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異世界転生ー私は騎士になりますー
31 作戦会議中の一コマ ー遅刻しました。すみませんー
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「何言ってるの、私も行……きます」
うっかり敬語が抜けそうになった。さすがにこのメンバーの前でタメ口は拙い。
「危険だから駄目だよ。さっきだって騎士服を着ただけの偽物に騙されて居ただろう?」
ウィルが説明してくれた話によると、彼等は騎士服と鎧を着る上で必要な手順を踏まずに着こんでいた為に、分かる者には遠目にでも分かる違和感のある装いになっていたそうだ。それでケイリーに頼んで、ミンネが対応したという流れだったらしい。
「単独行動はしない、ウィルに同行するのなら良いでしょう? 足手纏いになるようなことはありません」
どうしても置いていくというのなら、脱出してでも行ってやる。
「しかし……」
「言い出したら聞きませんよクロウツィアは。実際その辺の騎士じゃ歯が立たないんだから、閉じ込めようとしたら見張りを叩き潰してでも出てくると思います」
シェイルの言葉に視線が私に集中するが、今まさに考えていたことだったので視線を逸らした。
「ではヴィラント嬢、彼等の行き先に何か心当たりはありませんか」
「おい」
年配のごつい男は、私の同行に反対する気は無いようだ。男を咎めたウィルはまだ私の方を見ているけれど、私が絶対行くのだという気持ちで見つめ返すと、逸らしたのはウィルの方だった。
あぁ、溜息つかれた。
呆れられたかな。
「どうして侯爵令嬢の君がそこまでするんだ」
ウィルからは表情が抜け落ちたままだ。前世で見たゲームのスチルと重なって見える。
ここで嘘や誤魔化しは良くないなと思う。
「私は、強くなることに理由が欲しかった。生まれた時から強くなることは当たり前で、稽古をしないことは悪いことで……」
試合に勝っても賞賛されはしても、道場の人達に褒められても、嬉しくなかった。
だってその勝利は何も生まない。
漫画だったら勝利は誰かを守るもので、でも試合にはそんなもの無い。ただ戦い、そして勝つ。それだけ。
「ただ強さだけを求めた私の力が、守ることに使えるというのなら。それで救えたなら」
ただ強くなることだけで過ごした生前の茜だって、戦うことを強いられることから逃げて引き籠っていた元のクロウツィアだってきっと。
「報われるというものでしょう?」
ウィルは、長い間何も言葉を発さなかった。他の人間は皆彼に注目していたので、必然的に誰一人身動きすらしない時間が続いた。まるで薄氷を踏むかのような静寂を破ったのは、やはりウィルだった。
「絶対に僕の傍を離れないことと、指示に従うことを約束して」
「はい! 分かりました」
折れてくれたようだ。
ウィルが踵を返そうとしたので、私は羽織っていたマントを返却することにした。
「これ、ありがとう。ごめんなさい、握りしめて離さなかったんですって?」
「……、ジェド、あれを持ってきて」
マントを渡すと、ウィルは私の全身を軽く眺めた後、侍従のジェドを呼んだ。
何だろうと思っていたら、ジェドから白い布の塊を受け取ったウィルが私の背後に回って服を着せ付けてくれた。
騎士服の上着のようだ。少し大きいが、袖さえ折れば動きに支障はない。
「これ、ウィルの?」
「さっきの服装はちょっと無防備すぎるから、それを着てて」
無防備ではないと思うけど、言われてみれば装甲はコルセットで覆われているのは動体部分だけなので、無防備といえば無防備かもと納得して頷いておく。
「ありがとうございます」
微笑んでお礼を言うと、何故かウィルが真っ赤になって俯いてしまった。どうしたんだろう。
ふと視線が集まっていることに気付いてそちらを見ると、何だか凄く生暖かい目線で見られていた。なんだろう、生前道場で生徒さんの彼女が差し入れを持ってきたのを目撃した時のような。
「どうしたんです? 皆さん」
「あー……」
「お兄様?」
シェイルの方を見ると、あーと何かを言いかけた状態のまま頭をポリポリと書いていて特に何も言おうとしない。
一体何なんだ。
と思っていると、ノック音が静寂を破った。
「入れ」
ウィルが応じると、入ってきたのは騎士数名に囲まれたシュリアとカーラだった。
うっかり敬語が抜けそうになった。さすがにこのメンバーの前でタメ口は拙い。
「危険だから駄目だよ。さっきだって騎士服を着ただけの偽物に騙されて居ただろう?」
ウィルが説明してくれた話によると、彼等は騎士服と鎧を着る上で必要な手順を踏まずに着こんでいた為に、分かる者には遠目にでも分かる違和感のある装いになっていたそうだ。それでケイリーに頼んで、ミンネが対応したという流れだったらしい。
「単独行動はしない、ウィルに同行するのなら良いでしょう? 足手纏いになるようなことはありません」
どうしても置いていくというのなら、脱出してでも行ってやる。
「しかし……」
「言い出したら聞きませんよクロウツィアは。実際その辺の騎士じゃ歯が立たないんだから、閉じ込めようとしたら見張りを叩き潰してでも出てくると思います」
シェイルの言葉に視線が私に集中するが、今まさに考えていたことだったので視線を逸らした。
「ではヴィラント嬢、彼等の行き先に何か心当たりはありませんか」
「おい」
年配のごつい男は、私の同行に反対する気は無いようだ。男を咎めたウィルはまだ私の方を見ているけれど、私が絶対行くのだという気持ちで見つめ返すと、逸らしたのはウィルの方だった。
あぁ、溜息つかれた。
呆れられたかな。
「どうして侯爵令嬢の君がそこまでするんだ」
ウィルからは表情が抜け落ちたままだ。前世で見たゲームのスチルと重なって見える。
ここで嘘や誤魔化しは良くないなと思う。
「私は、強くなることに理由が欲しかった。生まれた時から強くなることは当たり前で、稽古をしないことは悪いことで……」
試合に勝っても賞賛されはしても、道場の人達に褒められても、嬉しくなかった。
だってその勝利は何も生まない。
漫画だったら勝利は誰かを守るもので、でも試合にはそんなもの無い。ただ戦い、そして勝つ。それだけ。
「ただ強さだけを求めた私の力が、守ることに使えるというのなら。それで救えたなら」
ただ強くなることだけで過ごした生前の茜だって、戦うことを強いられることから逃げて引き籠っていた元のクロウツィアだってきっと。
「報われるというものでしょう?」
ウィルは、長い間何も言葉を発さなかった。他の人間は皆彼に注目していたので、必然的に誰一人身動きすらしない時間が続いた。まるで薄氷を踏むかのような静寂を破ったのは、やはりウィルだった。
「絶対に僕の傍を離れないことと、指示に従うことを約束して」
「はい! 分かりました」
折れてくれたようだ。
ウィルが踵を返そうとしたので、私は羽織っていたマントを返却することにした。
「これ、ありがとう。ごめんなさい、握りしめて離さなかったんですって?」
「……、ジェド、あれを持ってきて」
マントを渡すと、ウィルは私の全身を軽く眺めた後、侍従のジェドを呼んだ。
何だろうと思っていたら、ジェドから白い布の塊を受け取ったウィルが私の背後に回って服を着せ付けてくれた。
騎士服の上着のようだ。少し大きいが、袖さえ折れば動きに支障はない。
「これ、ウィルの?」
「さっきの服装はちょっと無防備すぎるから、それを着てて」
無防備ではないと思うけど、言われてみれば装甲はコルセットで覆われているのは動体部分だけなので、無防備といえば無防備かもと納得して頷いておく。
「ありがとうございます」
微笑んでお礼を言うと、何故かウィルが真っ赤になって俯いてしまった。どうしたんだろう。
ふと視線が集まっていることに気付いてそちらを見ると、何だか凄く生暖かい目線で見られていた。なんだろう、生前道場で生徒さんの彼女が差し入れを持ってきたのを目撃した時のような。
「どうしたんです? 皆さん」
「あー……」
「お兄様?」
シェイルの方を見ると、あーと何かを言いかけた状態のまま頭をポリポリと書いていて特に何も言おうとしない。
一体何なんだ。
と思っていると、ノック音が静寂を破った。
「入れ」
ウィルが応じると、入ってきたのは騎士数名に囲まれたシュリアとカーラだった。
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