アガリ症の俺は人目を避けて異世界で無双する ※タイトル変更しました 旧「異世界剣士の無双日記!?」

桜咲 京華

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気づいたら神社ごと異世界に飛ばされていた件

10話目

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「モグラが立ってしゃべってるぅ……」

 我ながら震えた情けない声がでた。
 ボスコと名乗ったモグラは、大きめの小型犬くらいの大きさで、明るいところで見ると可愛らしい姿をしている。確かモグラは真っ暗な土の下で生活するので目が退化しているというのを図鑑で見た気がするが、ボスコはパッチリとした瞳を怒りで釣り上げている。ちょっとかわいいかもしれない。
 でも両手から伸びている爪を向けられればそれなりに怪我をするだろう。警戒は解けない。

「お前俺の言葉分かるんか? なんや知らんけど、さっきから見とったら簡単に穴掘りよるし、火やら水やらポンポンだしよるし。見たことないでお前みたいなやつ」
「え? クラヴィス使いなら他にも居るし。勝手にペラペラしゃべってるのそっちだし……」

 思わず普通に会話してしまった。ボスコは最初こそ怒っていたように見えたが、それほど敵意がある雰囲気でもないので少し緊張が緩んだ。遠縁の大阪のおじさんを思い出したのもある。彼は家族とは全く違う雰囲気と気質で、傍に居て苦にならない数少ない人だったので。

「一個か二個は何かしら使えるやつもおるけど、ここまで強いやつは見たことあれへんわ! それに人間っつーんは俺らとは全然違う言葉つこうとる筈や。まぁ、魔物と間違われることもあるんで直接しゃべったことはあれへんから遠くで聞いたことあるだけやけどな」
「は、はぁ。そういえば、俺ってなんでメル達の言葉分かったんだろ」

 我ながら気づくのが遅いなと思った。
 彼らは自分とは全く違う世界で生きている。当然言語体系も違う可能性が高い。それなのに、メルとはすんなり会話できた。メル達だけなら、気づかなかったかもしれないが、こうして明らかに人間ではない生物と会話できるというのはどういうことなのか。

  ぐぅーー

「何や腹減っとるんかいな」
「うっうん。朝食べたっきりだったから。ねぇ、ここから地上ってどれくらいの距離なのかな。あまり遠いようならせめて水があるところに連れてって欲しいんだけど」

 答えの出ない問に悩むより、身体は生存本能を優先したようだった。ボスコの気安い雰囲気に頼って聞いてみることにした。ダメでもともとというやつである。

「地上なぁ……俺一人なら、いつも使ってる道があるよって明日の朝には着くんやけど、お前やと通れんしなぁ。しゃーない。俺の巣穴に案内したろ。そんかし俺の頼みを聞いてもらうけどな」
「明日の朝って……結構遠いんだな。俺に出来ることならなんでもするから連れてってよ。実は朝から飲まず食わずで結構限界なんだ」
「こっちや。穴を広げるんはかまへんけど、こんな大きな穴をあまりあけへんほうがええで、崩れたらかなんし」
「そ、そういえばそうだね。わかった」

 ボスコに従って来た道を戻りながら告げられた忠言に青ざめる。確かに地盤は固くて崩れそうな感じはしていないが、もしも崩落したら自分はもちろん生き埋めになるし、メルの村にも被害が出るかもしれない。脱出に必死でそこまで考えていなかった。危ないところだ。
 示された穴は、内側に向かって土や小石が盛られている。向こう側から顔を出してきたのだろう。

「この向こう側に俺の普段つこてる道があるねん。地盤がかとうて穴掘れるところは限られてるからな、横穴掘れたんもここだけや。先行くから穴掘るんやったら後ろの方で頼むで。俺を巻き込まんといてや!」
「いや、このままついてくよ。ギリギリだけど何とか通れそう」

 ボスコの通り道は先程急遽開けたという入口の横穴はさすがに小さすぎて通れないが、その奥はボスコが立って歩ける程度の大きさがあるようだった。崩落の危険という懸念を感じている今、無理に穴をあける理由はない。横穴はさすがにクラヴィスで少し広げたものの、その奥の通路は這って歩くことが可能だった。
 しかし、ボスコの通路をしばらく進むうちに、問題点に気づいた。

「熱い……あと、息苦しい」
「そうか? 俺は慣れてるから何とも思わんけど。もう少しやからがんばり。ほら、あそこや」
「ほらって言われても見えないけどね」

 自分であけた穴と違い、ボスコの穴は空気が薄い。外と繋がっている部分からかなり離れているせいだと思われた。
 更に困ったことに、クラヴィスは御陵丸を抜刀していないと発動しない。これは穴に入る為に御陵丸を鞘に収めた時に気づいたのだが、灯りとしてともしていた炎が消えてしまったのだ。この暑さの中で炎を出すのは現実的じゃないので結局消すことになっただろうが。風のクラヴィスが使えればこの空気の薄さと暑さを和らげることが出来るのに。
 そんなわけで現在、振り返ったボスコの目の光を頼りにひたすら手足を動かすしか出来ない。幸い一本道のようで迷う心配はなさそうだ。

「ん、涼しくなってきた?」

 しばらく這って歩いていて、不意に身体が楽になった。空気の流れが変わったのを感じたのだ。

「おう、もうちょっとやで。もう見えて来たわ」
「ほんとだ。見える! なんで!?」

 しばらくするとボスコの行く先が薄緑色に光っていることに気づいた。ボスコの身体が邪魔であまり見えなかったが、彼が巣だという空間に入っていったことで通路の先が何かで光っているのが分かった。
 通路が途切れてその全貌が明らかになる。

「――すごい」
「えぇとこやろ?」

 その空間は、広い地底湖だった。どこまで続いているのかはわからないが、一面光っている壁のお陰でかなり遠くまで続いていることだけは分かる。
 立ち上がって壁に触れると苔が光っている。先程から見えていた光の正体はこれのようだ。
 この光る苔が壁一面に生えていて、地底湖を擁するこの大洞窟をぼんやりと神秘的に照らしている。
 地底湖を覗き込むと、かなりの深さがあり、ゆるやかだが流れがあるようだ。水はかなり綺麗なようで、両手で掬ってもゴミなどは浮いていない。そのまま、口に含むと体に染み渡っていくような感じがした。そして、もう一杯もう一杯と気が済むまで飲んだ。

「美味しい」

 涙が出そうだった。今日一日の苦労が報われた気分だ。

「腹減っとるんやろ。ほら飯や」
「ありが……いっいや、悪いから! 食事は自分でなんとかするよ! うん! ほんと大丈夫。連れてきてくれてありがとう」
「そうか? 遠慮せんでええのに」

 ボスコは洞窟の一角に横穴を掘って枯れ葉などを集めた寝床を作っているらしく、そこでしばらくごそごそしていたが手に何かを抱えて戻ってきた。
 食事を用意してくれていたようだったが、抱えて戻ってきたのは大量のミミズだった。
 やはりしゃべっていてもモグラはモグラだったのだ。

 結局その日は食事抜きで湖のほとりで眠りについた。
 ボスコが一晩だけなら提供すると言ってくれたねぐらは枯れ葉がこんもりと盛られていて柔らかそうだったが、サイズはボスコサイズだし、枕元には保存食入れと称された花壇がある。中身は……。

 寝れるか!



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