十九歳に戻った村の書商は、契約した魔女と共に世界を書き換え、人類の頂点を目指す

kairo_arche

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エピソード25揺り戻し(後編)

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仮面の監視者は、静かに地面へ降り立った。

足音はない。
まるで、最初からそこに存在していたかのように。

「質問を行う」

機械的な声が、都市に反響する。

「なぜ、最適化構造に干渉した」

トレイアウルスは一歩前へ出た。
住民たちの視線が、一斉に集まる。

「それが“人の街”じゃなかったからだ」

短く、はっきりと言った。

監視者は、わずかに首を傾げる。

「反論は非合理。
 この都市は、争いも飢えも犯罪も最小化されていた」

「その代わりに」

トレイアウルスは、背後の人々を指した。

「選ぶ権利も、迷う時間も、
 全部削られてた」

住民の一人が、震える声で叫ぶ。

「俺たちは……
 生きてたって言えるのか……?」

監視者は、その声を無視した。

「感情の揺らぎは、効率を下げる。
 文明維持に不要」

リナが、低く唸る。

「……人を部品扱いする連中ね」

「否定」

監視者は即座に返した。

「部品は交換可能。
 人類は、記録対象」

その言葉に、刻印書が強く反応した。

ページが自動的にめくれ、
見覚えのない項目が浮かび上がる。

《新規干渉》
《対象:文明監視記録体》
《閲覧権限:条件付き解放》

「……読める?」

リナが息を呑む。

「いや……」

トレイアウルスは、ゆっくりと首を振った。

「読まされてる」

監視者の背後で、仮面の影が増える。
数は――五、六、いやそれ以上。

「結論」

中央の監視者が告げる。

「記録改変者は、文明不安定因子。
 即時排除を推奨」

住民たちが、悲鳴を上げた。

「待て!」

トレイアウルスは声を張り上げる。

「この都市は、まだ立て直せる!
 人が、自分で考える時間を――」

「不要」

言葉が、切り捨てられる。

次の瞬間、空気が凍りついた。

監視者の一体が、腕を掲げる。
そこから伸びた光の線が、
都市の一部を――“停止”させた。

人々が、動かなくなる。
叫びも、呼吸も、途中で止まる。

「……時間、凍結」

リナが歯を食いしばる。

「こんなの……!」

トレイアウルスは、刻印書を強く握った。

「――記録する」

彼は、はっきりと宣言する。

「この都市は、完成していない。
 不完全で、矛盾だらけで、
 それでも“生きている”」

刻印書に、強い光が走る。

《記録更新》
《項目:白柱都市》
《状態:再定義中》

監視者が、一歩後退した。

「警告。
 未承認の再定義は――」

「知ってる」

トレイアウルスは、目を逸らさない。

「だから、俺が引き受ける」

世界が、軋んだ。

凍結されていた住民の一部が、
ゆっくりと動き出す。

完全ではない。
だが、確かに“止まっていない”。

監視者の仮面に、初めて亀裂が入った。

「……異常」

リナが、彼の隣に立つ。

「覚悟はいい?」

トレイアウルスは、短く笑った。

「最初からだ」

監視者たちは、空間を歪め、後退を始める。

「記録改変者を、要監視対象に指定」

その声だけが、都市に残った。

やがて、光は消え、空は元の色を取り戻す。

白柱の都市は、深い傷を負いながらも――
崩れずに、立っていた。

トレイアウルスは、静かに呟く。

「……これで、終わりじゃないな」

刻印書の最後のページに、
新たな一文が刻まれていた。

《次の干渉地点:未確定》
《世界は、あなたを認識した》

物語は、
ダンジョンの外へと、確実に広がり始めていた。
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