ブレイブス~田舎貴族の三男坊は英雄になれるか~

ハッシー

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第5章 悪徳の港町バルト

第39話 もう一つのファミリー

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「おい、ヴァル。ヤバいことになったぞ」

 宿の一階の酒場で飲んでいたヴァルに、宿の主人のフランクが声を掛ける。
 かなり渋い顔だ。

「ん、何があった?」

 眉をひそめるヴァルの耳に顔を寄せ、小声で話すフランク。

「お前んとこの若いの三人、ロンダーズに連れてかれたぞ」
「何故? 俺たち来たばっかで目を付けられるようなことしてないぞ」

 同じく小声で聞き返したヴァルに、

「ヤンソンとかいうロンダーズのチンピラと揉めたらしい」

 と、ことの経緯を説明するフランク。

「ヤンソン? アイツ、ここに戻って来てたのか」
「知ってんのか?」
「冒険者としての修行仲間だよ。仲間裏切って、トンズラこいた奴なんだけど。まさか、ロンダーズに入ってたとはな」
 
 歯をギシリと軋らせるヴァル。
 ロウドとコーンズの二人は、ヤンソンに対して特に憤りを感じていた。見かけたら追うに決まっている。
 だが、まさか奴が捨てた故郷にのこのこ戻っていて、しかも犯罪組織に参加しているとは思わなかった。
 
「フランク、ロンダーズに関しての情報はあるか?」

 そう聞いたヴァルに、微妙な表情を向けるフランク。
 
「ん~、話してやりてえとこだが、奴らはこの町の裏側を掌握している。冒険者組合ギルドが表立って敵対するわけにはいかん」

 そう、ロンダーズ・ファミリーは抗争に勝ち抜いて、この町の闇の覇者となっている。
 迂闊な行動を取れば、冒険者組合ギルドとロンダーズ・ファミリーとの全面抗争になる恐れがあるのだ。
 心情的には力を貸してやりたくても、しがらみその他の事情で口を挟むことが難しいのだ。

「そうか……じゃあ、質問を変える。抗争で負けた他の二大勢力は完全に潰されて吸収されたのか? こっちなら、いいだろ?」

 聞く情報を変えたヴァルに、フランクはニヤリと笑いを返す。

「ああ、そっちならOKだ。負けた二つのうち、グレイソンは完全に吸収された。しかし一番の老舗のカーレルの方は、さすがに忠義深いのが残っててな。抗争で死んだボスの一人娘を担いでる残党がいる」
「ソイツらの居場所は?」

 フランクは注文用紙の裏にサラサラと何かを書き込み、ヴァルに渡す。

「ありがとな」

 紙を受け取り、立ち上がるヴァル。
 ファナンシュ料理を食べに行ってるミスティファーとイスカリオスと合流して、手早く動かなくてはならない。
 酒場から出て行くヴァルの後ろ姿を見送りながら、ボソリと呟くフランク。

「〈自由なる翼〉とロンダーズ。どちらが勝つかな」

    *   *   *

「え~と、29番倉庫、29番倉庫……ああ、ここだわね」

 港に面した倉庫街の一角に、ヴァル、ミスティファー、イスカリオスの三人はいた。
 カーレル・ファミリーの残党が根城ねじろにしている倉庫を探しに来たのだ。
 赤煉瓦の無数の倉庫の中から、フランクのメモに書かれた29番倉庫を探し出し、両開きの重い鉄扉の前に立つ三人。

「しかし、良く堂々とこんな倉庫にいるなぁ。ロンダーズに狙われないのかね?」

 訝るイスカリオスに、ミスティファーが見解を述べる。

「死んだボスの忘れ形見を祭り上げてるって話だけど、まあ取るに足らないと見逃されてるんでしょうね」
「だろうな」

 ミスティファーの意見に同意し、鉄扉に手をかけるヴァル。
 
「うおりゃ! お邪魔すっぜ!」

 豪腕を唸らせて勢い良く扉を左右に押しやり、中に声を掛ける。
 中には、どう見てもカタギには見えない連中が十数人ほどたむろしていた。
 
「な、なんだ、テメエ?! ロンダーズの回し者か?!」

 騒然とし、武器を構えるチンピラども。

「俺らがロンダーズの回し者なら、お前らもう終わってるぞ。見張りも付けねえで何やってんだよ」
 
 扉を開けられてから慌て出すカーレル・ファミリーの連中に呆れるヴァル。
 
「う、うるせぇ!」

 指摘を受けて顔を赤くしながら、誤魔化すように襲いかかってくる一人のチンピラ。
 突き出された短剣ダガーを難無く躱し、鉄拳をソイツの顔面に叩き込むヴァル。
 潰された鼻からは鼻血を、口からは折れた前歯を飛ばしながら倒れるチンピラの横を通り、奥へと進む。

「俺たちは話し合いに来たんだ。前のボスの一人娘を出してくれないか?」

 そう言ったヴァルの前に、チンピラを掻き分けて、白髪交じりの黒髪の初老の男が進み出た。
 顔には無数の傷が浮いており、醸し出す雰囲気も他の奴らとは段違いで、男の遍歴を物語っている。
 
「お嬢に会いたいだと? どんな用か知らんが、俺の目の黒いうちは好きにはさせんぞ」
 
 初老の男はそう言って、己の得物を構える。
 短い槍ショート・スピアを構えるその姿は隙が無く堂に入っており、男が雰囲気に違わず歴戦の猛者であることを証明していた。
 先代ボスの娘をお嬢と呼ぶと言うことは、おそらくはボスの護衛役だったのだろう。

「ほう……オッサン、なかなかやるみてぇだな」

 獰猛な笑みを浮かべるヴァル。
 犯罪組織の残党と言うから、チンピラ・ゴロツキしか出てこないだろうと思っていたら、手練れっぽいオッサンが出てきたので、戦闘狂バトル・ジャンキーの血が騒いだのだ。
 
「お前は素手だが、文句はねえよな?」
 
 男は笑っているヴァルを見ながら言った。
 ヴァルが素手なのに、こちらがスピアを使うことに対しての確認である。

「もちろん。んなこと気にしてたら、冒険者なんてやれないからな」

 なんと言っても、こちらは素手の魔獣モンスターとかに、いつも武器で殴りかかっているのだから、文句など言えるはずがない。
 
「いくぞ、若造!」

 声と共に繰り出される神速のスピア
 しかもそれは一撃にとどまらず、連撃で繰り出された。
 何とかギリギリで躱し続けるヴァルだが、その顔には冷や汗が浮いている。
 
『まずっ、甘く見すぎてた』

 所詮、犯罪組織の用心棒だから腕が立つといってもたかが知れてるだろうと思っていたら、男の腕は予想以上だった。
 辛うじて躱してはいるが、このままではいいのを食らうかも知れない。
 対長柄武器のセオリーは内懐に入ることだが、男の槍捌きが絶妙で、隙を見て踏み込むことができないのだ。
 
「どうした、若造! 威勢の良さはどこ行った!」

 口の片端だけを吊り上げて笑いながら、スピアを繰り出す男。
 傍目から見る限り、初老の男の勝利は確実に見えた。
 カーレル・ファミリーのチンピラどもも仲間の勝利を確信して騒いでいる。

「エドガーさん、やっちまえ!」
「俺たちカーレル・ファミリーにケンカ売ったこと後悔させてやれ!」

 しかし劣勢のヴァルを見ても、ミスティファーとイスカリオスだけは、いつもの通りの涼しい顔であった。
 
「どう見る、ミスティファー?」
「脳筋、また楽しんでるわね」

 そう、彼らからすれば、こんなのは窮地でも何でも無い。
 迷宮ダンジョンの奥地でリソース全て使い切った訳でなし、まだまだ逆転の目はあるのだ。
 
「オッサン。手数出すのはいいけど、全然当たってなくてアクビが出るぜ。俺にトドメ刺すまで、スタミナ持つかい?」

 挑発するヴァル。

「言いおったな。ならば、そらっ!」

 掛け声と共に繰り出された、そのスピアは、ヴァルの喉を狙っていた。
 そう、胴体は竜鱗の鎧ドラゴン・スケイルで守られているため、短い槍ショート・スピアでは致命傷を与えることは難しい。
 故に剥き出しの喉を狙ったのだ。
 しかし、それはヴァルの狙い通りだった。
 ああいう風に挑発すれば、急所狙いをしてくるだろうと踏んだのだ。
 ギリギリのところで体を少しずらすヴァル。
 スピアは喉を外れ、首を掠めた。
 薄皮を切り裂き、頸動脈が千切れて鮮血が吹き出す。
 初老の男エドガーは勝利を確信した。
 喉は外したが、太い血管である頸動脈をやった。これで出血多量で終わりだ。
 まあ、普通の人間同士の戦いなら、ここで終わりであったろう。
 だが、この脳筋はそんなものでは止まらなかった。
 首から勢い良く血を吹き出しながら間合いを詰め、大きく振りかぶった鉄拳をエドガーの顔に叩き込んだのだ。
 
「ぶべっ!」

 奇妙な声を上げ、吹っ飛ぶエドガー。
 ヴァルは腰に付けたポーチから、アナスタシアに貰った止血剤の霧吹きを取り出し、首に吹きかけた。
 途端に固まり止まる血。
 
「さ~てと……」

 首から下を血に染めながら、周りを見回すヴァル。その様はまるで吟遊詩に出てくる狂戦士バーサーカーのようである。
 その様を見て震え上がるチンピラ。
 まさか、首筋を切られても突っ込んでくる奴がいるとは思わなかったのだ。
 そこら辺が、人間相手の犯罪者と、人外相手の冒険者の覚悟の違いと言える。
 
「みんなをイジメないで!」

 幼い声が響く。
 倉庫の奥から出てきたのは、金髪の髪の毛を二つのお団子にした八歳ぐらいの幼女であった。
 
「お、お嬢! 出てきちゃ駄目だ!」

 顔を押さえたエドガーが止めようとするが、幼女は気丈にもヴァルの前に立った。
 子供なりの精一杯の強がりを篭めてヴァルを睨みつける。

「み、みんなをイジメたら、ボスの私が許さないんだから!」

 幼女の言葉にキョトンとなるヴァル。

「へ? お嬢ちゃんがボス?」
「そ、そうよ! 私がカーレル・ファミリーのボス、ミーシャよ!」

 そう、このお団子頭の幼女こそ、抗争で死んだカーレル・ファミリーの先代ボスの忘れ形見、ミーシャであった。

「え~、あ~、その、なんだ」

 明らかな子供を前にして、どうすればいいのか、しどろもどろになるヴァル。
 と、その後ろからミスティファーが、幼女ボスに声を掛ける。

「貴方がカーレルの今のボスなのね」
「そ、そうよ」
「そう。じゃあ、変な感じになってるけど、私たちは話し合いに来たの」
「話し合い?」
「ええ。ウダウダ言うのも面倒臭いから、要点だけ。ロンダーズ・ファミリーに対抗するために手を組まない?」 

 ミスティファーは共闘の申し出を、微笑を浮かべながら繰り出した。


もう一つのファミリー  終了
  
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