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第5章-----(4)-4〈太陽〉テオス
しおりを挟む「我はこちらに来てそれほど時を経てないが、前世とそのまた前世の記憶により、霊界のだいたいの事情は把握している。対象者は神に喜びを与えるだけ存在ではない。霊界の生き物も対象者の影響を受ける。現在、天使軍と魔王軍の戦いは膠着している。アルシュがその役割をまっとうすれば、戦局は動く。アルシュは安定してるから、有望だろう。難があるとすれば、人族なので寿命が短いということだな。大業をなすにはあまりにはかない」
デーミウールゴスは呼ばれてもいないのに声だけ届けてきた鎮守神の発言を聞いていたが、「なるほど」と言った。
「確かに人間の寿命は短い。この者の世界では何年くらいだったかな」
「四十年、よく生きて六十年ほどであるかと」天使が答える。
「では補ってやらねばなるまい。現在、対象者には白魔法使いがひとりついている。だが、それだけでは足りない。幸い、対象者と同じ世界に属する大きな力を持つ魂が最近、永遠の眠りについた。現れろ、〈元凶の魔法使い〉ガウラの良心よ」
デーミウールゴスの指先が動き、印を結んだ。すると小さな光の球体があらわれた。創造神はやさしいと言ってもよい口調で問いかけた。
「眠りについたところ呼び出してすまないが、創世神の権能により、滅びの眠りにつくより早く達成することができる贖罪の道を与えようと言ったら、どうするか?」
「……――、……」
「そうだ。この者に力を貸せば、この者の功績の十分の一をお前の贖罪にあてよう」
「……、!」
光が興奮したように点滅する。神は満足したように頷いた。
「話がついた。ガウラの良心は快諾した。これで二人の魔法使いが力を与えることになる。大きな力だ。これによりお前は本来、お前の属する世界の人族では考えられぬ長さの寿命を得ることができるだろう。魔法の能力についても大きく、底上げされる。だが勿論、すぐ新たな魔力を使えるわけではない。それなりの修練を経なければ能力を引き出せぬようにしておこう。良いな、アルシュ」
「え。それはいったい」
アルシュはきょとんとした。先ほどから人々が極めて重要なかれ自身のことを話してることは察していたが、話の内容がさっぱり理解できない。
「力を与えるとか、使命とか、わけがわからないんですが。だいたいポポの祝福を受けた運命の子はレザックで、俺はあの子を立派に育て上げるためにこの先、生きてゆけばいいだけで……と言うか、本当に、俺は元の世界に戻りたいだけなんですが」
「アルシュよ」
神は憐れむような目を向けた。
「それはお前が霊界で私と出会う前までの話だ。確かにお前の子には特別な運命が用意されている。だが、それはお前の世界のごく狭い範囲に適用されるものにすぎぬ。今、お前に与えようとするものはそれよりさらに大きな――……」
その言葉の続きをアルシュは聞くことができなかった。デーミウールゴスの言葉が風となり、アルシュの耳から通り抜けてゆく。
ハッと我に返ると、神は肩をすくめ、何事もなかったように言った。
「最後に私が祝福を与えてやろう。今、この場をもって、お前の〈聖母〉の称号を名実とものものにする。お前の世界の各地の僧侶や神官、高位術師と支配者たちにそのことを申し渡しておこう。そうすれば少しは仕事がやりやすくなる」
「やめて下さい! アルシュにそんな重荷を背負わせるのは。かれには人としての、ささやかで幸福な人生を歩んでもらいたいだけなのですっ」テオスの必死な声。
「テオスよ。この者の教育はまかせたからな」
「主よ! そんな自分勝手なっ!」
今世テオスの取り乱した声がわんわんとアルシュの頭の中に響いた。熱風の勢いがさらに強くなり、竜巻のようなものを作り上げ――
◇
アルシュはパチッと翡翠の目を開いた。
まず思ったのは、まつ毛が重いということだった。目を開いただけなのに違和感がする。それから体全体におそろしいほどの倦怠がある。
「……俺は――」
かすれた声が出た。
見慣れた天井と壁が見える。かれはエラルドとムフーの間にある新しい集落の、自分の家のベッドに寝かされてるようだった。隣ではウーディが寝息をたてている。アルシュはまた霊界の不思議のひとつではないだろうかと疑うように、ゆっくり上体を起こした。
その時だった。
「かあたまッ! れーたん、まったよ! まったよ、いいこしてたよ!」
アルシュの肉体に魂が戻ったことに気が付いたレザックが、どしんとぶつかってきた。
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