幼なじみと同棲生活、始めました。

もちぃ

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第九話

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四限も無事?終わり本日の授業は終了。取っている授業が全く同じなため、ケンとアキと共に喫煙所に向かう。

タバコを口に加え火をつける。隣のアキも同様に火をつけるのだが、途端にゴホゴホと咳き込む。

「…吸えないなら無理するなよ?」

「ゲッホ…む、無理なんかしてねぇよ!」

俺はそこそこのスモーカー、ケンは非喫煙者で喫煙所の外で暇そうにスマホを触っているのだが、パリピを目指しているアキは吸えもしないのに無理やり煙を取り込んでは吐き出している。女!酒!タバコ!がウェーイ大学生の三大要素ではあるが、アキは酒も弱いしタバコも吸えない、当然ながら女もいないと、パリピへの道はまだまだ遠いようだ。

かくいう俺も、大学生といえばタバコでしょという安易な理由で、成人したその日からタバコを購入し始めたのだが、今となっては無くてはならないものになってしまっている。

身体にも悪いし、タバコ代も安くはない。未成年喫煙は言うまでもないが、適当な理由で喫煙を考えているなら本当に吸わない方がいい。

はぁぁとふかして満足げに吸った気になっているアキに哀れみの目を送りつつ、タバコを楽しむ。樹里ちゃんが家に来て以降、受動喫煙等の理由から彼女への悪影響を考え、家では吸わないようにしている。女の子はタバコが嫌いって言う子多いし。

しかしながらタバコの中毒性とは恐ろしいもので、樹里ちゃんが寝静まった後や、勉強をしている間にこっそりと抜け出し、なんとか喫煙をしている状況だ。

コンコン、と喫煙所の窓が叩かれる。ケンが不満げにパクパクと口を動かす。

『ま、だ?』

とまぁ、グループ内に喫煙者と非喫煙者がいると待ち時間の間暇なメンバーが出てくるという事実。慌ててタバコの火を消し外に出る。

「…何か言うことは?」

「大変お待たせしました」

というわけで、タバコを吸うメリットはあまり無いよというお話でした。

「もう慣れたけどさ。この後はどうする?久々にカラオケにでもいかない?」

「お、いいね!オレの歌に酔いしれるがいい!」

「あーごめん。俺はパスで」

すでに行く気満々となっている2人に対し、今日ばかりは早く家に帰りたい俺は行かない旨を伝える。少し不思議そうな顔をしている2人と分かれ、樹里ちゃんに電話をかける。3コールほどで、聴き慣れた樹里ちゃんの声が。

『もっ、もしもし陽斗?どしたの?』

電話に出ただけなのに何故か息切れしている様子の樹里ちゃん。ランニングでもしていたのだろうか。

「あ、もしもし?大学終わったから今から帰るよーん」

『分かったけど…わざわざその報告する意味ある?』

確かに、大学から家までは数分ほど。わざわざ電話をかける必要などなかったかもしれない。

「まぁそれは、今すぐに樹里ちゃんの声が聞きたかったってことで」

『…馬鹿』

「あぁ切らないで切らないで!ちょっと家戻るまで話し相手になってよ。大学での出来事とか、俺の不愉快な仲間たちの話もしたいしさ」

『普通に友達って呼ばないの?』

苦笑しつつ、今日あった事をあれこれと話し出す。樹里ちゃんの相槌が嬉しくて、彼女には見えていないのに身振り手振りを加え、道行く人に変な目で見られる。そんなことが気にならないほど、俺は樹里ちゃんとの会話に夢中になっていた。

『…どうしたの陽斗。急に黙りこくって』

「……いや、なんでもないよ。それでね–––」

俺の胸の中に、少しのモヤモヤを残したまま。



「ただいまー」

『「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも、カ、カ、シ?」』

「どっちもまだ早いけど…なんだろう、カカシが気になりすぎる」

家に帰ると玄関前で樹里ちゃんが壁に肘をつきながら待っていてくれていた。目の前の樹里ちゃんの声と、電話口から聞こえる樹里ちゃんの声が二重になって聞こえてくる。

「ひぃー疲れた疲れた。お昼は何食べたの?」

『「うどん。自分で作って食べるのも中々楽しいね」』

「あー、俺も一人暮らし始めたての頃はそうだったなぁ」

遠いあの日々を思い出し懐かしむ。好きなものを好きなだけ食べることのできる喜びから毎日のように自炊をしていたが、段々と億劫になり、今となってはコンビニ飯とカップ麺に頼る日々。栄養もクソもない。

『「めんつゆ使ったんだけどさ。あれすっごく濃いね。むせそうになりながら完食したけどさ」』

「…もしかして樹里ちゃん、めんつゆそのまま入れた?」

『「そうだけど」』

「…普通うどん食べる時はめんつゆを水と混ぜて薄めるんだよ」

『「……って、いつまで電話繋げてんのよ!」』

「露骨に話逸らすなぁ…」

おもむろに電話を切る樹里ちゃん。自炊といっても最初はミスの連続だ。その経験を生かしてさらなる美味を求めなければならないんだけど…茹でて食べるだけのうどんで凡ミスをしているようじゃ、自炊マスターへの道は遠い。

「…勉強しよ」

負のオーラを纏わせながら勉強机に向かう樹里ちゃん。俺も俺で、言語の課題がある。ローテーブルに教科書とノートを並べ、課題に取り組む。



そろそろ御飯時かな。チラリと樹里ちゃんを見ると、彼女も休憩の時間に入ったようだし、ご飯を作る準備をする。

1人で作ろうかと思ったが、当然のように樹里ちゃんが手を洗い料理の準備をしてくれている。

「白米は少し前に炊いたから…」

冷蔵庫を見る。2日目のカレーは格別に美味しいのは周知の事実であるが、家の鍋の大きさの都合上、一度に大量のカレーを作ることが出来ないので1日で食べ切ってしまう。それに昨日の出血事件のせいでカレーにあまりいい思い出はない。

「じゃがいもはチンしてマヨとバターかければ食えるからいいとして…玉ねぎ、にんじんは使い切りたいな…となると、ハンバーグかな?」

「ハンバーグ!?」

いそいそと買ってあげたエプロンを身につけていた樹里ちゃんが目を輝かせながら言う。パタパタと跳ねるように歩み寄り、にゅっ、と俺の脇辺りから冷蔵庫内に顔を覗かせる樹里ちゃん。

「うん、ひき肉も消費期限迫ってるし。ハンバーグ好きなの?」

「うん、大好物」

樹里ちゃんは早くもよだれを垂らす勢いだ。ハンバーグが好物とは可愛らしい。とはいえ俺も作るのは久々だ。どうせなら樹里ちゃん史上最も美味しいハンバーグを作ろう、と腕をまくり、ポケットに入れていたタバコが邪魔だったので、癖で放り投げ–––

「あ」

「ダメじゃん物投げちゃ。これ…タバコ?」

床に落ちたタバコを樹里ちゃんが手に取りまじまじと見る。この三日間、ひたすら樹里ちゃんにバレないように隠し続けてきたタバコを。

やばい…軽蔑される?

誤魔化そうか、とも思うが、俺に樹里ちゃんの嘘がわかるように、樹里ちゃんも俺の嘘が分かる。ここは正直に言わざるを得ない。

「いやぁあはは、言ってなかったけど、実は吸っててさ。」

「…あたしの前では一度も吸ってなかったよね?そんな素振りも見せなかったし。なんで?」

「なんでって…樹里ちゃんに悪影響でしょ。」

「…あ、そ。ここ置いとくね。」

少し不機嫌そうにタバコをテーブルの上に置く樹里ちゃん。軽蔑というより、少し怒っているような…

こほん、と喉を鳴らして切り替え、ハンバーグ作りに取り掛かる。少しびびりながら野菜を切り、先に玉ねぎとにんじんを軽く炒める。この作業は樹里ちゃんが少し頬を膨らませながら済ましてくれる。

その間に俺はハンバーグのタネを作り、野菜をかき混ぜて手に乗せ、空気を抜くために片手から片手に軽く投げる。

「樹里ちゃんもやってみてよ。こんな感じで」

樹里ちゃんの機嫌を取るために努めて元気に言う。慣れてくるとこれがなかなか楽しいのだが、下手をするとハンバーグが手から逸れてしまいそうだ。なるべく気をつけて……

べちゃり、と頬に生々しい不快な感覚。手で触れてみるとこれは…ハンバーグのタネ?

「…えーと、樹里ちゃん?」

「手が滑った」

ハンバーグが飛んできた方向、つまり樹里ちゃんを見ると、こちらに一瞥もせず黙々と次のハンバーグのタネに手をつけている。手が滑ったなら仕方ない。ただ、もったいないしぶつけられたこちらも気持ちの良いものではないから、以後気を付けてもらいた……

べちゃり、と頭部に生々しい不快な感覚。手で触れてみるとこれは…ハンバーグのタネ?

「…あの、樹里ちゃん?」

「手が滑った」

「…髪はやめてほしいな。洗わなくちゃだし」

またもや樹里ちゃんの手が滑ってしまったようだ。髪に付着したタネを取るも、油がつき髪がキシキシになりかなり不快。どうやら樹里ちゃんの手先のコントロールはすこぶる悪いようだ。料理下手もここまで来るとむしろ清々しい。

と、純粋に考えるほど俺は馬鹿ではない。おそらく樹里ちゃんは、わざとハンバーグを俺に飛ばしてきている。そして俺の幼なじみセンサーが、次も来るぞと警告を鳴らしている。横目で樹里ちゃんを見ながら飛ばしてくるタイミングを見極め…

「甘い!」

来る、というところでしゃがみ込みこれを回避。一度避ければ樹里ちゃんも諦めてくれるはず。そのあとになんでこんなことしたのかゆっくり理由を聞いて…

勝ち誇ったように樹里ちゃんを見上げる。樹里ちゃんは酷く冷たい目をしたまま俺を見下している。その手にはハンバーグが握られたまま。

俺が避けることを予想し、あえてハンバーグを投げてこなかったということになる。こちらの動きは完全に読まれていたようだ。俺は満足げにふっと笑い、ゆっくり目を閉じた。

「…完敗だよ、樹里ちゃん」

「…火の玉ストレートぉ!」

「あやたかっ!」

樹里ちゃんが勢いよく放ったハンバーグのタネはしっかりと俺の顔面を捉える。至近距離で投げられたそれはびたーん!!と音を立てる。食材とは思えない威力。一瞬鉛玉かと錯覚してしまったほどだ。

べちゃりとそれが床に落ちる音と俺が後方に倒れ込む音が同座に鳴り響く。

目元についたハンバーグを指で除けると、仁王立ちで腕を組んだ樹里ちゃんが俺のことを見下ろしていた。

「…もしかしなくてもさ。俺がタバコ吸ってること怒ってる?」

「…別にタバコのせいで陽斗が中毒になろうが肺が真っ黒になろうが早死にしようが彼女ができまいが留年しようがどうでもいいからそのことについては怒ってないよ」

「わぁ…俺が彼女いないのってタバコのせいだったんだぁ。」

やめようかな、タバコ。

「あたしが怒ってるのは、陽斗があたしに気を遣ってたこと。他所では吸ってるのに、気を遣ってあたしの前でタバコを吸っていなかったこと」

「…そりゃ気を遣うでしょ」

「タバコに限った話じゃないよ。テレビ観るときさ、ヘッドフォンできいてるでしょ?コードが短いから凄いテレビに近づいてさ」

確かに、テレビを視聴する際はヘッドフォンをしている。長時間観ていると目がチカチカしてしまうが、それはテレビの音が樹里ちゃんの邪魔にならないようだ。

「あたしが寝る準備入るとさ、陽斗は急いでやってること切り上げてベットに入るじゃん。案の定寝れないのかずっとゴソゴソしてるし」

樹里ちゃんが布団に入れば、俺もベットに向かう。しかしながら、俺の生活サイクルが狂いに狂ってるのに対し、樹里ちゃんは小学生が寝るような時間に寝るため、瞼だけは閉じて眠くなるのを待つ。それも、樹里ちゃんの睡眠の邪魔にならないため。

樹里ちゃんは淡々と喋りながらハンバーグをフライパンに乗せる。じゅうううとお腹の空くような音が鳴った。

「陽斗はあたしに頼って欲しいって言ってくれた。嬉しかった。だから目一杯頼ることにする。その代わりってわけでもないけど、陽斗はあたしに気を遣わないでほしい。頼ることと気を遣われることはイコールじゃないんだし」

樹里ちゃんのため。樹里ちゃんの邪魔にならぬよう。そんな俺の思惑は樹里ちゃんには不要だった。俺のその不要な気遣いが、樹里ちゃんを不快な気持ちにさせてしまったようだ。

「勉強にしても、睡眠にしても、こっちは浪人生活3年目に入ってるんだよ?ちょっとやそっとの雑音で気が散るわけないじゃん」

自虐気味に樹里ちゃんが笑う。ホッ、という掛け声と共にハンバーグを裏返すが、上手くいかずに形が崩れてしまった。決まりが悪そうに俺を見ながら、いそいそと形を整える樹里ちゃん。

「陽斗の気遣いは嬉しいよ。あたしのことを考えてくれてるわけだし。でも、あたしは、気を遣わないっていう気遣いをしてほしい。気を遣うってことはあたしと陽斗の間にまだ壁があるってことじゃん。それはなんか…嫌だし」

折角整えたハンバーグをフライ返しで不満げに押す樹里ちゃん。気を遣い合わない関係はすこぶる良好と言える。樹里ちゃんは俺と、そんな関係を築いていきたいと言っているのだ。それがなんだか凄く嬉しくて、思わず笑みが溢れてしまう。

「…つまり何が言いたいかっていうと、余計な気遣いは不要ってこと!最低限度の気遣いはお互いしたほうが良いと思うけど。気を遣わずに家で全裸で過ごされても困るしさ」

「分かった。んじゃ、樹里ちゃんに余計な気遣いはしないようにするよ」

「ん、約束。」

樹里ちゃんが小指を立てながら俺に腕を突き出してくる。ゆびきりげんまんだ。俺も腕を突き出し、小指を絡ませキュッと絡ませる。

「…じゃあ早速、樹里ちゃんが頑張ってるみたいだから敢えて言ってなかったけどさ。ハンバーグ、強火で焼きすぎてるから焦げてるよ」

「え、嘘!?」

慌てた様子でハンバーグをひっくり返す樹里ちゃん。フライパンの上のそれは片面が真っ黒に焦げてしまっていた。
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