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第5章 悪徳の港町バルト
第51話 かくして、小悪党は去りゆく
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明けて翌日、一行はバルトの街の観光と買い物に向かう。
冒険者の宿〈鉄鉤の腕亭〉の玄関前に集まる面々。
「今日はちょうど港の方で朝市がやってるからな。そこにまずは行こう」
案内役のエドガーが言うと、アナスタシアが目を輝かせた。
「外国からの品とかもあるのかな? 楽しみね、エリザベス」
「そうでございますね、アナスタシア様。ここバルトはグレイズ最大の交易都市。隣国ファナンシュは元より、都市国家連合、ルキアン帝国からの商人も来ておりますので、さぞかし面白い物があるかと思われます」
エリザベスが少女の見た目にそぐわぬ博識さで、主人に答えた。
そんな仲睦まじい主従を横目で見る、ちょっとすねたような表情のロウド。
一番年齢が近いということでアナスタシアはロウドに良く話しかけていたのだが、エリザベスが合流してからは、もっぱらメイドを話し相手とするようになったのだ。
ふと目が合うロウドとエリザベス。
エリザベスの口に勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。
その目は無言でこう言っていた。
『私たち主従に割り込めるものならやってみろ。若造』
悔しそうに歯を食いしばるロウドの後頭部をはたくコーンズ。
ロウドの耳に顔を寄せて助言をする。
「向こうは十数年の付き合いだ。一朝一夕で叶うはずねえだろ。これからいいとこ見せて、好きな女の子の信頼勝ち取ればいいんだよ」
そう言って弟分の肩を叩く。
『そうだ、コーンズの言うとおりだ。僕は知り合ったばかり、ただ年齢が近いから良く話しかけてくれていただけ。本当に仲が良くなるのはこれからだ』
助言をくれたコーンズの顔を見返し、コクンと頷くロウド。
「うん、頑張るよ」
「その意気だ」
そんな若手の光景をチラと見て、しみじみと呟くイスカリオス。
「いや~、若いっていいですねえ」
そんな中年オヤジのような呟きを聞き咎めたミスティファー。
「まだ貴方、三十にもなっていないでしょう。なに、そんな枯れたこと言ってんの」
「もうすぐ三十。平人なんて七十かそこらで死ぬんですから、もう寿命の半分近く来てますよ。若くはないですね。いつまでも若い貴方のような半森人とは違います」
「それはそうだけど」
そう、平人は七十から八十歳で寿命を迎える。
山人はその倍ほど、百五十から二百歳。
森人は約三倍、二百五十から三百歳といったところ。
丘人は平人と同じぐらい、半森人は山人と同じで平人の二倍。
これが秩序側の各種族の寿命である。
魔族の寿命は千差万別であり、何とも言えない。
なお、魔神は亜神とも言える存在であり、寿命などは存在せず、滅ぼされない限り存在し続ける。
「寿命が長いからっていいことあるわけでもないわよ。事実、大樹海の森人たちなんて、下手に長く生きてるだけで全然進歩もなし。新しいモノを受け入れようとせず、昔ながらの原始生活送ってんだから」
ミスティファーの口から、東の大樹海に住む森人への愚痴がこぼれた。
グレイズ王国から東にある一つの国ほどの広さを持った大樹海、そこにエルフは住んでいる。
昔ながらの自然に適応した生活をしており、鍛冶をしないため金属製品を使うことはない。
自然を荒らす農耕牧畜を厭い、採取狩猟生活を続けている。
なお自然派な生活をしているため、見た目は華奢だが下手な平人よりタフだ。
メタな話になるが、この世界のエルフは食物連鎖上等なので、狩った動物の肉を食います。
鍛冶を得意とし、魔工学を生み出した山人と嫌いあってるのは他と同様ですが。
こう言った原始生活を嫌う若い森人は森の外に出て、文明を享受して里帰りすることはほとんどない。
マッセウの〈蒼い狼〉に参加していた森人クヴェルコニアスなどもそうだ。
ミスティファーは、死んだ父親が平人だということで色々と迫害を受け、故郷を飛び出した口だが。
「あのジジババども、若手が外の世界とも交流するべきだって言っても聞き入れようとしない。自分たちの世界に閉じこもってるだけ。そんなので長生きしても意味ないわよ」
辛辣な口調で、一族の長老たちを非難するミスティファー。
「ふむ。一度、大樹海には行ってみたいと思っていたのですが、やめといた方がいいですね」
ミスティファーの話を聞いて、森人の里、大樹海へ行くことを断念するイスカリオス。
港で開かれた朝市にやって来た一同。
異国の船から荷揚げされた様々な珍しい品に見入る一同。
「うわ~! 凄い、凄い! 先生の秘蔵の品とかも売ってる!」
はしゃぐアナスタシアにくっついて、彼女が欲しがった物を次から次へと買っていくエリザベス。
「凄え。あのメイド、いくら金持ってんだ?」
その豪快な買い物っぷりに圧倒される一同を代表して、コーンズが呟く。
「ほ~ほっほっほ! どこぞの貧乏男爵家とは違いますので、マーレ家は」
ロウドの方を見て、嫌みったらしく言うエリザベス。
『これくらい買い与えられないようでは、アナスタシアの相手には相応しくない』
そう言いたげなエリザベスの表情に、悔しくて歯軋りをするロウド。
悲しいかな、例え家のファグナー男爵家の財産を自由に使えたとしても、あの買い物の代金を出すことはできなかったであろう。
「まあ、オルダネイ帝国を起源とする古い貴族じゃからな。それなりに財産はあろうよ」
悔しさに涙が出そうなロウドの腰でオルフェリアが声を出す。
「お前の家は、父親がファナンシュとの国境を巡る戦いで戦功を立てたことにより爵位を貰ったのだったな。まあ、歴史が違う。格は諦めろ」
諭すかのように言うオルフェリアに、つい反論してしまうロウド。
「で、でももうオルダネイ帝国なんて無いじゃないか」
「まあ、そうじゃが。それでも、オルダネイより続く家柄となれば、貴族の間では幅を利かせることができる。グレイズもファナンシュも有力貴族は、元はオルダネイ帝国の貴族で、それぞれ第一皇子、第二皇子についた者の末裔じゃ」
「うう」
本人の努力ではどうしようもない実家の貴族としての格の違いに打ちのめされ、泣きそうになるロウド。
「妾から言えることはただ一つじゃ。頑張れ」
無責任な応援を主に飛ばすオルフェリアであった。
朝市でめぼしい物を買った後は、エドガーお薦めの曰く付きを扱っているお店に行くことになった。
裏路地に入り、何の変哲もない扉の前に立つ一同。
妙なリズムで扉を叩くエドガー。
ロンダーズの本拠もそうだったが、こういったノックの仕方が符丁になっているのだろう。
扉の覗き窓が開いて、中の人がエドガーを確認すると、鍵の外れる音が響く。
扉が開いたそこに立っていたのは、スキンヘッドに入れ墨を施した明らかにカタギには見えない大男であった。
「あら~、エドガーさん。おひさじゃないの。ロンダーズぶっ潰したから大手振って出歩けるようになったのね」
大男の口から出たのは、その厳つい外見からは予想もできないオネエ言葉であった。
「おう。久しぶりだな、バートン。その通りだ。これからはカーレルの時代だからな、よろしく頼むぜ」
「勿論よ~」
巨躯をくねらせながらエドガーと話す大男を見て、目を丸くするロウドとアナスタシア。
こういった人種、一言で言うとオカマを見るのが始めてなのだ。
「「男の人なのに女の人の言葉使ってる……」」
思わずハモる少年少女。
「ああいうのも世の中にはいるんだよ。男の体に女の心ってな。勿論、逆もいる。まあ、害は無い。気持ち悪いと思うかもしれんが、心の中だけにしまっとけ」
少年少女の呟きを耳にしたヴァルが小声で窘める。
幸い、ロウドたちの言葉は聞こえていなかったらしく、バートンと呼ばれた店主は一行を快く店内へと招き入れた。
「ほ~、これは凄いな」
「ホント」
店内の品揃えを見たヴァルとコーンズが声を上げる。
上流階級の物が買い占めているため手に入りづらい品や、胡散臭い品などが所狭しと陳列されているのだ。
「え、え、え~?!」
品物を片っ端から見ていたアナスタシアが悲鳴に近い声を上げる。
「どうしました、アナスタシア様?」
「どうしたの、アナスタシア?」
同時にアナスタシアに声を掛けるエリザベスとロウド。
被ったことで顔を見合わせる。
「あら、ロウドさん。アナスタシア様の世話は私がいたしますので、どうぞ品物を見ていてくださいませ」
「いや、なんか声がしたから来たんだよ。別にいいだろ」
形だけの言葉を放つエリザベスに精一杯の抵抗をするロウド。
「何があったの?」
エリザベスとロウドの睨み合いを無視して、アナスタシアに声を掛けるミスティファー。
「こ、これ見てください! 一角馬の角ですって!」
興奮したアナスタシアが指を差したのは、螺旋状になった細長い角であった。
一角馬。何故か処女にしか気を許さない幻獣である。
治癒の魔力を有する額から生えた螺旋角を狙われて乱獲され、数が減少。
今では、狩ることを禁止されている保護対象幻獣だ。
では、何故その角がここにあるのか?
「密猟か」
苦々しげに言ったヴァルに、
「あらやだ。私はある筋から買いとっただけよ。出所は知らないわ」
と飄々と言ってのけるバートン。
「で、買うの、買わないの?」
バートンの言葉に、アナスタシアは少し迷った後、値段を聞いた。
「おいくらですか?」
「ちょ、ちょっと、買うの? 完全にご禁制だよ?」
買う気になっているアナスタシアにロウドが詰め寄る。
「確かにそうかもしれないけど。これを削った粉を混ぜるだけで、治療系の薬品の効能が格段に跳ね上がるんだよ? 狩るのが禁止になって出回らなくなった今、ここで買わなかったら二度と手に入らないもん」
錬金術師として、これほどの貴重な素材は逃すわけにはいかないと力説するアナスタシア。
結果として、アナスタシアは購入を諦めず、ご禁制だということに目をつぶり買うこととなった。
店主バートンと積もる話があるというエドガーとはここで別れ、一行は墓地へと向かう。
途中の花屋で三つ花束を購入。
そう、アーサー、カリン、ジャンの墓参りだ。
町外れの海と町を見下ろせる高台に墓地はあった。
三人の墓を探す一行。
見つかった墓には、誰かが来ていたのか花が供えてあった。
塩に強いため沿岸でも育つことができ、バルト近辺に群生地のある花だ。
アーサー、カリン、ジャンの好きだった花であり、それを知っている者は限られている。
「あの野郎、来たのか」
その花を見て、コーンズは鼠顔の盗賊が墓参りに来たのだと確信した。
* * *
バルトの外からの入口であるトンネルの前に、その男は立っていた。
眼下のバルトを見下ろしながら、男は皮肉げに口元を歪ませる。
「墓参りはしてやった。文句はねえな、コーンズ」
そんなヤンソンに、背後に立つ短刀を弄ぶ男が茶化すように言った。
「お優しいこって。で、どうすんだ、これから?」
短刀男ミックの言葉に、大男ジント、色気娘のリーラも頷く。
「ん」
「そうよ。私たちはバルトから出たことないんだから、きちんと案内してよね」
スラム街の仲間に目を向けて、
「分かってるよ。西のラーマ辺境伯領に行くぞ。あそこは隣のファナンシュとの玄関口だから、色々儲け話があるだろうからな」
と目的地を告げる。
「え~、あんなとこ行くの~? 私、王都がいい」
だだをこねるリーラに、
「王都には古参の組織があるんよ、ロンダーズなんか目じゃないな。俺たちみたいな新参者が行ったところで即潰されるわ」
とスッパリと希望を却下する。
「頼みの綱のロンダーズ潰れた今、俺たちにゃ行くとこ選べる余裕なんかないんだ。黙ってついてこい」
そう言ってトンネルに入るヤンソンを追いかける他三人。
「へいへい、大人しく従うよ」
「あ~あ、王都行きたかったなぁ」
「みんなが行くなら、俺どこへでも行く」
ミック、リーラ、ジントが軽口を叩きながら、それに続く。
かくして、小悪党とその仲間はバルトを去った。
それと入れ替わるようにトンネルから出てくる四人組。
漆黒の全身鎧を装備した馬に跨がる騎士、フード付き外套を纏った女性、皮鎧を纏って巨大な戦斧を背にした大男、鎖帷子を装備した中年男。
眼下の町を見下ろしながら、大男が騎士に声を掛ける。
「この町に大鬼殺しがいるんだな、リーズ?」
騎士が答える。
「ああそうだ、レグ。奴らはこの町にいる」
「この親父から譲り受けた首切りの斧があれば、今度は負けねえ」
殺気立つ男二人の会話に割り込む紅一点。
「リーズ様も馬鹿レグも、目的は屠竜剣だというのをお忘れずに」
フードの奥から覗くその顔は、グレタで猛威を振るった魔少女パメラだ。
残りの鎖帷子の男が口を開く。
「この町の冒険者や兵を、私たちだけで相手にするのは得策ではありません。奴らが町を出た後で襲撃をかけましょう」
その進言に頷く黒騎士リーズ。
「そうだな、ジェド。町中では大人しくしていよう……待ってろよ、ロウド。どれだけ、お前が強くなったか、楽しみだ」
オルフェリア奪還のために送り出された魔族四人は、眼下の町に続く坂道を下りていく。
かくして、小悪党は去りゆく 終了
冒険者の宿〈鉄鉤の腕亭〉の玄関前に集まる面々。
「今日はちょうど港の方で朝市がやってるからな。そこにまずは行こう」
案内役のエドガーが言うと、アナスタシアが目を輝かせた。
「外国からの品とかもあるのかな? 楽しみね、エリザベス」
「そうでございますね、アナスタシア様。ここバルトはグレイズ最大の交易都市。隣国ファナンシュは元より、都市国家連合、ルキアン帝国からの商人も来ておりますので、さぞかし面白い物があるかと思われます」
エリザベスが少女の見た目にそぐわぬ博識さで、主人に答えた。
そんな仲睦まじい主従を横目で見る、ちょっとすねたような表情のロウド。
一番年齢が近いということでアナスタシアはロウドに良く話しかけていたのだが、エリザベスが合流してからは、もっぱらメイドを話し相手とするようになったのだ。
ふと目が合うロウドとエリザベス。
エリザベスの口に勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。
その目は無言でこう言っていた。
『私たち主従に割り込めるものならやってみろ。若造』
悔しそうに歯を食いしばるロウドの後頭部をはたくコーンズ。
ロウドの耳に顔を寄せて助言をする。
「向こうは十数年の付き合いだ。一朝一夕で叶うはずねえだろ。これからいいとこ見せて、好きな女の子の信頼勝ち取ればいいんだよ」
そう言って弟分の肩を叩く。
『そうだ、コーンズの言うとおりだ。僕は知り合ったばかり、ただ年齢が近いから良く話しかけてくれていただけ。本当に仲が良くなるのはこれからだ』
助言をくれたコーンズの顔を見返し、コクンと頷くロウド。
「うん、頑張るよ」
「その意気だ」
そんな若手の光景をチラと見て、しみじみと呟くイスカリオス。
「いや~、若いっていいですねえ」
そんな中年オヤジのような呟きを聞き咎めたミスティファー。
「まだ貴方、三十にもなっていないでしょう。なに、そんな枯れたこと言ってんの」
「もうすぐ三十。平人なんて七十かそこらで死ぬんですから、もう寿命の半分近く来てますよ。若くはないですね。いつまでも若い貴方のような半森人とは違います」
「それはそうだけど」
そう、平人は七十から八十歳で寿命を迎える。
山人はその倍ほど、百五十から二百歳。
森人は約三倍、二百五十から三百歳といったところ。
丘人は平人と同じぐらい、半森人は山人と同じで平人の二倍。
これが秩序側の各種族の寿命である。
魔族の寿命は千差万別であり、何とも言えない。
なお、魔神は亜神とも言える存在であり、寿命などは存在せず、滅ぼされない限り存在し続ける。
「寿命が長いからっていいことあるわけでもないわよ。事実、大樹海の森人たちなんて、下手に長く生きてるだけで全然進歩もなし。新しいモノを受け入れようとせず、昔ながらの原始生活送ってんだから」
ミスティファーの口から、東の大樹海に住む森人への愚痴がこぼれた。
グレイズ王国から東にある一つの国ほどの広さを持った大樹海、そこにエルフは住んでいる。
昔ながらの自然に適応した生活をしており、鍛冶をしないため金属製品を使うことはない。
自然を荒らす農耕牧畜を厭い、採取狩猟生活を続けている。
なお自然派な生活をしているため、見た目は華奢だが下手な平人よりタフだ。
メタな話になるが、この世界のエルフは食物連鎖上等なので、狩った動物の肉を食います。
鍛冶を得意とし、魔工学を生み出した山人と嫌いあってるのは他と同様ですが。
こう言った原始生活を嫌う若い森人は森の外に出て、文明を享受して里帰りすることはほとんどない。
マッセウの〈蒼い狼〉に参加していた森人クヴェルコニアスなどもそうだ。
ミスティファーは、死んだ父親が平人だということで色々と迫害を受け、故郷を飛び出した口だが。
「あのジジババども、若手が外の世界とも交流するべきだって言っても聞き入れようとしない。自分たちの世界に閉じこもってるだけ。そんなので長生きしても意味ないわよ」
辛辣な口調で、一族の長老たちを非難するミスティファー。
「ふむ。一度、大樹海には行ってみたいと思っていたのですが、やめといた方がいいですね」
ミスティファーの話を聞いて、森人の里、大樹海へ行くことを断念するイスカリオス。
港で開かれた朝市にやって来た一同。
異国の船から荷揚げされた様々な珍しい品に見入る一同。
「うわ~! 凄い、凄い! 先生の秘蔵の品とかも売ってる!」
はしゃぐアナスタシアにくっついて、彼女が欲しがった物を次から次へと買っていくエリザベス。
「凄え。あのメイド、いくら金持ってんだ?」
その豪快な買い物っぷりに圧倒される一同を代表して、コーンズが呟く。
「ほ~ほっほっほ! どこぞの貧乏男爵家とは違いますので、マーレ家は」
ロウドの方を見て、嫌みったらしく言うエリザベス。
『これくらい買い与えられないようでは、アナスタシアの相手には相応しくない』
そう言いたげなエリザベスの表情に、悔しくて歯軋りをするロウド。
悲しいかな、例え家のファグナー男爵家の財産を自由に使えたとしても、あの買い物の代金を出すことはできなかったであろう。
「まあ、オルダネイ帝国を起源とする古い貴族じゃからな。それなりに財産はあろうよ」
悔しさに涙が出そうなロウドの腰でオルフェリアが声を出す。
「お前の家は、父親がファナンシュとの国境を巡る戦いで戦功を立てたことにより爵位を貰ったのだったな。まあ、歴史が違う。格は諦めろ」
諭すかのように言うオルフェリアに、つい反論してしまうロウド。
「で、でももうオルダネイ帝国なんて無いじゃないか」
「まあ、そうじゃが。それでも、オルダネイより続く家柄となれば、貴族の間では幅を利かせることができる。グレイズもファナンシュも有力貴族は、元はオルダネイ帝国の貴族で、それぞれ第一皇子、第二皇子についた者の末裔じゃ」
「うう」
本人の努力ではどうしようもない実家の貴族としての格の違いに打ちのめされ、泣きそうになるロウド。
「妾から言えることはただ一つじゃ。頑張れ」
無責任な応援を主に飛ばすオルフェリアであった。
朝市でめぼしい物を買った後は、エドガーお薦めの曰く付きを扱っているお店に行くことになった。
裏路地に入り、何の変哲もない扉の前に立つ一同。
妙なリズムで扉を叩くエドガー。
ロンダーズの本拠もそうだったが、こういったノックの仕方が符丁になっているのだろう。
扉の覗き窓が開いて、中の人がエドガーを確認すると、鍵の外れる音が響く。
扉が開いたそこに立っていたのは、スキンヘッドに入れ墨を施した明らかにカタギには見えない大男であった。
「あら~、エドガーさん。おひさじゃないの。ロンダーズぶっ潰したから大手振って出歩けるようになったのね」
大男の口から出たのは、その厳つい外見からは予想もできないオネエ言葉であった。
「おう。久しぶりだな、バートン。その通りだ。これからはカーレルの時代だからな、よろしく頼むぜ」
「勿論よ~」
巨躯をくねらせながらエドガーと話す大男を見て、目を丸くするロウドとアナスタシア。
こういった人種、一言で言うとオカマを見るのが始めてなのだ。
「「男の人なのに女の人の言葉使ってる……」」
思わずハモる少年少女。
「ああいうのも世の中にはいるんだよ。男の体に女の心ってな。勿論、逆もいる。まあ、害は無い。気持ち悪いと思うかもしれんが、心の中だけにしまっとけ」
少年少女の呟きを耳にしたヴァルが小声で窘める。
幸い、ロウドたちの言葉は聞こえていなかったらしく、バートンと呼ばれた店主は一行を快く店内へと招き入れた。
「ほ~、これは凄いな」
「ホント」
店内の品揃えを見たヴァルとコーンズが声を上げる。
上流階級の物が買い占めているため手に入りづらい品や、胡散臭い品などが所狭しと陳列されているのだ。
「え、え、え~?!」
品物を片っ端から見ていたアナスタシアが悲鳴に近い声を上げる。
「どうしました、アナスタシア様?」
「どうしたの、アナスタシア?」
同時にアナスタシアに声を掛けるエリザベスとロウド。
被ったことで顔を見合わせる。
「あら、ロウドさん。アナスタシア様の世話は私がいたしますので、どうぞ品物を見ていてくださいませ」
「いや、なんか声がしたから来たんだよ。別にいいだろ」
形だけの言葉を放つエリザベスに精一杯の抵抗をするロウド。
「何があったの?」
エリザベスとロウドの睨み合いを無視して、アナスタシアに声を掛けるミスティファー。
「こ、これ見てください! 一角馬の角ですって!」
興奮したアナスタシアが指を差したのは、螺旋状になった細長い角であった。
一角馬。何故か処女にしか気を許さない幻獣である。
治癒の魔力を有する額から生えた螺旋角を狙われて乱獲され、数が減少。
今では、狩ることを禁止されている保護対象幻獣だ。
では、何故その角がここにあるのか?
「密猟か」
苦々しげに言ったヴァルに、
「あらやだ。私はある筋から買いとっただけよ。出所は知らないわ」
と飄々と言ってのけるバートン。
「で、買うの、買わないの?」
バートンの言葉に、アナスタシアは少し迷った後、値段を聞いた。
「おいくらですか?」
「ちょ、ちょっと、買うの? 完全にご禁制だよ?」
買う気になっているアナスタシアにロウドが詰め寄る。
「確かにそうかもしれないけど。これを削った粉を混ぜるだけで、治療系の薬品の効能が格段に跳ね上がるんだよ? 狩るのが禁止になって出回らなくなった今、ここで買わなかったら二度と手に入らないもん」
錬金術師として、これほどの貴重な素材は逃すわけにはいかないと力説するアナスタシア。
結果として、アナスタシアは購入を諦めず、ご禁制だということに目をつぶり買うこととなった。
店主バートンと積もる話があるというエドガーとはここで別れ、一行は墓地へと向かう。
途中の花屋で三つ花束を購入。
そう、アーサー、カリン、ジャンの墓参りだ。
町外れの海と町を見下ろせる高台に墓地はあった。
三人の墓を探す一行。
見つかった墓には、誰かが来ていたのか花が供えてあった。
塩に強いため沿岸でも育つことができ、バルト近辺に群生地のある花だ。
アーサー、カリン、ジャンの好きだった花であり、それを知っている者は限られている。
「あの野郎、来たのか」
その花を見て、コーンズは鼠顔の盗賊が墓参りに来たのだと確信した。
* * *
バルトの外からの入口であるトンネルの前に、その男は立っていた。
眼下のバルトを見下ろしながら、男は皮肉げに口元を歪ませる。
「墓参りはしてやった。文句はねえな、コーンズ」
そんなヤンソンに、背後に立つ短刀を弄ぶ男が茶化すように言った。
「お優しいこって。で、どうすんだ、これから?」
短刀男ミックの言葉に、大男ジント、色気娘のリーラも頷く。
「ん」
「そうよ。私たちはバルトから出たことないんだから、きちんと案内してよね」
スラム街の仲間に目を向けて、
「分かってるよ。西のラーマ辺境伯領に行くぞ。あそこは隣のファナンシュとの玄関口だから、色々儲け話があるだろうからな」
と目的地を告げる。
「え~、あんなとこ行くの~? 私、王都がいい」
だだをこねるリーラに、
「王都には古参の組織があるんよ、ロンダーズなんか目じゃないな。俺たちみたいな新参者が行ったところで即潰されるわ」
とスッパリと希望を却下する。
「頼みの綱のロンダーズ潰れた今、俺たちにゃ行くとこ選べる余裕なんかないんだ。黙ってついてこい」
そう言ってトンネルに入るヤンソンを追いかける他三人。
「へいへい、大人しく従うよ」
「あ~あ、王都行きたかったなぁ」
「みんなが行くなら、俺どこへでも行く」
ミック、リーラ、ジントが軽口を叩きながら、それに続く。
かくして、小悪党とその仲間はバルトを去った。
それと入れ替わるようにトンネルから出てくる四人組。
漆黒の全身鎧を装備した馬に跨がる騎士、フード付き外套を纏った女性、皮鎧を纏って巨大な戦斧を背にした大男、鎖帷子を装備した中年男。
眼下の町を見下ろしながら、大男が騎士に声を掛ける。
「この町に大鬼殺しがいるんだな、リーズ?」
騎士が答える。
「ああそうだ、レグ。奴らはこの町にいる」
「この親父から譲り受けた首切りの斧があれば、今度は負けねえ」
殺気立つ男二人の会話に割り込む紅一点。
「リーズ様も馬鹿レグも、目的は屠竜剣だというのをお忘れずに」
フードの奥から覗くその顔は、グレタで猛威を振るった魔少女パメラだ。
残りの鎖帷子の男が口を開く。
「この町の冒険者や兵を、私たちだけで相手にするのは得策ではありません。奴らが町を出た後で襲撃をかけましょう」
その進言に頷く黒騎士リーズ。
「そうだな、ジェド。町中では大人しくしていよう……待ってろよ、ロウド。どれだけ、お前が強くなったか、楽しみだ」
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5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
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