6 / 72
第2章 グレタへ走れ
第6話 村の戦い
しおりを挟む
ロウドは走る。
暗い洞窟の中、角燈の明かりを頼りに必死に出口を目指して走る。
「アーサーさん、カリンさん、ジャンさん……すみません」
暗い地の底で最期を遂げた先輩たち。
麓の村で「その小鬼退治、一緒に連れていってください」といきなり言った自分を同行させてくれた、気のいい人たち(一名除く)。
彼らに報いる方法はただ一つ。
早くグレタの町と聖堂騎士団に魔族の軍団の襲撃を伝えること。
その思いだけを胸に、出口を目指す。
「あ、あれは!」
小鬼の巣穴の洞窟から出たロウドの目に入ったもの。
それは夜明け前の薄暗い中、真っ赤な火の手の上がる麓の村だった。
「村もやはり襲われたのか……くそ!」
間に合ってくれ。必死に山の斜面を急いで駆け下りるロウド。
木の根や泥に足を取られながらもひた走る。
村に近付くにつれ、様子が見えてきた。
家々に火が放たれて燃えており、その間に数多の魔族の姿が見え隠れする。
村の中を走り回っているのは小鬼の群れだ。そして、家の屋根を越えた位置に頭が見える。
成人男性の2倍ほどの体躯を誇る大鬼である。
おそらく、この大鬼を指揮官とした部隊が村を潰すために残されたのだろう。
「くそ、村人を逃がさないと!」
早く奴らの前に立ち、村人が逃げるための盾にならなければ、と気がはやるロウド。
小鬼にも手こずった自分が、大鬼に叶うとはおもわない。だが、村の人が襲われているのを黙って見過ごしなどできはしない。
「ん、なんだ?」
村の外れの畑を荒らし回っている小鬼数匹が、いきなり一点を中心に放射状に吹き飛んだ。
訝しんだロウドの目に、家の陰から現れた人物が見える。
その人物は、黒色のフード付きの外套に身を包み、右手には宝石が先に付いた短めの杖を持っていた。
「まさか、魔術師?!」
驚くロウド。
前にも説明したように、主流である太陽神の教団が魔術を異端認定したために、このアレルヤ地方では魔術師は大っぴらに活動はできない。
ロウドも当然会ったことはないが、宝石の付いた短い杖でピンときたのだ。
魔術師?は短杖を、畑を荒らしている他の小鬼に向ける。
先程と同じように吹き飛ぶ小鬼。
やはり彼は魔術師で、魔術によって小鬼を攻撃しているのだ。
倒れた小鬼に近寄って見下ろし、空いている左手で外套のフードを後頭部側に下ろす魔術師。
灰色の髪が見える。顔は遠くてまだ良く分からないが男であることは多分間違いない。
その魔術師に背後から、最初の魔術で吹き飛んだ小鬼の一匹が起き上がって襲いかかった。。
運良く生き延びた小鬼は、手斧を振りかざして、虚を突かれた魔術師に走り寄る。
接近戦の苦手な術者など詠唱させなければこっちのもの。自分に痛い目を合わせた報いを受けさせてやるのだ。
そう息巻いた小鬼の側頭部に、横合いから飛んできた矢が突き刺さる。
目の前で倒れた小鬼に胸をなで下ろし、家の陰にいる射手に礼を言う魔術師。
家の陰から現れたのは、蜂蜜色の長い髪を肩の下辺りまで伸ばした、矢筒を背負い短弓が得物の皮鎧の青年だ。
おそらくは野伏であろう青年は、魔術師の仲間なのか。
二人は、倒れた他の小鬼の息の根をしっかりと止めて、村の中央部の方へと戻っていく。
村の中央では、大鬼が暴れ回っていた。
だが、様子がおかしい。
特大サイズの大鎌を振るっているようなのだが、それがどうやら弾き返されているようなのだ。
大鬼の攻撃をいなせるような熟練の戦士が来て、村を守って戦ってくれている。
ロウドは安堵した。
最悪、自分の命を賭けてでも、村人を守らなければと悲壮な覚悟をしていたのに、これで大丈夫だ、と思ったのだ。
これで、この村を村人を守った後、アーサーたちの町であるグレタに行くことができる。
境界線である柵を越え村に入ったロウドの目に映ったもの。
それは、村の中央の広場にて、大鬼と一騎打ちをする戦士だった。
まともに手入れをしていないような黒いざんばら髪を肩の辺りまで伸ばし、黒い皮鎧?を着込んで、篭手と脛当ての代わりなのか、前腕と脛に毛皮を巻き付けている。
その出で立ちと筋骨隆々の体躯は、完全に蛮族の戦士である。
だが、彼の特異性は防具ではなく、その得物であった。
あえて言うなら、長刀だろうか。片刃の反り身の刃のような穂先に長柄が付いている。
しかし、その穂先の刃が異常に長く幅広で分厚いのだ。まるで特大サイズの曲刀の刃に無理矢理、長柄を付けたかのようにバランスが悪い。
「大鬼殺し?」
ロウドはその武器に覚えがあった。
幼少期に吟遊詩人が歌ってくれた冒険者二人組『大鬼殺しと月の戦乙女』の男の方が使っていた、その二つ名の由来となった武器。
倒した大鬼の使っていた蛮刀の刃に、人が使いやすいように長柄を付けたトンデモ武器だ。
彼ヴォーラスはこれを使って数多の魔族を屠ってきたと歌われている。
だが年齢が合わない。吟遊詩人の歌を聴いたのは七年前、ロウドが八歳の時だ。
その時既に大鬼殺しヴォーラスは、三十半ばだったはず。
目の前の戦士は、どう見ても二十歳そこそこである。もしかしたら装備を譲り受けた息子か?
戦士と大鬼が激戦を繰り広げている広場を挟んで反対側に、村人が見えた。
光り輝く半透明の壁によって小鬼たちから守られている。
それを張っているのは、怯えて一塊りになっている村人の先頭に立っている神官だろう。
豊穣の女神の紋章である麦の穂が描かれた綿入り布鎧を着て、手には象徴武器たる連接棍を持った、青白く輝く銀髪を腰まで真っ直ぐ伸ばした女性である。
神に一心に祈りを捧げ光の防御壁を張って村人を守っている、その姿は正しく聖女のようであった。
思わず見とれてしまったロウド。その緩みきった所を見逃す小鬼ではない。
物陰から現れた小鬼が襲いかかってきた。
「わわっ!」
小鬼の武器の手斧を辛うじて盾で受ける。
あの巣穴にいた小鬼たちとは違い、魔族の軍勢の兵士なのかまともな装備をしている。
皮を煮込んで硬くした硬革鎧に手斧。
唾を吐き散らしながら、手斧を押し込もうとする小鬼。
それを必死に押し返しながら、腰の長剣を抜くロウド。
「おおお!」
雄叫びを上げながら、小鬼の胸に剣を突き立てる。
硬革鎧を貫く長剣。
口から血を吐いて脱力する小鬼。
ホッとしたのも束の間、次の小鬼が右側から襲ってきた。
慌てて長剣を振るおうとするが、力任せに突き立てたために深く刺さりすぎて抜けない。
盾も串刺しになった小鬼が邪魔で、ガードができない。万事休す。
「見てらんねえな」
声と共に飛来する矢。小鬼の頭に突き刺さり、これの命を奪う。
命の恩人たる声の主の方を向くロウド。
そこには、先程見た野伏と魔術師がいた。
|《野伏《レンジャー》は甘いマスクの美少年、年の頃は十五のロウドより少し上の十七、八と言ったところか。
魔術師は、くたびれた風貌の三十男。気が弱そうな雰囲気を醸し出している。
礼を言おうとしたロウドだが、それより先に野伏の罵声が飛んできた。
「そんなご大層な鎧着てるから、どんなもんかと見てみれば、小鬼一匹に手こずるなんて。立派なのは装備だけか」
甘いマスクの見た目からは想像できない、ぞんざいな言葉遣い。そして容赦ない罵詈雑言。
「ま、まあ、コーンズ。そこまで言わなくても、な」
魔術師がくたびれた風貌通りの気弱な声で、取りなしに入る。
「すまないね。このコーンズは、根はいい奴なんだが、口が悪くてね。私はイスカリオス。君の名は? 騎士殿」
野伏の名はコーンズ、魔術師はイスカリオスと言うらしい。
「僕の名は、ロウド。ロウド・ファグナー。騎士などと名乗れたものではありません」
ロウドの名乗りを聞いて、考え込むイスカリオス。
「ファグナーというと、このマルコス伯爵領の隣の……」
「はい。ファグナー男爵家の三男坊です。兄が家を継ぎ、居場所が無いので、名を上げるために遍歴の旅に出ました」
貴族というのは基本的に長子相続である。
相当、問題が無い限り長男が家を継ぐのが当たり前で、弟たちに出番は無い。
で、次男以降はどうするかというと、親交のある娘しかいない貴族の婿になるか、聖職者になるか、遍歴の旅に出て名を上げ騎士として取り立てて貰うか、の三つしか無い。
次男のリチャードが選んだのは二番目、十五になり成人したのを機に宗教都市キタンの神学校へと入り、聖職者を目指した。
ロウドも今年で十五になり、長兄エドワードが家を継いだのを機に遍歴の旅へと出奔したのだ。
父から餞別にと、この鎧をあつらえて貰って。
「はっ。貴族のお坊ちゃまが、親の金でいい鎧買って貰って、遍歴の旅に出て名を上げたいと思いますってか。笑わせんなよ、小鬼に手こずりまくってたような奴が!」
コーンズから再び罵声が飛ぶ。
ロウドは言葉に詰まる。確かにその通りだからだ。
この鎧に相応しい実力を持っていたなら、アーサーたちを救えたかも知れない。そう思うと、自分の情けなさに涙が出そうになる。
気まずい沈黙が場を支配する。
それを破ったのは、広場から聞こえて来る歓声だった。
広間の方に向く三人。
蛮族戦士の振るった大鬼殺しの刃が、大鬼の大鎌の柄を切り飛ばしたのだ。
歓声を上げたのは村人たちだ。
「トドメだ!」
大鬼殺しが横薙ぎに振るわれ、大鬼の胴体を分断する。
切断面から血と臓物をぶちまけながら、泣き別れになった体の上半分と下半分が地面に倒れる大鬼。
「す、凄い……大鬼を一人で」
呆然とするロウドに、コーンズが言った。
「当然。ヴァルは大鬼殺しヴォーラスと月の戦乙女リリアナの息子だからな」
村の戦い 終了
暗い洞窟の中、角燈の明かりを頼りに必死に出口を目指して走る。
「アーサーさん、カリンさん、ジャンさん……すみません」
暗い地の底で最期を遂げた先輩たち。
麓の村で「その小鬼退治、一緒に連れていってください」といきなり言った自分を同行させてくれた、気のいい人たち(一名除く)。
彼らに報いる方法はただ一つ。
早くグレタの町と聖堂騎士団に魔族の軍団の襲撃を伝えること。
その思いだけを胸に、出口を目指す。
「あ、あれは!」
小鬼の巣穴の洞窟から出たロウドの目に入ったもの。
それは夜明け前の薄暗い中、真っ赤な火の手の上がる麓の村だった。
「村もやはり襲われたのか……くそ!」
間に合ってくれ。必死に山の斜面を急いで駆け下りるロウド。
木の根や泥に足を取られながらもひた走る。
村に近付くにつれ、様子が見えてきた。
家々に火が放たれて燃えており、その間に数多の魔族の姿が見え隠れする。
村の中を走り回っているのは小鬼の群れだ。そして、家の屋根を越えた位置に頭が見える。
成人男性の2倍ほどの体躯を誇る大鬼である。
おそらく、この大鬼を指揮官とした部隊が村を潰すために残されたのだろう。
「くそ、村人を逃がさないと!」
早く奴らの前に立ち、村人が逃げるための盾にならなければ、と気がはやるロウド。
小鬼にも手こずった自分が、大鬼に叶うとはおもわない。だが、村の人が襲われているのを黙って見過ごしなどできはしない。
「ん、なんだ?」
村の外れの畑を荒らし回っている小鬼数匹が、いきなり一点を中心に放射状に吹き飛んだ。
訝しんだロウドの目に、家の陰から現れた人物が見える。
その人物は、黒色のフード付きの外套に身を包み、右手には宝石が先に付いた短めの杖を持っていた。
「まさか、魔術師?!」
驚くロウド。
前にも説明したように、主流である太陽神の教団が魔術を異端認定したために、このアレルヤ地方では魔術師は大っぴらに活動はできない。
ロウドも当然会ったことはないが、宝石の付いた短い杖でピンときたのだ。
魔術師?は短杖を、畑を荒らしている他の小鬼に向ける。
先程と同じように吹き飛ぶ小鬼。
やはり彼は魔術師で、魔術によって小鬼を攻撃しているのだ。
倒れた小鬼に近寄って見下ろし、空いている左手で外套のフードを後頭部側に下ろす魔術師。
灰色の髪が見える。顔は遠くてまだ良く分からないが男であることは多分間違いない。
その魔術師に背後から、最初の魔術で吹き飛んだ小鬼の一匹が起き上がって襲いかかった。。
運良く生き延びた小鬼は、手斧を振りかざして、虚を突かれた魔術師に走り寄る。
接近戦の苦手な術者など詠唱させなければこっちのもの。自分に痛い目を合わせた報いを受けさせてやるのだ。
そう息巻いた小鬼の側頭部に、横合いから飛んできた矢が突き刺さる。
目の前で倒れた小鬼に胸をなで下ろし、家の陰にいる射手に礼を言う魔術師。
家の陰から現れたのは、蜂蜜色の長い髪を肩の下辺りまで伸ばした、矢筒を背負い短弓が得物の皮鎧の青年だ。
おそらくは野伏であろう青年は、魔術師の仲間なのか。
二人は、倒れた他の小鬼の息の根をしっかりと止めて、村の中央部の方へと戻っていく。
村の中央では、大鬼が暴れ回っていた。
だが、様子がおかしい。
特大サイズの大鎌を振るっているようなのだが、それがどうやら弾き返されているようなのだ。
大鬼の攻撃をいなせるような熟練の戦士が来て、村を守って戦ってくれている。
ロウドは安堵した。
最悪、自分の命を賭けてでも、村人を守らなければと悲壮な覚悟をしていたのに、これで大丈夫だ、と思ったのだ。
これで、この村を村人を守った後、アーサーたちの町であるグレタに行くことができる。
境界線である柵を越え村に入ったロウドの目に映ったもの。
それは、村の中央の広場にて、大鬼と一騎打ちをする戦士だった。
まともに手入れをしていないような黒いざんばら髪を肩の辺りまで伸ばし、黒い皮鎧?を着込んで、篭手と脛当ての代わりなのか、前腕と脛に毛皮を巻き付けている。
その出で立ちと筋骨隆々の体躯は、完全に蛮族の戦士である。
だが、彼の特異性は防具ではなく、その得物であった。
あえて言うなら、長刀だろうか。片刃の反り身の刃のような穂先に長柄が付いている。
しかし、その穂先の刃が異常に長く幅広で分厚いのだ。まるで特大サイズの曲刀の刃に無理矢理、長柄を付けたかのようにバランスが悪い。
「大鬼殺し?」
ロウドはその武器に覚えがあった。
幼少期に吟遊詩人が歌ってくれた冒険者二人組『大鬼殺しと月の戦乙女』の男の方が使っていた、その二つ名の由来となった武器。
倒した大鬼の使っていた蛮刀の刃に、人が使いやすいように長柄を付けたトンデモ武器だ。
彼ヴォーラスはこれを使って数多の魔族を屠ってきたと歌われている。
だが年齢が合わない。吟遊詩人の歌を聴いたのは七年前、ロウドが八歳の時だ。
その時既に大鬼殺しヴォーラスは、三十半ばだったはず。
目の前の戦士は、どう見ても二十歳そこそこである。もしかしたら装備を譲り受けた息子か?
戦士と大鬼が激戦を繰り広げている広場を挟んで反対側に、村人が見えた。
光り輝く半透明の壁によって小鬼たちから守られている。
それを張っているのは、怯えて一塊りになっている村人の先頭に立っている神官だろう。
豊穣の女神の紋章である麦の穂が描かれた綿入り布鎧を着て、手には象徴武器たる連接棍を持った、青白く輝く銀髪を腰まで真っ直ぐ伸ばした女性である。
神に一心に祈りを捧げ光の防御壁を張って村人を守っている、その姿は正しく聖女のようであった。
思わず見とれてしまったロウド。その緩みきった所を見逃す小鬼ではない。
物陰から現れた小鬼が襲いかかってきた。
「わわっ!」
小鬼の武器の手斧を辛うじて盾で受ける。
あの巣穴にいた小鬼たちとは違い、魔族の軍勢の兵士なのかまともな装備をしている。
皮を煮込んで硬くした硬革鎧に手斧。
唾を吐き散らしながら、手斧を押し込もうとする小鬼。
それを必死に押し返しながら、腰の長剣を抜くロウド。
「おおお!」
雄叫びを上げながら、小鬼の胸に剣を突き立てる。
硬革鎧を貫く長剣。
口から血を吐いて脱力する小鬼。
ホッとしたのも束の間、次の小鬼が右側から襲ってきた。
慌てて長剣を振るおうとするが、力任せに突き立てたために深く刺さりすぎて抜けない。
盾も串刺しになった小鬼が邪魔で、ガードができない。万事休す。
「見てらんねえな」
声と共に飛来する矢。小鬼の頭に突き刺さり、これの命を奪う。
命の恩人たる声の主の方を向くロウド。
そこには、先程見た野伏と魔術師がいた。
|《野伏《レンジャー》は甘いマスクの美少年、年の頃は十五のロウドより少し上の十七、八と言ったところか。
魔術師は、くたびれた風貌の三十男。気が弱そうな雰囲気を醸し出している。
礼を言おうとしたロウドだが、それより先に野伏の罵声が飛んできた。
「そんなご大層な鎧着てるから、どんなもんかと見てみれば、小鬼一匹に手こずるなんて。立派なのは装備だけか」
甘いマスクの見た目からは想像できない、ぞんざいな言葉遣い。そして容赦ない罵詈雑言。
「ま、まあ、コーンズ。そこまで言わなくても、な」
魔術師がくたびれた風貌通りの気弱な声で、取りなしに入る。
「すまないね。このコーンズは、根はいい奴なんだが、口が悪くてね。私はイスカリオス。君の名は? 騎士殿」
野伏の名はコーンズ、魔術師はイスカリオスと言うらしい。
「僕の名は、ロウド。ロウド・ファグナー。騎士などと名乗れたものではありません」
ロウドの名乗りを聞いて、考え込むイスカリオス。
「ファグナーというと、このマルコス伯爵領の隣の……」
「はい。ファグナー男爵家の三男坊です。兄が家を継ぎ、居場所が無いので、名を上げるために遍歴の旅に出ました」
貴族というのは基本的に長子相続である。
相当、問題が無い限り長男が家を継ぐのが当たり前で、弟たちに出番は無い。
で、次男以降はどうするかというと、親交のある娘しかいない貴族の婿になるか、聖職者になるか、遍歴の旅に出て名を上げ騎士として取り立てて貰うか、の三つしか無い。
次男のリチャードが選んだのは二番目、十五になり成人したのを機に宗教都市キタンの神学校へと入り、聖職者を目指した。
ロウドも今年で十五になり、長兄エドワードが家を継いだのを機に遍歴の旅へと出奔したのだ。
父から餞別にと、この鎧をあつらえて貰って。
「はっ。貴族のお坊ちゃまが、親の金でいい鎧買って貰って、遍歴の旅に出て名を上げたいと思いますってか。笑わせんなよ、小鬼に手こずりまくってたような奴が!」
コーンズから再び罵声が飛ぶ。
ロウドは言葉に詰まる。確かにその通りだからだ。
この鎧に相応しい実力を持っていたなら、アーサーたちを救えたかも知れない。そう思うと、自分の情けなさに涙が出そうになる。
気まずい沈黙が場を支配する。
それを破ったのは、広場から聞こえて来る歓声だった。
広間の方に向く三人。
蛮族戦士の振るった大鬼殺しの刃が、大鬼の大鎌の柄を切り飛ばしたのだ。
歓声を上げたのは村人たちだ。
「トドメだ!」
大鬼殺しが横薙ぎに振るわれ、大鬼の胴体を分断する。
切断面から血と臓物をぶちまけながら、泣き別れになった体の上半分と下半分が地面に倒れる大鬼。
「す、凄い……大鬼を一人で」
呆然とするロウドに、コーンズが言った。
「当然。ヴァルは大鬼殺しヴォーラスと月の戦乙女リリアナの息子だからな」
村の戦い 終了
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる