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第8章 竜を討つ者
第72話 聖都の一番長い日 その5
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「太陽神の信徒の最高位、法王たる儂を易々と葬れる気でいるとはな。驕りすぎじゃぞ、魔老公!」
何とか気力を取り戻した法王が、先程の狼狽振りが嘘のように威厳ある態度で魔老公に対峙する。
「驕りすぎ? かっかっか……笑わせおるわ、実力皆無のお飾りが。お主のことは調べたが、まともに我ら魔族と戦ったことがないそうじゃの? 法王庁創立メンバーの血筋である高位聖職者を代々輩出してきた名門の家に生まれ、街を出ること無くキタンの中でほぼ戦闘経験の無いまま実家の政治力で出世。十三年前、先代法王が汚職によるゴタゴタで暗殺された際、派閥間の政治的な駆け引きにより中立派のお主が擁立され法王となった。じゃよな、間違っておらぬよな?」
嫌らしい笑みを浮かべながら、アドモスのこれまでの経緯を並べ立てる魔老公。
対するアドモスは事実なので反論できないのか、悔しそうに歯軋りしながらも黙っている。
そう、魔老公ムドウの言うとおり、アドモスに実戦経験は無い。
法王庁創立メンバーの末裔の家に生まれ家の威光により若くから法王庁の要職となって、キタンの外に出ること無く過ごしてきた。
そして十三年前に先代が死んだ際、次の法王を巡って派閥間で政争が勃発。
魔族領域を積極的に攻めるのを主張する主戦派と、人族の領域に攻めてこないのならば放っておけばいいという不戦派の二大派閥だ。
二大派閥の勢力は拮抗しており、結果として選ばれたのは、不戦寄りの中立派であったアドモスであった。
つまり完全にアドモスは実力で法王になったのではなく、派閥間の綱引きの結果そうなったに過ぎないのだ。
「十三年間、お主は主戦派と不戦派の間を取り持ちながら上手くやって来た。しかし、もはやそれも終わりじゃ。天の栄光が使い手を選び復活した今、そちらは聖戦の気運が高まっておるはず。お主のような政治力しかないお飾りは早晩引きずり下ろされるじゃろうて。ならば、せめて戦の狼煙として、華々しく散るが良い」
そこまで言ってムドウは言葉を切り、詠唱を始めた。
「儂は弱い。確かに派閥政治の結果、選ばれた無能じゃ。だが、お飾りとは言え法王の名に賭けて、そう易々と殺されるものか! 太陽神よ、我にご加護を」
アドモスは、太陽神の信徒の頂点に立つ者・法王としてのなけなしの誇りを胸に、ムドウを睨み据える。
光を飲み込み渦巻く漆黒の魔力を纏う魔老公ムドウ。
日の光のように暖かな光の魔力を、その痩躯より放つ法王アドモス。
余りに濃密な魔力が集まったためか、礼拝堂の空気がびりびりと震えている。
極限まで高めた魔力を放つ時を待つ光と闇の老人。
対峙の時間は、当人たちにとっては無限に感じられたであろう。
「暗黒波濤! 漆黒の波に飲まれて死ぬが良い!」
ムドウの周りで渦巻いていた漆黒の魔力が津波のように、アドモスへと押し寄せる。
対するアドモスは、
「太陽神の光よ 全ての闇を打ち払いたまえ! 聖光爆裂!」
と、人一人すっぽり入れそうな大きさの光球を、押し寄せる黒き津波へと放った。
両者の中間でぶつかり合う光と闇の魔力。
衝突した魔力が拮抗する中、余波によって床が破壊され、破片が瞬時に粉微塵になって風によって撒き散らかされていく。
床の崩壊は衝突地点を中心に広がっていき礼拝堂全てに及んだ。
当然、立っていたアドモスとムドウもそれに巻き込まれ、瓦礫と化した床に足を取られてバランスを崩す。
「「おおっ!」」
倒れそうになる二人の目の前で、拮抗していた光と闇の魔力が限界を迎えた。
余りのエネルギー量に臨界に達して爆発したのだ。
光と闇の混じり合ったエネルギーが礼拝堂を埋め尽くし、全てを飲み込んでいく。
* * *
「法王様!」
「ご無事ですか! 法王様!」
床も壁も崩壊した瓦礫だらけの礼拝堂に、息せき切って躍り込んでくる枢機卿たちと衛兵たち。
会議室にて各方面からの報告を聞いていた枢機卿たちであったが、アドモスが祈りを挙げるために向かった専用礼拝堂の方から濃密な魔力の波動を感じ取り、押っ取り刀で会議室を飛び出した。
そして専用礼拝堂のある中庭に出た所で、礼拝堂が内側から爆発するのを目の当たりにしたのだ。
「法王様!」
瓦礫の山を掻き分け、アドモスを捜索する一同。
「これは! 皆さん!」
最年少枢機卿伊達男アンドレが、瓦礫の隙間から見覚えのある法衣の裾が出ているのを発見した。
この瓦礫の下にアドモスがいるのか。
「どけ、アンドレ卿」
武闘派枢機卿ブレナンがアンドレをどかせて法衣の袖をまくり、裾の上の瓦礫に手を掛ける。
「おおお!」
剥き出しになった腕に筋肉の束が浮かび上がり、瓦礫が少しずつ動いていく。
さすがは元聖堂騎士団団長というべきか。現場を離れても体を鍛えることを怠ってはいないらしい。
「法王様!」
ブレナンが動かした瓦礫の下には、皆の予想通り満身創痍のアドモスが横たわっていた。
その身に纏う権威の象徴たる壮麗なる法衣も、もはやボロ雑巾と言った方が良いくらいにズタボロになっている。
瓦礫を脇にずらしたブレナンがアドモスを抱き起こし、口に顔を近付けて息をしているかどうか確認する。
か細く今にも止まりそうではあったが、アドモスの口は息をしていた。
「大丈夫だ、息はある!」
心配そうに見守る他の枢機卿の顔が安堵でほころぶ。
「良かった……だが法王様は誰と戦っていたのだ?」
瓦礫の山を見回したアベルが疑問を口にした。
神聖なる結界に守られた礼拝堂に入り込むのみならず、跡形もなく破壊するなど並の魔族にできることではない。
他の枢機卿たちも顔を見合わせて首を傾げている。
「そんなことは後だ、後! 今は法王様を何とかしないと!」
ブレナンは腕の中でぐったりしているアドモスを、荒れていないまともな床へと運び横たえる。
そして傷を医療するため高位の回復系神聖術を掛けるべく神への祈りを唱え始めた。
「神よ 天空にて我らをお見守りくださる太陽神よ 貴方の敬虔なる信徒たる法王様をお救いください……」
他の枢機卿や衛兵は固唾を飲んでアドモスとブレナンに注目し、完全に他のことを忘れていた。
当然と言えば当然なのだが、このことをアベルは将来、何度も後悔することになる。
『何故あの時、敵の消息も掴めていないのに注意を怠ってしまったのか』
と。
ブレナンの腰巾着である枢機卿コリンズの後ろの瓦礫が静かに持ち上がり、その隙間から血塗れの枯れ木のような細い右腕が覗いた。
開いた掌に宿る炎。
「爆炎弾幕」
ボソリと一言、魔族語で術名が。
掌から放たれた無数、正に数えるのも馬鹿らしい程の数の小さな爆炎球が、アドモスとブレナンにしか目が行っていなかった一同を背後から襲う。
小規模の爆発が連続して発生し轟く爆音の中、微かに人の悲鳴が聞こえていた。
爆発と爆音が治まった後そこに残るのは、正しく屍累々といった体の有様であった。
全身を焼き焦げらせた枢機卿や衛兵たちが瓦礫の山に横たわっている。
皆、呻き声を上げて藻掻いている。中には既に死んだのかピクリとも動かない者もいた。
そして、
「法王様ぁ!」
響き渡るブレナンの悲痛な声。
ピクリとも動かない者の筆頭、それは法王アドモス。
只でさえ瀕死の状態であったところに、爆炎弾幕を防御もままならずもろに食らってしまったのだ。
顔を涙でグシャグシャにしながら、息をしていないアドモスに縋り付くブレナン。
「お目を、お目をお開けください! 法王様!」
他の者も只一人を除いて物言わぬ死者と化したアドモスを痛ましげに見ている。
唯一の例外アベルは後方、そう攻撃の飛んできた後方へと視線を向けていた。
そこには瓦礫を押し退けて立ち上がった、片腕の痩身矮躯の老人がいた。
上腕の途中から千切れた左腕に取りあえずの応急処置の術を掛けているその老人を見て、アベルは驚愕する。
「まさか、魔老公ムドウか?!」
アベルの言葉に、ニヤリと笑って答えるムドウ。
「その通り、よく分かったの。しかし実戦経験の無いお飾りじゃと甘く見ておったわ。腐っても法王と言ったところか……誇るがいい、お前らのトップは儂の片腕を持っていった。この魔老公の片腕をな」
先程まで馬鹿にしていたアドモスへの賛辞を口にするムドウ。
己の術と拮抗する力を見せ片腕を持っていった敵への、純粋なる賛辞。
「おのれ、魔老公! 法王様をよくも!」
ブレナンが重傷の火傷を負っているとは思えない動きで走り出した。
腰の長剣を抜いて、術を掛ける。
「太陽の力よ 我が剣に宿れ 太陽の刃!」
刀身が真夏の太陽の如く眩く光り輝く。
剣の刃にしか掛けられないという条件が付くが、強力な攻撃力増強の術である太陽の刃。
ちなみに天の栄光は、この術が常時掛かっているような状態だと思っていい。
「おおお!」
ブレナンは光り輝く剣を振りかぶり、アベルの脇を走りすぎる。
「待て、ブレナン! 迂闊にしかけるな!」
アベルの忠告も聞こえていないのか、猪突猛進と言った感じでムドウへと走るブレナン。
「ふ、愚かな」
目前に迫った猪武者を鼻で笑い、魔老公は詠唱無しの単言術を放つ。
「火葬」
ブレナンの体に火が点いた。松明のように勢い良く燃え上がる。
普段なら、魔力の篭められた法衣や装身具によって抵抗もできたかもしれない。
しかし、先程の爆炎弾幕によって法衣も装身具も破損しており、その身を守る役には立たないでいた。
「おごぁぁ!」
悲鳴を上げて頽れるブレナン。
ゴロゴロと転げ回って、その身を焼く炎を消さんと足掻く。
「ブレナン卿!」
取り巻きであるコリンズの悲痛な声が響き渡った。
聖都の一番長い日 その5 終了
何とか気力を取り戻した法王が、先程の狼狽振りが嘘のように威厳ある態度で魔老公に対峙する。
「驕りすぎ? かっかっか……笑わせおるわ、実力皆無のお飾りが。お主のことは調べたが、まともに我ら魔族と戦ったことがないそうじゃの? 法王庁創立メンバーの血筋である高位聖職者を代々輩出してきた名門の家に生まれ、街を出ること無くキタンの中でほぼ戦闘経験の無いまま実家の政治力で出世。十三年前、先代法王が汚職によるゴタゴタで暗殺された際、派閥間の政治的な駆け引きにより中立派のお主が擁立され法王となった。じゃよな、間違っておらぬよな?」
嫌らしい笑みを浮かべながら、アドモスのこれまでの経緯を並べ立てる魔老公。
対するアドモスは事実なので反論できないのか、悔しそうに歯軋りしながらも黙っている。
そう、魔老公ムドウの言うとおり、アドモスに実戦経験は無い。
法王庁創立メンバーの末裔の家に生まれ家の威光により若くから法王庁の要職となって、キタンの外に出ること無く過ごしてきた。
そして十三年前に先代が死んだ際、次の法王を巡って派閥間で政争が勃発。
魔族領域を積極的に攻めるのを主張する主戦派と、人族の領域に攻めてこないのならば放っておけばいいという不戦派の二大派閥だ。
二大派閥の勢力は拮抗しており、結果として選ばれたのは、不戦寄りの中立派であったアドモスであった。
つまり完全にアドモスは実力で法王になったのではなく、派閥間の綱引きの結果そうなったに過ぎないのだ。
「十三年間、お主は主戦派と不戦派の間を取り持ちながら上手くやって来た。しかし、もはやそれも終わりじゃ。天の栄光が使い手を選び復活した今、そちらは聖戦の気運が高まっておるはず。お主のような政治力しかないお飾りは早晩引きずり下ろされるじゃろうて。ならば、せめて戦の狼煙として、華々しく散るが良い」
そこまで言ってムドウは言葉を切り、詠唱を始めた。
「儂は弱い。確かに派閥政治の結果、選ばれた無能じゃ。だが、お飾りとは言え法王の名に賭けて、そう易々と殺されるものか! 太陽神よ、我にご加護を」
アドモスは、太陽神の信徒の頂点に立つ者・法王としてのなけなしの誇りを胸に、ムドウを睨み据える。
光を飲み込み渦巻く漆黒の魔力を纏う魔老公ムドウ。
日の光のように暖かな光の魔力を、その痩躯より放つ法王アドモス。
余りに濃密な魔力が集まったためか、礼拝堂の空気がびりびりと震えている。
極限まで高めた魔力を放つ時を待つ光と闇の老人。
対峙の時間は、当人たちにとっては無限に感じられたであろう。
「暗黒波濤! 漆黒の波に飲まれて死ぬが良い!」
ムドウの周りで渦巻いていた漆黒の魔力が津波のように、アドモスへと押し寄せる。
対するアドモスは、
「太陽神の光よ 全ての闇を打ち払いたまえ! 聖光爆裂!」
と、人一人すっぽり入れそうな大きさの光球を、押し寄せる黒き津波へと放った。
両者の中間でぶつかり合う光と闇の魔力。
衝突した魔力が拮抗する中、余波によって床が破壊され、破片が瞬時に粉微塵になって風によって撒き散らかされていく。
床の崩壊は衝突地点を中心に広がっていき礼拝堂全てに及んだ。
当然、立っていたアドモスとムドウもそれに巻き込まれ、瓦礫と化した床に足を取られてバランスを崩す。
「「おおっ!」」
倒れそうになる二人の目の前で、拮抗していた光と闇の魔力が限界を迎えた。
余りのエネルギー量に臨界に達して爆発したのだ。
光と闇の混じり合ったエネルギーが礼拝堂を埋め尽くし、全てを飲み込んでいく。
* * *
「法王様!」
「ご無事ですか! 法王様!」
床も壁も崩壊した瓦礫だらけの礼拝堂に、息せき切って躍り込んでくる枢機卿たちと衛兵たち。
会議室にて各方面からの報告を聞いていた枢機卿たちであったが、アドモスが祈りを挙げるために向かった専用礼拝堂の方から濃密な魔力の波動を感じ取り、押っ取り刀で会議室を飛び出した。
そして専用礼拝堂のある中庭に出た所で、礼拝堂が内側から爆発するのを目の当たりにしたのだ。
「法王様!」
瓦礫の山を掻き分け、アドモスを捜索する一同。
「これは! 皆さん!」
最年少枢機卿伊達男アンドレが、瓦礫の隙間から見覚えのある法衣の裾が出ているのを発見した。
この瓦礫の下にアドモスがいるのか。
「どけ、アンドレ卿」
武闘派枢機卿ブレナンがアンドレをどかせて法衣の袖をまくり、裾の上の瓦礫に手を掛ける。
「おおお!」
剥き出しになった腕に筋肉の束が浮かび上がり、瓦礫が少しずつ動いていく。
さすがは元聖堂騎士団団長というべきか。現場を離れても体を鍛えることを怠ってはいないらしい。
「法王様!」
ブレナンが動かした瓦礫の下には、皆の予想通り満身創痍のアドモスが横たわっていた。
その身に纏う権威の象徴たる壮麗なる法衣も、もはやボロ雑巾と言った方が良いくらいにズタボロになっている。
瓦礫を脇にずらしたブレナンがアドモスを抱き起こし、口に顔を近付けて息をしているかどうか確認する。
か細く今にも止まりそうではあったが、アドモスの口は息をしていた。
「大丈夫だ、息はある!」
心配そうに見守る他の枢機卿の顔が安堵でほころぶ。
「良かった……だが法王様は誰と戦っていたのだ?」
瓦礫の山を見回したアベルが疑問を口にした。
神聖なる結界に守られた礼拝堂に入り込むのみならず、跡形もなく破壊するなど並の魔族にできることではない。
他の枢機卿たちも顔を見合わせて首を傾げている。
「そんなことは後だ、後! 今は法王様を何とかしないと!」
ブレナンは腕の中でぐったりしているアドモスを、荒れていないまともな床へと運び横たえる。
そして傷を医療するため高位の回復系神聖術を掛けるべく神への祈りを唱え始めた。
「神よ 天空にて我らをお見守りくださる太陽神よ 貴方の敬虔なる信徒たる法王様をお救いください……」
他の枢機卿や衛兵は固唾を飲んでアドモスとブレナンに注目し、完全に他のことを忘れていた。
当然と言えば当然なのだが、このことをアベルは将来、何度も後悔することになる。
『何故あの時、敵の消息も掴めていないのに注意を怠ってしまったのか』
と。
ブレナンの腰巾着である枢機卿コリンズの後ろの瓦礫が静かに持ち上がり、その隙間から血塗れの枯れ木のような細い右腕が覗いた。
開いた掌に宿る炎。
「爆炎弾幕」
ボソリと一言、魔族語で術名が。
掌から放たれた無数、正に数えるのも馬鹿らしい程の数の小さな爆炎球が、アドモスとブレナンにしか目が行っていなかった一同を背後から襲う。
小規模の爆発が連続して発生し轟く爆音の中、微かに人の悲鳴が聞こえていた。
爆発と爆音が治まった後そこに残るのは、正しく屍累々といった体の有様であった。
全身を焼き焦げらせた枢機卿や衛兵たちが瓦礫の山に横たわっている。
皆、呻き声を上げて藻掻いている。中には既に死んだのかピクリとも動かない者もいた。
そして、
「法王様ぁ!」
響き渡るブレナンの悲痛な声。
ピクリとも動かない者の筆頭、それは法王アドモス。
只でさえ瀕死の状態であったところに、爆炎弾幕を防御もままならずもろに食らってしまったのだ。
顔を涙でグシャグシャにしながら、息をしていないアドモスに縋り付くブレナン。
「お目を、お目をお開けください! 法王様!」
他の者も只一人を除いて物言わぬ死者と化したアドモスを痛ましげに見ている。
唯一の例外アベルは後方、そう攻撃の飛んできた後方へと視線を向けていた。
そこには瓦礫を押し退けて立ち上がった、片腕の痩身矮躯の老人がいた。
上腕の途中から千切れた左腕に取りあえずの応急処置の術を掛けているその老人を見て、アベルは驚愕する。
「まさか、魔老公ムドウか?!」
アベルの言葉に、ニヤリと笑って答えるムドウ。
「その通り、よく分かったの。しかし実戦経験の無いお飾りじゃと甘く見ておったわ。腐っても法王と言ったところか……誇るがいい、お前らのトップは儂の片腕を持っていった。この魔老公の片腕をな」
先程まで馬鹿にしていたアドモスへの賛辞を口にするムドウ。
己の術と拮抗する力を見せ片腕を持っていった敵への、純粋なる賛辞。
「おのれ、魔老公! 法王様をよくも!」
ブレナンが重傷の火傷を負っているとは思えない動きで走り出した。
腰の長剣を抜いて、術を掛ける。
「太陽の力よ 我が剣に宿れ 太陽の刃!」
刀身が真夏の太陽の如く眩く光り輝く。
剣の刃にしか掛けられないという条件が付くが、強力な攻撃力増強の術である太陽の刃。
ちなみに天の栄光は、この術が常時掛かっているような状態だと思っていい。
「おおお!」
ブレナンは光り輝く剣を振りかぶり、アベルの脇を走りすぎる。
「待て、ブレナン! 迂闊にしかけるな!」
アベルの忠告も聞こえていないのか、猪突猛進と言った感じでムドウへと走るブレナン。
「ふ、愚かな」
目前に迫った猪武者を鼻で笑い、魔老公は詠唱無しの単言術を放つ。
「火葬」
ブレナンの体に火が点いた。松明のように勢い良く燃え上がる。
普段なら、魔力の篭められた法衣や装身具によって抵抗もできたかもしれない。
しかし、先程の爆炎弾幕によって法衣も装身具も破損しており、その身を守る役には立たないでいた。
「おごぁぁ!」
悲鳴を上げて頽れるブレナン。
ゴロゴロと転げ回って、その身を焼く炎を消さんと足掻く。
「ブレナン卿!」
取り巻きであるコリンズの悲痛な声が響き渡った。
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