十九歳に戻った村の書商は、契約した魔女と共に世界を書き換え、人類の頂点を目指す

kairo_arche

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エピソード26兆し(後編)

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白柱の都市の外縁部は、中心部とは違う顔をしていた。

整然と並ぶ白い建造物は次第に間隔が広がり、
柱の表面には微細な亀裂が走っている。
それは老朽化ではない。
意図的に排除されていた“無駄”が、
一斉に表へ滲み出た痕だった。

「……外側から、壊れ始めてる」

リナが低く呟く。

「ええ。
 中心は管理が厚い。
 でも端は、最適化の“余白”だった」

道の脇で、数人の住民が立ち尽くしていた。
年老いた男が、崩れた壁を前に膝をついている。

「この家は……
 必要最低限の耐久しか、与えられてなかった……?」

彼の声は震えていた。
怒りよりも、困惑が勝っている。

「修繕申請を出しても、
 “効率基準未達”って返され続けて……
 それが、正しかったはずなのに……」

トレイアウルスは、何も言わずにその場を見つめた。
刻印書は開かない。
だが、記録しなくても分かる。

――これは、過去の選別だ。
――不要と切り捨てられたものが、
 “今”になって請求書を突きつけている。

遠くで、怒号が上がる。

「戻せ!」
「前の仕組みに戻せばいい!」
「誰が、こんなことを許可した!」

人の流れが、再び行政塔へ向かっている。
だが今度は、監視者はいない。
命令も、判断も、提示されない。

ただ、空白だけがある。

「……危ないわね」
リナが静かに言う。
「責任が空いてると、
 人は一番簡単な場所に押し付ける」

「つまり――」

「“変えた者”よ」

トレイアウルスは、頷いた。

「だから、俺たちは街を離れる」

リナが一瞬、目を細める。

「逃げる、って思われるわよ」

「構わない」

彼は即答した。

「この都市は、
 “自分たちで選ぶ”段階に入った。
 外部の正解は、もう邪魔だ」

刻印書が、静かに反応する。
ページは開かない。
代わりに、表紙の奥で何かが“更新”された感触があった。

《記録状態変更》
《役割:介入者 → 観測者》

「……降ろされた?」
リナが小さく笑う。

「いや」
トレイアウルスは首を振る。
「預けられた、ってところだ」

二人は、都市の外壁を越える。
白い柱が途切れ、
土と岩の色が戻ってくる。

振り返ると、
白柱の都市はまだ立っている。
傷だらけで、騒がしくて、
それでも――自分で揺れている。

「ねえ」
リナが、背を向けたまま言った。
「後悔してる?」

トレイアウルスは、少し考えた。

「いいや」

そして、はっきりと言った。

「記録できた。
 それだけで、十分だ」

刻印書の最後に、新しい行が刻まれる。

《次の観測対象:未整理領域》
《文明干渉レベル:上昇》

彼は、本を閉じ、歩き出す。

白柱の都市は、もう“目的地”ではない。
世界は、さらに広く、
さらに不安定な場所へと開いていた。

――これは終わりではない。
――ただ、責任が“返された”だけだ。
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