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茨の門

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「この辺りだと思うんだけど……」

 野営地を朝早く発った私達は、二時間程歩いて目的地に到着した。天気は良いはずだが、高木の葉が空を覆い隠し、その隙間を埋めるように低木が生息している。一度来ているからだろう、人が歩けるように低木の枝が刈り取られている。
「ああ、あそこだ。」
 先頭を歩くルイベルト様が、茨の枝が絡まる一点を指差した。足下に注意しながらゆっくりと近づいていく。
「この前来た時はここまで絡まっていなかったんだが、通る為に茨に刃を入れようとしたり、魔法で焼こうとしたらより一層絡まってしまった。」
 シリウス様の言葉に頷いて私は茨の前に立つ。目を瞑りゲームのストーリーを思い出した。
「ルナマリア様の意識を取り戻す為、どうか私達をブルーローズの元にお導き下さい。」
 祈りを捧げ、茨の棘の先端に人差し指を近づける。軽く触れると朱色の雫が滴り落ちる。
「聖女さん何をっ!!」
 シリウス様が慌てて止めようとするのを無視して、私はその雫を茨に与える。落ちた雫は、茨に吸収されて消えた。周囲がどよめき出すのとほぼ同時に、茨が少しずつ解れていき、やがて誘うように道が開いた。
 それを待っていたかのように私の左肩にパールが降りてきた。右手側に人の気配を感じ見上げると、左手を差し出すルイベルト様と目が合った。
「行こう。」
 私は頷いて、ルイベルト様の左手の上に右手を乗せて、再び前を見る。真っ直ぐに続く道は、森の中にしては異様な光景で、まるで薄暗い洞窟に向かっているかのように見えた。
 私はルイベルト様にエスコートされて、ゆっくりと周囲を警戒しながら歩き出す。一歩、ニ歩…茨を越えたところで左横を掠める者があった。
「アハダさん…?」
「兄さん、危ないっ!!」
 レオナルド様の声に驚いて後ろを振り返ると、茨が再び絡み合う光景が視界に入ってきた。
「カサカサカサ……ギシッ……」
「えっ?」
 それは一瞬の出来事だった。
「ルイ、聖女さん、大丈夫かっ?!痛っ!!」
 シリウス様が、慌てて茨に手を近づけ怪我をしたらしい。茨の向こうは、微かな隙間からしか見えない。ルイベルト様が、茨の向こうへ声をかける。
「シリウス怪我したのか?」
「ああ、でもレオがいるから大丈夫だ。それより、これからどうする?もう一度聖女さんに茨を解いてもらうか。」
「それは……たぶん無理だろう。恐らく茨は聖女様の為にだけ道を開いた。私は、手を持って一緒に通った為に、通れただけだろう。申し訳ないがそこで待っていてはくれないか?ここから出る時、すんなり出れるかもわからない。」
「それは……」
「お前の立場はわかっている。必ず全員で戻って来る。時間が無いんだ。」
「わかった。茨を調べながら待っている。必ず戻って来い。」
「ありがとう。行ってくる。」
 ルイベルト様と私は、顔を見合わせて頷く。
「急ぎましょう。」
 私達は、先の見えない道を走り出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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