悪役令嬢? いえ私は、騎士になります。

桜咲 京華

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異世界転生ー私は騎士になりますー

30 話し合い

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ー 何で女の癖に優勝なんかしてんだよ!ー



ー今日もお稽古? ねぇ遊ぼうよ。ー



ー茜ちゃんなんか大嫌い! 私よりお稽古が好きなんだー



















ーねぇ、そんなに強くなってどうするの?ー














 ふっと意識が浮上して飛び起きると、ミンネが目を丸くして私に布をかぶせようとする恰好のまま固まっていた。
 慌てて身を起こすと、元の衣装のまま白いマントに身を包んだ状態でシンプルなソファに寝かされていることが分かった。
 ミンネの後ろにケイリーも立っている。
 マントからは先程助けられた時にも感じた森のような清涼な香りがする。ウィルのマントだろう。
 キョロキョロと見回してもミンネとケイリー以外誰も居ない、簡素で狭い部屋だった。
 思い返しても、煙に巻かれた状態からウィルに助け出されたところまでしか記憶に無い。

「お嬢様ってば、そのマントをしっかり掴んで離して下さらなかったのでぇ、ウィンスター殿下が留め具から外してお貸し下さったのですよぅ」
 
 苦笑して柔らかく微笑むミンネに赤面してしまう。うわぁちっちゃい子かよ、恥ずかしい!

「あれからどれくらい時間が経っているの? 火事は!?」
「ほんの数分ですよぉ。あれは煙幕ですぅ」

 恥ずかしさを誤魔化そうと問いかけると、何でもないようなへらぁとした笑顔でミンネが差し出したのは黒いピンポン玉のようなものだった。投げると煙が出るらしい。
 何故いきなりそんなものを使ったのかと聞くと、ウィルと共に来たケイリーの指示らしい。
 侍女たちは遠目からでも伝わる手信号というもので簡単な指示が出せるように指導されているらしい。何その忍者スキル、私も伝授して欲しい。
 詳しくはミンネもケイリーも私の世話を優先して聞いていないとのことなので、ウィルの場所を聞くと、この部屋の中で唯一のドアを手で示してくれた。
 耳を凝らしてみると、かすかに話し声が漏れてきたので、慌ててマントを掴んだままでドアを押し開く。
 後ろからミンネ達の焦って呼び止めるような声がしたけれど、それどころではなかった。
 ドアの外は大きな机を正装した男たちが取り囲んでいて、その全員の視線がこちらに集まっている。
 私は一目散に一番近くに立って居た小柄な男性に飛びついて叫んだ。

「レイチェル様は見つかりましたか!? 後少しで救い出せたのに……申し訳ございません!!!」

 いきなり飛びつかれたウィルは眼を白黒させているけれど、私はそれどころでは無くて、悔しくて悲しくて、今頃レイチェル様が何かされていたらと思うと恐ろしくて涙が滲んでくる。
 でも泣いている場合じゃないと眼をきつく閉じて我慢していると、ふわりと温かな手が私の頭を撫でたのでびっくりして眼を開けると、優しい顔をしたウィルがそのまま撫でてくれていて、私はふっと力みが取れた。
 ダンスの時に気付いたけどウィルの手って意外と大きいんだよね。

「レイチェルの事を探してくれてありがとう。詳しく話を聞かせてくれる?」
「……はい」

 私はソファに誘導されて、ミンネによる紅茶の給仕を受けながら、ぽつぽつとこれまでの流れを説明した。
 勿論ゼビルの素性はとりあえず伏せた。自分が狙われていた件もレイチェルとは無関係なので伏せて、ゼビルはどういうわけかこの屋敷の迷宮回廊からの脱出方法を知っていた為に敵に協力していたが、拳で叩き伏せたら改心してくれたということにした。
 近くにしゃがんで相槌を打ちながら聞いてくれるウィルのおかげで、支離滅裂にならずに説明出来たと思う。カーラを始めとする侍女達と、私の戦歴に関する話になると若干顔を引きつらせていたけれども。
 ちなみにこの部屋に居るウィル以外の正装したメンツはシェイル以外は騎士団で見かけたメンバーばかりだ、この事態に対処する為に呼ばれたのだろう。
 私の話を聞いているうちに、ウィルの顔が曇ったのが見て取れた。

「僕達はそちらの侍女殿の話を聞いてすぐに迎えに行ったんだ」
「それって」

 何となくそんな気はしていたけれど、否定したかった。
 だって彼は初対面じゃ無かったから、例え連れていた者が敵だったからといって一緒くたにしたくない位には信じていたのに。
 ウィルを見ると何の表情も浮かんでいなかった。

「皆、聞いていたな。カルスヴァール子爵は敵に与みしていると考える。見つけ次第捕らえよ」

 背筋が震えて、冷たいものが流れた。
 だって、絶対私より辛いのはウィルに決まっているのだ。
 彼の邸宅には幼い頃から出入りしていたようだった。母親の縁者としてかなり可愛がってもらって育ったのがありありと伝わってくるような笑顔で接していたもの。

 私は何も言えなくて、ただ彼が自分の膝に置いていた手を両手で握った。その手はとても冷たくて固く握りしめられていた。

「何故ゼビルってやつを連れてったんだ?」

 ってシェイル空気読めよ!!
 何呑気な声で質問してんだ!

「それは勿論迷宮回廊の出口を探すためだろう。彼だけが知る出口というものがどこかにあるのかもしれない」

 そういって男達は机に向かって集まり始めた。机には恐らく屋敷の見取り図が置かれているのだろう、現在地はここで、地下はこちら、など話している声が聞こえる。
 彼等の様子を窺っていると、ウィルが申し訳なさそうにこちらに微笑んで、私が握っている手ではない方の手で私の手を上から覆うように握った。

「ローツィ。僕はレイチェルを救う為の話し合いをしなければ。申し訳ないけれど、隣室で休んでいてくれるかな? 本当はちゃんとした部屋で休ませてあげたいんだけど、警護の関係上仕方ないんだ」

 私は冷水を浴びせられた気分になった。
 ウィルは私をレイチェルの救出から外すつもりだ。





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