幼なじみと同棲生活、始めました。

もちぃ

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第十九話

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自信満々な様子のアキに期待が高まる。一応オシャレではあるアキだ。きっとブランド物の財布とか時計とか、そういうものを用意してくれてるんじゃないか?

「ハッピーバースデー、ハル!」

お目当てのものを見つけたのか、鞄から手を出し俺の前に突き出すケン。そこにあったのは–––

「アキ。これは?」

「今日の朝コンビニで買って食べた菓子パンの包装」

「……」

「おっと、そんな顔をするなマイフレンド。俺を甘く見てもらっちゃ困る」

ポケットを探り出すアキ。本命はそっちのようだ。アキを殴るために握りしめた拳を緩める。よかったよかった。

「俺は朝、菓子パンを2つ食うんだ」

そこには先ほどとは違うタイプの菓子パンの包装が。どうだ喜べと言わんばかりの表情で2つのパンの包装を手渡してくるアキ。

おそらくこいつらは誕生日というイベントをゴミを渡す日だと勘違いしているようだ。

「さぁ、ドン引きするくらい喜んでもいいんだもごぉ!?何すんだハル!ゴミを口の中に突っ込んでくるな!」

「お前が今ゴミと言ったのは俺に渡してきたプレゼントだ!揃いも揃っていらない物渡してきやがって!」

「そういうハルだって、僕の誕生日には1週間で家に溜まった埃をビニール袋に入れて渡してきたじゃないか!ハウスダストアレルギーでくしゃみが止まらなくなったんだからな!」

「オレの時はエッチなビデオのパッケージだけ渡してきただろ!鼻息荒く準備万端でパッケージを開いて中にDVDが入ってなかったあの時のオレの悲しみといったらそれだけで一冊小説が書けるレベルだったんだからな!」

おそらく俺たちは誕生日というイベントをゴミを渡し合う日だと勘違いしているようだ。

「なっ、俺のは前日のうちから準備してたプレゼントなんだからいいだろ!どうせお前ら今朝俺が誕生日って事に気づいて慌てて用意したんだろ!」

「「……」」

「黙るなせめて否定しろ!悲しくなるだろうが!」

「…すまんハル。オレの方はついさっきハルがケンの誕プレについて愚痴ってきた時に気づいた」

「…ならアキはシンプルにゴミを渡してきただけじゃないか!」

毎日のように会っている友達の誕生日を忘れるか、普通。俺は2人ともしっかりと覚えているというのに。

ケンの誕生日は確か…………まぁそれは置いといて。
アキの誕生日は確か…………うん、それも置いておこう。

口論では勝っているというのに俺の心はひどく虚しかった。樹里ちゃんも忘れてるみたいだし、ケンとアキもこれである。

取っ組み合い服を引っ張り合う俺たち。周りの学生は何やってんだあいつらと憐れんだ目で見ていたがそんなことは関係ない。

「おっ、おいケン!髪だけはやめろ!セットに2時間かかってんだぞ!」

「2時間かかっててあれなの?てっきり僕は鏡見ずにセットしているんだとばかり。」

「これが最先端のファッションなんだよ!」

金髪によく分からないウェーブをかけているアキ。2時間のクォリティーではないことは明らかだった。

…というかなんでこいつらが2人で争ってんだ?あぁもうめんどくさい!

「よぉしいいだろうお前ら!そこまでやる気だというなら屋上で決闘…」

殴り合いの決闘を提案する俺の口が止まる。麗奈さんが講義室に入室したことが肌で分かったからだ。他の2人も気づいたようで、怒りに満ちた俺たちの表情は一転、爽やかな表情に。

「…値が最近高くなってきて困ってるんだ。2人とも、何かいいアイデアはないかい?」

「そうだなハル。まずはこんな風に菓子パンばかり食べるのはよした方がいいと思うぞ」

「そうだね。魚を食べると血糖値が下がるって聞いたよ。ほら、僕なんて通学がてら魚を食べていたからね」

自然?な流れで着席し、アキは菓子パンの包装を、ケンは魚の骨を手にお話をする。

気になる女の子の前ではいい男でありたいと思っている俺たちにとって麗奈さんの前で子供のように喧嘩をするわけにはいかない。特に麗奈さんは野蛮な男とか喧嘩っ早い男とか嫌いそうというのが俺たちの共通の見解だ。

ちらりと横目で麗奈さんの行方を追うと、長い髪を揺らしながら冷めた目つきでいつものように前方の席に陣取る…ことはせず、ずんずんと俺たちの方に歩み寄ってきていた。

「おいおいおいなんかこっち来てるぞ麗奈ちゃん!」

「もしかしてさっきの聞かれていたのか?…僕の爽やかキャラが…夢見た麗奈さんとのキャンパスライフが…」

「あぁまずい!まさかの事態にケンが壊れた!」

雰囲気は爽やかさを残しつつ、目で2人と会話する。長い間一緒にいたこともあってこの辺の連携は完璧だ。

目を忙しなく動かしていると、麗奈さんが俺たちの目の前で止まる。やはり俺たちのことを見ていたようだ。

目の焦点が合わないままのケンはぶつぶつとうわごとを呟いており、アキに至っては机の下に潜り込んでしまっている。

…お前らは麗奈さんが好きなのか恐れてるのかどっちなんだ。

仕方ない…ここは俺が!

「おはよう麗奈さん。気持ちのいい朝だね」

手を上げて麗奈さんに挨拶をする。麗奈さんは見間違えたかと思えるほど極小の動きで会釈をし、ずいっとスマホを差し出してきた。

コツンと俺の鼻先に彼女のスマホが当たる。…近すぎやしないか?

「……連絡先、交換しましょう」

「えぇっと?」

「……昨日の夜、ゼミの発表の件で佐井寺くん…」

「あぁ、あってるあってる。佐井寺だよ。」

「……佐井寺くんに相談したいことがあったんだけど、連絡先が分からなくて」

「あ、そっか。なんだかんだで交換してなかったからね」

「……交換しておいた方が今後楽になると思うの」

講義室中の男子の目が痛いほど突き刺さる。麗奈さんの声は呟くように発せられてるのに遠くまで良く届くから、この会話は筒抜けだろう。

「麗奈さん、一旦外に出ない?」

「……佐井寺くんが言うのなら」

目線に耐えられずそう言うと、少し不思議そうな顔をした麗奈さんだが黙って了承してくれる。

講義室を出る。まだ授業開始までは少し時間があるはずだ。俺もスマホを取り出す。

「……どうやるのかしら」

「んーっと、ちょっと貸して」

しどろもどろの麗奈さんが彼女のスマホを手渡してくる。カバーも装飾も付いてない、販売された時そのままのスマートフォン。麗奈さんらしいといえば麗奈さんらしいのだが…

「とりあえずLINEでいいよね?」

そう聞くと少し首を傾げる麗奈さん。どうやら機械には疎いようだ。LINEはインストールされているようなので、アプリを立ち上げる。

つい、麗奈さんが登録している連絡先が目に入ってしまう。父、母、妹と簡潔に3件の連絡先が登録されているのだが、それだけだった。

つまるところ、家族以外で初めて登録した人間が俺ということ。嬉しいことは嬉しいのだが…麗奈さんはもう少し社交性をもってもいいと思う。

「はい。登録しておいたよ」

「……ありがと」

これで無事に連絡先交換も成功。あとは麗奈さんの連絡先を誰にも奪われなければミッションコンプリートだ。

おそらく講義室に入るとこれ目当てに話したこともないやつから話しかけられると思うが、場合によっては手段を問わずに行かせてもらう。

「……誕生日?」

そう1人気合を入れていると、人差し指でしどろもどろスマホを操作していた麗奈さんがそんなことを聞いてくる。

LINEに誕生日を登録していたため、俺とのトーク欄に風船か何かが飛んでいたのだろう。

こくりと頷くと、麗奈さんがふふっと笑った気がした。あくまで気がした、なので表情は全く変わっていなかったが、それでもそんな気がしたんだ。

麗奈さんはなおも人差し指でぎこちなくスマホを操作している。

連絡先の欄に『福山麗奈』が追加される。思わず小躍りしそうになっていると、ブブ、とスマホがバイブした。LINEのようだ。…麗奈さんから?

『おめでと』

続け様にケーキを持った可愛らしい豚のスタンプが送られてくる。

ちらりと俺を一瞥し、真っ黒な髪を翻して講義室に入る麗奈さん。お祝いしてもらった嬉しさからしばらくそこに棒立ちになってしまう。

そのたった4文字の言葉が、機械に疎い麗奈さんがたどたどしく打った4文字の言葉が、俺の心に深く刻まれていった。

お祝いの言葉に、連絡先という誕生日プレゼントまで貰ってしまった。間違いなく、ここ数年で1番の誕生日だ。もうこの時点でケンやアキの文字通りゴミみたいなプレゼントの事なんてどうでも良くなっていた。

…あれ、噂をするとケンから電話だ。

「はい」

『幸せ、だね。ハルは』

おそらく、麗奈さんと連絡先を交換したことを言っているのだろう。祝福のつもりで電話をかけてきたのかな。

「ふふっ、まぁね。幸せ絶頂とはこのことだよ」

『あぁ、ハルは本当に幸せだと思う。……生まれた日を命日とすることができるんだからね』

命日: 故人が亡くなった日のこと

…どうして俺は今日死ななければならないんだろう。

電話口の奥からぶつぶつと呟く声が聞こえる。アキのものだ。気が狂ったケンを止めようとしてくれいるのだろうか。

『…麗奈ちゃん、心なしか嬉しそうに帰ってきてた。…ハルを殺すしかないか』

殺すしかないことはないと思う。

…まぁ流石に冗談だと思うけど。麗奈さんと連絡先を交換したくらいで嫉妬の炎で俺を焼き尽くすなんてことはないだろう。

『安心して、そう簡単には逝かせない。アキと今ある持ち物をだしあってみたんだけど、爪くらいなら剥がせそうなんだ。ひとまずこの授業の時間は爪剥ぎを––––』

チラリと講義室の中を覗き込む。俺に気付いたケンとアキが笑顔で手を振ってきた。それはもう、百点満点の笑顔で。

電話を切り、大学の廊下を疾駆し、できる限り講義室との距離を取る。ケンのあのトーンはガチだ。戻ると殺られる。

俺はひたすら逃げたのだった。
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