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第4章 迷宮探索(ダンジョン・アタック)
第22話 探索は続く
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戦闘の余韻が冷めつつあるロウドの目の前で、黒魔犬の死体が、黒い靄と化して霧散した。
「死体が消えた!」
驚くロウドに、イスカリオスが説明する。
「迷宮内で倒した敵は、死体が残らないんだよ。死んだら見ての通り、黒い靄になって消える。魔獣の素材、角とか牙とかの中には高く売れる物もあるんだけどね、それも全部おじゃんだ」
確かに魔獣の角・牙・爪・毛皮などの素材は高い値がつく物もあり、冒険者の中には魔獣を倒して得た素材を売る魔獣狩りを生業にするものもいる。
だが、迷宮ではソレはできない、死体が消えてしまうから。
ならどうやって稼ぐのか。
「お。宝箱が出てきた、出てきた」
死体と入れ替わるように部屋の中央に出現したのは、一抱えはありそうな大きさの鍵穴のついた箱。
そう、これこそが迷宮名物、戦利品の入った宝箱である。
中には、金銀財宝、運が良ければ魔力の篭められた武具や道具などが入っている。
中身のグレードは、階層が深くなるごとにアップしていくので、皆危険を承知で深く深く潜っていくのだ。
「お宝、お宝、嬉しいな~」
妙な節を付けて歌い、スキップでもするかのように軽やかに宝箱に取り付くコーンズ。
懐から解錠道具を取り出し、いそいそとチェックに入る。
「えと、コーンズは何をやってるんですか?」
ロウドの疑問に答えたのは、オルフェリアだった。
「迷宮で出てくる宝箱は、鍵はもちろん掛かってるし、罠も仕掛けられておる。それを安全に解除するのが斥候の役目じゃ」
そう、宝箱には鍵と罠があるのだ。
罠には様々な物があり、一般的な物としては毒針などがあって、解除に失敗した斥候に刺さって毒をもたらす。
まあ、これはまだマシな方だ。
毒霧などは、揮発性の高い毒液が仕掛けてあり、解除に失敗すると蒸発して毒の霧となって複数人を毒状態にする。
召喚は、解除に失敗すると新たな敵が召喚され、再度戦闘をさせられる。
一番酷いのは、転移の罠だ。これの解除に失敗すると、ランダムな座標に転移させられる。
他の階層に跳ばされた。なら御の字で、遥か上空や壁の中などに跳ばされた、という話もある。
この迷宮の七階層には、壁から人の手や足、顔の半分などが出ている〈嘆きの壁〉と呼ばれている場所があり、これは転移の罠の解除に失敗して跳ばされた冒険者の末路だという。
解錠道具の一つである極薄の板を、宝箱の蓋と本体の間の隙間に差し込んで滑らせるコーンズ。
仕掛けの一つとして、蓋と本体の間に糸が張ってあり、蓋を開けると糸が切れて罠が作動する。というモノがあったりするので、それを調べているのだ。
「敵を苦労して倒して出てきた宝物なんだから、罠なんて無しにしてくれればいいのに」
ロウドの率直な呟きに苦笑するミスティファー。
「宝出てきて浮かれたところを、ボーン! てね。ま、迷宮核からすれば、私たち冒険者なんて餌に釣られてやって来た獲物でしかないわけだし。戦闘でやられて死のうが、宝箱の罠で死のうが、どっちでもいいんでしょ」
「だな」
相槌を打つヴァル。
「かあ、爆弾かよ」
コーンズの呻き。
どうやら、罠の種類が判明したらしい。
爆弾とは、山人が発明した、火を点けると激しく燃焼する火燃薬という薬品を詰め込んだ代物だ。
当然、罠としては、解除に失敗すると一気に火燃薬に火が点いて燃焼して爆発し、周囲の皆に被害が及ぶ厄介な物だ。
ブチブチとボヤキながら、罠の解除に勤しむコーンズ。
それを黙って見守る一同。
これはコーンズだけの戦いだ。他の者が口を出したところで何にもならない。
そんな中、暇を持て余したオルフェリアがイスカリオスに質問をした。
「のう、イスカリオスとやら。聞きたいことがあるのじゃが、良いか?」
「どうぞ。私に答えられる事なら」
イスカリオスが頷いたので、疑問に思っていたことを聞くオルフェリア。
「お主が使っている術は何じゃ? 妾が眠りにつく前には、平人でそんな術を使う者はいなかった」
魔術の事を言っているのだ。
オルフェリアが知らないのも無理はない。
先の話のように、オルフェリアが眠りについたのは七十年より前と推定される。
そして、魔術が生み出されたのは、四十年ほど前なのだから。
「私の使う魔術は、四十年前に、月と知識の神の神官カルナスが生み出したものです」
イスカリオスは、魔術の成り立ちを語り始めた。
五十年ほど前、月と知識の神の神官で天才と呼ばれていた男がいた。
名をカルナス。
彼は若くして神聖術を極め、月と知識の神の教団の大司教を継ぐと言われていた。
しかし、彼はある物に興味を抱き、道を踏み外す。
魔族の使う術、いわゆる呪術である。
基本的に平人が使えるのは神聖術のみであり、妖精の力を借りる事ができる者もいるが、それは森人に近しい者に限られていた。
この状況を打開するために、彼は呪術に目を付けたのだ。
他の者たちが止めるのも聞かず、彼は呪術の研究に没頭した。
魔族語を覚え、比較的温厚な魔族に教えを請うことさえしたのだ。
当然これは問題となり、主神たる太陽神を奉ずる法王庁からは厳重注意と言うか異端勧告が出されたが、カルナスは意に介さず研究を続けた。
そして十年の歳月を経て、彼は魔術を生み出す。
神に頼らずに人の意志で、因果を事象を操る事のできる術。
人々はカルナスを称え、魔術を持て囃した。
「これで、魔族とも互角に戦える」
しかし法王庁は魔術と、それを生み出したカルナスを異端と認定した。
魔族の呪術が元になっていること。そして何よりも神の力を借りずとも奇跡に近い現象を引き起こせる事が神に対する冒涜だ、との理由であった。
法王庁が異端認定したことで、褒め称えていた者たちも掌を返した。
太陽神の司るモノは『支配』。
故に権力者が信者であることが多く、カルナスとその弟子たちはアレルヤ地方中で迫害され追われ、南方海に船を出して逃亡した。
法王庁の支配の及ばぬ場所を求めて、南方海の先にあると言われる未開の南大陸を目指したのだ。
この船出以降、カルナスたちの消息は不明である。
南方海の藻屑となった、南大陸で魔術師の王国を作り上げた、等々。
噂は色々とあるが、真相は不明である。
今、アルレヤに残っている魔術師は、この大脱出についていかなかったカルナスの弟子と、その弟子である。
イスカリオスも、カルナスの弟子であった月と知識の神の神官が育ての親兼師匠である。
捨て子だったのを迫害を恐れて隠遁していた師匠に拾われ、魔術を叩き込まれた。
八年前、太陽神の信徒から受けた傷が元で師匠が死に、遺言状兼紹介状を持って、月の教団最強の武神官である〈月の戦乙女〉、つまりヴァルの母リリアナの元に身を寄せることになる。
魔神殺したる彼女の庇護下にあれば、法王庁も手出しはできまい、という師匠の親心である。
この思惑は大当たりで、色々と嫌がらせは受けているが、命の危険を覚えるほどのモノではなかった。
「ふむ、なるほどの。魔族の術を研究して、平人が使えるようにしたのか。面白いことをする平人もいたものじゃな」
イスカリオスの話を聞いて、魔術の成り立ちを理解したオルフェリア。
一緒に聞いていたロウドも、イスカリオスが何故、太陽神の信徒には冷たいのかを理解した。
育ての親を殺されているのなら納得というものだ。
「おっしゃ、開いたぜ!」
イスカリオスの話に夢中になっていて気がつかなかったが、コーンズは罠を解除して解錠に進んでいたらしい。
意気揚々と蓋を開けるコーンズ。
「うわぁ」
ロウドの口から思わず声が出た。
宝箱の中には大量の銀貨が詰まっていたのだ。
一応、貴族であった実家でも、こんな大量の銀貨はそうそう見たことが無い。
「二百枚ってとこかな? しかし、銀貨とはしけてんな」
ぼやくコーンズに、ロウドは言う。
「銀貨でも二百枚あれば、そこそこになるだろ?」
何を贅沢を言ってるんだろう、と思って言ったのだが、コーンズに溜息をつかれる。
「あのなあ。銀貨二百枚、金貨にすれば二十枚、で俺たち五人で分け合ったら一人何枚だ?」
「金貨四枚ずつ?」
「そうだよ! ちょっとした買い物したら、ぱっと無くなるわ!」
コーンズの言葉を聞き、頭を抱えるロウド。
そう、そうなのだ。
普通に生活してるならともかく、冒険者としてやっていくなら、銀貨などはした金に過ぎないのだ。
現に自分は、金貨にして三百八十枚もの借金をミスティファーにしており、オルフェリアの代金も分割にして貰ったのではないか。
金貨四枚など微々たるもの、全額払い終えるにはどれくらい頑張ればいいのか、検討もつかない。
「分かったか? 認識できたか?」
コーンズの言葉に、コクコクと何度も頷くロウド。
「も、もっと頑張って稼がなきゃ! 次、行きましょう!」
厳しい現実を知ったお坊ちゃまは、決意を新たにするのであった。
「ああ、そうだな。奥に進むか」
ロウドの様子に苦笑しながら、ヴァルは奥の方に視線を向ける。
そこには、入ってきたのとは別の扉があり、奥の方へと続いているのが分かった。
「でも、この大量の銀貨どうすんですか? 持ってくの大変だと思うのですけど?」
ロウドは宝箱の中の銀貨を指差す。
「ん? ああ、大丈夫だ」
そう言ってヴァルは、見事な刺繍のされた布の小袋を、背負い袋から取り出した。
袋の口を締めていた紐を緩め、開いた口に銀貨を放り込んでいく。
あっという間にパンパンになると思われたのだが、小袋は大量の銀貨を飲み込んでいく。
目を見張るロウド。
そんなロウドに、イスカリオスが説明する。
「魔法の収納袋を見るのは初めてかい? あの狭い口を通る物、という制限はあるけど、ほぼ無制限に収納ができるんだ。重さも変わらない。今じゃ創ることのできない魔法の物品の一つだよ」
そんな便利な物があるのかと感心するロウド。
しかし、そこであることが気になる。
恐る恐る聞くロウド。
「あの、すみません。あれ、いくらですか?」
そのロウドの問いに、いい笑顔を返すイスカリオス。
「値段、知りたい?」
首を横に何回も振って、
「いえ、いいです!」
と、ロウドは言った。
探索は続く 終了
「死体が消えた!」
驚くロウドに、イスカリオスが説明する。
「迷宮内で倒した敵は、死体が残らないんだよ。死んだら見ての通り、黒い靄になって消える。魔獣の素材、角とか牙とかの中には高く売れる物もあるんだけどね、それも全部おじゃんだ」
確かに魔獣の角・牙・爪・毛皮などの素材は高い値がつく物もあり、冒険者の中には魔獣を倒して得た素材を売る魔獣狩りを生業にするものもいる。
だが、迷宮ではソレはできない、死体が消えてしまうから。
ならどうやって稼ぐのか。
「お。宝箱が出てきた、出てきた」
死体と入れ替わるように部屋の中央に出現したのは、一抱えはありそうな大きさの鍵穴のついた箱。
そう、これこそが迷宮名物、戦利品の入った宝箱である。
中には、金銀財宝、運が良ければ魔力の篭められた武具や道具などが入っている。
中身のグレードは、階層が深くなるごとにアップしていくので、皆危険を承知で深く深く潜っていくのだ。
「お宝、お宝、嬉しいな~」
妙な節を付けて歌い、スキップでもするかのように軽やかに宝箱に取り付くコーンズ。
懐から解錠道具を取り出し、いそいそとチェックに入る。
「えと、コーンズは何をやってるんですか?」
ロウドの疑問に答えたのは、オルフェリアだった。
「迷宮で出てくる宝箱は、鍵はもちろん掛かってるし、罠も仕掛けられておる。それを安全に解除するのが斥候の役目じゃ」
そう、宝箱には鍵と罠があるのだ。
罠には様々な物があり、一般的な物としては毒針などがあって、解除に失敗した斥候に刺さって毒をもたらす。
まあ、これはまだマシな方だ。
毒霧などは、揮発性の高い毒液が仕掛けてあり、解除に失敗すると蒸発して毒の霧となって複数人を毒状態にする。
召喚は、解除に失敗すると新たな敵が召喚され、再度戦闘をさせられる。
一番酷いのは、転移の罠だ。これの解除に失敗すると、ランダムな座標に転移させられる。
他の階層に跳ばされた。なら御の字で、遥か上空や壁の中などに跳ばされた、という話もある。
この迷宮の七階層には、壁から人の手や足、顔の半分などが出ている〈嘆きの壁〉と呼ばれている場所があり、これは転移の罠の解除に失敗して跳ばされた冒険者の末路だという。
解錠道具の一つである極薄の板を、宝箱の蓋と本体の間の隙間に差し込んで滑らせるコーンズ。
仕掛けの一つとして、蓋と本体の間に糸が張ってあり、蓋を開けると糸が切れて罠が作動する。というモノがあったりするので、それを調べているのだ。
「敵を苦労して倒して出てきた宝物なんだから、罠なんて無しにしてくれればいいのに」
ロウドの率直な呟きに苦笑するミスティファー。
「宝出てきて浮かれたところを、ボーン! てね。ま、迷宮核からすれば、私たち冒険者なんて餌に釣られてやって来た獲物でしかないわけだし。戦闘でやられて死のうが、宝箱の罠で死のうが、どっちでもいいんでしょ」
「だな」
相槌を打つヴァル。
「かあ、爆弾かよ」
コーンズの呻き。
どうやら、罠の種類が判明したらしい。
爆弾とは、山人が発明した、火を点けると激しく燃焼する火燃薬という薬品を詰め込んだ代物だ。
当然、罠としては、解除に失敗すると一気に火燃薬に火が点いて燃焼して爆発し、周囲の皆に被害が及ぶ厄介な物だ。
ブチブチとボヤキながら、罠の解除に勤しむコーンズ。
それを黙って見守る一同。
これはコーンズだけの戦いだ。他の者が口を出したところで何にもならない。
そんな中、暇を持て余したオルフェリアがイスカリオスに質問をした。
「のう、イスカリオスとやら。聞きたいことがあるのじゃが、良いか?」
「どうぞ。私に答えられる事なら」
イスカリオスが頷いたので、疑問に思っていたことを聞くオルフェリア。
「お主が使っている術は何じゃ? 妾が眠りにつく前には、平人でそんな術を使う者はいなかった」
魔術の事を言っているのだ。
オルフェリアが知らないのも無理はない。
先の話のように、オルフェリアが眠りについたのは七十年より前と推定される。
そして、魔術が生み出されたのは、四十年ほど前なのだから。
「私の使う魔術は、四十年前に、月と知識の神の神官カルナスが生み出したものです」
イスカリオスは、魔術の成り立ちを語り始めた。
五十年ほど前、月と知識の神の神官で天才と呼ばれていた男がいた。
名をカルナス。
彼は若くして神聖術を極め、月と知識の神の教団の大司教を継ぐと言われていた。
しかし、彼はある物に興味を抱き、道を踏み外す。
魔族の使う術、いわゆる呪術である。
基本的に平人が使えるのは神聖術のみであり、妖精の力を借りる事ができる者もいるが、それは森人に近しい者に限られていた。
この状況を打開するために、彼は呪術に目を付けたのだ。
他の者たちが止めるのも聞かず、彼は呪術の研究に没頭した。
魔族語を覚え、比較的温厚な魔族に教えを請うことさえしたのだ。
当然これは問題となり、主神たる太陽神を奉ずる法王庁からは厳重注意と言うか異端勧告が出されたが、カルナスは意に介さず研究を続けた。
そして十年の歳月を経て、彼は魔術を生み出す。
神に頼らずに人の意志で、因果を事象を操る事のできる術。
人々はカルナスを称え、魔術を持て囃した。
「これで、魔族とも互角に戦える」
しかし法王庁は魔術と、それを生み出したカルナスを異端と認定した。
魔族の呪術が元になっていること。そして何よりも神の力を借りずとも奇跡に近い現象を引き起こせる事が神に対する冒涜だ、との理由であった。
法王庁が異端認定したことで、褒め称えていた者たちも掌を返した。
太陽神の司るモノは『支配』。
故に権力者が信者であることが多く、カルナスとその弟子たちはアレルヤ地方中で迫害され追われ、南方海に船を出して逃亡した。
法王庁の支配の及ばぬ場所を求めて、南方海の先にあると言われる未開の南大陸を目指したのだ。
この船出以降、カルナスたちの消息は不明である。
南方海の藻屑となった、南大陸で魔術師の王国を作り上げた、等々。
噂は色々とあるが、真相は不明である。
今、アルレヤに残っている魔術師は、この大脱出についていかなかったカルナスの弟子と、その弟子である。
イスカリオスも、カルナスの弟子であった月と知識の神の神官が育ての親兼師匠である。
捨て子だったのを迫害を恐れて隠遁していた師匠に拾われ、魔術を叩き込まれた。
八年前、太陽神の信徒から受けた傷が元で師匠が死に、遺言状兼紹介状を持って、月の教団最強の武神官である〈月の戦乙女〉、つまりヴァルの母リリアナの元に身を寄せることになる。
魔神殺したる彼女の庇護下にあれば、法王庁も手出しはできまい、という師匠の親心である。
この思惑は大当たりで、色々と嫌がらせは受けているが、命の危険を覚えるほどのモノではなかった。
「ふむ、なるほどの。魔族の術を研究して、平人が使えるようにしたのか。面白いことをする平人もいたものじゃな」
イスカリオスの話を聞いて、魔術の成り立ちを理解したオルフェリア。
一緒に聞いていたロウドも、イスカリオスが何故、太陽神の信徒には冷たいのかを理解した。
育ての親を殺されているのなら納得というものだ。
「おっしゃ、開いたぜ!」
イスカリオスの話に夢中になっていて気がつかなかったが、コーンズは罠を解除して解錠に進んでいたらしい。
意気揚々と蓋を開けるコーンズ。
「うわぁ」
ロウドの口から思わず声が出た。
宝箱の中には大量の銀貨が詰まっていたのだ。
一応、貴族であった実家でも、こんな大量の銀貨はそうそう見たことが無い。
「二百枚ってとこかな? しかし、銀貨とはしけてんな」
ぼやくコーンズに、ロウドは言う。
「銀貨でも二百枚あれば、そこそこになるだろ?」
何を贅沢を言ってるんだろう、と思って言ったのだが、コーンズに溜息をつかれる。
「あのなあ。銀貨二百枚、金貨にすれば二十枚、で俺たち五人で分け合ったら一人何枚だ?」
「金貨四枚ずつ?」
「そうだよ! ちょっとした買い物したら、ぱっと無くなるわ!」
コーンズの言葉を聞き、頭を抱えるロウド。
そう、そうなのだ。
普通に生活してるならともかく、冒険者としてやっていくなら、銀貨などはした金に過ぎないのだ。
現に自分は、金貨にして三百八十枚もの借金をミスティファーにしており、オルフェリアの代金も分割にして貰ったのではないか。
金貨四枚など微々たるもの、全額払い終えるにはどれくらい頑張ればいいのか、検討もつかない。
「分かったか? 認識できたか?」
コーンズの言葉に、コクコクと何度も頷くロウド。
「も、もっと頑張って稼がなきゃ! 次、行きましょう!」
厳しい現実を知ったお坊ちゃまは、決意を新たにするのであった。
「ああ、そうだな。奥に進むか」
ロウドの様子に苦笑しながら、ヴァルは奥の方に視線を向ける。
そこには、入ってきたのとは別の扉があり、奥の方へと続いているのが分かった。
「でも、この大量の銀貨どうすんですか? 持ってくの大変だと思うのですけど?」
ロウドは宝箱の中の銀貨を指差す。
「ん? ああ、大丈夫だ」
そう言ってヴァルは、見事な刺繍のされた布の小袋を、背負い袋から取り出した。
袋の口を締めていた紐を緩め、開いた口に銀貨を放り込んでいく。
あっという間にパンパンになると思われたのだが、小袋は大量の銀貨を飲み込んでいく。
目を見張るロウド。
そんなロウドに、イスカリオスが説明する。
「魔法の収納袋を見るのは初めてかい? あの狭い口を通る物、という制限はあるけど、ほぼ無制限に収納ができるんだ。重さも変わらない。今じゃ創ることのできない魔法の物品の一つだよ」
そんな便利な物があるのかと感心するロウド。
しかし、そこであることが気になる。
恐る恐る聞くロウド。
「あの、すみません。あれ、いくらですか?」
そのロウドの問いに、いい笑顔を返すイスカリオス。
「値段、知りたい?」
首を横に何回も振って、
「いえ、いいです!」
と、ロウドは言った。
探索は続く 終了
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