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針鼠の恋愛事情(グリーパス・スタン・アマルガムハート) ⑨
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■ カフェテリア・ヴィエナ(承前)
辛気臭い労働の美徳を振り回すアマラにカーミラは辟易した。グリーバスはドイッチェラントの流れを汲んだ社会主義市場経済国家だ。旧ソビエトの計画経済ほど雁字搦めでないにせよ、政府は各企業に工程表の提出と遵守を義務付けている。社用族は社会の歯車である限りにおいて有用であるが、帰宅して寝るだけの毎日は文化的生活からほど遠い。それだけでなく害悪だ。
「は? 穀潰しが偉そうに。そのだらしない服だってあたいらの税金なんだからネッ!」
「やめなさい。アマラ」
制止を振り切ってアマラの手がカーミラのドレスにのびる。
「ひゃん!」
フレアスカートが引っ張られ、膝の間から黒いレース地が見える。カーミラは派手にしりもちをついた。隣で踊っていた女子のペアがはずみで転倒する。
「キャア! なにすンのよう!!」
フロア嬢のトレイからソフトドリンクが転げ落ち、ボックス席の女を直撃した。ジャアっと青い液体がブラウスに染み渡る。華奢な胸に幾筋も支流が出来る。
「あなたねぇ!」
ぶっかけられた女は御免なさいするフロア嬢に掴みかかった。三つ編みを引っ張られ「ひぎぃぃ」と子豚のような悲鳴があがる。
パン、パンと乾いた音が連続して、店内が静まり返った。夏セミを思わせる演奏もピタリと止んだ。床には赤黒い水たまりが見る見るうちに広がり、首のない女が転がっている。中二階の手すりに狙撃銃が乗っている。三発目を撃とうとした女用心棒が眉間を射抜かれ、それをきっかけに激しい銃撃戦が始まった。どさくさに紛れてアマラ達はユーバーに乗り込む。だが、その運転席にはカーミラが座っていた。
「――なっ!?」
カマラが飛び出す前にドアをロック。車はタイヤを鳴らして裏通りを駆け抜けた。ぐるりと街区を回ると野次馬が逆方向に駆けていく。フロントガラスに蛍光色のフォントが躍り、咆哮のタイムラインがせりあがる。
【シュルルフが斜陽に殺された】【ついにやりやがった!】
煽情的なコメントに血まみれの画像が添付され、遠吠えが広がっていく。そこに新たなフィルターが加わった。
フィルターキーワードにに#ボグロム――虐殺を意味する単語が並んでいる。言わずもがな、あのいまいましいユダヤ人大虐殺のことだ。コード1941 6月22日。ソ連軍は敗退を続け、とうとうナチス軍にキエフ占領を許してしまう。その直後、ナチス特別行動隊がユダヤ系住民をキエフ郊外の姥捨て渓谷で集団虐殺した。ピロビジャン市民の半数を占めるユダヤ人はその爪痕を深く心に刻んでいる。反ナチスのシュルルフとは呉越同舟で平和にやってきたが、やはり無理があったようだ。
アマルガムの企業はむろんユダヤ系財閥だ。
「フムン。ユダ公は死ねってか」「そういうことなの」
アマラとカマラは蔑みと憐れみの入り混じった視線を運転席に投げる。かなり疲れてるようだ。肩で息をしている。
「そういえば、あんた永久求職者だったっけ。よく運転できるわねぇ」
アマラが訝しむと、カマラも「体力あるなら働けば?」と同調した。カーミラは無言でダッシュボードのボタンを押した。羽虫が飛び回るような音がして彼女の首筋に赤みがさした。打って変わって目を輝かせるカーミラ。
「は? 社用なんか手を汚す値打ちもないわ。お前らにはお似合いの用途があるのよ」
カーミラはそう言い放つとアクセルを踏み込んだ。
■ ピロビジャン中央駅地下40メートル
例によって鉄道連隊がシベリア鉄道の真下に異世界回廊を掘りぬいた。今回は物量戦を得意とする連合国軍協力のもと、続々と貨物列車が到着している。
「閣下、こんなに大量の重水をどうされますか? まさかピロビジャンに原発でも?」
ステイツ女子兵がカーキ色のミニスカートから真っ白な太ももを覗かせている。ハーベルトはつい誘惑に負けて裾をめくってしまった。
「はひゃ?☆」
少女が手を振り払う。はらりと翻るスカート。小ぶりなヒップを切れ上がったブルマが斜め横断している。
「ステイツはこ~んな急角度のブルマが流行ってるのね。はい、受領証」
「それって枢軸流の挨拶ですかぁ? いやぁ~~」
サインを確認すると少女兵は真っ赤な顔でそそくさと走りさった。
「ごるるぁ! ハーベルト」
望萌がえらい剣幕で叱りつけた。
「また、ステイツのオンナノコにちょっかい出して!」
「だって、手持ち無沙汰なのよ」
ハーベルトは憂いた眼差しを返す。
「……祥子……の事?」
おずおずと望萌が聞くとハーベルトは無言で駆けだした。コンクリートに点々とシミがついている。
「ハーベルト閣下は体調を崩された。あたしが指揮を執る」
遅滞なく搬入作業が引き継がれる。緩いカーブを描いてあてどなく続くトンネル。壁には延々と配管が張り巡らされ、スイスにあるCERNの粒子加速器を思い起こさせる。望萌は作業員の女の子たちを集めてブリーフィングを始めた。さながら女子校の朝礼だ。
投げ出したスカートの間に黒や紺の布地が見える。お立ち台から見る眺めは壮観であるが、今夜はそれらの上に指を這わせる暇はなさそうだ。
ゲフンゲフン。わたしも早くお嫁さんを見つけなきゃ。望萌はかぶりを振って液晶ボードに向かった。ハバロフスク周辺の地図が浮かび上がる。下の方をアムール川が横断している。
「みなさん、今回の作戦は藤野祥子の捕獲を第一とします。アムール川そのものを大強度陽子加速器と化してペタワット級の大出力でエネルギー体を捕縛します。その為に、アムール川直下に直線型加速器を建設します」
望萌の趣旨はこうだ。アムール川の水には存溶鉄といって豊富な鉄分が含まれている。これがオホーツク海に流れ込んで様々な生態系の栄養面を支えている。採取された存溶鉄は重水素を吸着し高温高圧状態を容易に作り出せる。
つまり女子兵が看破したように核融合炉の種火になる。核融合を実現するためには莫大な電力を用いて高温高圧プラズマ状態を作り出す必要があるためコスト面でつり合いが取れないのだ。だが、アムール川リニアコライダーの天文学的パワーを利用すれば不可能でない。
「アムール川一帯に強大な電子の長城を張り巡らすと考えてちょうだい。ぞしてハバロフスクの近くにはヤンガードライアス彗星の破片が眠っているわ」
望萌が滔々とレクチャーしているといつの間にかブレーズが入り込んでいた。
「――それって、電子の追い込み漁ですね?」
大学院卒の彼女はハ~ベルトが立案した作戦の意図を的確に表現した。
「そうよ。懐疑派はシホテアリニ隕石を掘り出すためにピロビジャン市民の残留思念を燃料にするつもりなんでしょうけど、そうは問屋が卸さない。別動隊が市内各所にジカ熱を蔓延させます。病魔の苦しみが思考波を妨害する。そして、懐疑派の包囲網を敷くのがステイツのみなさん」
望萌が振り向くと、邨埜純色が椅子から立ち上がる。
デンドン、デンドン、デンドン、デンドンと壮大なクラシック音楽が鳴り始めた。ショスタコーヴィチの交響曲五番「革命」。有名な第四楽章のさわりである。
「わたしは愛する嫁を沼田コヨリに殺されました。懐疑派にッ!」
彼女が感情を振り絞ると、液晶ディスプレイに懐疑派の悪逆が次々に映し出される。国家には向かう無法者に罵声が浴びせられる。自分たちの事を棚に上げて、というのは野暮な話だ。
「それでも世界は美しい絆で結ばれていると考え、不俱戴天の仇を乗り越えて、枢軸と関係を結ぶことにしたのです」
純色が女子兵たちを煽っていると、ハウゼル列車長が駆け込んできた。
「熱力学第二法則の焦点が判明しました。市内カフェテリア・ヴィエナを中心とした半径数百メートル圏内。ビラ川湖畔です」
望萌はうなづくと、傍らのドイッチェラント女性将校に命じた。
「ゲルマニアに艦の派遣を要請して。空母ライトと重巡ノーザンプトン。アムール川に至急」
辛気臭い労働の美徳を振り回すアマラにカーミラは辟易した。グリーバスはドイッチェラントの流れを汲んだ社会主義市場経済国家だ。旧ソビエトの計画経済ほど雁字搦めでないにせよ、政府は各企業に工程表の提出と遵守を義務付けている。社用族は社会の歯車である限りにおいて有用であるが、帰宅して寝るだけの毎日は文化的生活からほど遠い。それだけでなく害悪だ。
「は? 穀潰しが偉そうに。そのだらしない服だってあたいらの税金なんだからネッ!」
「やめなさい。アマラ」
制止を振り切ってアマラの手がカーミラのドレスにのびる。
「ひゃん!」
フレアスカートが引っ張られ、膝の間から黒いレース地が見える。カーミラは派手にしりもちをついた。隣で踊っていた女子のペアがはずみで転倒する。
「キャア! なにすンのよう!!」
フロア嬢のトレイからソフトドリンクが転げ落ち、ボックス席の女を直撃した。ジャアっと青い液体がブラウスに染み渡る。華奢な胸に幾筋も支流が出来る。
「あなたねぇ!」
ぶっかけられた女は御免なさいするフロア嬢に掴みかかった。三つ編みを引っ張られ「ひぎぃぃ」と子豚のような悲鳴があがる。
パン、パンと乾いた音が連続して、店内が静まり返った。夏セミを思わせる演奏もピタリと止んだ。床には赤黒い水たまりが見る見るうちに広がり、首のない女が転がっている。中二階の手すりに狙撃銃が乗っている。三発目を撃とうとした女用心棒が眉間を射抜かれ、それをきっかけに激しい銃撃戦が始まった。どさくさに紛れてアマラ達はユーバーに乗り込む。だが、その運転席にはカーミラが座っていた。
「――なっ!?」
カマラが飛び出す前にドアをロック。車はタイヤを鳴らして裏通りを駆け抜けた。ぐるりと街区を回ると野次馬が逆方向に駆けていく。フロントガラスに蛍光色のフォントが躍り、咆哮のタイムラインがせりあがる。
【シュルルフが斜陽に殺された】【ついにやりやがった!】
煽情的なコメントに血まみれの画像が添付され、遠吠えが広がっていく。そこに新たなフィルターが加わった。
フィルターキーワードにに#ボグロム――虐殺を意味する単語が並んでいる。言わずもがな、あのいまいましいユダヤ人大虐殺のことだ。コード1941 6月22日。ソ連軍は敗退を続け、とうとうナチス軍にキエフ占領を許してしまう。その直後、ナチス特別行動隊がユダヤ系住民をキエフ郊外の姥捨て渓谷で集団虐殺した。ピロビジャン市民の半数を占めるユダヤ人はその爪痕を深く心に刻んでいる。反ナチスのシュルルフとは呉越同舟で平和にやってきたが、やはり無理があったようだ。
アマルガムの企業はむろんユダヤ系財閥だ。
「フムン。ユダ公は死ねってか」「そういうことなの」
アマラとカマラは蔑みと憐れみの入り混じった視線を運転席に投げる。かなり疲れてるようだ。肩で息をしている。
「そういえば、あんた永久求職者だったっけ。よく運転できるわねぇ」
アマラが訝しむと、カマラも「体力あるなら働けば?」と同調した。カーミラは無言でダッシュボードのボタンを押した。羽虫が飛び回るような音がして彼女の首筋に赤みがさした。打って変わって目を輝かせるカーミラ。
「は? 社用なんか手を汚す値打ちもないわ。お前らにはお似合いの用途があるのよ」
カーミラはそう言い放つとアクセルを踏み込んだ。
■ ピロビジャン中央駅地下40メートル
例によって鉄道連隊がシベリア鉄道の真下に異世界回廊を掘りぬいた。今回は物量戦を得意とする連合国軍協力のもと、続々と貨物列車が到着している。
「閣下、こんなに大量の重水をどうされますか? まさかピロビジャンに原発でも?」
ステイツ女子兵がカーキ色のミニスカートから真っ白な太ももを覗かせている。ハーベルトはつい誘惑に負けて裾をめくってしまった。
「はひゃ?☆」
少女が手を振り払う。はらりと翻るスカート。小ぶりなヒップを切れ上がったブルマが斜め横断している。
「ステイツはこ~んな急角度のブルマが流行ってるのね。はい、受領証」
「それって枢軸流の挨拶ですかぁ? いやぁ~~」
サインを確認すると少女兵は真っ赤な顔でそそくさと走りさった。
「ごるるぁ! ハーベルト」
望萌がえらい剣幕で叱りつけた。
「また、ステイツのオンナノコにちょっかい出して!」
「だって、手持ち無沙汰なのよ」
ハーベルトは憂いた眼差しを返す。
「……祥子……の事?」
おずおずと望萌が聞くとハーベルトは無言で駆けだした。コンクリートに点々とシミがついている。
「ハーベルト閣下は体調を崩された。あたしが指揮を執る」
遅滞なく搬入作業が引き継がれる。緩いカーブを描いてあてどなく続くトンネル。壁には延々と配管が張り巡らされ、スイスにあるCERNの粒子加速器を思い起こさせる。望萌は作業員の女の子たちを集めてブリーフィングを始めた。さながら女子校の朝礼だ。
投げ出したスカートの間に黒や紺の布地が見える。お立ち台から見る眺めは壮観であるが、今夜はそれらの上に指を這わせる暇はなさそうだ。
ゲフンゲフン。わたしも早くお嫁さんを見つけなきゃ。望萌はかぶりを振って液晶ボードに向かった。ハバロフスク周辺の地図が浮かび上がる。下の方をアムール川が横断している。
「みなさん、今回の作戦は藤野祥子の捕獲を第一とします。アムール川そのものを大強度陽子加速器と化してペタワット級の大出力でエネルギー体を捕縛します。その為に、アムール川直下に直線型加速器を建設します」
望萌の趣旨はこうだ。アムール川の水には存溶鉄といって豊富な鉄分が含まれている。これがオホーツク海に流れ込んで様々な生態系の栄養面を支えている。採取された存溶鉄は重水素を吸着し高温高圧状態を容易に作り出せる。
つまり女子兵が看破したように核融合炉の種火になる。核融合を実現するためには莫大な電力を用いて高温高圧プラズマ状態を作り出す必要があるためコスト面でつり合いが取れないのだ。だが、アムール川リニアコライダーの天文学的パワーを利用すれば不可能でない。
「アムール川一帯に強大な電子の長城を張り巡らすと考えてちょうだい。ぞしてハバロフスクの近くにはヤンガードライアス彗星の破片が眠っているわ」
望萌が滔々とレクチャーしているといつの間にかブレーズが入り込んでいた。
「――それって、電子の追い込み漁ですね?」
大学院卒の彼女はハ~ベルトが立案した作戦の意図を的確に表現した。
「そうよ。懐疑派はシホテアリニ隕石を掘り出すためにピロビジャン市民の残留思念を燃料にするつもりなんでしょうけど、そうは問屋が卸さない。別動隊が市内各所にジカ熱を蔓延させます。病魔の苦しみが思考波を妨害する。そして、懐疑派の包囲網を敷くのがステイツのみなさん」
望萌が振り向くと、邨埜純色が椅子から立ち上がる。
デンドン、デンドン、デンドン、デンドンと壮大なクラシック音楽が鳴り始めた。ショスタコーヴィチの交響曲五番「革命」。有名な第四楽章のさわりである。
「わたしは愛する嫁を沼田コヨリに殺されました。懐疑派にッ!」
彼女が感情を振り絞ると、液晶ディスプレイに懐疑派の悪逆が次々に映し出される。国家には向かう無法者に罵声が浴びせられる。自分たちの事を棚に上げて、というのは野暮な話だ。
「それでも世界は美しい絆で結ばれていると考え、不俱戴天の仇を乗り越えて、枢軸と関係を結ぶことにしたのです」
純色が女子兵たちを煽っていると、ハウゼル列車長が駆け込んできた。
「熱力学第二法則の焦点が判明しました。市内カフェテリア・ヴィエナを中心とした半径数百メートル圏内。ビラ川湖畔です」
望萌はうなづくと、傍らのドイッチェラント女性将校に命じた。
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