気になるあの子は半分悪魔

柚鳥柚

文字の大きさ
4 / 5

本間さんと付き合い始めて、本間さんのいろんな面を知った

しおりを挟む
 本間さんと付き合い始めて、本間さんのいろんな面を知った。

 よく笑う本間さんには涙もろい一面もあった。
 僕が貸した本を読んだ本間さんが、翌日、泣き腫らした目で登校してきたことがあった。涙を滲ませながら語られる熱い感想に相づちを打ちながら、思いがけない一面に新鮮味を感じた。

 本間さんの家は僕と反対方向で、僕が本間さんを送っていけるのはほんの少しの距離だった。
 本間さんは人目があっても気にせず手を繋ぐ人だけど、人目がなければ手だけでなく腕まで絡ませ密着して歩く人でもあった。
 制服越しでも伝わる体温にドキドキしている僕に、本間さんが「彼氏にくっつくとこんなにドキドキするんだね」とはにかみ笑う。緊張と興奮で口がカラカラに渇いてしまった僕は返事ができなくて、繋いだ手をさらに強く握るしかできなかった。

 本をたくさん読む本間さんだけれど、興味のないことを覚えているのがどうも苦手なようで、苦手科目と得意科目の点数の差が激しいところも新たに知った面の一つだ。
 対する僕は勉強だけは得意で、返却された中間テストの結果を見て青くなった本間さんに勉強会を提案した。

「良かったら、一緒に勉強しますか」

 緊張のあまりまた敬語になってしまった僕の提案に、本間さんは「いいのっ?」と目を輝かせ食いついた。目をキラキラ輝かせ僕を見上げる本間さんに「もちろん」とうなずく。

 勉強会は本間さんの部活がない日曜日、僕の家ですることになった。

 女の子を家に招くのは生まれて初めてで、日曜日、僕は本間さんを迎えに行く前から緊張していた。本間さんも異性の家に招かれるのは初めてのようで、教えてもらった住所に迎えに行くと、噛み噛みの挨拶で出迎えられた。

「きょっ、今日はっ、よろしくおにゃがいしまひゅっ」
「こ、こちら、こそ……」

 玄関を開けてくれた本間さんは、可愛らしいワンピースに身を包んでいた。初めて見る私服が可愛くて新鮮で、惚けて見とれていた。
 黙って見つめる僕を、本間さんは照れたような困ったような顔で僕を見上げる。本間さんのこんな姿を見ることができる立場になったんだなぁと、改めて実感できた。

 困り顔の本間さんと見つめ合っていると、玄関に立ったままでは見えない奥から物音が聞こえた。
 ハッと我に返った本間さんが「早く行こ!」と慌てた様子で僕の背を押し家を出ようとする。と、奥から「待て」と声をかけられた。
 制止されたにもかかわらず、本間さんは僕の背をぐいぐい押して外へ出そうとする。けれど僕は立ち止まったままだった。
 奥の部屋から現れた大柄な青年――恐らく本間さんのお兄さん――があまりにも本間さんのイメージとかけ離れていて、驚いてしまったからだ。
 一言で表すならば大木。
 いかめしく顰められた顔は妹の恋人である僕が気に入らないからか、それとも妹である本間さんが制止の言葉を聞こうとしないからか、もしくは常々あの顔なのか。いやそれよりも、僕が驚いたのはその出で立ちだ。
 季節は秋、もう冬に近いといえる時期だ。なのに本間さんのお兄さんはトランクス一枚。体から湯気を立ち上らせているのはシャワー上がりだからだろうか。そうだと思いたい。
 のしのし玄関まで出てきたお兄さんに、本間さんは悲鳴に近い声で「何でそんな格好してるの!」「服くらい着て!」「せめてシャツくらい着て!」と年頃の女の子らしい反応で怒る。それを無視して、お兄さんは僕に突き刺す勢いで指を突きつけた。

「貴様が日向子の彼氏だな。迎えに来たその心意気は買ってやろう。だがもしも未成年の分際で日向子に手を出したりしたら――」
「渡部君に変なこと言わないでって言ったでしょ!! 信じらんないお兄ちゃんのばか!」
「お前は黙っていろ。おい、渡部と言ったか。いいか、日向子の門限は十七時――」
「ちゃんと帰ってくるから! お兄ちゃんは部屋で筋トレしてて!」

 僕の手を引き外へ飛び出すと、本間さんはまだ何か言いたげなお兄さんの目の前でバタン! とドアを閉めてしまった。ドアの向こうでお兄さんが何か言っている。それを無視して、本間さんは僕の手を引いたまま歩き出した。

 珍しく、本間さんが怒っている。
 僕の手をぎゅうと掴んだまま「もう!」と憤慨している。めったに見られない表情に目を奪われていた僕は「あ」と思い出した。

「あの、本間さん」

「なーに」と本間さんが僕を見る。お兄さんに怒っているからか、いつもより声が低い。言うべきタイミングが今じゃないのはわかる。けれど今言わなければ、僕はこのまま一生本間さんに『可愛い』と言えないような気がした。
 照れくさくて本間さんと繋いでいない手で頬を掻く。本間さんが怪訝そうに僕を見上げた。意を決し、僕はぼそぼそ本間さんの今日の格好を褒めた。

「その……今日のワンピース、よく似合ってて……可愛い、です」
「かわっ!? ……わ、渡部君てば、何でそういうことさらっと言っちゃうの……?」

 赤くなった頬を隠したいのか、本間さんは僕の手を離そうとした。けれど熱いくらいの本間さんの手が離れるのが名残惜しくて、僕は本間さんの手をぎゅっと握った。
 本間さんはますます顔を赤くすると、ぽそぽそと何か呟いた。よく聞こえなくて聞き返すと、本間さんはうつむきながらちゃんと言い直してくれた。

「渡部君て……時々、今みたいに、すごくドキドキすること言ったりしたりするよね」

 嫌がられたと思い、その場に立ち止まって反射的に「すみません!」と謝り手を離そうとした。しかし僕らの手は離れなかった。繋いだ手は、指を絡められ外れなくなっていた。
 顔を赤く染めたまま、本間さんは「嫌じゃないよ」と僕を見上げた。

「渡部君と手を繋ぐの、好きだよ。渡部君のこと好きだもん。渡部君は、こうやって手を繋ぐのは嫌い?」

 気づけば「好きです」と返していた。本間さんの小さな手を両手で包んで、本間さんと目を合わせ「嫌いなわけない」と首を振る。

「嫌いなわけ、ないじゃないか。本間さんと手を繋いでる間、僕がどれだけ幸せか。言葉じゃ伝えきれない。繋いだ手から僕の心が伝わればいいのにって思ってるくらいだよ」
「良かった」

 本間さんは照れくさそうに笑って、繋いだ僕の手を持ち上げた。

「これからいっぱい、こうやって言葉にして気持ちを伝え合っていこうね」

 それは、僕とこれからも過ごしてくれるという意味だろうか。だとしたら、嬉しい。
 はにかむ本間さんにうなずき返そうとしたら「ひゅーひゅー」と囃し立てる声が聞こえた。
 振り向くと、自転車に跨がった小学生の集団が僕らを見ている。僕も本間さんもただでさえ赤い顔をさらに赤くすると、走ってその場を逃げ出した。
 走っている間、僕の家に着くまで、僕らは決して手を解いたりしなかった。

 僕の家を前にして、本間さんは緊張を思い出したようで、片手を胸に当て深呼吸を繰り返している。
 緊張を解すには何をすればいいんだっけ、と記憶の引き出しをひっくり返してる僕の袖を、本間さんがくいと引っ張った。

「き、緊張して倒れちゃいそうだから、手、離さないで……」

 是非もなし、と僕は本間さんと繋いだ手をそのままに玄関ドアを開けた。
 ドアの向こうでは、僕らを今か今かとそわそわして待ち受けていた母の姿があった。僕の母に対し、本間さんは異様に緊張しながら挨拶をした。
 カチコチに緊張した本間さんを見て、母は気が抜けたように笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...