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第1話 「知らされた別れ」
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この作品は5話編成です。8月18日完結予定です。
放課後の教室は、夏の終わりを告げる蝉の声と、窓から差し込むオレンジ色の光で満たされていた。
廊下の向こうから聞こえる部活の掛け声や、机を引きずる音が、ゆるやかに一日を締めくくっていく。
俺――高木蓮は、机に突っ伏して、今日の小テストの出来に軽くため息をついていた。
「英語、やっぱり単語覚えてないとダメだな……」
隣の席から、くすっと笑う声が聞こえた。
「だから言ったじゃん。昨日の夜、単語帳見とけって」
顔を上げると、幼なじみの白石結衣が、ノートを閉じながらこっちを見ていた。
肩まで伸びた髪が、夕陽を受けて淡く透けて見える。
こういう瞬間、俺はいつも言葉を失う。
「まあ、次頑張ればいいよ」
そう軽く笑ってくれる結衣の横顔を見て、俺もなんとなく笑い返そうとした――その時だった。
「ねえ、蓮……私、転校することになった」
一瞬、頭が真っ白になった。
耳に届いたはずの言葉が、意味を成すまでに数秒かかった。
「……は?」
情けないくらい短い声しか出せなかった。
結衣は机の端をそっと撫でるように指先を動かしながら、小さく息を吐いた。
「お父さんの仕事の都合でね。急に決まっちゃって……来週には引っ越し」
来週。
つまり、残されたのは今日を含めてたった5日。
「そんな急に……」
俺は言葉を探したけれど、見つからない。
頭の中では、これまでの思い出がフラッシュバックのように流れていた。
小学生の頃、放課後に駄菓子屋へ行ったこと。
中学で同じクラスになって、文化祭で一緒に出店をやったこと。
そして、高校に入っても隣の席で、くだらない話をし続けてきたこと。
その全てが、あと5日で終わるのか――そう思った途端、胸が締めつけられた。
「最後まで、普通に過ごそう」
結衣はそう言って、少しだけ笑った。
だけど、その笑顔はどこかぎこちなく、声もわずかに震えていた。
夕陽が沈みきる前の光が、彼女の瞳に反射してきらめいていた。
俺はただ、頷くことしかできなかった。
本当は、もっと何か言うべきだったのに。
(続く)
放課後の教室は、夏の終わりを告げる蝉の声と、窓から差し込むオレンジ色の光で満たされていた。
廊下の向こうから聞こえる部活の掛け声や、机を引きずる音が、ゆるやかに一日を締めくくっていく。
俺――高木蓮は、机に突っ伏して、今日の小テストの出来に軽くため息をついていた。
「英語、やっぱり単語覚えてないとダメだな……」
隣の席から、くすっと笑う声が聞こえた。
「だから言ったじゃん。昨日の夜、単語帳見とけって」
顔を上げると、幼なじみの白石結衣が、ノートを閉じながらこっちを見ていた。
肩まで伸びた髪が、夕陽を受けて淡く透けて見える。
こういう瞬間、俺はいつも言葉を失う。
「まあ、次頑張ればいいよ」
そう軽く笑ってくれる結衣の横顔を見て、俺もなんとなく笑い返そうとした――その時だった。
「ねえ、蓮……私、転校することになった」
一瞬、頭が真っ白になった。
耳に届いたはずの言葉が、意味を成すまでに数秒かかった。
「……は?」
情けないくらい短い声しか出せなかった。
結衣は机の端をそっと撫でるように指先を動かしながら、小さく息を吐いた。
「お父さんの仕事の都合でね。急に決まっちゃって……来週には引っ越し」
来週。
つまり、残されたのは今日を含めてたった5日。
「そんな急に……」
俺は言葉を探したけれど、見つからない。
頭の中では、これまでの思い出がフラッシュバックのように流れていた。
小学生の頃、放課後に駄菓子屋へ行ったこと。
中学で同じクラスになって、文化祭で一緒に出店をやったこと。
そして、高校に入っても隣の席で、くだらない話をし続けてきたこと。
その全てが、あと5日で終わるのか――そう思った途端、胸が締めつけられた。
「最後まで、普通に過ごそう」
結衣はそう言って、少しだけ笑った。
だけど、その笑顔はどこかぎこちなく、声もわずかに震えていた。
夕陽が沈みきる前の光が、彼女の瞳に反射してきらめいていた。
俺はただ、頷くことしかできなかった。
本当は、もっと何か言うべきだったのに。
(続く)
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