××は絶対に譲れないっ!

鈴ノ音ちりり

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第1章 ― 性契約『アリストナル』 ―

第3話 どうせ俺のものになるんだから ― バルト・オスティナート ―

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「バルト・オスティナート。前へ」


 司祭の声に最後の男が立ち上がり伸びをする。


「くあ~!やっと動けるしゃべれる!」


 見事に鍛え上げられた腕をブンブンと振り回し、長時間跪くことで固まった身体をほぐす。


「自分の番以外は声を出せないうえにその場から動くこともできないとか、神様も鬼畜だよな~」


 アリストナルの儀はかつて、ライバルや儀式を行うことを認められない者などから妨害を受けることが多々あった。

 中には命を奪う程の暴動が起きたこともあった。

 そのため儀式中は主役以外動くことも話すこともできないよう、魔法がかけられるようになったのだ。
 
 先程からシャロンやバルトがもの言いたげにひたすら身体をバタつかせていたのはそのためであった。

 ひとしきり身体をほぐし終えるとルルクの前へ向かう。


「よぉ、久しぶりだな、ルルク」

 
 体格に見合った大きな声が教会に響く。


「あのね……二日前に合ったばかりでしょ?っていうか、ほぼ毎日お店で会ってるじゃない」


 ルルクより三歳年上のバルトは代々戦士の家系であり、それを継ぐために両親のもとで修業をしてきた。

 戦争が終わった今は魔物がはびこる地帯に生息する植物を採ってルルクが働くお店に納めているため、毎日のように顔を合わせているのだ。

 それにバルトもトワも小さな頃から一緒に遊んでいた仲なので、もはや顔を合わせない日の方が珍しい。


「あ~。そういえばそっか~」


 相変わらずヘラヘラとしていて緊張感のないバルト。

 ルルクは呆れると同時に、いつもの雰囲気に少し気持ちが楽になった。


「でも……なんであんたがここに……」


 バルトはいつもルルクにちょっかい出してきて、いくつになっても悪ガキのような振る舞いだ。

 婚約とか、ましてこんな重々しい儀式に参加するような人とは思えない。


「え?だって、この儀式をやるって最初に決めたのは俺だからな」


「は……え…?」


 たわいもない会話でもしているかのようにサラッと出てきたとんでもない言葉にルルクの思考が固まる。


「うそでしょ!!!?」


 やっと絞り出した上ずった声が響きわたった。


「ほんとほんと。それをあいつらに話したら乗っかってきちまってさ~。黙って俺だけでやればよかったよな~。後悔後悔!」


 横の離れた所にいる二人に目を向けると、シャロンは拳を握りしめながら、トワは静かに強い視線をこちらに送っている。


「な……なんで……?」


 よりにもよって、そういうことに全く興味がなさそうなバルトが発端という事実が理解できない。


「なんでって、ルルクのことが好きだからだろ」


 もはや何を言っているのかわからない。


「お、お兄ちゃん!?トワ!?これ、明らかにバルトおかしいわよね!?いつものバルトじゃないよね!?なんで止めなかったの!!?ねぇ……ぶっ!」


 動けない二人に向かってブンブンと振った腕が力強く引かれ、分厚い胸板に顔面を打った。


「まぁまぁ、どうせあいつら今しゃべれないんだし、とっとと始めようぜ」


 呆然とするルルクの左手をとり、手際よく自分の左手につけていた紅い珠のブレスレットをはめる。

 そしてその手を右手で引いて自分の胸に押し当てると、左手をルルクの胸に当てた。



 ―― むにゅ ――



「……え…?……」



 ―― むにゅ  むにゅむにゅむにゅむにゅ ――



「お~柔らけ~」


 ―― むにゅむにゅむにゅむにゅ ――


 バルトの左手はルルクの胸の膨らみをしっかりと手のひらで包みこみ、じっくり堪能するように揉みしだいている。

 ルルクは頭の中が真っ白になり硬直していたが、横でドタバタと暴れているシャロンの気配で気を取り戻した。


「ち……ちょっと!なにすんのよ変たっ……!」


 体を離そうとするが、強い力で左手をバルトの胸に押し付けられていて身動きがとれない。


「いいじゃんべつに。どうせ俺のものになるんだから」

「ならな……!!」


 否定の言葉を言いかけて口をつぐむ。

 ブレスレットをはめてしまった今、儀式は進行している。

 下手なことを言ってここで契約破棄となってしまったら……。


「と……とにかくやめて。司祭様も困ってるでしょ!?」


 チッと舌打ちをすると、バルトはルルクの耳元に顔を近づけて何かを囁いた。


 そして、周りに見えないように自身の身体で手元を隠し、揉みしだいていた胸のコリッとした部分をギュッと摘まんだ。


「んぁっ……」


 自分でも驚くほど艶めかしい喘ぎが漏れる。

 全身が痺れるようなバルトの低音の声と胸からの刺激で、一気に体から力が抜けた。

 崩れ落ちるルルクの腰をバルトが支える。


「へぇ~……そうかぁ~」


    全身から力が抜け、呼吸が浅くなり視点が定まらないルルクをニヤニヤと見つめる。


「ほら、左手離すなよ? ―― 司祭様、始めてください!」


 司祭が何事もなかったかのように呪文を唱え始める。
 この儀式が廃れるまでに何度もこの儀式を見守ってきた司祭。
 こういうことは……いや、これ以上のことも多々目にしてきたに違いない。


 紅い光が二人を包み込み、これで三人の男との契約が完了した。
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