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第2話「夏祭りの約束」
しおりを挟む転校の話を聞いた翌日、心の中のざわめきは収まらなかった。
授業中も先生の声が遠くに聞こえるだけで、黒板の文字はほとんど頭に入らない。
視線は自然と結衣の方へ向かう。
彼女はいつも通りノートを取って、時々ペン先を軽く回す癖を見せていた。
けれど、俺にはわかってしまう。
その仕草の奥に、何かを押し殺しているような影があることを。
放課後、家に帰っても気持ちは重かった。
机に教科書を広げても、ページは開いたまま動かない。
その時、スマホが震えた。
画面には、結衣からのメッセージが表示されている。
明日、夏祭り行かない?
最後に一緒に花火見たい
一瞬、胸が熱くなった。
昔から、結衣と夏祭りに行くのは恒例だった。
けれど、ここ数年は部活や試験勉強で行けず、二人で行くのは中学以来だ。
「……行くに決まってるだろ」
小さく呟きながら、OKのスタンプを送った。
翌日、夕暮れ時。
神社の境内は屋台の明かりと人の声で賑わっていた。
焼きそばの香りや、かき氷の甘い匂いが漂い、どこか懐かしい。
待ち合わせ場所に着くと、結衣が立っていた。
紺色の浴衣に白い花柄が映えて、肩から胸元にかけてのラインが少し大人びて見える。
髪はいつものポニーテールではなく、ゆるくまとめられ、涼しげな簪が揺れていた。
「……似合ってる」
思わず口に出すと、結衣は一瞬だけ驚いたように目を瞬かせ、それから照れた笑みを浮かべた。
「ありがと。蓮は、まあ……いつも通りだね」
そう言いながらも、ほんの少しだけ頬が赤くなっているのがわかった。
屋台を回りながら、結衣は射的に挑戦したり、金魚すくいで失敗したりと、笑い声を絶やさなかった。
俺も、そんな彼女を見ているだけで、胸の奥が温かくなる。
やがて、人々の視線が一斉に夜空へ向いた。
「もうすぐだね」
結衣が小さく呟く。
そして、第一発目の花火が夜空に咲いた。
赤や青、黄金色の光がぱっと広がり、暗闇を鮮やかに染める。
「蓮と見る花火、たぶん一生忘れない」
その言葉は、花火の轟音よりもはっきりと胸に響いた。
俺は返事をしようとしたけれど、喉が詰まって言葉が出なかった。
代わりに、結衣の横顔を焼き付けるように見つめた。
花火の光に照らされたその瞳は、どんな色よりも輝いていた。
(続く)
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