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フェイクローズ

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「なるべく固まってくれ。広範囲だと魔力の消費が馬鹿にならん。」

 シリウス様の声が聞こえる。シールドでなんとか攻撃を避けているようだ。
「あと少し……。」
「今だ。聖女やれっ!!」
 ユニさんが高くジャンプして、合図をくれる。私は手に持っていた小瓶を開け、中身を茨に向けて撒き散らした。
 茨は、白い煙を吹き上げながら激しくうねり出す。
 私が先に着いていたルイベルト様と共に後方へ避難すると、周りを護衛の兵達が囲んでくれた。そして、その数メートル前方にシリウス様、レオナルド様、アハダさん、ユニさんが私達を守るように茨に対峙している。
「来るぞ。構えろ!!」
 シリウス様の声と同時に地面が割れ、そこから大きな花の蕾が現れる。
 ユニさんが叫ぶ。
「花を咲かせるな。行くぞ。」
 レオナルド様を除く者達が、敵に向かって走り出す。
 シリウス様は。剣で。ユニさんは、四肢で。アハダさんは、牙で噛みついて。其々に鞭のように攻撃をしてくる茨をレオナルド様が小さなシールドを飛ばして防いでいく。
「凄い連携……。そういえば、レオナルド様もシリウス様も魔法の詠唱してない。」
 思わず言葉が溢れる。
「ああ、彼ら辺境伯家の者は皆、詠唱しないんだ。幼い頃からそういう訓練をしていた。詠唱の時間は無駄だと、そんな事をしていたら、誰も救えないとまで言い張って。自ら受ける身体への負荷は、訓練で耐えられるようになると。彼らの辺境の地を守る、国民を守るという覚悟には恐れ入る。凄いよ。しかし今は……さっきからシリウスの攻撃しかダメージを与えられてない気がする。何故だ?」
 何故?何故だろう?あれ?そういえばゲームの主人公って、どうやって茨の壁を抜け出たんだっけ?あー思い出せない。
「ルイベルト様、ゲームの聖女ってどうやってここを抜け出たのか覚えてません?そもそも何で入る方法を知っていたんでしたっけ?」
 ルイベルト様は、少し考えてから答えた。
「ゲームでの出方は、泉の水で開いたんじゃなかったっけ?入る方法は……確か幼い頃に母親から聞いていたとかじゃなかった?隣国の伝承だか何だかで。」
 あー、徐々に思い出してきた。そうっか、そうだわ。植物はお酢や塩分を嫌うんだっけ。それで泉の水がダメージを与えられたのね。でも、今シリウス様の攻撃しか効かないのはどうしてかしら?
 入る時は、指の血を茨に……ん?血……シリウス様も茨に触れて怪我をしていたよね。うーん、まぁ、考えてもわからん、試してみるか。
「あの、どなたか茨で怪我をして、血が吸収された方いらっしゃいませんか?」
「あ、はい。でもレオナルド様が手当してくださいましたので。」
「あ、そうでしたか。そしたらちょっとお願いがあるのですが……フェイクローズの根元に、魔法で良いので攻撃してみて頂けませんか?」
「良いですが、以前はびくともしませんでしたよ?」
「あ、反応を見たいだけなので。」
「はぁ、わかりました。いきますよ。」
 兵士は立ち上がり、茎の部分を狙って初級魔法を放つ。
「ドドドドドドッ……」
 魔法が茨に当たり煙が立つ。茨がダメージを負って暴れ出した。
「ヨシッ。」
 私は、両手の掌を握り込む。
「どういう事だ?」
「理由は解らないんですけど、私とシリウス様の茨に対する共通点が、血を吸われた事だったので、もしかしたら……と思いまして。これで反撃出来そうですね。」
 ルイベルト様の質問にも曖昧な答えしか出来ないけれど、ただ、感が当たっただけなのよ。
 編隊を組んでルイベルト様の指揮のもと攻撃が始まった。
 私は手元のブルーローズを見る。
「マリー様、もう少し待っててくださいね。」 
 
 
 
 
 

 
 
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