魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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新しい部屋

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 俺はリーフを探した。記憶石にあんな幻覚を見せる効果があるのか、確認したかったのだ。記憶をしまっておくと聞いていたから、ただ目の前に絵のように映し出されるものだと思っていた。あれがローレンスの記憶だとしたら、絵どころの話ではない。まるで自分が体験したかのような生々しい感覚。俺がローレンスの感情の断片を味わっているようだった。はたしてそんなものを再現させることが可能なのだろうか。

 リーフは兄貴と食堂にいた。

「おう、そこにいたのか」
 屈託ない兄と違って、リーフの顔は硬直していた。表情が消えている。

「ちょうどよかった。これから部屋に移動するところなのだ。お前も手伝え」
 兄貴は陽気にそう告げた。

「いいですよ。兄貴。リーフ、ちょっと話があるのだけれど……」
「な、なんですか?」
 リーフの追い詰められた顔を見て俺は質問するのをやめた。

「いや、いいよ。あとにするよ。……どうしたんだ?」
 リーフの怯えたような表情が気になった。兄貴と一緒にいれば安全なはずなのに、何が怖いのだろう?

「いやな。リーフも兄弟だろう? だから、一緒の部屋で暮らすことにした」
 無言のリーフに代わって兄貴が応える。
「もちろん、リーフだけじゃない。もしよければお前たちも一緒に過ごすか、イーサン?」

「僕達の部屋はあるので」小さな声が返ってきた。
 イーサン、お前もいたのか。兄貴の後ろで気配を隠していたから気が付かなかった。

「いやな、部屋がとても広いんだ。何でもここの国の王族方が暮らす館の一部らしくてな。広すぎて俺一人じゃぁ使い切れない。中で走り込みができる広さなんだぞ。お前たち、全員が来てもまだまだ部屋が余るくらいの広さなんだ。もちろん来るよな」
 いやとは言わせない、そんな言い方にリーフとイーサンは絶句している。

 兄貴が無邪気に笑う一方で、俺の脳裏には別のことがよぎる。
 王族方が暮らす部屋?監視が厳しくて俺が入れずにいたあの建物だ。武器を携えた護衛が常に見張っていて、おまけに結界も張ってあるということで、探索を後回しにしていた区画だった。あの建物の中に兄貴が暮らす……そして、俺たちを誘っている?

「もちろん。荷物運びも手伝いますよ」
 俺は即座にそう申し出た。俺の頭の中では新たな計画が芽を吹き始めている。

「そうか、そうか、来てくれるか。荷物の中には重いものもあるがよろしく頼むぞ」
 兄貴は朗らかにそう告げた。

 荷物運びは大変だとはいわれたものの、兄貴の荷物は少なかった。本来なら兄貴一人でも運ぶことができる量だ。

「馬もここに連れてきたかったのだが、駄目だといわれた」
 悔しそうに兄貴はいう。
「それから、武器も持ち込みも禁止らしい。戦士の盛装が許されないとは」

「それはよかったですね」うっかりイーサンが本音を漏らしている。

 兄貴を王族のいる建物に住まわせるかどうか、先生たちの間で議論が起きたらしい。特に俺やイーサンを入れることに関しては、反対する人が多かったという。俺がフェリクス王子に暴行を働いたのは公然の事実だったし、それから仲がこじれていることも周知の事実だからな。
 荷物を運んできた俺たちを渋い顔をした先生が迎えた。

「許可の呪は与えましょう。……ただし、中で騒ぎを起こさないように。ローレンス」
 名指しで注意された俺は神妙な顔でうなずいた。

「ラーク、頼むから騒ぎを起こさないでくれよ」
 イーサンまで後ろで警告をする。
 俺があちこちで騒ぎを起こしているような言い方はやめてもらいたい。そもそも俺は迷惑をかけることなど考えてもいない。ただローレンスの部屋に手掛かりになる物を取りに行けると思っているだけだ。

 玄関で見張っている騎士の鋭い視線にさらされながら通された部屋は本当に豪華だった。足音が立たないほどふかふかに敷き詰められた絨毯、きらきらと光る魔道具が明るく廊下や部屋を照らし、ところどころには見事な花を生けた壺が飾られている。造花や彫刻ではない。本物の庭から摘んできたばかりのような花だ。
 ここに住んでいる人たちの格や財力を表しているかのようだった。

「ここから先は、立ち入り禁止です」
 第二王子のサロンがあると思しき方向へ行こうとすると、きっぱりと騎士たちに止められた。ちっ、偵察に行こうと思っていたのに。
 ひょっとしたらと思って笑顔を作ってみたけれど、護衛たちはにこりともしない。完全に不審者認定されているな。

 面倒なことに、兄貴の住む区画とラークの居室があった区画は絶妙に離れていた。離されていたといったほうが正確か。直接行き来できないように間に区画が挟まれている。第二王子のサロンとやらに潜入するのはなかなかに骨が折れそうだ。
 俺が険しい顔で、廊下をにらんでいると、兄貴がポンと頭をたたいてきた。

「ランス、大丈夫だ」
 そう言って任せておけというように片目をつぶる。
「なんとかなる。力を合わせれば何でも成し遂げられる、そうだろう」

 そういうと兄貴は嬉しそうに自分に与えられた場所を俺たちに紹介し始めた。

「俺たちが使えるのは他国の王家や神官が泊るかなり広い区画らしい。俺もちらりと説明を受けただけなんだが、ここには専用の厨房があって、注文すれば飲み放題食べ放題らしいぞ」
 兄貴が嬉しそうに話す。「さぁ、こっちだ」

 兄貴の部屋は確かに広かった。居間と主寝室と勉強部屋、それに予備の寝室が二つ、いろいろな用途に使える空き部屋もいくつか、召使用の小部屋まで用意されていた。

「アルフィン様、従者は連れてこられなかったのですか?」
 イーサンがきいている。王族というからには従者がいるものだと、それが帝国の常識らしい。兄貴はそれを聞いて肩をすくめる。

「連れてきてもよかったが、なんだな。あまり魔法の勉強に興味がある奴がいなくてな。生活が不自由ならこちらで募集すればいいかと思ったのだ」
 兄貴は寝台の上で柔軟体操をしながら答えた。
「今はお前たち、兄弟がいるから、別段不自由は感じないぞ。なぁ、兄弟」

 兄貴は寝台を飛び降りてリーフの肩をたたいた。豪華な部屋に圧倒されていたリーフは我に返ったようにうなずく。

「こんなところ、僕が使ってもいいのですか?」

「ああ、どの部屋でも好きに使え。お前の好きな魔道具用の器具も持ち込んでもいいぞ」

 兄貴は自分の毛皮の整理をはじめがら、振り向きもせずにそういう。
 リーフは最初はおっかなびっくり、だんだん熱をもって部屋の探索を始めた。

「うわぁ、本もいろいろある。これ、初めから用意してあったのでしょうか?」
「ああ。前の奴が残していったものらしいぞ。誰だか知らんが」
 前の住人は北に縁があるものではなかったらしい。様々な魔法の器具に古い教科書、分厚い本が当時のまま残されていた。リーフは嬉々としてその本を開いて中身を確認している。

 兄貴は顔を上げて、荷物を運び込んでいる俺とイーサンに笑いかける。

「お前たちも部屋を好きに使え。自分の部屋に戻りたければそうしてもいいが、ここのほうがいろいろと便利だろう?」
 俺が何をしたいのか、わかっているといわんばかりの言い方だ。
 確かに。ここならだれにも見られることがなくいろいろな作業ができる。

「ですね。道具を運び込んでもいいですか?」
「いいぞ。何でも持ってこい」
 俺は兄貴と顔を見合わせてにやりとした。

「今日は部屋の整理に人手が必要ですよね。泊まり込みで掃除しますね」
「そうだな。ゆっくりとしていくがいい」

「ラーク……」
 やり取りを聞いていたイーサンが肩を落とした。俺が全く学園の先生たちの警告に従うつもりがないことを察したのだろう。

「イーサン、もちろん、お前も泊っていくよな」
 俺はイーサンに肩をたたく。第二王子のサロンの情報を持っているのはイーサンしかいないからな。
「そうとも、お前だけが頼りだからな」兄貴も反対側の肩をたたいた。イーサンはうめいた。

 平民であるリーフはこういう時には役に立たないし、の俺も情報を持っていない。もう頼りになるのはイーサンの見聞きしたことだけなのだ。

 俺たちは居間のソファ周りに集まって、イーサンから情報を聴取した。そんなものに興味がないリーフはその横で古い本を読み始めている。
 渋った様子を見せながらも、それでも、イーサンは俺たちにできるだけの情報を与えてくれた。イーサンの家も力を失っているとはいえ、一応大公家だ。何回かフェリクス王子のサロンには招かれたことはあったらしい。
 それに第二王子派に何人かの友人もいたから、彼らからの情報も伝聞ではあるが話してくれた。

「ただ、最近は彼らと話をしていないからなぁ」
 長椅子に並んで座るイーサンは憂鬱そうな瞳を伏せた。目の前には俺が作っているこの館の見取り図が広げられている。
「僕と話をするなという暗黙の命令が出されているからね。残念ながら」

 それについては本当に申し訳ないと思う。その原因となったのはもちろん俺だ。
 俺はイーサンの肩に手を回して、慰めるように声をかけた。

「そのことについては、悪かったよ。俺がいろいろとやらかしたからな」
 俺が殊勝に謝ると、イーサンは驚いたように俺と目を合わせた。俺は勇気づけるようにうなずく。
「でも、大丈夫だ。兄貴も来た。これからは俺たちの反撃する番だ。精霊の御力が俺たちを守ってくれているぞ」

「反撃?」イーサンの疑い深そうに青い瞳が少し細められた。

「そうだとも」
 俺は肩に手を回して、イーサンの髪をぐしゃぐしゃと撫でまわした。イーサンの髪は見た目よりも柔らかい。
「これからは俺たちがあいつらに仕掛ける番だ」

 守備で耐えるのも美徳だけれど、やはり攻撃のほうが気分が盛り上がるからな。あいつらの嫌がらせに倍返した。

「イーサン。俺たちがついているからな。安心しろ。力になってやる」

 俺は自信をもって言い切った。
 イーサンは一瞬体を硬くして、俺の体を引き離した。

「だから、いいって。もう」
 そう言いながら、顔を背ける。酒も飲んでいないのに、赤くなっているのはどうしてなんだろう。

「ははは、いいな。若者たちは」俺たちの正面に腰を下ろしていた兄貴は大笑いをした。

 出せるだけの情報をもとに立てた作戦は単純だった。

「見ろ。ここは召使用の通路だ」
 兄貴は簡単に書いた見取り図を指示した。俺とイーサンは身を乗り出して、その図を確認する。
「ここから侵入する」

 この館では厨房は一つだけだった。そこから、食事を運ぶのはそれぞれの召使の仕事で、だから厨房からは誰の居室でも行ける作りになっている。

「厨房は夜、無人らしい。真夜中に食事が欲しいときはあらかじめ伝えてくれといわれた」
 兄貴はにやりと笑い、俺もそれに答えた。
 素晴らしい。誰もいない厨房を抜けていけば、どの区画にも行ける、そういうことだろう?

「違う区画に入るのに鍵がいるのでは?」

 イーサンの言葉に兄貴は居間から厨房へ通じる扉を開けてみた。

「見てみろ。あるのはただの鍵だ」

「内側からしめられたら無理……」「行けますね」
 俺とイーサンの言葉がかぶった。

「ラーク、君はまさか……」
 イーサンはまさかという顔を俺に向けた。俺はイーサンが安心できるように微笑んでみせる。

「任せておけ。ただの鍵なら開けることができる。ほら、こんな感じで」
 俺は鍵開け用の針金をイーサンに見せた。

「魔法で封印されていても、簡単な封印なら突破できる。ですよね、兄貴」
「ああ。俺の精霊に任せてくれ」
 兄貴は得意げにうなずいた。

「精霊をそんなことに使うなんて……」「精霊をそういう使い方するんですね」

 今度はリーフとイーサンがかぶった。リーフは座り心地のいい椅子に座り込んで本を読んでいたはずなんだが。俺たちの話を聞いていたらしい。彼は本をパタリと閉じると、俺たちの話に食いついてきた。

「魔道具屋としては興味があります。普通、精霊の力は一種類しかこめられないはずなのに。そんな汎用性があるとは。力の使い方を教えてほしいですね」
 リーフの目が興味と興奮で輝いている。

「いいぞ。いつでも話を聞いてくれ」
 兄貴は鷹揚にうなずく。

 二人は早速新しい魔道具についての話し合いを始めた。案外、兄貴とリーフはいい組み合わせかもしれない。
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