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気づいたら神社ごと異世界に飛ばされていた件
5話目
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メルの案内で村に到着してみると、思った以上に近かった。
昨日カヴァラと遭遇したところから数百メートルというあたりまで出ると、村が見えたのだ。密集した木のせいで見えていなかっただけだった。
不思議なことに、柵や囲いも無く、うちの神社のように森の真ん中にポツンとある。カヴァラのようなヤバイ魔物が出る筈なのに不用心すぎるのではないだろうか。
家は木造二階建てが30件くらいで、広さはうちの高校位であまり広くはない。
「メル! メルだ! 無事だったんだ良かったぁ!」
「メルー!!」
森の切れ目から出たとたん、村の外側を歩いていた子供達がメルに気づいて走ってきて飛びついた。その中には彼女の弟も紛れていたようで、エルドという昨日聞いた名前が聞こえてくる。
と思ったら村のあちこちから人が出てきてぶわーっと集まってきて、メルは一瞬で埋もれた。俺はというと一緒に囲まれた。
予定ではメルが村に入る時に一旦離れて隠れて様子を見る予定だったのに……。
そして次々に誰、とかメルを助けてくれてありがとうだとか言っているのは分かるが、あまりに人数が多すぎて何を言われているかわからない。で、どうなったかというと気絶した……。
意識を失う瞬間に見えたのは、人垣の間から見えたメルの驚いた顔だった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ふと目が覚めると木造の屋根が見えた。
気絶してしまった俺はどこかの家に運ばれたらしい。思い返しても恥ずかしさで消え入りたくなる。
隣に人の気配を感じて視線を移すと赤い髪の美少女、メルが座っていた椅子から立ち上がって身を乗り出してきた。
「あ、起きた! 良かった」
「メル?」
寝かされていたのは、ベッドというよりも、木で組まれた台に、藁や草のようなガサガサと音が鳴る何かを包んだ布が置かれているものだ。体にかけてある布も同じような感じだ。正直寝心地はあまり良くない。
これがこの世界の水準のようだ。どおりで毛布くらいであれだけ驚いていた筈だ。
「さっきまで元気そうだったのに、急にどうしたんだ? 朝ごはん用意してあるけど、食べられる?」
「ありがとう。ちょっとした発作みたいなもんで、原因は分かってるから大丈夫。びっくりさせてごめん」
単に一目を避けて生きてきたのに唐突に大勢に囲まれたことによる人酔いと緊張が原因だ。つまりキャパオーバーしただけである。かっこ悪くて絶対に言えない。
身を起こすと、メルが座っていた椅子の隣に置かれた台には土器のようなお椀にスープのようなものが入っていて、隣には木でできたお皿に、ナンのような平べったいパンが乗っている。
食器として、木で作られたスプーンが添えられていた。刃物で削って作られているようでかなり形は荒い。
「こっち座りなよ」
「ありがとう。いただきます」
食べる体制に入る為にメルが椅子を譲ってくれたので、座りなおして手を合わせる。手を合わせると、メルがベッドに座りなおしながら不思議そうな顔をした。こちらには食べる前に手を合わせる習慣など無いのだろうが、特につっこまないでいてくれた。
少し冷めかけたスープの中には、肉と、見覚えのある草やコケが浮いている。匂いは青臭くて口に入れるのに勇気がいる。
期待たっぷりの笑顔で見つめてくるメルの視線に負けて一口含んだ後、思わず首を傾げた。味が無いのだ。いや、あるにはある。水に肉から出たダシと、草の味……。見たままの味しかしない。気を取り直してナンのようなものを食べてみると。こちらはほんのり甘みがあってもちもちしていておいしい。この甘みの正体は練りこまれた干した果物のようだ。これが無いと無味なのだろう。
俺はここに来て初めて帰りたい気持ちになった。調味料というものがここには無いことを察してしまったからだ。
昨日のカヴァラの肉も、塩コショウがあったらもっとおいしいのになーなんて思っていたが、状況が状況だけに諦めていた。でも、この先一生この食生活というのは辛い。せめて塩が欲しい。塩を手に入れるには海に行くしかない。海には魚もいる。
「京助、おいしくない?」
「い、いやそんなことないよ。このパンとか凄いおいしいし。それよりこの近くに海ってない?」
俺はこの世界で最初の目的を見つけた。
そう、塩を探すのだ。
昨日カヴァラと遭遇したところから数百メートルというあたりまで出ると、村が見えたのだ。密集した木のせいで見えていなかっただけだった。
不思議なことに、柵や囲いも無く、うちの神社のように森の真ん中にポツンとある。カヴァラのようなヤバイ魔物が出る筈なのに不用心すぎるのではないだろうか。
家は木造二階建てが30件くらいで、広さはうちの高校位であまり広くはない。
「メル! メルだ! 無事だったんだ良かったぁ!」
「メルー!!」
森の切れ目から出たとたん、村の外側を歩いていた子供達がメルに気づいて走ってきて飛びついた。その中には彼女の弟も紛れていたようで、エルドという昨日聞いた名前が聞こえてくる。
と思ったら村のあちこちから人が出てきてぶわーっと集まってきて、メルは一瞬で埋もれた。俺はというと一緒に囲まれた。
予定ではメルが村に入る時に一旦離れて隠れて様子を見る予定だったのに……。
そして次々に誰、とかメルを助けてくれてありがとうだとか言っているのは分かるが、あまりに人数が多すぎて何を言われているかわからない。で、どうなったかというと気絶した……。
意識を失う瞬間に見えたのは、人垣の間から見えたメルの驚いた顔だった。
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ふと目が覚めると木造の屋根が見えた。
気絶してしまった俺はどこかの家に運ばれたらしい。思い返しても恥ずかしさで消え入りたくなる。
隣に人の気配を感じて視線を移すと赤い髪の美少女、メルが座っていた椅子から立ち上がって身を乗り出してきた。
「あ、起きた! 良かった」
「メル?」
寝かされていたのは、ベッドというよりも、木で組まれた台に、藁や草のようなガサガサと音が鳴る何かを包んだ布が置かれているものだ。体にかけてある布も同じような感じだ。正直寝心地はあまり良くない。
これがこの世界の水準のようだ。どおりで毛布くらいであれだけ驚いていた筈だ。
「さっきまで元気そうだったのに、急にどうしたんだ? 朝ごはん用意してあるけど、食べられる?」
「ありがとう。ちょっとした発作みたいなもんで、原因は分かってるから大丈夫。びっくりさせてごめん」
単に一目を避けて生きてきたのに唐突に大勢に囲まれたことによる人酔いと緊張が原因だ。つまりキャパオーバーしただけである。かっこ悪くて絶対に言えない。
身を起こすと、メルが座っていた椅子の隣に置かれた台には土器のようなお椀にスープのようなものが入っていて、隣には木でできたお皿に、ナンのような平べったいパンが乗っている。
食器として、木で作られたスプーンが添えられていた。刃物で削って作られているようでかなり形は荒い。
「こっち座りなよ」
「ありがとう。いただきます」
食べる体制に入る為にメルが椅子を譲ってくれたので、座りなおして手を合わせる。手を合わせると、メルがベッドに座りなおしながら不思議そうな顔をした。こちらには食べる前に手を合わせる習慣など無いのだろうが、特につっこまないでいてくれた。
少し冷めかけたスープの中には、肉と、見覚えのある草やコケが浮いている。匂いは青臭くて口に入れるのに勇気がいる。
期待たっぷりの笑顔で見つめてくるメルの視線に負けて一口含んだ後、思わず首を傾げた。味が無いのだ。いや、あるにはある。水に肉から出たダシと、草の味……。見たままの味しかしない。気を取り直してナンのようなものを食べてみると。こちらはほんのり甘みがあってもちもちしていておいしい。この甘みの正体は練りこまれた干した果物のようだ。これが無いと無味なのだろう。
俺はここに来て初めて帰りたい気持ちになった。調味料というものがここには無いことを察してしまったからだ。
昨日のカヴァラの肉も、塩コショウがあったらもっとおいしいのになーなんて思っていたが、状況が状況だけに諦めていた。でも、この先一生この食生活というのは辛い。せめて塩が欲しい。塩を手に入れるには海に行くしかない。海には魚もいる。
「京助、おいしくない?」
「い、いやそんなことないよ。このパンとか凄いおいしいし。それよりこの近くに海ってない?」
俺はこの世界で最初の目的を見つけた。
そう、塩を探すのだ。
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