魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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いらだち

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 俺の生活はだんだん夜中心に替わりつつあった。

 夜になってから自室を抜け出してこっそりと図書館に向かう。図書館へ行く道はほぼ把握している。誰もいない通路を外套のフードを深くかぶり鼻歌交じりで歩く。この目立たない外套を買っておいて本当によかった。時々見回りの先生の姿を見かけるけれど、彼らは俺にまるで気づく気配はない。夜の闇が俺をやさしく包み隠してくれる。

 この調子なら、俺が呪われているなどという噂を流した連中もすぐに捕まえられる。そう楽観的に考えていた。

 しかし、甘かったのは俺のほうだったのかもしれない。陰は俺の前には現れなかった。

 おかしいな、生徒を脅すつもりならこの通路のどこかに潜んでいると思うのだが。何度も影を目撃したという通路を探してみたけれど、その場には誰もいない。
 あいつらはもう工作をあきらめたのだろうか。

 だが、そうしている間にも、噂はどんどん尾ひれがついていた。俺がいない場所で影が目撃され、生徒の中に不安が広がっていった。俺の周りには誰も近寄らなくなり、俺は寝不足で、授業中もあくびをこらえるのが大変だ。

「ラークさん」
 気が付くといつものようにリーフが俺を起こしていた。
「寝ていたら、駄目ですよ。起きて」

「ああ、リーフ。もう、授業は終わったの?」

「とうの昔に終わっています。はい、お弁当」
 俺たちは誰もいない教室で弁当を広げる。平民用の昼食セットだ。

「眠そうですね。また、夜の散歩ですか?」

「うん。でも、目当ての奴らは見つからなくて……いろいろ探してみたんだけどね」

「それはそうだろう」

 そこへイーサンが合流してきた。彼は弁当箱に詰めた貴族用の食事を運んでくる。もちろん、俺とリーフが食べても十分なほどの量だ。うん、こちらのほうが種類も豊富でおいしいぞ。

「君はここが何の学校だと思っているんだ?」

「あー、魔道学園?」

「そう。魔法士を養成することを目的に作られた学校だろ。魔法士がわざわざ姿をさらして魔法をかけると思っているのか、君は」
 え? そんなことを考えてもいなかった俺にイーサンはさらに続けた。
「魔法よけが施されているとはいえ、抜け穴はたくさんある。その抜け穴をうまく使って偽陰を作り出している可能性がある。魔法が駄目なら、魔道具とか使って。魔力痕跡は調べた?」

「……なんだ? それ?」

「授業でやっただろう」イーサンがため息をつく。

「あ、まだ一年生はそこまで授業が進んでいませんよ」
 リーフがさりげなく助けてくれた。

「……魔力は普通誰が使ったか、どのあたりで使われたのかわかるんだ。その人特有の型みたいなものがあって」
 俺が全然わかりませんという表情をしていたのだろう。イーサンはたとえを入れ始めた。
「どの精霊と相性がいいかという感じ? えーと、君のところでは……あー」
 彼はちらりとリーフを見た。

「どの精霊の魔法が使いやすいか、人それぞれ個性があるでしょう? それから逆に魔法を使ったのが誰かを推測できるのですよ」
 リーフが言葉を継いだ。


「魔法返しみたいなものかな?」
 戦士の使う基本技だ。俺の中で戦士の学校で学んだことがよみがえる。魔法返しは単純に魔法をはじく技で、対帝国の魔法戦を考えたときに必要不可欠な技だ。北の戦士たちはこの基本技はすぐに覚える。ただ、もちろん実戦ではそれだけでは役に立たない。誰がどこで魔法をかけたのかを特定し、優先目標としてつぶす。それができるのは高位の隠密が得意な戦士だ。

「……それはまた高度な。三年生で習う技、でしたか?」
 リーフが目を丸くする。

「??? 相手の魔導士をつぶす基本技だろ……あー」
 俺は口を滑らせかけて、ごまかした。
 危ない、危ない。リーフは俺が北の出身だとは知らないはずだ。

「と、とにかく、わかるんだよ。誰が魔法を使ったか」
 俺の失態に気が付いたイーサンが慌てて話をしめた。

「それはどうやってやるんだ?」
 俺も興味津々できいてみる。

「……やり方は上級生なら知っていると思う」
 僕たちはまだ、とイーサンは口を濁した。

「簡単にできますよ」
「え?」「え?」俺とイーサンは同時にリーフを見た。

「できますよ。魔道具を使えば」
 リーフは何を当たり前のことをという表情を見せる。
「最近、できたんですよ。簡単魔力探知機。僕も作ってみましたけれど、まぁまぁの感知度ですね」

「それ、手に入れられる?」
 俺はリーフのほうに身を乗り出した。

「え、ええ。試作品ならありますけど……」

「貸してくれ」
 本当にそんな道具があるのなら、話は変わる。さすが魔道帝国。俺の想像の何歩も先をすすんでいる。

「いいですけど、試作品ですよ。実際に感知できるかどうかは……」

 リーフが何か言い訳をしていたが、俺はすでに聞いていなかった。
 はは、みておけよ。卑劣な魔法使いども。
 魔法と聞いて臆病な気分になっていたけれど、がぜんやる気が出てきた。

 俺は少し強引にリーフに頼み込んで、その魔道具と持ってきてもらうことにした。
 代金はきちんと払うぞ。今の俺にはデリン家という最強の資金源があるからな。

 リーフが実家から魔道具を持ってくるまで、俺とイーサンは対策を練ることにした。
 俺とイーサンはまだ謹慎中で外に出ることを許されない。こっそりと町に行くことも考えたのだが、イーサンには強く反対された。これ以上、罰則を受けてたくはないよな。俺は我慢することにする。

「ところで、ラーク、本当に先のことを考えているんだろうな。その魔道具探知に引っかかる相手を見つけたとしてどうするつもりだ?」

 イーサンは腕組みをして聞いてきた。
 俺が何も考えていないと思っているのだろうか。失礼だな。ちゃんと作戦はあるぞ。

「だから、魔法を返してやればいい」
 俺が簡単に説明するとイーサンは目を細めた。

「返すって簡単に言うけれど、それは北部の戦士の技か? 魔法の苦手な君でもできるのか?」

「簡単な技ならできるけどね。今年、もっと高度な技が使えるように実習を積むはずだったんだよ。今年」
 俺は悔しくなってきた。同じ学年の生徒に後れを取ってしまった。
「でも、兄貴曰く、結局気合らしい。気合なら負けないだろう」

「……気合って、気合ねぇ」イーサンは肩を落とす。

「お前のほうはどうなんだよ。魔法で返す方法もあるんだろ」

「ある。あるが僕にはまだ無理だ」
 ふん、それでは俺と変わらないじゃないか。人のことは言えないな。

「やり方は教科書に載っているんじゃないか。上級生が習うってことは」
 俺は自分の教科書を取り出した。
「調べればいい」

 イーサンは残念そうに首を振った。

「それ、初級の教科書だろ。載ってないよ」

「そうか。じゃあ、図書館だね」
 俺は椅子から立ち上がる。

「ラーク、君は勉強が嫌いなのに何でそんなに生き生きとしているんだ?」
 イーサンは腕組みを解いて、ため息をついた。

 俺は役に立つ勉強は好きなんだ、そう小さくつぶやく。

 俺はそれから勉強するという本来の目的で図書館通いを始めた。これまで図書館に行くのはリーフに会いに行くか、あたりを偵察するための口実だったからな。まともに勉強するつもりなのは今回が初めてだ。

 魔法を相手に返す理論の本はすぐに見つかった。棚一つ丸ごと、その理論の本だった。しかし読んでも内容が全然頭に入らない。防御結界術? 防御のための呪文構築? もっと、初心者向けの本はないのだろうか。

 リーフに応援を頼んだけれど、彼は首を振った。

「僕は、魔道学はわかるけれど、魔法学の理論はまだまだなんですよ」

「その二つ、違うのか?」
 同じようなものだと思っていた。授業で聞く限り重なる内容が多かったから。

「魔道学は魔道具を作る基礎になる理論、魔法学は魔法を使う理論、似ているようで違うんだよ。だから、授業も二つ分かれているでしょ」

「お、おう」
 押され気味にうなずく。魔法は奥が深いからな。

「僕は魔道具をいじるのは得意だけれど、魔法の理論は未熟なんだよね」

「でも、おまえ、精霊を呼び出してたじゃないか。どちらの授業でも……」

 リーフは首を振る。

「あれは補助具を使っての魔法の発動だよ。下に魔法陣が書いてあったでしょう。自力で発動するのは難しいし、理論となるともっと難しい。僕の兄さんだったらわかるかもしれないけどね」

 本屋のローレンスか。あれからローレンス兄の姿は時々授業で遠目に見るくらいだ。俺に対する悪い感情が少しでも和らいでいればいいけれど、周りの反応を見る限り悪化しているかもしれない。本当に俺が行くところ、行くところ、人がいなくなるのだ。今日も図書館はガラガラだった。

「うわぁ、じゃぁ、魔法返しなんて……俺には無理、か?」

「うん、今のラークさんには難しいと思う」断定された。

 おかしいな。兄貴は簡単にできるような言い方をしていた。もし、北の学校にある図書館ならば理論本はあっただろうか。いや、ないな。そもそも本の数が少ない。北の学校にいるのは俺のような実戦を重んじる戦士が多い。分厚い理論書なんて焚き付けに使われそうだ。

「せ、精霊術なら……」
 これならどうだ? 思わず口にしてしまったが、リーフの渋い顔が返ってきた。

「ラークさん、神官修行するつもりですか?」

「精霊術って、神官の分野なのか?」

 それも知らなかったぞ。ひょっとして、俺たち北の戦士はここでいう神官の立場なのだろうか。ここにいる神官どもはひょろひょろで、とても戦士の役割を果たせると思えないのだが。

「……」
 リーフは俺の発言を訂正するのをやめてしまった。

 そのかわり、まずは基礎から頑張りましょう、と優しく微笑んで新しいノートを貸してくれた。くそう、こんなことをしている場合ではないのだが。
 結局、次の休み明けにリーフが持ってきてくれる簡易魔法探知機が来るまで待たないといけないか
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