小さくって何が悪い 婚約破棄された貧乏貴族令嬢は呪われた辺境で変態だけど奥手の紳士に目を付けられます。

オカメ颯記

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24ライバル

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『フランカ・レオン?! それって、氷の公女か?』
 なんだか興奮した書き込みが弟から戻ってきた。

『氷の公女? それ、なに?』 
 そう送ってから思い出した。

 フラウ様って、まさか、あの有名な“悪役令嬢”の元ネタになったレオン家の公女様だったの?

 あれは帝国に住む人ならだれもが知っている物語だった。

 大筋は光の乙女と王子の伝統的な恋物語だ。それをとある有名作家が新たな脚色をして、一時はやっていた。平民に生まれた麗しい乙女がとある王子と恋に落ちる。そして、様々な苦難を乗り越えて結ばれる。典型的な恋物語だ。ただ、この作品は実際の事件を基にして脚色されていた。

 星の皇妃候補として名前を挙げられていたレオン家の娘が、実は“まだら”であったという衝撃的な事件が起こったのは私がまだ初等学校に通っていた時だった。うまく体を光らせることができないという貴族としては致命的な欠点を隠していたということで、レオン家はとりつぶしになった。そしてその後援をしていた家がいくつも没落するという上流貴族界を揺るがす大騒動だった。

 幼いながらに私は身をすくめるようにしてその事件を耳にしていた。能力のないなんちゃって貴族の私はいつか処刑されるのでは、そんなことを思いつめたこともある。
 私は、体を光らせるどころか魔法も平民に毛が生えたくらいの能力しかない。貴族としての最低限のレベルさえ満たしていなかった。それに、うちは貧乏だった。だから、レオン家のように、光量をごまかすための魔道具を買うことができなかった。

 私にとって幸いだったのは、家が名ばかりの田舎貴族だったということだ。例外的に魔力が強く生まれついた弟以外、親戚縁者の魔力レベルは平民の平均レベルだった。何代も中央の役職に就いたことはなく、名声を得たものもいなかった。領民たちもそれに慣れていたので、他の

『噂ではスキャンダラスな女性だったわよね。わがままで、高慢で、目下のものを人とも思わない扱いをした、のだったかしら? でもね、昨日見た感じ、そんな風には見えなかったわよ。ここではとても人気よ。みんな彼女のことを崇拝しているみたいだったわ』

 氷の公女といわれていたから、もっと超然としている女かと思っていた。

『悪い人には見えなかったわ』

 みんな、彼女に夢中だった。
 彼女に殺到するあまりに、玉入れ競争が中止になったくらいだった。

『そりゃぁ、辺境の奴らにしてみたら、天から降ってきたように思えるだろうよ。腐っても大貴族なんだし。光ってるだけで、すごいって思うんだろ?…… え? 光っていなかった? 普通の人みたい? ……でも、本当にいるんだな。フランカ・レオン』

『いるのよ。私と同じように体が小さいのに、彼女、なんていうのかしら。気品があって、美しくて。私、絶対、彼女に勝てないわ』

『……姉さん、田舎の小貴族が大貴族に勝てるわけがないだろう』

『でもね、同じように小さいのよ。それなのに、あんなに人気があって、私は……』

『別にいいじゃないか。まさか、男を取り合うわけでもない、よな』

 男……私の脳裏に浮かんだのは日に焼けたたくましい……

 ううん。私は頭に浮かんだ映像を打ち消した。どうして私はあんな変態男のことを思い浮かべたのだろう。彼がフラウ様を信奉しているからといって。あんな、小さい子が好きな変態男のことを。

『ねぇ、まさか、姉さん……』
 弟がいきなり画像を送ってきた。
『この男と付き合っているとか?』

 え? それは私とアークとラーズ会長と三人で写っている画像だった。にこやかに私の肩を抱くアークと鬼のような顔をしているラーズ会長。こんな写真、送った覚えはないけれど。

『な、ないわよ、ないわ。どこでそんな画像を手に入れたのよ』

『姉さんが送ってきたじゃないか。ほかの写真とやらと一緒に』

『そ、そうだったかしら』

 いろいろまとめて送った中に紛れていたのだろう。慌てて話を逸らす。

『今は大変なの。忙しいのよ。殿方と付き合っている時間はないわ』

 これは本当だった。これからしばらく、いろいろな行事が詰め込まれている。新しくできる学校への視察も兼ねた実習、そして戦勝記念日とそれに伴う様々な催し物の手伝い、そして来年度に向けての試験。

 しかし、試験なんてどうやってやるつもりなのかしら。タブレットもないのに。

 私は泊りがけの実習に行くための荷物をつめ始めた。ユウ先生ご推薦の服と、そのあとに買い足した動きやすい服と、どちらにすればいいのかしら。悩んだ挙句、両方とも鞄に入れることにする。それから、ラーズ会長に用意してもらった旅用の服。これを着たほうがいいと思う。明日も車に乗っていくといっていた。それも、丸一日かかると。彼なら何をもっていけばいいといってくれるかしら。

 こんな時にでもラーズ会長のことを考えてしまった。
 私は彼の面影を頭の中から追い出した。

 こうして、私は頭の中を整理しながら忙しい日々を過ごした。そして実習の日がやってきた。

 次の日、集合した生徒たちは大はしゃぎをしていた。彼らの中にはこれが初めての泊りがけの旅行という生徒もいる。

 修学旅行という言葉が飛び交っていた。学校教育の締めとして行われる小旅行のことを指すらしい。誰が考えたのかは知らないけれど、面白い言葉だ。

「皆さん。これからお世話になるラーズ商会の皆さんです」

 見知った顔が並んでいる。
 もちろんラーズ会長も。

「あ、変態だ」「幼女好き」「女の子は気を付けないと……」
 ひそひそとしたささやきが広がる。

 彼のはみんな知っていたのね。私はため息をつく。いい男性だと思っていたのに。あんなに親切で頼りになる男性は今までいなかったのに。

 私は男の人を見る目がないみたい。

 ため息をついていると、アジル先生に声をかけられた。

「どうかしましたか、エレッタ先生。浮かない様子ですが」

「いえ、ちょっと寝不足で」
 用意に時間がかかったのですとか何とか、私は言い訳をする。

「体調には気を付けてくださいよ。すぐに医者が呼べる場所ではないので」

 今回生徒たちを引率するのは、アジル先生と私の二人だけだった。私たち二人で子供たちを無事に連れ帰ることができるだろうか。そのことを考えたら、本当に気分が悪くなりそうだ。

「大丈夫ですよ。あそこは冒険者もいますから。黒い民の医者はいますし、医療設備もしっかりしています」
 様子を見に来たラーズ会長が口をはさむ。
「エレッタ先生、顔色が悪いようだが、大丈夫ですか?」

「ええ。いろいろと心配することが多くて。子供たちのこととか」

「それなら、ご心配なく。俺たちで見張ってますから」
 ラーズはうなずく。
「親や親せきがついてきている子供もいますから、彼らも無茶なんかしませんよ」

 そうだろうか。こそこそと悪だくみをしている気配が漂っているのだけど。
 こちらをちらちら見ながら輪になっているティカたちは絶対何か企んでいる。
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