きの笑顔で騎士へ向き直ると、騎士達が怯えるように一歩下がった。
 オイ。笑顔から一転、薄目を開けて睨むと、更にビビられた。

 もういい、先へ進もう。

 私は彼らを放っておいて進ことにしたら、慌てて騎士達が追従するように歩き出した。そのうち、年嵩の男性が私の横を歩く。鎧を着ているせいか少し辛そうだ。うちの使用人なら人を担いで何キロ走っても平気そうな顔してるんだけどうちの基準がおかしいのかな。

「お待ちください。我々の先導を譲って下さらないと危険です」
「そう思うなら早く歩いて下さい。レイチェル様をお救いする為に一刻も無駄にしたくありません」

 正直遅い。こちらが身軽とはいえ、女の足に追いつくのがやっとというのはちょっと頼りなさすぎる。
 誰だ舌打ちした奴聞こえているぞと睨んだら、ヒィとか言って下がった。失礼な奴だ。

「ん?」

 歩くうちに鼻先に焦げ臭い匂いがする事に気付いた。
 見れば明るい筈の通路が白っぽくなって、そうこうするうちに周囲が真っ白になっていく。

「火事なのか!?」
「火元はどこだ!?」

 周囲を取り囲んでいた騎士達が大騒ぎを始める。
 そうこうするうちに何も見えない状態になってしまう。
 とりあえず姿勢を低くすると、耳元でミンネが「こちらへ」と囁いて腕を引いてきたので、手渡されたハンカチで口元を抑えつつ誘導に従う。

「そっちだ、逃がすな!」

 私達を誘導していた騎士の一人の声だ、どういうこと。味方じゃないの!?
 もう嫌だ。誰が敵なのか味方なのか分かんない。
 ミンネが優しく手を引いてくれるけれど、低い姿勢で走るというのは結構辛い。

 煙で目が痛い。

 怖い。

 手を放さないで、怖い。

 不意に私の身体が布で包まれ、優しく両膝裏から抱え上げるように抱き上げられた。
 記憶にある、触れる感触は華奢なのに、思いのほか力強い腕、こうして抱き上げられるのは三度目だった。森のような清涼な香りを纏っていて心地良い。
 布の向こう側から私を覗き込んでいるのは、月と同じ輝く金色。眼と眼が合うと、まるで光に透かしたべっ甲飴みたいにとろりとした雰囲気を帯びる。

「良かった、無事だったね、ローツィ」
「ウィル……」



 
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