幼なじみと同棲生活、始めました。

もちぃ

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第十七話

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「ただいまー」

「あっ、おかえり陽斗!」

数分ほどで帰宅。勢いよく扉を開けると何故か焦った様子の樹里ちゃんがバタバタと玄関にやってきた。すでにお風呂に入っているようで、犬耳のフードのついた可愛らしい寝巻き姿だ。

「た、大変だった?バイト!お疲れ様っ!」

「うん。そこそこ大変だったけど…ごめん、タイミング悪かった?」

「いや全然?すこぶる良いタイミングだよ?」

「…すこぶる良いタイミングって」

おかしな物言いに笑いが漏れてしまう。お茶を飲むために冷蔵庫を開けると、中央にミートパスタがラップをして鎮座していた。やっぱり樹里ちゃんが夜ご飯を作ってくれていたようだ。

「あ、ご飯食べるよね?チンするからちょっと待ってて。」

パスタを取り出し、電子レンジにぶち込む樹里ちゃん。あー、それだと…

と、視界の端に冷蔵庫内の見慣れないモノが目に入る。封のとかれたチョコチップに、こっちは生クリームかな?こんなの買った覚えがないんだけど…

「ほ、ほら!あっちで座ってて!」

パタンと冷蔵庫を閉められ、ローテーブル前に座るよう促される。樹里ちゃんの勢いに押され大人しく言われた通りにする。

この安心感。やっぱり我が家が1番だ。ふかふかのクッションに身を委ねる。

…あぁ、あした提出の課題やっとなくちゃなぁ。そうだ、バイトのシフトの期限も迫ってた。早めに入れておかないとな。

…あれ、なんか忘れてるような?

「あー!ラップ!」

立ち上がり電子レンジを止める。中を見るとミートソースがそこら中に飛び散っていた。

「…あれ、あたしまたなんかやっちゃいました?」

「樹里ちゃん…水気のあるものを長時間チンするときはラップしたまんまじゃないとこうなるから気をつけてね」

「うぅ…ごめんなさい」

「大丈夫大丈夫」

早めに気づけたおかげでそこまで被害は甚大ではない。ウェットティッシュで電子レンジ内を拭き取り、再度チンをする。

「…はじめてまともに料理ができたと思ったのに」

しゅんと落ち込んでいる様子の樹里ちゃん。手順が麺を茹でてレトルトパスタをあっため、混ぜるだけなのに料理と言い張る点にはあえて触れないでおこう。

座って待っていると温めが終わったようで、樹里ちゃんがパスタを持ってきてくれる。熱かったのか袖越しで皿を掴む姿が少し可愛かった。

「はい、どうぞ」

「ありが…と?」

ことんと目の前にパスタが置かれる。ミートソースの食欲そそるかおりがし、今にもがっつきたいのだが、食べるためのフォークがない。不思議に思い樹里ちゃんを見ると俺の左隣に座り、手に持つフォークでパスタをくるくるとし始めた。

樹里ちゃんはパスタでフォークをまとめて持ち上げ、スッと俺の口元に差し出し、恥ずかしそうにこう言った。

「はい、あーん」

「えっと、樹里ちゃん?確かに疲れてはいるけど自分で食事取れないほどじゃないよ?」

「手、怪我してるでしょ?だから、あーん」

「俺が怪我したの左手。でも俺の利き腕右手。あーんしなくてもいいって」

思わず韻を踏みながら返事をしてしまう。というかフォークなら最悪利き腕じゃなくても扱えるんだけど…

樹里ちゃんは俺の右手、左手、そして再度右手を横断歩道を渡る時の小学生のように見て、それでもずいっとフォークを差し出してきた。

「…怪我人なんだからあたしに甘えてもいいのっ!ほら!」

樹里ちゃんの決意は硬い様子。なんだか赤ちゃんに食事を与える時のようで少し恥ずかしいが、ご厚意に甘え大きく口を開ける。

「あ、あーん」

「…わ、陽斗歯並び良いね」

褒めてくれてありがとう樹里ちゃん。とても嬉しいよ。

けれどずっと口を開けているのは辛いから早く食べさせてくれると助かるかな。さっきからヨダレがこぼれ落ちそうなんだ。

「あ、ごめんごめん。はい、あーん」

「んもっ!?」

パスタが口内に侵入してくる。だが、フォークを差し込む角度がよろしくなく、口内の上側にフォークの先端がぶつかり顔を顰める。

舌で触れてみると少し皮がめくれてしまった。モゴモゴと咀嚼をして飲み込み、キョトンとしている樹里ちゃんにそれとなく伝える。

「樹里ちゃん。もうちょいフォークを奥に差し込んでくれると嬉しいかな」

「奥に…りょーかい。んじゃ、あーん!」

「あーもごぉ!?」

今度はフォークが真っ直ぐ奥に入り込んでくる。入り込んで入り込んで…喉奥に直撃した。息が詰まり慌てて樹里ちゃんの手を掴み引き離す。

「ごほっごほっ…」

「わわわっごめん陽斗!」

「いや大丈夫。新聞に『男子大学生、フォークで窒息死か?』って一面で出るような事態は避けれたみたいだ」

不名誉な事この上ない。

「…なんかごめん」

犬耳のフードを頭にかぶり、自らを叱責するように頬をぺしぺしと叩く樹里ちゃん。これほど頑張りが報われない人間を俺は見たことがない。

大方、俺の怪我を自分のせいだと思い込みなんとか助けになりたいと思っていてくれているのだろう。

無理する必要はないと言おうと思ったが、疲れもある。せっかくだしもうちょっと樹里ちゃんに甘えようかな。その後は樹里ちゃんも安定して食事を供給してくれ、あーんをしてもらいながらぺろりとパスタを完食した。

「ごちそうさまっと!」

「ん、お粗末様。あ、どこいくの?」

「ちょっとトイレに」

立ち上がりトイレに向かう。樹里ちゃんはぴったりと俺の後ろについてきていた。トイレの扉を開くと樹里ちゃんも中に入り、彼女の手によってしめられる。

トイレの狭い空間で樹里ちゃんと2人きり、という状況なわけだ。

俺はズボンを下げずに便座に座り込み、大きく息を吸い込み、

「WHY!?」

密室空間であることを良い事に、隣人を気にせずはちきれんばかりに叫ぶ。樹里ちゃんは目を細めてこちらを睨みつけてきた。

…なんで迷惑そうな顔をされなくちゃいけないんだ。その表情はトイレについて来られている俺がするべきなんだけど。

「樹里ちゃん…トイレにまでついて来なくてもいいんだよ?」

「…え、男の人って片手でも用足せるの?」

「そりゃ、右手でズボン下げて右手で支えれば…」

言ってて恥ずかしくなる。新しいタイプの羞恥プレイを開拓してしまった気がする。

「い・い・か・ら!出したいんでしょ?ほら早く!」

「ちょっ樹里ちゃん!?無理やりズボンを下げるなんて…って、チャックを下げる手際が良すぎない!?明らかに手慣れてるんだけど!?なんか分かんないけど傷ついた!経験豊富な樹里ちゃんを知って傷ついた!」

「……」

「まさかの無言!?何が樹里ちゃんをそこまで突き動かしてるの!あっ…あーーー!!」

その後の出来事は思い出したくもない。
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